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第17話 自覚する恋心と決意
「───当て馬姫!?」
「は、はい……」
フィオナ様が聞き上手だったせいか、ダラスの話だけにするつもりが、気付けばその後に流れた続けた縁談の話まで発展していた。
「……なんて呼び方をするの……酷いわ! (今すぐサスティン王国に殴り込みに行きたいくらいよ!)」
「フィオナ様……」
わたくしが影で当て馬姫と呼ばれているという話をしたら、フィオナ様が憤慨していた。
「……本当に好きな方と結ばれるのはいいことだとは思うんですけど」
「だとしても! 回数が多すぎますし、どうしてシンシア様がそんな呼ばれ方をしなくては…………」
「フィオナ様?」
そこまで言ってからフィオナ様が黙り込んでしまった。
そして、何かを考える仕草を見せた。
でも、いや……考えすぎ? などと呟いている。
(“当て馬姫”と呼ばれることにすっかり慣れすぎて、怒るという感情がどこかに行ってしまっていたわ)
だからこそ、こんな風に代わりに怒ってくれる人がいることが堪らなく嬉しかった。
(あ……!)
わたくしとの縁談の話が出た人は本当に好きな人と結ばれる───……
そのことを思い出してしまい、わたくしはフィオナ様に訊ねた。
「あの……? 実はもしかして、ジュラール殿下にも“本命”の方がいたり、するのでしょうか……」
「───っ!?」
「フィオナ様!? 大丈夫ですか!?」
わたくしの質問を聞いたフィオナ様がゲホッとむせてしまった。
「っ! だ、大丈夫……です……ケホッ……」
「……ほ、本当に?」
わたくしはは必死でフィオナ様の背中をさする。
変なことを聞いてしまったわ……と申し訳ない気持ちになる。
「そ、それより、シンシア様……な、何故……そんなことを!? ケホンッ」
「いえ、当て馬のことを考えていたら、ふと……」
そんなに深い意味は無かったのだけど、何故かフィオナ様の顔色が悪くなっていく。
そして、またしてもガシッと両肩を掴まれ揺さぶられる。
「フ、フィオナ、様?」
「───シンシア様、もう当て馬のことは忘れましょう!」
「え? わ、忘れる?」
フィオナ様の言葉に驚いてわたくしは目を丸くする。
「いいですか? シンシア様は当て馬なんかじゃありません!」
「え?」
「だって、あまりにも不自然です!」
「不自然……」
フィオナ様がキッパリと言った。
そう言われてみれば、出来すぎのような気もするけれど……
けれど、わたくしの知る限りわたくしが当て馬となって結ばれた方たちは幸せそうだった。
「それに、少なくとも悪意を持ってシンシア様のことを“当て馬姫”だと最初に呼んだ人物がいるのです!」
「あ……」
「そんな最低な人の言葉を真に受ける必要なんてありません!」
「フィオナ様……」
(わたくしはバカね……フィオナ様の言う通りだわ)
「───シンシア様」
「は、はい!」
フィオナ様がわたくしの両手をギュッと握った。
「そういう姑息なことしか出来ない人間の一番悔しがることって何だか分かります?」
「悔しがること……?」
わたくしが聞き返すとフィオナ様はニンマリと笑った。
「───シンシア様が誰よりも幸せになることですよ!」
「わたくし……が?」
幸せに?
「お姉さんに乗り換えた婚約者の男なんかより、もっともっと素敵な男性と幸せになっちゃえばいいんですよ!」
「ダラスよりも素敵な男性と……」
「そうです! ちなみに私のおススメはジュラール殿下です!」
「えっ!?」
そう言われてわたくしの顔がポッと赤くなる。
(お、おススメ!?)
