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第32話 プロポーズ
「ジュラール?」
急にどうしたのかしら、と思って早く立ち上がるように促そうと思った。
だけど、顔を上げたジュラールの真剣な瞳を見てわたくしは固まった。
「……シンシア」
「えっと、あ、あの……?」
戸惑うわたくしを見て、ジュラールは甘く優しい微笑みを浮かべる。
そして、そのままジュラールはそっと手の甲にキスを落とした。
(え、えぇぇえぇえ!?)
そのままジュラールは顔を上げる。その顔は微笑みが消え、真剣な面持ちだった。
「───シンシア・サスティン王女」
「え? は、はい!」
急にかしこまって名前を呼ぶなんて……本当にどうしたの? と思った時だった。
「好きだ───シンシア。僕は君のことが好きだ」
「──!?」
わたくしが驚きいっぱいに目を見開くと、ジュラールの真っ直ぐで真剣な瞳と目が合った。
(嘘や冗談……なんかじゃない。この目は……本気、だわ)
すると、ジュラールは次に柔らかく微笑んだ。
わたくしの胸がドキッと跳ねる。
「シンシア……君と初めて会ったのは子どもの頃だったね」
「え?」
「会ったのはその時の一度だけだったけれど、キラキラしていたシンシアのことは覚えている」
「ち、違うわ! ……キラキラしていたのはジュラールよ?」
「ははは、シンシアは僕を“王子さま”と呼んでくれたもんね」
(お、覚えていたの!?)
恥ずかしい……
何度思い返しても恥ずかしい。
「その時のキラキラした純粋な目や、はしゃいでいる姿がとっても可愛い……そう思ったんだ」
「か、可愛いって……」
(は、はしゃいでいたのはとっても素敵な“王子さま”を見つけたから……)
「そうして今回、僕との縁談の話が持ち上がり、プロウライトにやって来た君は、ますます美しく綺麗になっているのに中身も変わらず可愛くて可愛くて……とにかく可愛くて……」
「っっ!」
ジュラールの口にする“可愛い”の多さにわたくしの顔が赤くなる。
そんなわたくしを見てジュラールが笑う。
「そうしてすぐに赤くなって照れた顔も好きだ」
「ジュラー……」
「海で無邪気にはしゃいでいた時の楽しそうな笑顔も好きだ!」
「……ル」
「何事にも真っ直ぐで一生懸命なシンシア……君が好きだ……大好きで大好きで大好きなんだ」
ジュラールが畳み掛けるように“好きだ”と言うので、ますますわたくしの顔は赤くなる。
「でも…………君に恋をした僕は、本当にポンコツに成り下がっていて」
「え? ポ、ポンコツ……?」
「そうだよ。まともに告白の一つも出来ない情けない男……真面目で優秀……完璧王子……これまで作り上げたはずの顔がシンシアといると簡単に崩れてしまうんだ」
そう言ってジュラールが恥ずかしそうに笑う。
「でも、それが本当の僕。シンシアといると、僕は“本当の僕”でいられる」
「あ……」
───ピリッ!
わたくしの手を握るジュラールの手にギュッと力が入る。
「───シンシア。どうか僕の妃になって欲しい」
「ジュラ……」
「僕は君を望んでいる! これからの人生をシンシアと一緒に生きていきたい! だから、どうかこの先も僕の隣にいてくれないか?」
(ジュラールが……わたくしを妃に……?)
これは夢……夢なのかしら?
もちろん、ジュラールに妃に選んでもらえるように頑張ることには決めた。
だけど、わたくしはまだまだダメダメで……
「シンシア……心配はいらない」
「え?」
「確かに僕のこの手を取ると、将来はこの国の王妃に……そんな重圧を背負わせてしまうことにはなる」
「……」
「でも、シンシアは一人じゃない」
「一人……じゃない?」
わたくしが聞き返すとジュラールはチラッと視線を後ろに向けた。
その視線の先にいるのは……エミール殿下とフィオナ様。
「……!」
ジュラールの顔は“あの二人がいるって、最強だろう?”そう言っている。
そこは“僕がいる”ではないのね?
(でも、それがジュラールらしい!)
思わずクスッと笑ってしまった。
「シンシア……」
ジュラールは立ち上がるとそのままわたくしを抱きしめた。
───ピリリッ!
その時、これまでで一番大きな電流が身体に流れた。
わたくし達の身体がほぼ同時にビクッと跳ねた。
「ずっとずっと僕が探していた運命の人は君だ、シンシア───愛している」
「……んっ」
ジュラールが身元でそんなことを囁くものだから、頭がおかしくなりそう。
でも、わたくしだってちゃんと伝えなくちゃ。
「ジュラール……あの」
「うん」
「わたくし……はここには“初恋の王子さま”に会いに来たのです……」
「え? 初恋……?」
ジュラールが、きょとんとした表情になる。
どうやら分かってないみたい。
「王子様に向かって“王子さまみたい”なんて、バカなことを言ったわたくしに優しくしてくれた王子様にですよ?」
「ん? それって……?」
「わたくしの……初恋です、ジュラール」
「……」
間を置いたジュラールの顔が一瞬で真っ赤になる。
「え、ええぇえ!? 待っ、いや……え?」
「……初恋の王子さま……は真面目で格好よくて“完璧”でした」
その言葉にジュラールがハッとする。
「で、ですが……わたくしが今……好きなのは目の前にいる“あなた”です、ジュラール」
「……シン、シア?」
「この国に来て数日。ジュラールと共に過ごしながら、わ、わたくしは、は、初恋の人にまた新たに恋をしました」
ジュラールの目が大きく見開く。
「真面目で優秀で完璧じゃなくたって構いません。ポ、ポンコツ? どんと来いです! だってジュラールはジュラールですもの!」
「シンシア……」
「わたくしに足りないところはこれから一生懸命頑張ります……ですから───」
わたくしはギュッとジュラールの背中に自分の腕を回す。
「この先、あなたの隣にいるのはわたくしでありたい……です!」
「……!!」
ボンッとジュラールの顔がさらに赤くなった。
そんなジュラールは、強く強くわたくしを抱きしめ返す。
「──もちろんだ、シンシア以外は要らない! 僕の妃は君だけだ」
その言葉が嬉しくてわたくしはとびっきりの笑顔をジュラールに向けた。
すると、ジュラールも嬉しそうに笑い返してくれた。
「……シンシア! また一緒に海に行こう? 今度は手を繋いで!」
「はい!」
「それから、街にも行こう! 僕が案内するよ。この国には美味しいものが沢山あるんだ。シンシアにもぜひ味わって欲しい!」
「はい!!」
───嬉しい!
ジュラールとこの先を“約束”出来ることが、たまらなく嬉しい。
これから先もずっと一緒にいられる───
そのことを想像して微笑み合っていたら……
「───う、嘘だぁぁ! シンシア、何でだ、俺っは………………ゴフォッ」
「軟弱小僧! 見て分からんのか! 今は超絶いいところなんだぞ! 邪魔をするなっ!!」
突然、叫び声を上げたダラスをすかさず伯爵がムキムキの腕で殴ってその場に沈める。
(……い、痛そう……)
すごい瞬間を目撃してしまったわ……ダラス、生きてる?
そう思った時、ようやくわたくしはお姉様の存在を思い出した。
(いけない! また、忘れてしまっていたわ!)
ジュラールとの二人の世界に入ると、どうも存在を忘れがちになってしまう。
───お姉様の目的がなんであれ、わたくしはジュラールとこの国で生きていくんだから!
絶対に負けない!
そう思ってお姉様に視線を向けた。
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