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第3話 新しい縁談の話
◆◇◆
それから、数日後。
朝食の席で、お父様が沈んだ顔でわたくしに向かって言った。
「シンシア……今日は非常に残念なお知らせがある」
「……残念なお知らせ、ですか」
「ああ」
「……」
お父様のその言葉にわたくしは背筋を伸ばす。
そして、同時に思った。
さてさて、本日はいったいどこの令息と令嬢が運命的に結ばれたのかしら、と。
(確か先日わたくしとの縁談のお話が上がっていたのも伯爵家の嫡男だったわね……)
本来、王女であるわたくしの降嫁先となるのは、公爵家や侯爵家など高位貴族であるのが通例。
しかし、わたくしとちょうどいいお年頃の男性は皆、お相手が決まってしまっている。
まさか、婚約者がいる相手を王家の権限を振りかざして奪い取るわけにもいかない。
よって、少し前から仕方なくお相手候補を伯爵家にまで範囲を広げていた。けれど、それも空振りが続いている。
(やっぱり呪いよ。これはもう、わたくし……結婚は諦めるべきなんじゃないかしら?)
サスティン王国の王家の子どもは、王子一人と王女二人の三人兄妹。
この国の王位を継ぐのは王太子でもあるお兄様。これはもう揺らぐことはない。
お兄様の治世の邪魔はしないから王宮の隅っこでひっそりと暮らしていくことを許してくれないかしら?
「……(お兄様!)」
「……?」
わたくしはそんなお願いを込めた視線をお兄様に送ってみたけれど、不思議そうに首を傾げられただけで全く私の気持ちが伝わることはなかった。
(そうなるわよね……)
ただ、そんな暗いことを考えてしまうくらいわたくしはもう、結婚に対して投げやりな気持ちになってしまっていた。
そんな中、お父様が苦しそうな顔で“残念なお知らせ”の内容を告げる。
「シンシア。よく聞け───もう、国内にはお前が嫁げるような、身分もそこそこの目ぼしい男性は残っていない!」
「!」
(……やっぱり)
何を言われるかの想像はついていたけれど、こうもはっきり言われると胸が痛い。
わたくしはガックリと肩を落とした。
「昨日、辞退の返事が届いた伯爵家がリストの中では一番最後だったのだ」
「……」
身分もそこそこの目ぼしい男性───
厳密には、うんと年の離れた方とか、何か訳ありで長年独身を貫いている貴族男性などはいるにはいるのでしょうけれど、おそらくそういった方々を除外すると、適齢期の男性はもういない……ということ。
お父様はため息と共に言った。
「どこかに良い人材が埋もれていないだろうか……」
お父様はうーんと頭を悩ませていた。
そんな話をお母様は困ったわね、と、どこか他人事のような顔をして聞いている。
そしてお姉様は終始無言だった。
(お姉様……?)
お姉様が今、何を思い、考えているのか表情からではよく分からなかった。
───
そして朝食の後、自分の部屋に戻ろうとしたら、先に食べ終えて部屋に戻っていたはずのお姉様が足早に廊下を横切っていった。
(あら? お姉様、着替えている?)
何処かに出かけるのかしら? そう思ってその姿を視線で追ってみたら……
(あ!)
「───やぁ、エリシア!」
「ダラス! 待っていたわ!」
向こうからダラスがやって来た。
お姉様は嬉しそうに笑顔でダラスを出迎える。
(そういうこと……)
だから、着替えていたのね……と思った。
よく見れば髪型も違う。
そのまま二人は手を繋いで中庭を散歩するつもりらしい。
これ以上二人の姿を追い続けても虚しいだけなので、わたくしも自分の部屋に戻ろうと身体の向きを変えた時だった。
「───シンシアの縁談がね、なかなか決まらないみたいなの」
「そうなのか?」
わたくしの名前が聞こえて来たので思わず振り返る。
「顔合わせは何度か行っているみたいなんだけど……その先となると断られてしまうみたい」
「断られている? 意外だな。シンシアはあれだけ可愛くて人気も高いじゃないか……俺、シンシアならすぐに次のお相手が見つかると思っていたよ」
「私もよ……」
お姉様が顔を曇らせたからか、ダラスがそっとお姉様を抱き寄せる。
「そんな顔をするなんて、エリシアは本当に優しいな」
「え?」
「シンシアは君が隣国の王子との縁談の話が流れた時、心配顔の一つすらしていなかったぞ」
「そうなの……?」
お姉様が悲しそうな顔になった。
わたくしはお姉様のその反応に驚く。
(……なっ! だってあれは……お姉様のあの縁談は……!)
「やっぱりどんなに顔が可愛くても、人を思いやれない性格はよくないな。だから、シンシアはなかなか縁談が決まらないんじゃないのか? きっと、顔だけ女だと見抜かれて、婚約が出来ないんだよ」
「もう、ダラス! 駄目。そんな言い方しないであげて? シンシアは一生懸命なんだから!」
「エリシア……全く、君って人は。本当に優しい。エリシアのそういう優しさをシンシアも見習うべきだったと俺は思うよ」
(───酷いっ!)
さすがにこれは黙って聞いていられず、言い返そうと近くに寄ろうとしたけれど、そのまま二人はさっさと庭園の奥に行ってしまい、追いつけなかった。
わたくしは小さな声で呟く。
「……お姉様、縁談の話が流れた時、喜んでた……じゃない……」
あんな女性問題が沢山ある人の元に嫁ぐことにならなくて良かったわ……て。
だけど、わたくしのその小さな声は誰にも届くことはなかった。
◆◇◆
そんな惨めな思いをした数日後。
今度は夕食の席でお父様が言った。先日とは違い今日は元気。しかも何やら興奮している。
「シンシア! 喜べ! お前に縁談の話が来た!」
「え?」
お父様のその言葉に驚きの声をあげたのはわたくしだけではなかった。
「シンシアに縁談が? 父上、本当ですか?」
びっくり顔のお兄様。
「あら? 国内の目ぼしい男性はもういなくなったのではなかったの? それとも人材が埋もれていたのかしら?」
珍しく興味を示すお母様。
「……!」
お姉様も驚いた顔をしていた。
そんな驚き顔の皆を見渡したお父様は大きく頷く。
「厳密に言うとシンシア宛ではなく、我が国の王女宛となっている……つまり、エリシアも含まれるが、エリシアは婚約しているから除外となる」
(ああ、そういう……って、我が国? その言い方はもしかして──)
「お父様、もしかしてその話は国外からの話ですか?」
「ああ、実はそうなんだ」
「こんな小国の王女にまで声をかけるなんて……」
わたくしは自分のことは棚に上げて、失礼ながら、よっぽど訳ありでお相手が決まらなかったのね……
と勝手に同情してしまった。
「何処の国からのお話なの? お父様」
珍しくお姉様が口を開いた。
お姉様がお父様にそう訊ねると、お父様は大きく頷きながら教えてくれた。
「プロウライト国の王子殿下だ」
「え?」
「───えっ」
わたくしとお姉様は同時に声を上げた。
───ドクンッ
その国の名前に思わずわたくしの胸が高鳴った。
プロウライト国って……!
わたくしの脳内で、子供の頃の記憶が甦る。
あの国の王子様と言えば───
あのとても格好よくて素敵で……幼かったわたくしの初恋────……
……もしかして、初恋の人が次の縁談相手!?
そんな内心でドキドキするわたくしの横でお姉様が言った。
「───待って? お父様。プロウライトの王子って確か双子だったはずだわ。お話があったのはどちらの王子殿下なの?」
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