【完結】“当て馬姫”と呼ばれている不遇王女、初恋の王子様のお妃候補になりました ~今頃、後悔? 知りません~

Rohdea

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第28話 愚かな元婚約者


(───すごい視線!)

 遅れての登場なので、目立つことは分かっていた。
 それでも、自分に向けられる視線は想像以上のものだった。

(どこか……変?)

 気合いが凄かった侍女たちにとても素敵に仕上げてもらったと思ったのだけど……

 ───最高です! 
 ───キュンキュンします!
 ───メロメロです!

 そう言って送り出してくれた。

「ははは、皆、面白い顔をしているな!」

 わたくしの横で伯爵が豪快に笑う。厳ついその顔が更にいかつくなる。
 そこでわたくしは思った。
 伯爵は伝説の人!
 そんな人にエスコートされているのだから、注目されるのも当然だわ、と。

(なるほどね……わたくしは“おまけ”だわ!)

 そう思ったら一気に気が楽になった。
 そんな中、こちらを見ている視線の中にジュラールを見つける。
 昨日、別れてから今までずっと会えず、顔を見れていなかった。
 なので、嬉しいという気持ちが溢れた。

(───ジュラール!  会いたかったわ!)

 わたくしはジュラールに向けてとびっきりの想いを込めて微笑んだ。
 その瞬間、ジュラールの近くにいた男女数名が口元を押さえてフラフラと床に倒れ込んでしまう。
 そして、慌てて救護されていた。

(あら?  立ち眩み?)

「むっ……人は微笑むだけでも、や(殺)れるものなのだな。やはり見所のある王女殿下だ……」
「伯爵?」
「私の場合は軽く睨むだけで軟弱小僧共は縮こまるからな……それと似たようなものだろう」

 伯爵はウンウンと頷きながら一人で納得している。
 とりあえず、睨みひとつで人を黙らせることの出来る伯爵はすごい人ということは理解した。

「王女殿下。姉王女と男の様子はどうだ?」
「はい……」

 伯爵に言われて、わたくしはお姉様とダラスに視線を向ける。
 二人ともジュラールのすぐ側にいたので見つけるのは簡単だった。

「ダラスはどこか放心状態に見えます……でも顔が赤いですね」

 ポカンとした間抜けな顔はこちらを凝視している。だけど何故か真っ赤だ。

(もうお酒をたくさん飲んだのかしら?) 

「お姉様は──……」

 お姉様は何故か驚いた顔をしている。
 いったい何にそんなに驚いているのか、わたくしにはさっぱり分からなかった。

 会場はまるで時間ときが止まったかのように静まり返ってしまっていた。
 ここはやっぱりわたくしが挨拶しないとダメなのよね?
 そう思ったわたくしは、ドレスの裾を軽く摘んで静かに腰を落とす。

「───遅くなってしまい申し訳ございません。サスティン王国第二王女、シンシアでございます」

 今度は会場全体を見渡して微笑んだ。
 すると、会場のあちらこちらでガシャーンと何かが割れる音や人の倒れる音が聞こえた。

「……?」
「はっはっは!  無自覚パワーの恐ろしさだな!」

 首を傾げるわたくしに、伯爵は厳つい顔を五倍増しくらいにして笑っていた。

「大丈夫だ。さて、王女殿下。あなたを王子の元にお届けしなくてはな」
「はい!」

 そう言われてわたくしは伯爵の腕を取った。

(本当に、最強のエスコートだわ) 

 わたくしは、エスコート役が伯爵だと聞いてすぐに「奥様をエスコートしないで大丈夫なのですか?」と訊ねた。
 すると、伯爵は気にするなと言ったあと、何故か妻はむしろ喜ぶぞ!  と口にしていた。

(何でも、わたくしが奥様の愛読書の主人公のお姫様に似ている……とか何とか)

 エスコートされてわたくしが歩き出すと、固まっていた皆もハッと動き出す。
 伯爵の顔に怯えたり、こちらをチラチラ見ては頬を赤く染めたりと反応は様々だった。



「───ジュラール殿下、あなたのお姫様をお連れしましたぞ」

 そうしているうちに、わたくしはジュラールの元に辿り着く。
 お姉様とダラスは、なにか言いたそうにわたくしを見ていたけれど、隣にいる伯爵の顔を間近で見てギョッとして怯えていた。

(わたくしに声をかけたいけど、伯爵が……そんな顔をしているわね)

 エスコート役が伯爵ではなかったら、今頃、二人にあれやこれやと絡まれていたかもしれない。
 理由はなんであれ静かにしてくれているならそれでいい。
 わたくしはわたくしのやるべきことをやるだけだもの!

