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105. ベビーガーネット
しおりを挟む「ど、どういうことです!?」
私がグイグイ近付くとお兄様が少したじろいだ。
しかし、キッパリと言う。
「そ、そのままの意味だ」
「!」
(な、なんですって!?)
「その、なんだ? 邸内を走り回る? そんなのガーネットもやっていたじゃないか!」
「……え」
私が顔をしかめるとお兄様はフッと笑った。
「追いかけっこはガーネットの好きな遊びの一つだっただろう?」
「好きな……?」
「そしてお前は、『おーほっほっほ! このわたしをつかまえてごらんなさい!』が口癖だった」
「……!」
そう言われると、そんなこともしたようなしていないような……?
「お前の話によると、ギルモア家の面々は方向音痴だそうだが、ガーネットは違う」
「違う?」
「むしろ、お前はウェルズリー家の邸内の見取り図が完璧に頭に入っていて、追いかける役目を担った者たちを嘲笑うかのように翻弄した」
───ほほほ! ここはみぎにいったとおもわせてひだりにいくわよ! こんせきをのこしておかなくちゃ!
(小細工!)
───ほーほっほっほ! わざとへやをあらしてかくらんしましょ!
(荒らし!)
何だかうっすらぼんやりした記憶が甦ってくる……
そうそう。
皆が私の言葉に右往左往してアワアワしているのを見るのが好きで好きで……
煽れるだけ煽りまくったっけ。
「それから? 孫が庭の草木を引っこ抜いていた?」
「ええ。それも横で植えているそばからよ! やんちゃでしょう?」
「……」
お兄様が考え込む。
「ガーネットが赤ん坊の頃だったか」
「……?」
「バブバブしていたガーネットは父上に抱かれて共に庭の探索に行った」
「ふーん?」
「父上は自慢の花をお前に見せるつもりだったのだろう」
今のジョシュアやアイラみたいね。
私も同じようなことをされて育っていたのね?
「しかし、だ。その後、何故か一人で屋敷に戻ってきた父上は真っ青でこの世の終わりのような顔をしていた」
「は? ベビーの私を置いて一人戻った?」
あのちょび髭お父様! 何してるのよ!
今すぐお父様の元に文句をいいつけに行きたくなった。
「ガーネットが! ガーネットがぁぁ! と、震えていた父上はずっとガーネットの名を繰り返すばかり」
「……?」
「ガーネットに何かあったのかと皆で慌てて庭に向かった」
「向かったら……?」
お兄様はフッと笑った。
「ガーネットは、ウキャッキャと楽しそうに笑いながら、庭の草花を大量に引っこ抜いていた」
「……なによ、お兄様。それならやってることはアイラと大して変わらないわよ?」
なんだと呆れる。
それは当事者としては大変な気持ちでしょうけど、
少々、好奇心溢れるベビーなら誰もが通る道なのではなくって?
そう思った私は鼻で笑った。
しかし、お兄様が首を横に振る。
そして、その顔が妙に暗い。
「…………いや、ガーネット。お前が満面の笑顔で荒らしていた草花は、父上が大金をはたいてようやく手に入れた希少種の草花ばかりだったんだ」
「え?」
(希少種?)
「お前はどこでも誰でも手に入る草花には全く一切目もくれず、父上が必死にかき集めた自慢のコレクション……希少価値の高い物“だけ”を狙って引っこ抜いて根絶やしにしていったんだ!」
「えっと……」
「慌てて止めようとしたが、ガーネットは手も止めずにニコッとした顔で『おっおっお!』と繰り返し笑うばかり……」
(な、なんてこと……!)
ニコッ! は、まるでジョシュア。
おっおっお! は、アイラの笑い方だわ……!
