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第26話 好き、にして?
(い……言ってしまった!)
──やっぱり恥ずかしい!
わたくしは余りの恥ずかしさにジュラールの顔が直視出来ず、両手で顔を覆う。
(だって、イチャイチャ……イチャイチャよ!?)
だけど、伯爵がそう言ったんだもの。
お姉様を精神面でボコボコにするには、わたくしが幸せになること。
その為にも、縁談相手のジュラールとの仲睦まじい様子を見せつける必要がある、と。
さらに、イチャイチャするともっと効果的だって。
(イチャイチャ……)
それって、フィオナ様とエミール殿下が普段しているようなことですか?
そんなこと、わたくしに出来るでしょうか?
そう聞いたら、伯爵は一瞬だけものすごく驚いた顔をしたけれど、すぐに五倍増しくらいの厳つい顔で豪快に笑い出した。
───全く心配はいらない、と。
(どうして、全く心配が要らないのかしら……?)
その点だけはちょっぴり疑問だけれど、このとんでもない超人伯爵の言うことなので、きっと大丈夫! と思えてしまうのだから不思議。
「……」
それにしても。
どうして、ジュラールがずっと無言なの?
わたくしは両手で顔を覆ったまま不思議に思う。
(───ま、まさか、聞こえていなかった!?)
今のセリフをもう一度繰り返すにはかなりの勇気が必要!
わたくしはそっと指の隙間からジュラールの顔を盗み見ることにした。
「……っ!?」
(ジュ……ジュラールが……か、固まっている?)
指の隙間から盗み見たジュラールは、石像のように固まっていた。
もしかして、わたくしとイチャイチャするのはそんなに嫌?
それなら、他の作戦を考えなくては、と思いわたくしは手を顔から離してジュラールに呼びかける。
「───ジュラール!」
「……」
「───ジュラール!!」
「……」
「───ジュラールってば!」
三回目の呼びかけでようやくジュラールがハッとした表情になってわたくしの顔を見た。
「……しんしあ」
「大丈夫ですか? カッチカチに固まっていましたが……」
「あ、うん。なんか我が国の歴代の王様たちが僕を手招きしてくれていたよ……危なかった」
「え?」
わたくしが顔をしかめると、ジュラールは何でもないと言って首を大きく横に振った。
「ちょっと、破壊力満点の言葉が聞こえた気がしたからさ。幻聴かな?」
「幻聴、ですか?」
「うん、だってさ。シンシアがぼぼぼ僕と……僕と──……イッ…………イチャイチャ……したい……って!」
「!」
ボンッて音がしそうなほど、一瞬でジュラールの顔が真っ赤になる。
釣られてわたくしの顔も更に赤くなった気がする。
だけど、何故かジュラールは幻聴だと思い込んでしまっている。
これはいけない!
そう思って、とっても恥ずかしかったけれど、もう一度伝えることにした。
「げ、幻聴ではありません!」
「……え?」
「ジュラールに明日のパーティーでは、わ、わたくしとイチャイチャしてください! そう、い、言いました……」
(何度口にしても恥ずかしいわーーーー!)
もう、今すぐに顔から火が出そうだった。
「……イチャイチャ……しんしあとイチャイチャ……?」
「はい、イチャイチャです」
「イチャイチャ……」
「……し、してくれますか?」
わたくしがそっと近付いて顔を覗きこもうとすると、ジュラールは更に真っ赤になった。
「!」
だ、大丈夫かしら?
やっぱり、イチャイチャしてください! なんて、たかがお見合い相手のくせに……はしたないお願いだと思っているのかしら?
「……イチャイチャ、えぇっと……? つまり、シンシアに触れて……いい、ということ?」
「え? あ、はい……そ、そうなりますね」
触れる……だなんてそんな直接的なことを言われてしまうと胸がドキドキしてしまう。
「───そのフワフワの髪に触れてキスをして……シンシアを僕の腕の中に……囲いこんで……それで……」
「!?」
ジュラールの口から漏れる言葉にわたくしは目を剥いた。
(な、何だかすごいことを口にしているような……!?)
「むっ……どうやらジュラール殿下の押さえつけていた欲望がダダ漏れし始めたようだな」
「よ、欲望!?」
伯爵が愉快そうに笑ってそんなことを言う。
「大丈夫だ! 健全な漢の証拠だ! その調子でイチャイチャしていれば勝手にダメージを受けてくれるだろう! こちらもその方が、や(殺)りやすいというものだ!」
「そ、その調子!?」
伯爵の言っていることが全然、分からなくてわたくしは焦る。
あと、何だか物騒な言葉が聞こえた気がする。
(と、とりあえず、イチャイチャの承諾は得られた……のよね?)
そう思ってわたくしはチラッとジュラールを見上げる。
「ジュラール……あの」
「くっ……可愛っ…………シ、シンシア! 分かった。明日はたくさん僕とイチャイチャしよう!」
「は、はい。お願いします……ですが」
「ですが? どうかした?」
こんなことを言うのも恥ずかしいけれど……
わたくしは照れながら口にする。
「わたくし、イチャイチャって具体的に何をすればいいのか、分からなくて……」
「……」
「ジュラール?」
無言になったジュラールが天を仰いでいる。
「だ、大丈夫だ! 僕に任せてくれ!」
「!」
「そ、それと僕にされて不快だと思うことがあったらすぐに言ってくれ!」
「ふ、不快……?」
そう言われてわたくしは考える。
初恋の人でもあり、今もわたくしが好きな人……ジュラール───にされて不快なこと?
(そんなの……)
「……な、無いです」
「え? 無い?」
「ジュラールにされて、わたくしが不快に思うことや嫌なことなんて……ありません、から」
「え……」
「ですから、その……わたくしのことは、好き……にしてくださ、い」
「シン────っ!」
ジュラールは目を大きく見開いてわたくしの名前を呼びかけそうになった後、突然、うわぁぁぁ、と恥ずかしそうな声を上げながら両手で顔を覆ってその場に崩れた。
「ジュラール!?」
わたくしは驚いて伯爵、もしくはフィオナ様&エミール殿下に助けを求めようと振り返った。
けれど、伯爵は「むっ……これは早く妻……愛しのリアの元に帰りたくなる甘さだな。よし、私は帰るぞ! 待っててくれ、リアーー!」と愛しの奥様? の名前を叫びながらウキウキと帰り支度を始めていて……
「フィオナ……」
「……エミール様」
(───きゃっ! まだやってる!)
新婚の王子夫妻の方は未だに抱きしめ合ったまま、お互いのことだけを見つめていたので、全くと言っていいほどこちらを見ていなかった。
(イチャイチャって、……あんな風にギュッて抱きしめ合ったりもするの、よね?)
「……っっっ!」
つい、ジュラールの温もりを想像してしまって、わたくしもその場に崩れそうになった。
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