(───さぁて!  ここから“イチャイチャ”開始よ!)

 ジュラールと仲良くしている所をたくさんお姉様とダラスに見せつけるわよ!
 わたくしはそう気合を入れて、ジュラールに向かって微笑む、

「───ジュラール!」
「……」

(あら?)

 また、ジュラールが石像のように固まっている。
 そんなジュラールの顔も赤い。

「……ジュラール?」
「シ、シンシア……?」
「はい、シンシアです!  お待たせしました!」
「~~~~!」

 ジュラールの顔がますます赤くなる。そして、何故かカタコトで言った。

「シンシア、カ、カワイイ…………カワイイガアフレテル……!」
「ふふ、ありがとうございます!  これは王宮侍女たちの腕が素晴らしかったのです!」

 カタコトだったけど、“可愛い”が貰えてわたくしは嬉しくなった。

「……ジュラールも」
「エ?」
「ジュラールも……その、かっこいい……です」

 正装したジュラールの姿を見るのは初めてなので、すごくドキドキする。

「カ、カッコイイ……?」
「はい!  とっても!  誰よりも素敵です」
「……シ、シンシア」

 わたくしたちが微笑み合って互いに近付こうとしたその時だった。

「───ちょっ……ちょっと待て!  は、話が違ーーーーう!!」

 そう言って割り込んで来たのはダラスだった。
 やっぱりおとなしくしていてはくれないのね、と悲しく思う。

「シンシア!  どうしてだ!  何をやってる。話が違うぞ!」
「……」

 せっかくジュラールといい雰囲気になった所に突然、間に入って来て挨拶もなくこの言葉。
 さすがのわたくしも呆れる。
 更に、ダラスの言っている言葉の意味が分からない。

(話が違うってなに?)

 ダラスはわたくしが怪訝な表情をしたことが気に入らなかったのか、さらに声を張り上げた。

「どうして、そんな…………か、顔でプロウライト国の王子に微笑むんだ!」
「え?」
「シンシア!  君はまだ俺のことが好きなんだろう!?  それなのに……」

 ───は?
 わたくしは、自分の耳を疑った。

 マダオレノコトガスキナンダロウ?

 ……まだ、も何も婚約当時から好きだった覚えすらない。
 混乱したわたくしが、答えられずに戸惑っていると、ダラスは一人でなにかを納得したようにニヤリと笑った。

「……そうか、俺に焼きもちを妬かせようとしていたのか……そういうのは嫌いじゃない」
「!?」

 よく分からないけれど、とりあえず気持ち悪い!!
 全身に鳥肌が立った。

「シンシア……エリシアとは別れることに決まったよ。俺も、今更だが君と婚約解消したことを後悔してるんだ」
「後悔……?」
「ああ、可愛すぎて気後れすると言ったが、撤回する!  だから、もう一度俺とやり直そう」

 撤回とかそういう問題ではない。

「ダラス……あなた、さっきから何を言っているの?  わたくしは今、この国でジュラールとお見……」
「無理しなくていい、シンシア。君の気持ちは分かっている!」
「いえ、全く!  何一つ!  分かっていないわよね?」
「今日も“俺のために”そんな可愛いらしく、着飾ってくれたんだろう?  嬉しいよ───」

 そう口にしたダラスが、わたくしの腕を掴むと強引に自分の元へと抱き寄せようとした。
 その瞬間、先程よりも強くゾワッとした。

「おいっ!  ───シンシアに触れるな!」
「……ジュラール殿下、申し訳ございません。シンシアはあなたとお見合いしながらも、元婚約者である俺のことがずっと忘れられなかったようなのです」

 ダラスは止めに入ってくれようとしたジュラールの手をそう言って払い除ける。
 そして、何を思ったのか「シンシア……」とわたくしの名前を呼んで顔を近付けてこようとした。

「シンシア───俺たち……今度は上手くやろう」
「──!?」
「バカを言うな!  どう見ても嫌がってるだろう!?   シンシアから離れろ!!」

(やだ!  ───気持ち悪いっっっ!  近付かないで!)

 ジュラールがわたくしから、ダラスを引き剥がそうとしてくれる。
 そして、わたくしはわたくしで必死に抵抗しなくてはと思い、無我夢中で握りしめた拳を振り上げ───


「ぐはぁ!」

(あ!)

 わたくしの拳が綺麗に決まって、顔を殴られたダラスはその場から軽く吹き飛んだ。
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