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婚約解消を願い出たら…… ②
しおりを挟む混乱する頭を抱えながらも、まずは気になった事から尋ねる事にした。
「ねぇ、マーカス……その、求婚……が本来は難しかったってどういう意味?」
私の言葉にマーカスが寂しそうに笑う。
「……身分差の壁……だね。公爵家の僕と子爵家のフランシスカが婚約関係を結ぶのは本来ならとても難しい。実際、フランシスカが怪我をする前……僕が何度お願いしても父上は決していい顔をしなかった。僕はどんな事をしても押し切るつもりでいたけれど」
「あ……」
常々、自分でも私達は“釣り合わない”と思っていたけれど、やっぱり間違っていなかったのだと知る。
(少し考えれば分かる事なのに……私、なんて馬鹿だったんだろう……ルーシェ嬢に言われた、頭の悪そうな女……悔しいけど本当にその通りだ)
「その怪我を利用するように無理やり結んだ婚約の罪悪感から、フランシスカのその傷が見れなくなった……フランシスカが僕が負い目だけで君に婚約を申し込んだと誤解していても……それでも君が手に入るなら僕は何でも良かったんだ」
初めて語られるマーカスの気持ち。
知らなかった、気付かなかった……違う。
私は、勝手に色々思い込んでマーカスの気持ちを知ろうともしていなかった。
本当に最低なのは私だ……
「だから、フランシスカがどれだけ望んでも僕はその婚約解消の話は絶対に受け入れられない」
マーカスは私の目を見つめてキッパリと言い切った。
「それに……僕の自惚れで無ければ……フランシスカのその言葉は本心では無い……そう思うんだけど…………違う?」
「っ!」
──見透かされている。そう思った。
「何で分かるの? って顔をしているね。でも、分かるよ……僕は8年間ずっとフランシスカだけを見てきたんだよ?」
「!!」
その言葉に顔が赤くなる。
一方通行なんかじゃなかった。
私達の気持ちは互いに同じ方向を向いていた事をようやく知る。
その事がたまらなく嬉しい。
だけど、
そうして悲しくなった。
──なら、どうして私達の運命の赤い糸は結ばれないの?
今もマーカスの左手からは、誰とも繋がれていない赤い糸が出ている。
そして私の左手からは何も出ていない。
その事が酷く悲しい。
「……また、顔を曇らせてる。これはさっきの話のやつかな? 運命の赤い糸」
「…………」
私がうまく答えられずに黙り込むと、マーカスは抱き締めていた私から身体を離して部屋の隅に控えていた使用人に何かを言付けた。
使用人は静かに頷いて部屋を出て行った。
「……?」
マーカスはいったい何を?
私は首を傾げる。
そして、その答えはすぐに分かった。
「え? ちょっとマーカス!?」
「よく分からないけど、フランシスカが“赤い糸”を気にしてるからさ。なら、もういっそこうしたらどうかと思って」
マーカスの手には何故か赤い糸。
それは、あの私だけに見える“赤い糸”ではなく、本当に誰もが見える縫い物に使う赤い糸そのもの。
マーカスは使用人にこれを持って来させた。
「……? どういう意味?」
「……」
疑問を投げかける私の手をマーカスは無言のままやや強引にとり、私の左手の小指にその赤い糸を巻き付ける。
そして、反対側を自分の指へと巻き付けた。
「!?!?」
「ほら、これで繋がったんじゃない? 運命の赤い糸」
私は完全に言葉を失い口をパクパクさせる。
……だけど確かに今、私の指とマーカスの指は(まさにある意味本物の)赤い糸で繋がっている。
運命の赤い糸では無いけれど、 “赤い糸”が見えるようになってから、何度も繋がる事を諦めたマーカスとの赤い糸。
「赤い糸は結ばれる運命の男女で繋がるんだろう? なら、こうして多少強引でもいいからさ、繋げちゃえばいいんだよ」
「……え」
「だって、僕が運命で繋がる女性は君しか考えられないからね───……フラン」
「!!」
数年ぶりの愛称呼びに私の身体が震える。
「運命なんて本来は目に見えないものじゃないか。万が一、例えそんな物が何らかの形で目に見えていたとしてもさ、そんな物は強引に変えちゃえばいいんだよ。だって運命って、その人の気持ち次第と言うか……自分自身の力で切り開くものだと思わない?」
「……!」
