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第33話 姉王女はボッコボコ
◆◆◆
(もう遅いですって!?)
シンシアとジュラール殿下の縁談話は潰して、私が代わりになる。
そう決めて乗り込んで来たはずなのに、なぜか何もかもが思い通りにいかない。
そうして最高潮に苛立ちが募った時、ジュラール殿下が私にそう言った。
何が遅いというのよ?
皆、シンシアに騙されている!
そう訴えたかったのに……
───シンシア。どうか僕の妃になって欲しい
(…………は?)
───僕は君を望んでいる! これからの人生をシンシアと一緒に生きていきたい! だから、どうかこの先も僕の隣にいてくれないか?
(え? ちょっと? 何を……え?)
私の未来の夫になるはずのジュラール殿下が、私ではなく……シンシアに……あの顔だけしか取り柄のないシンシアにプロポーズを始めた。
(な、なんで!? 嘘でしょうーーーー!?)
そう叫びたくなった瞬間、周囲の声が聞こえて来た。
「ああ、やっとだ……」
「早く早く……とずっと思っていたからなぁ」
「しかし、さすが双子だな。兄弟王子揃って公開プロポーズとは!」
「ジュラール殿下は、このまま安心して見ていられるが、エミール殿下は色んな意味でハラハラしたからなぁ」
(……なっ!)
弟王子まで公開プロポーズしていた!?
政略結婚じゃなかったの!?
周囲は公開プロポーズなんてものを始めた王子にあたたかい視線を送っている。
(ふ、ふざけないでよ……!)
「そうか──我々の前で求婚することで、ジュラール殿下は未来の王妃様への愛を証明してくれているのか」
その言葉にハッとした。
…………だから、“もう遅い”なんだわっ!
ジュラール殿下はこの場でシンシアに愛を告げて求婚することで、政略結婚ではないアピールに成功している。
そして、大勢の前で「妃は君だけだ」と、口にすることで他の女性が入り込む隙を完全に封印した……!
(しかも、この二人……完全に二人の世界に入って私の存在を無視しているじゃない!)
どうしてシンシアなの?
シンシアなんて顔だけの女じゃない!
王妃になるなら、私の方が絶対に相応しいはずなのに!
目の前で互いに愛を告げ合って幸せそうな二人が憎い。
(こんなの私は認めない! 今すぐ仲を引き裂いてやる!!)
そもそも、今日のこのパーティーは“私”の歓迎パーティーだったはずなのよ!
それが完全に肝心の私は置いてけぼりで、まるでジュラール殿下とシンシアのためのパーティーになっている気がする。
(腹が立つ! シンシアのくせに! ──そんなの絶対に許せない!)
そう思って今度こそ怒鳴り散らそうと思った時だった。
「───う、嘘だぁぁ! シンシア、何でだ、俺っは………………」
使えない男、ダラスがシンシアに向かって何やら叫び出していた。
(あの強面男に引き摺られて会場の隅で泣きながら何をしてるのかと思っていたけど……)
嘘を言って仕組んだのも頼んだのも私だったけど、ダラスは私が思っていた以上に本気で受け止めてシンシアに気持ちが動いていたらしい。
使えないだけでなく、こんなにも見苦しい男だったのね……なんて思った時だった。
「………………ゴフォッ」
(ゴフォッ……?)
叫んでいたダラスが変な声を上げた。
さすがに何事かと思って私は慌てて振り返った。
「軟弱小僧! 見て分からんのか! 今は超絶いいところなんだぞ! 邪魔をするなっ!!」
(……ひぃっ!?)
その光景を目撃した私の顔が引き攣った。
ダラスはあの強面男のムキムキした腕によって殴られてその場に沈んでいた。
身体がピクピク動いてはいるから、生きてはいるみたいだけど、そういう問題ではなかった。
(や、やっぱり、あの強面男は暗殺者なのだわ!!)
シンシアの裏には、とんでもなく危険な人間がついている……!
そして、何より驚きなのが……
(どうして誰もあの男のことを怖がっていないのよ!?)
