【完結】“当て馬姫”と呼ばれている不遇王女、初恋の王子様のお妃候補になりました ~今頃、後悔? 知りません~

Rohdea

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第16話 平凡妃(!?)との対面



 ───少しだけ小耳に挟んだ情報によると、エミール殿下のお妃のフィオナ様は、ご自分を“平凡妃”と呼んでいるという───
 平凡な妃って……?
 時間が合わなくてまだ、挨拶が出来ていなかったお妃様。
 いったいどんな方なのかしら────?


「──初めまして!  フィオナと申します。なかなかご挨拶が出来なくて申し訳ございませんでした」
「!」

 にこやかに現れたエミール殿下のお妃様は、話を聞いていた通り、とても可愛らしい方だった。

(こんなに可愛らしい方なのにかっこよくて面白いってどういうこと?)

 チラリと横にいるジュラールに視線を向けると、彼はニコッと笑うだけだった。
 その顔は“ほら、面白そうだろう?”と言っている。
 ──どこがですか!?
 そう思いながらも、わたくしも挨拶を返さねばとフィオナ様の方に顔を向けた。

「いえ!  こちらこそ……先日からこちらに滞在させていただいております。サスティン王国のシンシアと申します。どうぞ、よろ───!?」

 わたくしは、そこまで言いかけて驚きのあまり言葉を失った。
 ───フィオナ様、いったいその手に
 そう。フィオナ様は手に“何か”を持っていた。

「……っ」
「……?  あっ!」

 わたくしが黙り込んでしまったことと、その視線を追ったフィオナ様が小さな悲鳴をあげる。
 そして、恥ずかしそうに口を開いた。

「し、失礼しました!  私、いつもこの時間はトレーニングをしているもので……そのまま持って来てしまいました」
「ト、トレーニング……?」
「筋力トレーニングです!  エミール様と日課にしていて毎日このくらいの時間に行っているんですよ」
「き……」  

 筋力トレーニング!?
 き、筋力……えっと、筋肉?  筋肉をトレーニングするんですの?
 なかなか馴染みのない……いえ、むしろ初めて聞いたかもしれないその言葉にわたくしは目を丸くしてフィオナ様を見つめた。
 そんなフィオナ様は、えへへと照れている。
 その照れたお顔はとても可愛らしいのに、なぜか口から出て来た言葉は筋力トレーニング。
 ───なんて勇ましいの!
 そう思ったわたくしが、もう一度ジュラールに視線を向けると、彼は先程の笑顔のままコクリと頷く。
 フィオナ様の言動に全く驚いている様子が……ない。
 つまり、それだけで、このお姿がフィオナ様の“通常”なのだと分かる。

(だから、面白い……?)

「……あ、あの、失礼ですがその手に持っていらっしゃる物は?」
「え?  ああ、これですか?  これは───」

 フィオナ様が手に持っている物が、初めて見る物だったため、わたくしはおそるおそる訊ねる。

(何を聞いてくるのよ、と、気を悪くされないといいのだけど……)

 すると、フィオナ様は全く気を悪くする様子もなく教えてくれた。

「────これは、ダンベルと言うんですよ!」
「ダン……?」
「鍛えるのはもちろん!  色々と殺……やる、のにも便利なんですよ!」

 フィオナ様はとっても弾んだ声で、その辺の軟弱そうな男性なら一発で仕留めてしまいそうな程のずっしり重そうな“それ”を軽々と持ち上げて、惚れ惚れするくらいの綺麗な笑顔でそう言った。
 その笑顔を見てわたくしは思った。

 ───違う。絶対にこの方は平凡なんかじゃない!


────


「え?  エミール殿下はムッキムキを目指していらっしゃるのですか?」
「そうなんですよ」


 自己紹介を終えたわたくしたちは話に花を咲かせる。
 最初は心配してわたくしに付き添っていたジュラールは、早々にフィオナ様に追い出されていた。
 ちなみに、フィオナ様が“ダンベル”について嬉々として語っている時のジュラールは若干、顔色が悪かった。
 それと、このダンベルは結婚のお祝いにフィオナ様のお祖父さまから贈られたものらしい。

(結婚祝いにこんな凶器のような物を贈るお祖父さんとは……)

 そんなフィオナ様の背景が気になりつつも、わたくしは殿下をあんな無下に追い出したりして大丈夫なのですか?
 そう思って聞いてみたら、フィオナ様はニコッと笑ってこう言った。

『せっかくの機会ですもの、女性同士だけで話したいじゃないですか!』

 ──あぁ、確かにこの方は可愛いのにかっこよくて……面白い!  平凡でもない!
 わたくしは、そんなフィオナ様にすぐに好感を抱いた。



「エミール様は……私と出会う前は……そんなことなかったそうなのですけど」
「まあ!」

 フィオナ様は少し照れながらそんな話をしてくれた。
 つまり、エミール殿下はフィオナ様と出会って恋をして新たなご自分に目覚められた……!

