【完結】“当て馬姫”と呼ばれている不遇王女、初恋の王子様のお妃候補になりました ~今頃、後悔? 知りません~

Rohdea

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第29話 部外者は黙っていて!



 しーん……
 まさかの展開に会場は静まり返ってしまっていた。

(えぇぇ!?  ……う、嘘っ……)

 軽く吹き飛んだダラスはドサッとその場に倒れ込んだ。

(いいいい今!  わ、わたくし、ダラスを殴った……?)

 無我夢中で自分でも何をしたのかよく分からなかった。
 けれど、右手の拳がいい具合にダラスの頬に入った。その感触は今も残っている。

「───シンシア、大丈夫か!?」

 呆然と自分の右手を見ているわたくしの元にジュラールが駆け寄って来た。

「ジュ、ジュラール!  あの……」
「すまない!」

 ジュラールが辛そうな顔でわたくしに頭を下げた。

「ど、どうしてジュラールが謝るの……?」
「あんな奴に腕を掴まれて……怖かっただろう?」
「それは……だ、大丈夫です。き、気持ち悪かったですけど……それにわたくし無我夢中で気付いたら拳が……」

 そう言いながらわたくしはチラッと横目で床に倒れ込んでいるダラスを見る。

(生きてる……わよね?)

 伯爵のように鍛えられたムッキムキならともかく、わたくしのような最近トレーニングを始めたばかりの拳ではダメージはそんなに与えられていない……と思うもの。
 そんなわたくしに、ジュラールは言う。

「シンシア。いいか?  あの男のあれは自業自得だ!」
「ジュラール?」
「嫌がるシンシアに無理やり迫っていた。それに復縁だと?  …………許せない!」

 ジュラールの顔は本気で怒っている。

「一発でも足りない。僕だって今から殴れるものなら殴ってやりたい!」

 そう怒ってくれた。
 そのことが嬉しくてホッと胸を撫で下ろす。
 けれど、ダラスは変なことを言っていた。
 まるで、わたくしがダラスのことを好き、そんな言い方だった。

(嫌……ジュラールに変な誤解をして欲しくない!)  

 そう思ったわたくしは、ジュラールにしっかり否定しておこうと思い口を開く。

「ジュラール……わたくし、ダラスと復縁なんて絶対に絶対に嫌で……」
「ああ……シンシア。分かっているよ」

 ジュラールがそう言ってくれて再び心からホッとした時だった。

「……う、うぅ……」

 後ろからダラスの唸り声が聞こえてくる。
 もしかすると意識が戻ったのかもしれない。そう思ったわたくしは慌てて振り返る。

「う、うぅ……?  今、俺……シンシア……シンシアに殴ら……れ?」

 ダラスはかなり混乱しているようだった。

「え……フワフワで華奢なシンシア……に?  殴られ……え、吹き飛ん……え?」

 やはり、吹き飛んだことはなかなか認めたくないらしい。
 何やら、これは夢だ。夢に違いない!  などとブツブツ呟いている。
 一部始終を見ていた会場内の人たちは、そんなダラスを呆れと憐れみの目で見ていた。

 そんな中、突然、会場の空気を断ち切るかのように伯爵は笑った。

「ははは!  さすが私が見込んで特訓した王女殿下だ!  拳が綺麗に決まっていたな!  素晴らしかったぞ!」

 ───アクィナス伯爵!
 ───伯爵が見込んで特訓した……?

 一斉に皆がわたくしの方を見た。

 “あの”伯爵に見込まれ特訓まで受けていたのか!
 皆の目はそう言っていた。

「さて、と。どうやら小僧も目覚めたみたいだな」

 伯爵はそう言いながら倒れ込んだダラスの方に向かって歩いていく。
 何をする気なのだろうとハラハラ見守っていたら……

「やはり軟弱だったな……どうしてこうも浮気男というのはいつの時でも軟弱なのか……」

 そう言って、未だに床に伏せったままのダラスの頭をやや強引に掴むと顔を上げさせた。

「おい、軟弱小僧!」
「ひっ!?  はひぃぃ!  こ、殺されるっ!?」 

 伯爵に間近で迫られ睨まれたダラスが勢いよく起き上がると、情けない声をあげる。
 ようやく脳内が覚醒したらしい。

「貴様のような浮気軟弱男、これからこの私が自ら鍛え直してやろうではないか!」
「……へ?  え?」

 ダラスは言葉の意味が理解出来ずにポカンとする。

「嫌がる女性に無理やり迫るなど、言語道断!  漢のすることではない!!」
「なんじゃ……く?  きたえ?  お、おとこ……?」
「───声にも覇気がたらん!  しっかりお腹から声を出せ!」

(……あ!)

