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3.
しおりを挟む「……っ!」
(その笑顔はずるいわ)
今回の結婚をするにあたり、あなたからの愛は要らない……
そう決めた心が揺らぎそうになる。
───……
そんな私とジョシュアはもともと貴族学院の同級生という関係。
──私は昔からずっと、彼……ジョシュアの事が好きだった。
筆頭公爵家の令息と中流伯爵令嬢の私。
貴族の中でも身分にも差があり、クラスすらも違った私達に接点があった事を知っている人は殆どいない。
それもそのはず、私達が顔を合わせていたのは放課後の“図書室”だった。
私達の出会い。
それはある日、私がキッチキチに挟まっていた本棚の中から一冊の本を無理やり抜き取ったら、その衝撃で他の本が大量落下するという災難に見舞われた時の事だった。
『ひゃあ!』
『うわぁあ!』
ドサドサと落下する大量の本。
そこで私と同時に叫び声を上げたのがその時、たまたま私の隣で本を探していたジョシュアだった。
彼は私の起こした本の雪崩に巻き込まれていた。
『す、すみません!! え、えっと、け、怪我はありませんか!?』
『痛っ……だ、大丈夫。でも……まさか、本がこんなにたくさん降ってくるとは思わなかった』
『で、ですよね……ほ、本当に申し訳ございません!』
あまりの申し訳なさに私はひたすら謝罪を繰り返す。
『怪我はないし……もう、いいからとりあえず散らばった本を片付けよう』
『は、はい……』
彼のその言葉で顔を上げる。
(……あれ? え? この方は!)
この時、初めてこの迷惑をかけた相手が、あの有名なジョシュア・ハワード様だと知ったのだった。
──
『ユイフェ嬢はそそっかしいんだな』
『……え?』
本の落下事件の後、私達は図書室で遭遇し顔を合わせると、少し話をするくらいの仲になっていた。
『初めて会った時の本の落下事件、あれはたまたま起きた不運な出来事かと思っていたけれど、こうして君を見ていると起きるべくして起きた事のような気がするよ』
『うっ!』
そう言われたその日も、私は彼と出会った時のように雪崩を引き起こしていた。
そんな私に向かってジョシュアはちょっと呆れた声で言った。
『手伝うよ。散らばったそこの本の山はこっちに貸して?』
『あ、ありがとうございます……』
ジョシュアはこんな風に時々私の世話を焼いてくれるようになった。
(聞いていた人と違う……)
そんな彼にいつしか私は密かに恋をした。
───でも、残念ながら、私にはこの気持ちを伝える勇気など持ち合わせてはいなかったけれど。
───……
「ユイフェ? 急に黙り込んでどうかした?」
「い、いいえ、何でもない……です、わ」
私が急に黙り込んだので、ジョシュアが訝しげな様子を見せる。
あなたとの出会いを思い出していました──なんて言えない。
今は、それよりもこの謎の演技について聞かないと私の心臓が持たない───
「そ、それよりも!」
(……ん?)
踊っているだけなのに、さっきより身体が妙に密着しているような……
(気のせい?)
腰に回された手が……何だか……あれ?
(……)
何だか意識してしまったら、気恥ずかしくなって来てしまい私の頬にじわじわと熱が集まって来る。
「それよりも?」
「あ、いえ……その……」
上手く言葉に出来なくて躊躇ってしまう。そんな私にジョシュアはまたまた甘い声で言った。
「ははは、顔が赤くなってきた。やっぱりユイフェは可愛いね」
──と。
ボンッと自分の顔が更に真っ赤になったのが分かった。
「僕はこんなに可愛いユイフェが見られて満足だけど、一つだけ不満があるかな」
「え?」
(不満……?)
聞き捨てならないその言葉が気になって思わず聞き返した私に、ジョシュアは私の耳元で言った。
────ユイフェのその可愛い顔は僕だけが見たかったな。
「~~~っっっ!」
「わっ!? ユイフェ!?」
(ジョ、ジョシュアのバカァァァ!!)
ステップを踏み間違えるどころか、ダンスの最中にも関わらず私の腰が砕けた。
───こうして、この日のダンスパーティーは、会場で泣き崩れる数多の令嬢達と、噂に反して仲睦まじいハワード公爵家の新婚夫婦。
そして、ダンスの最中に腰砕けになった新妻の噂で持ち切りとなるのだった。
「ジョシュア様、ジョシュアさん、いえ、ジョシュア!! お、降ろして!? 私、平気、歩ける、大丈夫!!」
「ダメ」
「でも、み、皆が……見て」
「ははは! もう、今更じゃないかな?」
腰が抜けた私をジョシュアは、流れるような動作で横抱きにした。
そしてそのまま私を抱えて会場の隅へと歩き出す。
「で、でも!」
「ほらほら、暴れないで? 落ちてしまうよ?」
「うっ!」
それは確かにその通りなので、とりあえず大人しくする。
私だって落ちるのは嫌だ。
───今度は抱っこぉぉぉー……
───見たくなぃぃぃ
そんな令嬢達の悲鳴は聞こえないフリをした。
「騒がしいな」
「……ジョシュアは。ハワード公爵令息は昔から有名人ですから」
私の言葉にジョシュアは「本当に困るよ」と答えながら肩を竦める。
「でも、これで変な噂はなくなるかな?」
「変な噂?」
私が聞き返すとジョシュアは驚いた様子を見せる。
「あれ? ユイフェ知らなかった? 僕がユイフェを冷遇しているっていう頓珍漢な噂だよ」
「冷遇?」
「そう。僕らの結婚があまりにも急で世間を驚かせただろう? だから変な勘繰りを入れる人達が多いって話」
「あ……」
私がジョシュアに契約結婚を申し出たのは先月の事。
そこから彼はどんな手を使ったのか驚く程の早さで私との結婚を成立させてしまった。普通なら有り得ない。
なるべく早く……と願ってはいたけれど、これには契約結婚を申し出た側の私もさすがに驚いた。
「そこまで急がなくても大丈夫だったのに」
「え? ダメだよ。気が変わったら困るからね」
「!」
その言葉に少しだけ胸が痛む。
ジョシュアは契約結婚を受け入れてはくれたけれど、気が変わる可能性もあったのか……と。
(……って、ダメダメ! 落ち込んでいる場合では無いわ! 私の目的は一つ!)
私が欲しいのは、ジョシュアからの愛ではなく、ジョシュアが生きている未来なんだから───……
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