(素敵!  何かの物語みたい!!)

 美男美女でお似合いだし……キュンキュンする。
 だけど、そこでふと思った。

(エミール殿下とは一度、挨拶しただけ……なのでよくは分からないけれど)

 彼は随分、事前情報とは違う気がする。
 自由奔放でいい加減───なんて噂されているような方が、愛する妃と共にムッキムキを目指している?
 それに、王宮内の噂もお二人の仲睦まじい様子の甘い甘いお話ばかりで、彼を悪く言う話は聞かないわ。

(それに、ジュラールも……)

 確かに優秀で真面目で完璧で、子どもの時のわたくしが恋した素敵な素敵な王子様なのだけど……
 子どもの時に会った、あの全く隙のない様子に比べると、今の方が表情が豊か……というか、少しやんちゃな印象を受ける。

(そこもまた、魅力的でドキドキしてしまうのだけど)

 本当に人って噂だけでは分からないものね……

「……素敵です」
「え?」
「フィオナ様とエミール殿下です。きっと運命的な出会いだったんですよね?」

 わたくしがそう言うと、フィオナ様は苦笑しながら言った。

「私の家族は、すごく愛に溢れている人たちで、私はずっと子供の頃から“素敵な恋”に憧れていたんです」
「素敵な恋!」
「ええ、ビビビッと来る相手を探していました」
「びびび?」
「……!  可愛っ…………コホッ、えっとですね……」

 わたくしがよく意味が分からなくて首を傾げるとフィオナ様はもう少し詳しく語ってくれた。


「……つ、つまり、フィオナ様はエミール殿下と出会った時に、びびびが!?」

(身体に電流が走ったかのような感覚?)

 わたくしの頭の中に、びびびという言葉と運命という言葉が結びつく。
 そんな相手に出会えるのはとてもとても素敵なことだと思う。

(びびび……びびび──……)

「───その頃の私の婚約者にはゾワッとしかしなかったのですけど」
「婚約者?」

 フィオナ様はエミール殿下のお妃様なのに?  婚約者?

「あ、実はエミール殿下と出会う前に私、別の人と婚約をしていたのです。あまり、深く考えずに婚約の話を受けてしまって……」
「そ、そうだったのですか!」
「ですけど、その人が少々……いえ、かなり?  問題がありまして……」

 フィオナ様はそうして、婚約解消に至ったお話をしてくれた。
 その話の所々に、フィオナ様のかっこいい拳が垣間見えて違う意味でドキドキしてしまった。

(婚約解消……それを乗り越えてフィオナ様はエミール殿下と新たな素敵な恋を育まれ結婚……)

「…………婚約ってダメになってしまっても、新たな方と出会って幸せになれることもあるのですね」
「シンシア様?」

 思わずこぼしたその言葉にフィオナ様が驚きの顔を向ける。

「思えば……わたくしも婚約者だった人に触れられた時、びびび……ではなく、ゾワッとしていた気がします」

 ダラスがお姉様の気を引くために、急にベタベタして来た時、ずっと不快だった。

「あれは、彼がわたくしの運命の相手ではなかった……そういうことになるのかもしれませんね」

 それなら……わたくしにもどこかに、びびび……の相手がいるのかしら?

「……っ」

(それが、ジュラールだったら……嬉しい……のに。なんて……ね)

 そんな図々しいことを考えてしまって頬を赤くしていたら、突然肩をガシッと掴まれた。

「……!?  フィオナ、様?」
「…………か、可愛っ…………ではなくて、シンシア様!」
「は、はい!」
「“婚約者だった方”ってどういうことですか!?  まさか!  ……とは思いますが……」
「え?」

 わたくしのこぼした言葉のニュアンスから何かを察したフィオナ様が問いかけてくる。

「えっと、面白くも何ともないお話ですよ?」
「構いません!  (ジュラール殿下の恋の成就のためにも、ここは流せないわ!)」
「そ、そうですか?」
「話すのが苦痛でなければ……ですが!  (話の内容によっては男をボコボコにしたい!)」

 フィオナ様のすごい剣幕に圧倒されながら、わたくしはダラスとの間に起きた“婚約白紙”の件の話を始めた。
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