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第31話 認めたくない姉王女
◆◆◆
会場内が二人の空気にあてられてドロドロに甘くなっている。
ジュラールとシンシア姫は今日まで無意識に甘い空気を振り撒いていたのと、ジュラールがシンシア姫に惚れ込んでいるのはもう誰の目にも明らかだったので、パーティー参加者たちは遂に想いが成就する時か!?
そんなワクワク顔で見守っている。
(あの様子……きっとビビビッて来たんだろうなぁ)
ジュラールがシンシア姫とこれまで以上にイチャイチャしている。
確かにエリシア王女をボッコボコにするために、二人はイチャイチャを披露すると言ってはいたけど……
(あれ、見せつけるとか忘れて、素でイチャイチャしているだけなんじゃないかなぁ?)
「エミール様、エミール様! 二人、上手く行きそうですね!」
そんな気持ちで二人を見ていたら、僕の横で可愛いフィオナが目を輝かせながら言った。
「うん。ビビビッも感じているみたいだし」
「やっぱり! よかった!」
「……」
はしゃいで喜ぶフィオナが可愛くて僕の胸がキュンとする。
「フィオナ……」
───ピリッ
そっと彼女の腰に腕を回して抱き寄せる。軽い刺激が身体の中に走った。
そして僕もジュラールのようにフィオナの額にキスをする。
「エ、エミール様!? な、何を……!」
「なにって、僕たちもイチャイチャ……ジュラールには負けていられないかなって」
「イ! イチャイチャというのは、か、勝ち負けでは……」
(可愛いなぁ……)
真っ赤になってあたふたするフィオナは可愛い。
そして、未だにフィオナに触れる度にピリッと走るこの刺激。
もう、すっかりなくてはならない感覚となっている。
(よかったね、ジュラール)
「はは、分かっているよ、フィオナ。ところで肝心の姉王女はどうだろう?」
お互いしか見ていない二人の代わりにエリシア王女に視線を向けると……
「今のところ、目をかっ開いて茫然としていますね……ダメージは確実に受けています」
フィオナが苦笑しながらそう言った。
「それにしても、シンシア様の拳……素敵でした」
「伯爵の特訓の成果が出ていたよね。さすが……本物のムッキムキは次元が違う」
「私のお祖父様ですから!」
ちなみに、シンシア姫に無理やり迫っていた愚かな勘違い男は、伯爵によって会場の隅に引き摺られたあと、いつかの男のように泣きながら筋力トレーニングをさせられていた。
(やっぱり、羨ましい)
だけど、ジュラールとシンシア姫のイチャイチャが開始されると「な、何故だ……」と言って甘い空気にあてられて再び床に崩れた。そこをすかさず伯爵が叩き起す! さすがだ!
そんな甘い甘い空気製造者となった二人に視線を戻すと、なんとシンシア姫の方からジュラールの頬にキスをしていた。
(シンシア姫って大人しそうなのに結構、大胆なんだよね)
そういう所も、ジュラールのハートを撃ち抜いたんだろう。
(この調子で公開プロポーズまでいくかなぁ?)
そんなことを考えていたら、ずっと二人を見ていたフィオナが「あっ!」と小さな声を上げた。
うん? と思って僕も見てみると、ずっと茫然としていたエリシア王女が遂に叫び出していた───……
◇◇◇
(な、な、なんなのよ、これ……!)
私はもう、何が何だかわけが分からなかった。もう、パーティーはめちゃくちゃよ!
シンシアに迫ったダラスは、なぜかシンシアに殴られて吹き飛ぶという軟弱ぶりを発揮し、その後、シンシアをエスコートしていたムキムキが尋常じゃない強面男に殴られ脅され……端っこで泣いている。
(───使えない男!!)
そして、強面の男が怖すぎる!
あれは誰かが雇った暗殺者かなにかなの!?
あの厳つい顔にあのムキムキの身体……暗殺者にしか見えないあの男にエスコートされて微笑んでいられるシンシアを初めて怖いと思った。
(おかげで全然近付けなかった……)
そうして、ようやくシンシアに接触しダラスを殴ったことを遠回しに責めてみたら……
ジュラール殿下はシンシアの味方をして、私はまさかの部外者扱い。
許せないと思って思わず手を振りあげたら……
(一気に会場が甘くなるってどういうことなのよーーーー!)