あんなにも凶悪そうな男の凶行に対して誰一人脅えている様子を見せないし、問題視すらしない。
それは、ジュラール殿下とイチャイチャしていたシンシアも同じ。
そのことに呆然としていると、ダラスを一撃で沈めた強面男と目が合った。
その目が“お前も邪魔をする気か?”そう言っている気がした。
(ひぃぃっ……こ、怖い……!)
あ、あんなムキムキした腕に殴られたら……え? 私、私はどうなるの!?
恐怖でガクガクと身体が震えだす。
今すぐこの場から逃げ出したいけれど、足も竦んで動けない!
(い……いやぁぁぁぁぁぁーーーー! 助けてぇぇぇーー!)
◇◇◇
「ジュラール……お、お姉様が」
「ん?」
ジュラールと気持ちを伝え合って幸せいっぱいだったわたくしが、ようやく存在を思い出したお姉様に顔を向けると、なぜかお姉様はその場で真っ青な顔で震えて脅えていた。
「なんだあれ? 僕はてっきり、エリシア王女は諦めが悪そうだからこの辺でもう一回くらい逆上して突っかかって来ると思っていたんだけど?」
「……わ、わたくしもです」
負けないわ! と気合いを入れたのに思いっきり肩透かしを食らった気分。
そんなお姉様の視線は、殴られて沈んでいるダラスと伯爵の方に向けられていて───
「あ! もしかして!」
「シンシア? どうしたの?」
ジュラールの顔がわたくしの顔を覗き込むようにして近付いてくる。
そのあまりの近さにドキドキした。
(きょ、距離感が……前と違う……かも!)
わたくしはこっそり深呼吸して息を整えてから、内緒話をするようにジュラールの耳元でこそっと言った。
「コホッ……伯爵……アクィナス伯爵を見て脅えているのかもしれません」
「え?」
「いえ、先ほど何やら口を挟もうとしたダラスが伯爵に制裁を加えられていたので……」
「あ、ああ! そういうことか!」
「はい」
わたくしたちは顔を見合せてクスリと笑う。
「……よし、うん。それなら───今のうちかな?」
「え? 今のうち?」
「そうだ。シンシア……少しだけ抜け出そう? 二人っきりになりたい!」
え? と思う間もなく、にんまりと笑ったジュラールがわたくしを横抱きにする。
(え? ええ?)
わたくしが驚いているとジュラールは、わたくしを抱いたまま、後ろも振り向かずにこう言った。
「────エミール! 僕は少しだけシンシアと二人っきりになるから、後はよろしく!」
「え!?」
当然のようにエミール殿下の驚いた声が聞こえた。
「……いつかの仕返しだ! すぐに戻る」
「え、ちょっと! ジュラー……」
「───そこでプルプル脅えている客人は妃と丁重にもてなすように!」
ジュラールはテキパキとそう指示を出すと、最後に優しくわたくしに微笑みかけた。
「そういうわけで……行くよ、シンシア。───落ちないように僕の首に腕を回して掴まっていて?」
「……は、はい!」
いつかの仕返し? お姉様を丁重におもてなすって何をするの?
いったい何がなんだか分からなかったけれど、言われた通りジュラールの首に腕を回す。
ぐんっとわたくしたちの距離が近付いた気がしてドキドキした。
(また、わたくしの顔……赤い……かも)
そう思ってジュラールの顔をチラッと盗み見ると、ジュラールの顔も赤くなっている。
わたくしと同じ気持ちなんだと思うと、嬉しさが胸に込み上げて来た。
「……くっ! シンシアが可愛い! ドキドキするっ!」
「ジュラール……」
そんな言葉の一つ一つにも愛を感じて嬉しくて思わず頬が緩む。
「……うっ! 更に可愛い……」
「え?」
照れた様子のジュラールはそのままわたくしを抱えて会場から出て行く。
ちょうど出て行く瞬間に見えたのは、身体を震わせながら呆然としている様子のお姉様の元にエミール殿下とフィオナ妃が近付いていく所だった。
「───大丈夫。エミールとフィオナ妃が上手くやってくれるさ」
「!」
そう言って笑ったジュラールの顔はちょっと黒かった。
でも、それもまた格好良くてわたくしの胸はキュンッとした。
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