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第13話 悶える王子と暗躍する姉王女
僕の目の前で、シンシア姫が初めての海だとはしゃいでいる。
その姿は、一言で言うと可愛い。いや、一言でなくても可愛い。
嬉しそうな笑顔も可愛い……とにかくシンシア姫からは可愛いが溢れている。
─────だが!
(……あぁ、失敗した)
僕はシンシア姫を見ながら頭を抱える。
「───見て? ジュラール! 冷たくて気持ちいいわ!」
「う、うん!」
(波とたわむれてはしゃぐシンシア姫を見られたことは、大大大成功なのだが……)
「───ふふ、すごいわ! 足元が持っていかれるみたい! 楽しい!」
(あの、スカートからのぞく足が! 足が、さっきから艶めかしくてしょうがない!)
眩しい笑顔、艶めかしくチラチラのぞく足!
海に連れて来たのが自分だとはいえ、これは何の拷問なんだろうか……!
もうシンシア姫の何もかもが眩しすぎる。
そして、やはり眼鏡と帽子ごときでは隠せないほどの可愛さは、砂浜にいる人たちの視線を完全にさらっていた。
(一人でフラフラなんてさせたら真っ先に誘拐されそうだ……)
頬を染めてチラチラ彼女のことを見ている男は多いが、声をかけようという猛者はどうやらいないようだった。
そのことにホッと安心する。
出来れば、このままシンシア姫には心置きなく海を堪能して欲しい。
「ところで────シンシア姫は国でもあんな感じなのか?」
「は、い?」
ついつい僕は、僕と同じように近くで控えているサスティン王国の護衛にそう訊ねてしまった。
突然、僕に声をかけられた護衛は目を丸くして驚いている。
「で、殿下!? え、えっと……?」
「いや、突然すまない。シンシア姫は、自国でもあんな無邪気にはしゃいで……あんなにも可愛……コホッ、笑顔……を振り撒いているのか?」
「え? あ……い、いえ、自国で過ごされている王女殿下はそんなことは……ない、かと」
(ん? 何だか歯切れが悪いな?)
「……私が言うのも……ですが、シンシア王女殿下はこの国への訪問が決まってから、かなり明るく元気になられたな……と」
「元気? 何か病気でもしていたのか?」
その言葉にヒヤッとした。
もし病気だったら───それは穏やかではいられない。
確かにそれなら、独り身の理由も分かる……が、それならこんなわざわざ遠路はるばる我が国にやって来ることはない、か。
そう思い直した。
「いいえ! 王女殿下は健康です! とっても健康です……が」
「?」
「───ここ最近は、あんな幸せそうに笑うことはなかった……のです」
「なに?」
「……昔はもっと笑っていたと記憶しているのですが」
(どういうことだ……?)
姫が健康であることにホッとしつつも、遠い目をした護衛がそこまで言って黙り込んでしまったことが妙に気になった。
◆◇◆
───その頃のサスティン王国では……
エリシアは部屋で一人苛立っていた。
「ああ! もう!」
(シンシア……あれから何の連絡もない……)
私のあずかり知らぬところで、何かトラブルが起きていてくれたなら……そう願ったけれど、日数的にもおそらくシンシアは無事にプロウライト国に入国したくらいだと思われる。
「本当についてないわ……」
こんなことなら、大人しくしていれば良かった。
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(シンシアは無駄に顔が可愛いから油断ならないのよね……)
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おそらく、外見なんかには騙されたりしない。私はそう信じているわ!
だから、容姿だけしか取り柄がないシンシアなんかがお妃に選ばれるはずがない。
「……ふぅ。やっぱりこうなったら……私も“行く”しかないわよね?」
シンシアがお妃候補失格となって、泣く泣く帰国する頃に合わせて代わりに私が到着……
これが理想なのだけど。
そうするためには、そろそろ出発しないと……
(だけど……ダラスが邪魔だわ)
私がジュラール殿下のお妃になるには、ダラスとの婚約解消は必須事項……
そして、私もどうにかしてプロウライト国に行かなくてはならない。
そのために、何がいい案はないかと考える。
「……───そうだわ!」
ふと私の頭の中に、いい案が閃いた。
(……この間、お父様に怒られたあの件を理由にして……そうよ、それでいっそのことダラスも……)
これならいけそうだと私はほくそ笑む。
「この間は珍しくお父様には怒られちゃったけど……やっぱり普段から“妹思いの姉”を演じて来ただけあるわ……ふふ。本当に娘には甘いお父様なんだから」
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罰として、おねだりしていたドレスは買って貰えなくなってしまったけれど、それはもう仕方がない。
今は、新しいドレスよりもシンシアではなく私がプロウライト国の王妃になることの方が大事だもの!
(ふふふ、そうと決まったら……まずはダラスを呼び出して──)
───そんな段取りを考え始めた時だった。
私の部屋の扉がノックされる。
誰かしらと思えば、やって来たのは私付きの侍女。
「エリシア様、ダラス様がお見えです」
「ダラスが?」
(なんていいタイミングなのかしら!)
私は頬が緩むのが止められない。
そんな嬉しそうな私を見て侍女は言った。
「まぁ! そんな嬉しそうなお顔を……エリシア様は本当にダラス様のことがお好きなんですね?」
「え? ふふ……ええ、そうね」
(利用価値があるうちは……ね。とっても好きだったわ)
そんなことを思いながら、私はダラスの元に向かう。
───ねぇ、シンシア。どうか、待っていてね?
ジュラール殿下のお妃に選ばれずに落ち込むあなたに、ダラスを返してあげるわ─────
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