【完結】あなたからの愛は望みません ~お願いしたのは契約結婚のはずでした~

Rohdea

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  ローゼ様を叩いたのは半分、無意識なようなものだった。

「……ユイフェ?」
「……」

  当たり前だけど、ジョシュアも驚いた目で私を見ている。
  こんな大勢の前でやってしまった……そんな気持ちも生まれたけれど、私はどうしてもローゼ様が許せなかった。

「な、な、なっ!  何をするんですか!」

  叩かれたローゼ様が頬を抑えながら叫ぶ。

「こ、こ、こんな事して!  こんなのただの暴力よ!  み、皆も見たでしょう!?  ユイフェ様この人は私に暴力を……」
「静かにして!」
「……っ!」

  ビクッとローゼ様の身体が震える。

「自分の思い通りにならないなら要らないから消えてしまえばいいって何?  ローゼ様、その前も“始末”と口にされていたわよね。あなたは人を何だと思っているの?」
「え?」

  (そんな考えだからこの人は、巻戻り前の人生で凶行を犯したのよ!  ジョシュアを……私の大事なジョシュアを!!)

  ──ローゼ様は卑怯な手を使って彼を手に入れた。でも、その後はきっとローゼ様の思う通りにいかなかった。
  だから!  だから、ローゼ様はあの時、ジョシュアを手にかけた……
  でも、私もジョシュアも何故か今はこうして生きている。だからローゼ様の凶行は無かった事になっているけれどそういう問題では無い。

「本当に“人が消える時”がどんな感じかあなた分かる?」
「……は?」
「理不尽に人生を終わらせられようとしている“大事な人”が自分の腕の中でどんどん冷たくなっていく恐怖……あなたに分かる?」
「は?  やだ、何を言って……」

  ローゼ様は私の様子に明らかに怯えてはいたけれど、言われている内容は理解出来ないらしい。

  (この人に人を殺した記憶が無い事は分かっている。それでも言わずにはいられなかった)

「ユ……ユイフェ?」

  ジョシュアが今までに見た事がないくらい目を大きく開いて私の事を凝視している。

  (そうよね、そういう目で見るわよね……)

「あなたはそんな恐怖が分からない。だから、自分の思い通りにならないのなら“消えて”なんて言葉をそんな簡単に口に出来るのよ」
「わ、私は……」
「言い訳なんて要らないわ!  あなたは人の命の重さというものをしっかり考えなさい!!」
「ひっ!」

  私の怒鳴り声に怯えたローゼ様が縮こまった。

  (あぁ……これでは私の方が悪役みたいね)

  でも、後悔はしていない。

「ローゼ様。あなたを叩いた事、訴えたいのならお好きにどうぞ?  私は逃げも隠れもしませんから」
「…………え?」
「何度でも何処ででも誰の前であっても……どんな処分を受けようとも私は証言しますから。“ローゼ様の性格が腐っていたから許せなかった”のだと」
「腐っ!?」
「本当の事でしょう?」

  私がそう言うと、ローゼ様は「ふふふ……」と笑い出す。

「た、たかが元伯爵令嬢のくせに偉そうにこの私に説教なんかして!  そして、挙句には手をあげて叩いた……そうよね、罰せられるのはユイフェ様!  あなたよ!  ねぇ、皆もそう思うでしょう?」

  ローゼ様は先程まで怯えていたのが嘘のように勝ち誇った顔でそう口にする。
  彼女の中では、ここに集まった人達も賛同してくれて、一気に流れは私を追い詰める方へと変わる。そう思っていたのかもしれない。

  だけど。

  しーん……
  しかし、ローゼ様の思惑は外れて、誰も口を開かなかった。
  先程までと変わらない……いや、むしろこれまでより冷たくなった視線がローゼ様に向けられているだけだった。