 そう言って伯爵の鍛えられたムッキムキの右手がダラスのお腹に……

「ぐっはぁっっ!」

 ダラスが苦しそうにその場に蹲った。

(す、すごい……これが物理的ボコボコなのね……)

 わたくしはそう、感激していたのだけど……

 ──うーん、今日の伯爵は加減しているな。
 ──お腹に一撃だけなんて随分と易しい。

 そんな声が聞こえて来たので、伯爵の本気はもっと凄いのだと思った。


────


 ダラスのことは伯爵に任せることにして、あとはお姉様。
 お姉様をボコボコにするため今、わたくしのすべきことは、ジュラールとのイチャイチャ!
 そう思ったわたくしはジュラールに声をかけようとした。
 だけど、その時───

「シンシア!」

 お姉様がわたくしの元へとやって来る。
 ダラスが倒れ込んだ時は呆然として固まっていたけれど、動けるようになったらしい。

「……お姉様」
「シンシア……」

 そしてお姉様はわたくしの前に立つと、目に涙をためて怖かったわ……と泣き出した。

「シンシアが……私の可愛い妹があんな暴力的なことをするなんて思わなかったわ───……」
「……」
「ねぇ、シンシア。どうしてあんな酷いことが出来るの?  ダラスはせっかくもう一度あなたとやり直したいと言ってくれていたのに」
「……」

 この言い方は明らかにわたくしを悪者にしようとしている。これまでは反論もしないで静かに受け入れていた。
 だけどもう、お姉様の思い通りになんかなりたくない!
 そう思ったわたくしは、反論を唱える。

「わたくしは嫌だと言いました!  それにダラスはお姉様を選んだんです!  わたくしにダラスとやり直す気はありません!」
「そんな……ダラスが可哀想……」

 グスンッとお姉様が涙を見せる。

「そうは言うけれど、私には分かるわ。シンシアだって、本当はずっとダラスのことを忘れ……」
「───シンシアのあれはどう見ても抵抗した結果だ!  変な風に言わないでもらおうか!」

 そこに、すかさずジュラールがわたくしを庇うように間に入りつつお姉様に反論した。

「まあ!  殿下までシンシアを庇うのですか!?  どうして?」
「どうしてだと?  シンシアは僕のお妃候補。庇うのは当然だろう?   部外者は黙っていろ!」
「部外者ですって?  嫌ですわ、殿下。私はシンシアの姉で──」
「部外者だ」
「っっっ!」

 ジュラールは絶対に譲らなかった。
 そしてお姉様がほんの一瞬だけど悔しそうに唇を噛んだ。


「──シンシア!  ねえ?  あなたからも言ってちょうだい!  私は妹思いの姉で部外者なんかじゃないって!」
「……」

 わたくしは首を横に振ってキッパリと言う。

「いいえ、お姉様は部外者よ」

「な……っ!  シンシア!!」

 お姉様の表情がどんどん怒りの表情に変わる。

「あなたね!?  いつからそんな生意気なことを言うようになったのよ!」
「っ!」

(──叩かれる!?)

 怒り心頭のお姉様がわたくしを叩こうと手を振り上げた時だった。

「───シンシア!」
「!」

 ジュラールに名前を呼ばれた瞬間、わたくしの身体が何か温かいものに包まれた。

(えっ?)

「……シンシア、大丈夫か?」
「っっ!」

 ドキンッとわたくしの胸が大きく跳ねる。
 いつもよりもぐんっと近く……耳元で聞こえるジュラールの声。

(ああ、この温もりは……)

 その瞬間、わたくしは自分がジュラールの腕の中にいるのだと理解した。

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