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第39話 破滅に向かう姉王女
ジュラールに王宮案内をした後は、お父様のところに行って正式に婚約の話や手続きをすることになっている。
しばらく王宮内をフラフラしていたら、ようやくお父様に呼ばれたので、そのままわたくしたちは手を繋ぎながら廊下を歩いてお父様の元へと向かうことにした。
もちろん伯爵も一緒。
「……まさか、ダラスがきっぱりお姉様からの復縁希望を断るとは思ってなかったです」
「汗を流したからと言っていたな! やはり筋肉は裏切らん!」
伯爵が嬉しそうだった。
「まぁ、残念ながらまだまだ軟弱のままではあるがな!」
「……そこは変わらないのですね」
「ああ! 及第点には達していない」
(なるほど……軟弱から抜け出すにはなかなか厳しいものがあるのね……!)
でも、実はわたくしは、てっきりお姉様とダラスはあのまま、なあなあで元の関係に戻ると思っていた。
だから、ダラスがあんなはっきり拒否したことは本当に意外だった。
「どんな心境の変化があったのかしら……?」
そんな何気ない話題のつもりだったけれど、ジュラールの顔がだんだん険しくなっていく。
「ジュラール?」
「いや、馬鹿な男だなと思ってさ。今頃、自分の最初の選択をひどく後悔している頃なんじゃないか?」
「最初の選択?」
わたくしが聞き返すと、ジュラールはちょっと拗ねたような……面白くなさそうな顔で言った。
「もちろん、シンシアを振ってエリシア王女を選んだことだよ」
「ジュラール……」
「───でも、シンシアはもう僕のシンシアだ!」
「!」
ギュッと握られた手がもう離さないと強く言ってくれているようで嬉しかった。
「ところで、エリシア王女がすごい顔をしていたけど、隣国の元王太子はそんなに嫌な人なの? 実は全然、面識がなくて知らないんだけど」
「……とにかく女性にだらしないという話でした。未婚ですが、すでに子どもも何人もいるそうですし。嫁いでも……幸せにはなれないと思います」
少なくともわたくしは絶対に嫌だ。
「むっ! とんでもない奴だな。漢とは認められんし……許せん!」
伯爵も許せないらしい。
「……」
なぜかそこでジュラールは黙り込んで何かを考えていた。
「どうしました?」
「いや? ただ、国内に目ぼしい男性がいないからと言ってもそんな相手を縁談相手として話題に出したということは……国王陛下は理解してくれたのかなと思ってね」
「お父様が理解した?」
「エリシア王女がずっと隠していた本性だよ。エリシア王女のことを“妹思いの優しい姉”だと今も思っているなら昔みたいにそんな男との縁談はっきり断るだろう?」
ジュラールの言葉になるほど、と思った。
────
「……ジュラール殿は、本当にシンシアを妃に望まれている、と」
「はい」
お父様からの問いかけにジュラールが迷うことなく頷いてくれた。
その返事を聞いたお父様はふぅ、と大きく息を吐いた。
「…………まさか、シンシアが選ばれるとは」
「僕はシンシアほど魅力的な女性を他に知りません」
「なっ! こんな力のない小国の姫だ。国内にもっと素晴らしい令嬢がいたのでは?」
「いません」
ジュラールは間髪入れずにそう答えた。
ずっと不思議だったジュラールの妃を国外から募集していた理由は、帰国する時に教えてくれた。
(まさか、フィオナ様の元婚約者の男性が、お年頃の令嬢たちに軒並手を出していたなんて……)
それは、確かに国内から妃を選ぶことは難しいわ。
───不思議ね。
ジュラールもわたくしも国内での縁談が望めなくなってしまったから、こうして出会うことが出来たわ。
ほんの少し何かが違えば“今”は無かった……
「───シンシア」
「はい」
「お前も本当にいいのか? この縁談を受ければプロウライト国の王子妃……ゆくゆくは未来の王妃。その覚悟はあるのか?」
お父様に問われてわたくしはチラッとジュラールの顔を横目で見る。
ジュラールの隣にいるのはいつだってわたくしでいたいから───……
「もちろんです!」
わたくしがしっかりお父様の目を見つめてそう答えたら、お父様は少し驚いた顔をしていた。
「エリシアのことを追求している時も思ったが、シンシアは変わったな」
「え?」
「国を出発する前と今では顔つきが違う」
顔つき、が?