「え?  な、何で皆まだそんな目で私を見るの?  あ、あなた達も見たでしょう?  私は叩かれた被害者……」

  思い描いた通りの展開にならない事に、ローゼ様は大きく焦り始めた。かなり目が泳いでいる。

「……ローゼ、本当に分からないのか?」

  ジョシュアが私の肩に手を回すと、さり気なく自分の方へと私を引き寄せながら冷たい声で言う。

「ここにいる誰もが君を叩いたユイフェを責める気持ちは無い──という事だよ」
「は!?  何で?  ど、どうして!?  だって皆、見たでしょ……え?」

  ローゼ様は必死な顔で皆に訴えようとするけれど、誰も反応はしない。

「この場において誰が加害者で被害者なのか……分かっていないのはローゼ、君だけだ」
「!!」

  ローゼ様が「そ、そんな……」と、膝から崩れ落ちた。

「エイドリアン殿の証言だけでなく、この様子なら他の人からも証言を得られそうだ。いい加減、観念して自分のした事を反省しろ、ローゼ!」
「っっ!!」

  ローゼ様は警備の者達が駆け付けてくるまで、力尽きたように地面にへたり込んでいた。




─────



「ユイフェ……大丈夫?」
「……うん、大丈夫。ありがとう」

  大騒ぎとなったヴォクシー伯爵家を後にした私達は帰宅の途につく事になった。
  とりあえず、ローゼ様はあのまま捕まり拘留される事になった。あの場でヴォクシー伯爵が器物破損の罪を訴えたからだ。私達もこの後訴えを出す事になっている。

  そうして今は、屋敷に戻る馬車の中。
  ジョシュアはずっと私に寄り添ってくれていて今もこうして抱きしめてくれている。

  (温かい……ホッとする) 

「ローゼはこれから厳しい取り調べを受ける……そして侯爵家も含めて相応の処分がくだされるだろう」
「そう、ね」
「エイドリアン殿はとても張り切って記事を書く!  と息巻いていたから大きく騒がれるだろうね」
「……」

  私はずっと私達を追いかけていたという記者の顔を思い浮かべる。

  (全然知らなかったわ……)

  やっぱり、何か裏があるのでは?  そう思いたくなるくらい私達の結婚が突然過ぎたのね。
  “契約結婚”だと早々にバレずにすんで良かったわ。

  ───でも、きっともう大丈夫。
  ジョシュアがローゼ様に危険に晒される事はもう無い。無くなった。

  (だから、いつでもこの契約は……そうね、1年待たずに破棄しても……問題ない)

  そうだわ。
  後はジョシュアから離れる前にどうしても聞いておきたい事があるのよね。

  (ローゼ様を追い詰めている最中のジョシュア……変だった)

  ───どうして、ローゼ様が冤罪をきせるのが得意だと知っていたの?
  “あの言葉”“過去”“未来”“今度は”
  ジョシュアが口にしていたこれらの言葉……これが意味するものは。

  ドクン……ドクン……

  (でも、まさか……そんな事が本当に有り得る?)

「……」
「ユイフェ……」
「?」

  黙り込んでしまった私の名前を優しく呼んだジョシュアの手がそっと私の頬に触れる。

  スリスリ……フニッ!

「ジョシュア?」
「やっぱりユイフェは……いいなぁ、僕のお嫁さん……最高」
「え!」

  スリスリ……フニッ、フニフニフニ……

  ジョシュアの攻撃が止まらない。
  そして、その攻撃はスリフニだけでは終わらず───……

  ……チュッ

「~~~!」

  もう片方の頬への口付けにまで発展し、すぐに頬が赤くなる私を見てジョシュアは笑顔を浮かべる。

「ユイフェ、可愛い」
「わ、私は恥ずかしいわ」
「うん。でも、可愛い……可愛くて可愛くて大好きなんだ。昔も、今も」

  (────え?  今……)

  私が顔を上げると、ジョシュアは少し頬を赤らめて柔らかく微笑んでいる。

「なぁ、ユイフェ」

  フニフニ……

「……」
「僕達、お互いに話さなくてはならない事があると思わないか?」

  スリスリ……

「多分、お互いすごく、すごく重要な事を隠していた」
「!」
「そんな気がする」

  (───それは!)

  ドクンッ

  ジョシュアのその言葉に私の心臓は今にも飛び出しそうになった。

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