縁談が上手くいっていないはずのシンシアとジュラール殿下が、まるで恋人のように振舞っている……
(嘘よね?)
だって、シンシアはダラスと国に戻って私がこの国に残って未来の王妃に……そのためにやって来た……のに。
(───ハッ! きっと、これはわざと……わざと演技しているのよ!)
そう思ったのに……
───今日は一段と甘いなぁ……
───いつも甘い二人だけど……とにかくすごいな。ジャリジャリする。
───婚約発表はまだかな?
……今日は? いつも甘い? 婚約発表?
聞き捨てならない言葉が私の耳に入ってくる。
そう、まるで二人が恋人同士のようなこの光景が当たり前かのような───
そのことに唖然としていたら、今度はシンシアの方からジュラール殿下の頬にキスを……
(こんなの嘘よーーーー!)
とうとう私は我慢が出来なくなって叫んだ。
◆◇◆
お姉様の叫び声でわたくしはハッとする。
(いけない! ……お姉様の存在……ちょっと忘れかけていたわ)
ただただ、目の前のジュラールのことが愛しくなってしまって……
びびびッに感動してそのことで頭がいっぱいになってしまっていた。
(イチャイチャ……そうよ! イチャイチャしている所をお姉様に見せつけないと!)
い、今からイチャイチャしているところを見せつけても遅くはないわよね?
そう思ったのだけど。
「───そんなイチャイチャを私に見せつけてどういうつもりなの! シンシア!」
(───ええ?)
イチャイチャを見せつけた? え? イチャイチャ作戦はこれからよね?
お姉様はいったい何を言っているの?
「お、お姉様……?」
「ふざけないでよ……! 私の目の前でイチャイチャイチャイチャ……」
やっぱりイチャイチャだと言っている。なぜ?
お姉様はとにかく怒っていて、その怒りのせいでいつもの余裕綽々の笑みが崩れてしまっていた。
「ふざけてなどいない───可愛いシンシアを前にした僕がこうなるのはもう普通のことだ。それになんの問題がある?」
「……は? 普通……のこと?」
……ビリッ
ジュラールのわたくしを抱きしめる力が強くなったので、またピリッとした刺激が身体の中に走った。
(この刺激、何だか癖になりそう……!)
そう思って、ふふっと微笑んだら、何かを勘違いしたお姉様がまた叫び出した。
「ちょっと! ……シンシアのくせに! そんな余裕ぶった笑みを浮かべるなんてっ! 生意気よ!」
「え? 余裕……?」
わたくしが首を傾げるとお姉様はこれまで見たことがないほど醜く笑った。
「ああ、ふふ……そうよね、シンシアは昔からその顔を活かして男を手玉に取るのが得意だったものねぇ……」
「その顔? 手玉……?」
「ジュラール殿下、騙されてはいけません! シンシアはその顔でいつも男を騙し……」
「エリシア王女、いい加減にしろ! ───そんな嘘が通ると本当に思っているのか?」
ジュラールに怒鳴られてお姉様がビクッと肩を震わせる。
嘘だと見破られたからか、悔しそうに唇を噛んだ。
いつだって話が上手くて周りを乗せるのが上手いお姉様だから悔しいのかもしれない。
「残念だが、いくらシンシアの悪い噂を必死に流そうとも“ここ”では一切通じない。諦めろ」
「な……」
「それに……自分が今、どんな目で見られているかをよく見てみるといい」
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「っっ!」
「どうやら、そこまでして、シンシアの縁談を潰したかったようだが……もう遅い」
「お、遅いですって?」
顔をしかめるお姉様。
対してジュラールはそっとわたくしから身体を離した。
(あ……)
これまで感じていた温もりが無くなってしまったことに寂しさを覚えてしまう。
だけど、ジュラールはそのままその場に跪いた。
「ジュラール……?」
「……シンシア」
───ピリッ!
そして、ジュラールはそっとわたくしの手を取った。
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