わたくしが動揺してしまったからか、フィオナ様が慌てた様子で訊ねてくる。
「シンシア様……ジュラール殿下のこと嫌いですか? お妃にはなりたく……ないですか?」
「嫌い!? ま、まさか! ありえません! む、むしろ…………」
(……好き)
そんな気持ちがストンと落ちて来てわたくしはますます赤くなる。
「くっ…………なんて可愛いの……」
フィオナ様が小さな声で何か呟いていたけれど、わたくしの頭の中はジュラールのことでいっぱいでうまく聞き取れなかった。
……好き……初恋の人だからじゃない。初恋を抜きにしてもわたくしの気持ちは……
子どもの頃の彼ではなく、ここ数日共に過ごしたジュラールのことを思うだけで、気持ちが溢れてくる。
(わたくし……彼の特別な存在……お妃になることを目指してみても……いいのかしら?)
何もかも足りないものだらけのわたくしだけど……頑張っても、いい?
(───そうだわ!)
わたくしはハッとしてフィオナ様の目を見つめる。
「フィオナ様、お、お願いがあります!」
「私にお願いですか?」
「はい! お願いです」
わたくしは真剣な目で大きく頷くと、“お願い”を口にした。
◆◆◆
シンシアをフィオナ妃と引き合わせた翌日───
「…………なぁ、エミール」
「どうかした? 外ばっかり見てないでそろそろ……」
「わ、分かっている……が」
僕は執務室の窓から王宮の庭を見ていた。
エミールが小言を言いたくなる気持ちも分かる。
だって、僕はずっともう窓の外のアレが気になってしまい気が気でない。
「……どうして、シンシアがアクィナス伯爵に弟子入りしてフィオナ妃と共に王宮の庭で筋力トレーニングをしているんだ!?」
「ああー……」
僕の言葉を聞いて窓際に寄って来たエミールが隣に並ぶ。
そして、窓の外を見つめてポソリと言った。
「シンシア姫もムッキムキになりたいんじゃない?」
「な・ん・で・だ!?」
「僕の愛しいフィオナは人を巻き込むのが得意だから……ね」
エミールが頬を染めながらそう口にする。そのうっとりした視線は愛する妃のフィオナに注がれている。
……本当にエミールはブレない。
「……」
引き合わせた二人が仲良くなったという報告は聞いていたが……
なぜ! 何故そこで筋肉になるんだ!
(しかし……可愛い……!)
一生懸命、伯爵に教えを乞いているシンシアも可愛い。
フィオナ妃の祖父──アクィナス伯爵はムッキムキの身体を惜しげも無く披露しながらシンシアに指導している。
(それにしても、伯爵はかなりの強面なのにシンシアは怖がらないんだな……)
怖がるどころか、キラキラの目をして伯爵の指導を受けている。楽しそうだ。
シンシアは見た目があんなに可愛いので、一見、か弱く見えてしまうが本当はすごくすごく強い人なんだと思う。
(シンシアのそんなところも好───)
ふと自分の頭の中に浮かんだこの気持ちは───……
と、考えようとした所でエミールが言った。
「……フィオナから聞いたけど、シンシア姫は強くなりたいって言っていたんだって」
「え? 強く……?」
「それで、自分もフィオナみたいに身体を鍛えたいって姫の方からお願いしたらしいよ?」
「……シンシア」
いったいシンシアにどんな心境の変化があったのだろう?
そう思いながら僕は彼女を見つめる。
頑張っているシンシアの姿と弾ける笑顔に胸がキュンとしてドキドキが止まらない。
(伯爵が愛妻家で良かった……)
そんな時だった。
執務室の部屋の扉がノックされて侍従が顔を出した。
「──どうした?」
「それが……」
「?」
侍従がどこか困った様子で差し出したのは紙の束と一通の手紙だった。
「この紙の束は……シンシアの報告書か? それで、そっちはなんの手紙だ?」
「……」
「おい?」
僕が促すと侍従が躊躇いがちに口を開いた。
「───手紙の差出人は……エリシア・サスティン…………シンシア王女殿下の姉です」
「なっ!?」
(何の用だ!? シンシアに用事……か?)
ふと僕の脳裏には、あのシンシアへの憎しみが隠しきれていなかった子どもの頃の姉王女の姿が思い浮かんだ。
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