私はその言葉に衝撃を受ける。
「え!? ちょっ……フラン!? どうしたの? どうしよう……僕、変な事でも言った!?」
マーカスが途端にオロオロと慌て出す。
それもそのはず、私の目からはボロボロと涙が溢れていたから。
あぁ、本当に、本当に私は馬鹿だ。
前世の記憶や目に見えるものに踊らされて、本当に大切な物が見えていなかった。
マーカスの事が好きなら……本当に大好きなら、彼のくれる言葉や態度をもっと信じるべきだったし、何より運命の赤い糸が私から出ていなくて繋がっていないからって嘆くよりも、自分と結ばれる為の努力をしなくちゃいけなかったんだ……
今のマーカスがしてくれたみたいに。
マーカスと(強引に)繋がった赤い糸を見る。
本来の運命で無くても強引でも何でも、私達の間で赤い糸は今、こうして繋がっている。
その事が、マーカスのそんな気持ちがたまらなく嬉しかった。
「マーカス……婚約解消したいなんて言って……ごめんなさい」
「フラン?」
「本当は、婚約解消なんてしたくない。マーカスの事も諦めたくない…………私はマーカスの事が……好きだから」
…………勝手な事を言ってごめんなさい。
たくさん傷付けてごめんなさい。
私がそう言って頭を下げるとマーカスが再び私を抱き締めてきた。
そして、優しい声で言う。
「……フランの口からその言葉が聞けただけで僕は幸せだ……」
「マーカス……」
「僕はフランの事が、ずっとずっと好きだった」
「……ん、ちょっ、マーカス……」
マーカスが私を抱き締めたまま、チュッと頬にキスを落とす。
「ねぇ、フラン。気付いてる? 僕はフランがカッコいいと言ったから、嫌いだった勉強を熱心にするようになったんだよ?」
「え?」
「もちろん、それ以外の理由もあるけど、1番はフラン、君だった」
私はその言葉にビックリして、たくさんのキス攻撃により恥ずかしくて下を向いていた顔を上げる。
バチッと目が合った。
目が合ったマーカスは甘く甘く微笑んだ。
私の胸がキュンとした。
(この間なんて比べものにならない! 今度こそキュン死にする!)
「いつか、フランが僕をカッコいいって言ってくれたらいいなってそう思ってた」
「そんなの!! そんな事をしなくても、私はいつだってあなたをカッコイイと思っていたわ!」
私が勢いよくそう反応を返すと、マーカスはちょっと驚いてすぐに嬉しそうに笑った。
マーカスが嬉しそうだから私も嬉しい。
こんな幸せなことがあるんだと初めて知った。
マーカスの左手の運命の赤い糸は、私と想いを通わせても変化は無い。
私の左手にあるのは、マーカスが結んでくれた赤い糸だけ。
私達はやっぱり運命では無いのかもしれない。
だけど、もう迷わない。
万が一、ルーシェ嬢とマーカスの糸が結ばれるような事があっても……絶対に諦めたりしないわ。
その日、私はそう決意した。
****
「あら、おはようございます。相変わらず一緒に登校なんですね?」
翌朝、いつものようにマーカスが迎えに来てくれて一緒に登校し、馬車を降りるとそこにはルーシェ嬢がいた。
「ちょうど良かったです、マーカス様。こちら頼まれていた物です」
「それは昨日、頼んだやつ?」
「そうです」
そう言ってルーシェ嬢は、マーカスに資料のようなものを手渡し、マーカスはパラパラとその中身を簡単に確認し始めた。
その隙を見てルーシェ嬢が私に近付いて来る。そして私の耳元でそっと囁いた。
「フランシスカ様って思っていたよりも図々しいのですね?」
「……!」
「役立たずだと分かっていながらも、傍にいようとするなんてマーカス様、可哀想」
「……」
「私なら彼の力になれるわ。あなたと違ってね?」
──だから、その座を早く私に譲って?
そう言われた気がした。
きっと彼女は今、意図的に私を煽ってる。
(ヒロインって中身が転生者になるといけ好かない性格になってしまうのかしら?)
私はチラリと彼女の左手を見る。
相変わらずその指からは5本の赤い糸。
──まだ、彼女の運命は定まっていない。マーカスとだって繋がってはいない。
今日の私にはマーカスとの赤い糸は無いけれど、だからと言って私は負けたりしない!
そんな気持ちでルーシェ嬢に私は向き合った。
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