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第6話 お姉様の罠?
「……ジュラール? 突然、顔が赤くなったけどどうかした?」
「え……」
エミールにそう言われて、初めて自分の頬が熱を持っていることに気付いた。
慌てて自分の頬を触ってみる。
(熱い……ぞ?)
「そんなに赤……いか?」
「うん。急にね」
「そ、そうか……」
ジュラールの中でまさか……という思いが生まれる。
直前まで考えていたこと、それは。
つまり、だ。もしかしなくても、これは───……
「……エミール」
「うん?」
「────僕は…………風邪をひいたのかもしれない!」
ジュラールは大真面目な顔で堂々と言い切った。
「え? 風邪?」
「ああ……だって僕は連日、遅くまでお見合い相手たちの釣書とにらめっこばかりしていたんだ……これは体調を崩しても不思議ではない!」
ジュラールのその言葉にエミールもああ……と頷く。
「睡眠は大事だって言うからね?」
「そうだろう? だが、王子としてやらなくてはいけないことは沢山……そうなるとどうしても睡眠時間が……くっ」
「ジュラール、分かるよ……僕ももっと身体を鍛えたいのに、なかなか時間が足りないからね」
「……そ」
ジュラールは内心でそっちか! と突っ込みを入れたくなったけど、グッと堪えた。
愛する婚約者のことを喜ばせたくて、ムキムキを目指している“恋する乙女”な弟の努力にわざわざ水を差したくはない。
「ジュラール、それなら今は横になって休んで! やれる所は僕が代わりにやっておくから!」
「エミール……あ……でも、お前、もうすぐフィオナ嬢が訪ねて来るんじゃ……? 式の打ち合わせ……」
「え? ああ……うん」
エミールの顔が愛しい人の顔を思い出してかポッと赤くなる。
「……」
(相変わらず、僕の弟は恋する乙女だな)
エミールとその婚約者となった侯爵令嬢フィオナ。
恋する乙女化した弟と“自称”平凡令嬢の色々あって結ばれた二人の結婚式は数日後に行われる。
これは予定よりも早い。いや、僕が早めた。
常に王宮内に甘い砂糖を無自覚に撒き散らしている二人を早くまとめてしまいたい国と僕の思惑が一致した結果だ。
そのため、海外の要人は呼ばずに式を執り行う。
二人も早く結婚出来るなら、そこはこだわらないと言ったので無事に日程が決まった。
(サスティン王国の王女が到着するのは結婚式の後、か)
王宮内が新婚二人の空気で甘々かもしれないが、そこは容赦してもらおう……
そんなことを考えていたら、エミールが乙女の顔は引っ込めて真面目な顔をして言った。
「……ジュラール」
「ん?」
「家族思いのフィオナはね? こういう時は、“私のことより具合の悪いジュラール殿下の手伝いをすることの方が大事でしょう?”って言う子なんだよ」
「お、おう……」
確かに、そう言いそうな人だ。
「そういうわけだから、今は休んでて!」
弟にそう押し切られた僕はお言葉に甘えて休むことにした。
そして横になると一気に眠気が押し寄せてくる。
(やはり、疲れていた……のか)
そんな僕が眠りにつく寸前、頭の中にふと甦ったのは、
今度、お妃候補としてこの国にやって来る、あの無邪気で可愛かった王女。
キラキラの可愛い笑顔で彼女は一応、王子であるはずの僕に向かってこう言った。
『すてき! 王子さまみたい……!』
(みたいじゃなくて、王子だよっ!)
あの時は何とか耐えたけれど、思わず“素”でそう言い返して声を立てて笑いそうになったっけ……何とか王子様スマイルに留めたけど。
懐かしい。
あの時のきょとんとした顔も可愛かったな……
そして、もう一つ覚えているのは、そんな妹王女を可愛がっている振りをしながらも、所々で憎悪を隠しきれていない姉王女の姿───……
◇◇◇◇◇
わたくしは、馬車に揺られながら窓の外を眺めていた。
(いよいよ出発……)
緊張……そして不安もある。
だけどやっぱり、ジュラール殿下に再びお会い出来ると思うと嬉しい。
(ジュラール殿下はあの日、あの場にいた人の中で誰よりも格好良かった)
他国の王子様はもちろん、わたくしのお兄様だってあの場にはいたのに。
彼だけが輝いて見えた。
そして、阿呆なわたくしは、そんなジュラール殿下に向かって、
『すてき! 王子さまみたい……!』
などと口走ってしまって……
「…………っっ」
これは今、思い出しても恥ずかしい!
王子様相手に王子さまみたいって! 何を言っているの? って当然なるに決まっている。
(でも、ジュラール殿下はそんな無礼なわたくしに怒らなかったわ……)
一瞬だけ表情が崩れてポカンとした顔はしていたけれど。
しかも、その後は笑ってくれた。
でも、お姉様にはたくさん怒られたっけ……
そんなことを思い出していたら、わたくしの乗った馬車はいつの間にか王都を出ていた。
「……」
ふと気になったので、付き添いの護衛と侍女に訊ねてみる。
王都を出たのはいいけれど、次に入った街の景色を見て少し不思議に思ったからだった。
「───ねえ? どうして、こちらの……ルムメンの街に入ったのかしら?」
「殿下、どういうことですか?」
「……」
わたくしは頭の中で地図を思い浮かべる。
今、入ったルムメンの街を通れば、確かに最短距離で国を抜けることが出来る。
でも……
「ルムメンの街は河が多いから、たくさん橋が架かっているけれど、最近は老朽化が進んでいて再整備の申請が出ていたわ。つまり、危険な箇所が多い……では、橋を避けて迂回しようとすると 今度は道も狭くて別の意味で危険な所も多いわ……」
「殿下?」
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わたくしのその疑問には護衛が答えてくれた。
「それは我々も不思議に思い、陛下に確認しに行ったところ、ちょうどエリシア王女殿下がその場にいらっしゃって……」
「お姉様?」
お姉様の名前に胸がドキッとした。
「エリシア王女殿下は、シンシア王女殿下は長旅には慣れていないから、最短距離の方がいいと思うと陛下に念を押しておりまして……」
「なっ……!」
「危険なところは予め分かっているのだから、注意すれば大丈夫でしょう? と……」
「それで……お父様も納得してしまったの?」
「エリシア王女殿下が、シンシア王女殿下が幼い頃に馬車酔いしていた話などを持ち出しておりましたので……」
「え?」
それは、あくまでも子供の頃の話──!
「慣れない長旅のうえに緊張と不安で辛くなるのは可哀想よ、と」
「……!」
「それで、国境を抜けるまでは護衛の人数を増やしてこちらの道になりました」
「そんな!」
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そこを大きく変更するわけにはいかない。
(理想は、ルムメンは通らずに……かつ、予定のルートへと戻れる道……)
わたくしは必死に頭の中でいい案はないかと考えを張り巡らせた。
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