「おそらく、ガーネットはあの草花が欲しかったのだろうな」
「……」
「だが結局、父上自慢のお気に入りの庭はガーネットの手により全滅した」
「……」
「嘆く父上の横でお前はとびっきりで最高の笑顔を浮かべていた」
「……」
「そんな感じでガーネットは───何をやらかす時も“ニコッ”…………とにかく無敵の笑顔を浮かべるんだ」
(ジョシュア……)
ジョシュアのニパッとした笑顔が頭に浮かぶ。
あのニパッは突然変異でも何でもなく……元を辿れば私……
「そうだ。ガーネットは父上の背中を踏むのも大好きで……」
「んぇ!?」
思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。
ジョルジュが聞いたら目を輝かせて喜びそうな話まで飛び出してきた。
居ないわよね!?
部屋の隅に実は潜んでいたりしないわよね!?
ついついキョロキョロしてしまった。
「ふ、踏むですって!?」
「そうだ。ガーネットは赤ん坊の頃から父上の背中の上で暴れ回るのが大好きだった」
「あ……暴れる」
踏むだけでなくなんと暴れる!
ジョルジュが知ったら目を輝かせて頼み込んで来る可能性が高い。
「そうだ。ニコニコ笑顔で、きゃーはっはっはっ、お~ほっほっほ! と、いつも高らかな笑い声をあげながら父上の背中や腰を楽しそうに踏みつけたり飛び跳ねたり……」
(えぇええ!?)
だから、あの時酔っ払った私はなんの躊躇いもなくジョルジュの背中を踏めたの……?
「それから───」
「まだあるの!?」
お兄様による幼少期のエピソードが更に語られていった……
────
「……」
私は頭を押さえる。
どのエピソードも聞けば聞くほどベビーの頃の私の姿は現在のジョシュアとアイラのしている行動に近い。
「ああ、ガーネットが体当りして割れた壺や花瓶も高級品ものばかりだったと父上は泣いていたな」
「ホホホ……なんでよ」
(まさかの体当たりまで……ジョエル!)
「赤ん坊の頃からガーネットの目は肥えていたからだ」
「え?」
お兄様がハハハと笑う。
「ガーネット一歳の誕生日。父上はガーネットに宝石を買うことにした」
「一歳の私に?」
「もうすでに我が家の高級品ばかりを付け狙う赤ん坊だったから、父上はガーネットはキラキラした値段の高い物が好きなんだと解釈していた」
「……なるほどね」
私はふんぞり返って足を組み直す。
(まあ、嫌いではなくってよ!)
「しかし、その為に呼びつけた馴染みの商人がいつの間にか詐欺の片棒を担ぐようになっていて、父上を騙して偽物の宝石を売りつけようと画策していたんだよ」
「まあ!」
「かなり精巧で本物そっくりに作られた宝石で偽物だなんて誰も気付かなかった。父上はその場でお前に“どうだ、ガーネット? 本物は美しいだろう? 気に入ったか?”とその宝石を見せた」
「……」
「それがあっさり偽物だと見抜いたガーネットは、クスッと鼻で笑って小馬鹿にして見向きもしなかったらしい」
ホーホッホッホッ! さすが私!
一歳の頃から目利きがすでに完璧じゃないの!
「ガーネットの反応で商人を怪しんだ父上はそ問い詰め最終的には洗いざらい吐かせていたな。もちろん詐欺師集団もそのまま捕まった」
「ホホホ、悪いことは出来ないわね?」
「お手柄一歳児の噂はあっという間に広がり、我が家には常に最高品質のものばかりが届けられるようになった」
なるほど。
実家が常に高級品で溢れかえっていたのは、
金があるから……だけでなくそういうことが裏にあったのね。
「まあ、そんなわけでガーネットの血を引いた孫なら、そんなものだろう。方向音痴が付いて面倒になった感は否めないが」
「……お兄様。これから二人が成長して幼少期に突入したらどうなると思う?」
「それは────……」
私のそんな質問にお兄様はとてもいい笑顔でたった一言、
「頑張れ」
とだけ言った。
❋❋❋❋❋❋
別の世界線(他作品)では、
出来たばかりの誘拐組織を5分で壊滅させた幼女(当時五歳)がいます。
そろそろ、続き書きたいな……
色んな意味で強い子が好きです。
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