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第34話 二人っきりで
◆◆◆
───どうやら兄は僕が思っていたより根に持つ性格らしい。
「エ、エミール様! ジュラール殿下が……」
「うん……」
愛しい人を腕に抱えたジュラールがこの状態で一旦抜けるから、僕に後始末するようにと言ってきた。
「これ、文句は言えないよね。既視感と言うか……身に覚えがありすぎる」
「うっ……それは! そう、ですけども……」
フィオナもかつての僕たちの行動を思い出して顔を赤くする。可愛いなぁ……
そう。かつての僕も、プロポーズに成功したあと、二人きりになりたくて自室にフィオナを連れ込んだ。
だから、ジュラールの今の気持ちはとっても分かるんだ。
(でも、すぐ戻る……と先に宣言している所はジュラールらしいけどね)
そんな前例があったせいなのか、会場の人たちも驚くことなく普通に受け止めてジュラールとシンシア姫のことを見守っていた。
「フィオナ。これで姉王女たちは国への強制送還も決まったわけだし、どうせこの先、僕らとは二度と会うことはないわけだからさ……」
「…………分かりました! つまり、私たちの手であともう一脅ししておく、ということですね?」
フィオナが拳を見せながら、とびっきりの笑顔でそう口にした。
……キュンッ
僕の胸が高鳴った。
他の人……ジュラール辺りなら、「もう一脅しってなんだよ!?」と突っ込みを入れそうな言葉だけど、僕はそんな発言をするフィオナがやっぱり愛しくてたまらない。
「うん。一脅しでも、二脅しでも。フィオナの好きなように」
「……エミール様! 大好き!」
「!」
フィオナは僕の大好きな笑顔で抱きついてくれた。
青ざめてブルブルと震えているエリシア王女の元に僕らは向かう。
チラッと横目で出入り口を見るとちょうどジュラールが出て行く所だった。
(……いいなぁ、イチャイチャ)
そんな気持ちで二人を見つめていたら……
「───エミール様! 諸々が片付いたら、私たちもイチャイチャしましょうねっ!」
「っ!」
まるで僕の心の中を読んだかのようなフィオナの発言に僕は一瞬で顔が真っ赤になった。
上手く言葉が出てくれなくて、無言でコクコク頷いたら、フィオナはまたしても可愛い笑顔を見せてくれた。
「───エリシア王女殿下、こんにちは!」
「……?」
フィオナは物怖じすることなく王女に向かって行く。
一方の王女は状況が掴めず困惑した顔で僕らを見上げる。
「───先ほどから、とても熱い視線で私の“お祖父様”を見つめていますけど、どうかされましたか?」
「ひっ!? お、おじい……さま? フィ、フィオナ妃……の」
「はい、そうですよ! 私の自慢のムッキムキのお祖父様です!」
怯えた声で聞き返すエリシア王女。
なるほど、王女は伯爵が何者か分かっていなかったんだなと僕は悟る。
「少しだけ私たちのお話し相手になってくれませんか? エリシア王女殿下」
「……お、はなし相手……? …………ひぃぃっ!?」
僕の愛しい愛しいフィオナは、惚れ惚れするくらいの美しい笑顔でエリシア王女に拳を見せながら迫って行った。
◇◇◇
わたくしを抱えたまま会場の外に出たジュラールに訊ねる。
「……ジュラール、どこに行くの?」
「うん──僕の部屋、と言いたいところだけど、すぐに戻ると言ってしまったからね」
「?」
ジュラールの部屋だと何がいけないのかしら?
遠いとか?
「とりあえず、シンシアと二人っきりになりたかっただけだから」
「ジュラール……」
わたくしはジュラールの首に回している腕に力を込めてギュッと抱きつく。
「っっ! し、しんしあ! い、今は待って!」
「……は、はい……?」
「そ、そ、そういうことは、このあと部屋で二人っきりになったら…………お願いします」
「……! は、はい……」
わたくしはポッと頬を染めながら頷いた。
別の話、別の話───と考えて、ふと思ったことを口にしてみる。
「わたくし、お姉様……をボッコボコに出来たでしょうか」
「かなり、精神的ダメージを受けていたと思うよ。色々、崩れていたし」
その言葉にわたくしはホッとする。
「でもね?」
「でも?」
「僕はエリシア王女のことはやっぱり許せないから、これで終わりにはしない」
「え? どういう意味ですか?」
お姉様とダラスはこのあと、強制送還。
わたくしも一度は帰国しないといけないけれど、このままジュラールと婚約を結んで……となるのでは?
「エリシア王女はこの国に来たばかりで、皆も誰あれ状態だろう?」
「え? ええ……」
「そんな我が国の皆の前で本性を晒しても、さほどダメージは大きくはない」
「……」
「あの王女の本性を本当に分からせなくちゃいけないのは、サスティン王国の人たち、だからさ」
(それって、つまり……?)
「───エリシア王女にとって本当に屈辱的にボッコボコにされる舞台となるのは、ここじゃない。サスティン王国でするべきなんだよ」
「……!」
「詳しい話はまた後で───……うん、この部屋でいいかな」
ジュラールがそう口にした時、ちょうど空いてる部屋に到着したようで、わたくしたちは中に入った。
部屋の中に入ったジュラールは、そっとわたくしをベッドに下ろす。
(ふ、二人っきり……!)
ジュラールと密室に二人っきりだなんて初めてのことでドキドキする。
それになんだか、すごくいけないことをしているみたい。
でも……
(嬉しい、幸せ……)
そんな気持ちがたくさん溢れてくる。
「───~~っっ! ま、また、そんな可愛い顔をして!」
「え?」
……ピリッ
その瞬間、わたくしはジュラールに抱きしめられた。
「ふふっ……ピリッてしました」
「僕も」
わたくし達は互いに目を合わせて笑い合う。
「……改めて、不思議ですね」
「ああ。でも、ちょっと思うんだ」
「何をですか?」
そう聞き返すと、ジュラールはクスリと笑った。
その笑顔に胸がドキンッと跳ねる。
「エミールたちの場合は知らないけど、この“ピリッ”は僕がシンシアのことが好きだから起きるのかなって」
「……え?」
「好きで好きで好きで好きで……大好きなんだ」
「っっ!」
そう口にしたジュラールがそっとわたくしの髪を手に取ってキスを落とす。
胸が張り裂けそうなほどドキドキした。
「……この、ふわふわの髪は子どもの頃から気になっていた」
「そ、そうなんですか?」
「シンシアの可愛い雰囲気にすごく合っていて…………」
そこで、なぜかジュラールは言葉を切ってわたくしの顔を見つめる。
「シンシア……」
「……ジュラール」
「す、好きだ!」
「……わたくしもです……好き」
そのままお互いの顔が近付いてそっと、わたくし達の唇が重なった。
(何これ───頭の中が蕩けてしまいそう)
生まれて初めてする、唇でのキスはとにかく甘くて甘くて幸せで……
チュッ!
けれど、幸せはそんな音を立ててすぐに離れてしまった。
「んっ……ジュラー……ル」
「シン、シア……」
もっともっとして欲しい。もっとたくさん触れて?
そんな目でジュラールを見つめた。
「~~~っ!」
ジュラールがハッと息を呑む。
「────シンシア」
「は、い……」
「……シンシアが煽ったんだ。もうやめて止めて……は聞けないよ?」
「い、言いません……! だから………………んっ」
その続きはジュラールの唇に塞がれて言えなかった。
「……シンシア、愛してるよ」
(───……わたくしもです───)
そのまま、ジュラールからの甘い甘いキスとたくさんの愛の言葉は、時間の許す限り続いた。
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