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絶望と葛藤の日々 ② (ヒューズ視点)
辺境の地で生きるか死ぬかの危険と共に生きながら、俺は“魔術師”の事を調べた。
人数は少ないが、不思議な力を宿している民族だという。
力は様々で、術のような物を使う者、物に力を与えて不思議な道具を作り出す者……
そして知る。
昔オリヴィアと遊んだ時の、父上の持っていた特殊な用紙とインクは、魔術師が作ったものだった事を。
(なるほどなー……)
オリヴィアと楽しく過ごしていたあの頃……
もう戻らない日々……
(オリヴィアは幸せに過ごしているのだろうか?)
オリヴィアさえ幸せなら、俺は──
と、思うもあんな卑怯な事をする王子と本当に幸せになれるのだろうか?
(今更だ……それに辺境からは戻れないし、呪われていてオリヴィアに嫌われた俺は何もしてやれない)
…………だが、事態は大きく動く。
『……婚約破棄?』
『あぁ、ヨーゼフ殿下が婚約者にそう通告したらしい』
噂好きの男がその話を持って来た。
俺は衝撃で言葉がうまく出ない。
(どういう事だ!?)
ヨーゼフは俺を出し抜いてまでオリヴィアを手に入れたかったんじゃないのか!?
『噂では殿下は身分の低い男爵令嬢にご執心とか』
『……』
(ふざけるな! あんな形で俺からオリヴィアを奪っておいて!!)
怒りしかなかった。
そして、気持ちを落ち着けた後はオリヴィアはどんな気持ちで過ごしているのかと心配になった。
他の女に心変わりされたなんてショックに違いない。
しかも、婚約破棄。それも公の場で……
(オリヴィア……)
──あーあ、誰かあの王子を引きずり下ろしてくれないかなぁー……
本当だな。
あんな奴をこのままのさばらせておいていいのか?
(王都に戻れたなら……俺が)
──そんな気持ちが天に届いたのか、タイミングよく隣国との休戦が結ばれ辺境に追いやられていた俺達は戻る事を許される。
(今しかない!)
オリヴィアを取り戻すのも、ヨーゼフを引きずり下ろすのも!
ヨーゼフを引きずり下ろすには時間が必要だ。
王子に嵌められた人間の証言、証拠、そして、魔術師の存在など明らかにしないといけない事が多すぎる。
(だが、辺境にいた人達はヨーゼフを恨んでる者ばかりだ)
俺は5年も辺境にいた。その人脈は活かせば何とかなるはずだ。彼らは喜んで証言してくれるだろう。
だから、俺はまずはオリヴィアを……
オリヴィアを取り戻す事を優先にする事にした。
魔術師の事を調べたら、俺のこれは“呪い”の類だと知った。
人にも物にも好きだと言えない呪い。
口にした場合は真逆の言葉が飛び出す。
何より厄介なのは、“呪いにかかっている事は、人には言えないし伝える事も出来ない”事だった。
(だから、言い訳の手紙もダメだったのか)
「……手紙? 待てよ。そう言えば……」
昔、オリヴィアと遊んだ時のあの手紙。
あの特殊な紙とインクは魔術師のお手製……あれなら、他の紙と違って伝える事も可能なのでは?
(あの紙、1枚は使わずに残っていたはずだ!)
俺はそこに最後の望みをかける事にした。
そうして俺はオリヴィアへの求婚の準備に取りかかる──
「伝わって良かった……」
その日、俺は心の底から安堵していた。
オリヴィアに求婚すると決めたものの、まずは周りにそれをどう伝えるのか……それが大きな課題だった。
おそらく“オリヴィアと結婚したい”と言おうものなら、“オリヴィアとの結婚なんてごめんだ”くらいの発言になるだろう。想像するだけで恐ろしい。
しかし……
「オリヴィア……結婚……求婚」
と、単語を並べたら何故か母上が瞬時に理解した。
目を輝かせてこう言った。
「まぁぁ! オリヴィアちゃんと結婚したい? とうとう求婚するのね!? そうよね。今しかないわ! 大賛成よ、ヒューズ! さぁ、他の人に先を越されないように急ぐわよ!!」
「え……」
母上は凄い。父上は首を傾げていたのに。
単語しか言えなかったのも勝手に照れ隠しだと解釈していた。
何だあれはとも思うが……でも助かった。
こうして、俺の要望は両親に伝わり、イドバイド侯爵家には父上から連絡を入れて貰った。
(後はオリヴィアへの手紙だ!)
簡単に許して貰えるとは思わないが、5年前の真実と、俺がいかにオリヴィアの事を愛しているかを伝えたい。
その上で俺の手を取ってくれたなら……
(こんなに幸せな事は無い)
「もし、オリヴィアが受けいれてくれたなら、結婚は早めないと……」
ヨーゼフが何を考えているか分からないからな。
早い内にヨーゼフに手出しが出来ないようにしないと……
そんな気持ちで書き出した手紙は、魔術師効果なのか、今まで書こうとしても書けなかった文が書けそうだった。
(書ける! 今まで口に出来なかった事が……)
この紙とインクの特殊性で文字は書いても真っ白にはなるが、これらは一般に売られている物だから、知っている人は知っている。つまり、読める人には読めてしまう。
なので万が一、他の誰かに盗み見られても大丈夫なように内容も暗号をふんだんに使う事にした。
(オリヴィアなら真っ白の紙を見て気付くはず。そして、暗号にした内容も解けるはずだ)
そう信じて俺はようやく5年越しのオリヴィアが大好きだという想いと真実を書き記した。
───そうして、この想いがようやく届いたのか俺はオリヴィアと……
───────……
「……届いたと思ったのにな」
まさか、手紙を読んでいなかったとは。
5年前の誤解は解けないまま、オリヴィアは俺の元にやって来て俺は初夜でやらかした。
(結婚出来たから呪いは解けたと思ったのが甘かった……)
「……だが、もう一度……」
父上があの紙を手配してくれれば今度こそ。
直接口では伝えられないが、このアクセサリーと共に俺の気持ちを───……
領地に行ったおかげなのか、二人での時間を過ごしたからかオリヴィアの態度が少し変わった気がしたので俺も少しだけ大胆になってみた。
真っ赤になったオリヴィアは超絶可愛い。あんな可愛い生き物は他に知らない。
愛は囁けなくても一生大切にする!
「オリヴィア……」
(そう言えば、オリヴィアは何をしに実家に戻ったのだろう?)
忘れ物とか言っていたが……
「顔がみたいな。少し早く迎えに行ってもいいだろうか……」
そう思った時だった。
「……えっとぉ、ヒューズ・カルランブル侯爵令息様ですかぁ?」
「?」
見慣れない甘ったるい声の女が俺に声をかけてきた。
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