そう言われて自分でペタペタと顔を触ってみるけれど、違いなんて分からなかった。
向こうの国に行って変わったことと言えば───
「分かりました、お父様! わたくし伝説の人に弟子入りして鍛えてもらっているのです! きっとそのおかげです!」
「伝説……?」
「はい! 今もあちらで控えてくれているプロウライト国のアクィナス伯爵です」
わたくしの紹介で伯爵が顔を上げて挨拶をする。
「レイノルド・アクィナスと申します」
「ごくっ!? …………コホッ、ム……ムキムキ……! なんて筋肉だ」
「日々、鍛えておりますから。王女殿下の安全は私にお任せ下さい!」
伯爵はクワッと厳つい顔でお父様に誓ってくれた。
お父様は盛大にむせて「ごくっ……」と何か言いかけていたけれど、伯爵のムッキムキの筋肉がすごいせいなのか、しばらく見惚れていた。
(やっぱり男の人って筋肉に憧れるものなのかしら?)
でも、ジュラールはそんな感じしないわね?
エミール殿下とジュラールの筋肉への熱量の差はどう見ても大きい。
(わたくしとしては、伯爵夫人が気になるわ)
その後も婚約に関する話はとんとん進み、お父様が「婚約期間はまだ、サスティン王国にいてもいいのでは……?」と口にしたところ、ジュラールが「絶対に嫌です!」と、猛反対してくれてお父様が根負けするなんてこともあり───
───そんな中、話題は変わりお姉様のことに……
「それで、だな。シンシア、ジュラール殿。エリシアのことなのだが……」
◆◆◆
「は? 公開聴取ですって?」
休憩を挟んだ後、お父様に呼び出された私、エリシアはそこで告げられた言葉に驚きを隠せなかった。
「エリシアが帰国したと聞いて……どうしてもエリシアに直接、聞きたいことがある……という人たちが多くてね」
「私にき、聞きたいこと……?」
ヒクッとわたくしの頬が引き攣る。
どうしてかしら、嫌な予感しかしない……
「それで、そんなに人数が多いのならいっそのこと公開する形で行うのが良いのでは? という話になったんだ」
「…………誰?」
「ん?」
「その提案をしたのは誰ですか? お父様」
だって、有り得ない!
(───こんなすっとぼけたお父様はそんなことに頭が回る人ではないわ! これは誰か……誰か余計な知恵をお父様に吹き込んだ人がいるっ!)
「提案? ああ、ジュラール殿下だ」
「───なっ!!」
幸せそうな笑みを浮かべてシンシアとキスしていたあの姿が私の頭の中に浮かぶ。
悔しくて思わずギリッと唇を噛んだ。
(ムカつくっ! 本当に腹立つ! シンシアのくせに生意気よ!)
「それから我々だけでなく、ジュラール殿下もエリシアに聞きたいことがあるそうだ」
「殿下……が? ま、まあ! な、何かしら……」
「……」
(はぁぁ!? 本っ当になんなのよ!?)
どうにか取り繕って微笑むも自分の顔が引き攣っている気がする……
そして、やっぱりお父様も変。
以前なら絶対にこんなこと許可しなかったわ。
とにかく、公開の場で何を聞かれるか知らないけど、これまで通り“妹思いの優しい姉”を演じていれば間違いないはずよ……!
(そうすれば、皆が隣国の元王太子との縁談は反対してくれるはず……!)
エリシア王女が可哀想~ってね。
───数日後、そうなると信じて私は公開聴取の場に立った。
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