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第41話 もっとボコボコにしたい!
◇◇◇
「……ジュラール」
「うん?」
エリシア王女の公開聴取が始まり、国王からの質問がエリシア王女に向けられる中、静かに真っ直ぐ耳を傾けていたシンシアが小さな声で僕を呼んだ。
「……こうして客観的にお姉様のことを見ていると、よく分かります」
「分かる?」
「ええ。わたくしがお姉様から好かれていないことは、昔から感じてはいましたけど……こんなにも憎まれていたのですね」
「シンシア……」
エリシア王女はだいぶ追い詰められているのだろう。
これまで被っていた“妹思いの優しい姉”の顔がどんどん崩れている。
今の時点で本人がどこまで自覚しているかは不明だが、父親である国王を睨みつけたり、時々悔しそうに唇を噛んだりと、完全に“素”が出ている。
これまでの作られた“エリシア王女”の姿を信じてきたは人ほどショックが大きそうだ。
その筆頭が国王陛下に王太子といった所だろうか。
「わたくしはお姉様にとって人気取りのための道具で、お姉様はずっと、わたくしのことはあんな目で見ていたのですね?」
(……シンシア)
シンシアのその言葉を聞いて僕は子どもの頃のエリシア王女の姿を思い出した。
「わたくし、お姉さまから言われる“可愛い”という言葉がずっと嫌いでした」
「え?」
そう言われて思った。
シンシアがこんなにも容姿に無頓着で、自分が可愛いという自覚がないのはきっとエリシア王女のせいなんだろう。
そうやってエリシア王女はシンシアをジワジワと精神的に追い詰めていったのか。
(本当に許せない)
「……シンシアは僕に可愛いと言われるのは嫌?」
「え?」
シンシアがびっくりした顔で僕の顔を見る。
「僕にとってシンシアは可愛いくて可愛くて可愛いから、つい口に出してしまうのだけど」
もしも、嫌なら今後は口にするのは自重しないといけないな、と思った。
可愛いと心の中で思うことは一生止められる自信はないけれど。
だけど、シンシアはフルフルと首を横にふった。
「そんなこと……ない、です」
「本当に? 無理していない?」
「していません! だって、その、ジュラールに…………」
(ん? 何だかシンシアの顔がどんどん真っ赤になっていくぞ?)
「シンシア?」
「……ジュ、ジュラールに“可愛い”と言われるのは嬉しい……のです」
「え?」
「嬉しくて幸せで、胸の奥がポカポカして……だから、もっと言って欲しい……なんて思った……り」
シンシアは真っ赤になりながらそう口にすると、恥ずかしかったのか両手で顔を覆ってしまう。
「────っ!」
(うっわ! 何だこれ、可愛い……もう可愛い、可愛い、可愛い! めちゃくちゃ可愛い!!)
ああ、早く二人きりになりたい! こんな可愛いシンシアは他の人に見せたくないぞ!
今の可愛いシンシア……見た人がいるだろうか?
そう思って辺りを見回すと、やはり数人、頬を赤く染めてシンシアに見惚れている男共がいた。
(ん? ───あの辺にいるのは確か……シンシアと縁談の話が持ち上がったにも関わらず、他の女性を婚約者に選んだ男たち───)
つまり、シンシアが“当て馬”と呼ばれる原因になった奴らじゃないか?
何を今更、頬を染めてるんだ……と思う。
お前たちが選ばなかったこんなにも可愛い可愛いシンシアは、僕の運命のビビビッの相手で僕と結婚するんだ!
そう言って回りたい気持ちなる。
(知らなかった……僕はこんなにも嫉妬深い男だったのか…………)
そんなことを思っていたら、鋭い視線を感じた。
憎悪の塊のような目で僕を睨んでくるエリシア王女。
どんどん不利な立場に追い詰められているから、こんな公開聴取の場を提案した僕に怒りでも覚えているのだろう。
僕はエリシア王女にフッと笑い返す。
(そんなに睨んでも無駄だよ)
この用意された舞台に乗っかった時点でもうエリシア王女、君に勝ち目はない。
「……シンシア」
「ジュラール?」
僕はそっとシンシアの手を取って優しく握る。
運命の相手───ピリッとくる刺激にもすっかり慣れた。
「エリシア王女に言いたいことがあるから、ちょっと向こうに行ってくるよ」
「え?」
(───シンシアを“当て馬姫”にした報いは受けてもらわないと)
エリシア王女だけじゃない。
こんなにも、健気で真っ直ぐないい子をそんな呼び方をして雑に扱ったことを、この国の人たちに分からせなくてはならない。
「……わ、わたくしも一緒に行ってもいいですか?」
「え? シンシアも? でも……エリシア王女が」
「わたくしは大丈夫です! お姉様が何を言ったとしても傷ついたりしません!」
シンシアは僕の目をじっと見つめてそう口にする。
(シンシア……)
シンシアのこういう所が好きだなぁと思う。
普段はフワフワしていて可愛いのに、いざという時の意志は強い。
「───分かった、一緒に行こう!」
僕がもう一度、手を握り直したらシンシアも力強く握り返してくれた。
「むっ? 二人であの陰険な王女に殴り込みか?」
「はい! お姉様をもっとボッコボコにしようと思います!」
伯爵にそう問われたシンシアが、めちゃくちゃ可愛い笑顔で物騒なことを口にした。
「おお、それはいい! あの王女は思っていたより図太い神経をしているようだからな! もっと、思い知らせてやるべきだ!」
伯爵は、とびっきりの厳つい顔で笑った。
◆◆◆
わたくし達が移動してお姉様の近くに向かう間も、お父様からの尋問は続いていた。
何か話題が出る度、お姉様の顔色は悪くなっていく。
「──エリシア王女」
「……お姉様」
ジュラールと共にお姉様の近くで声をかけた。
わたくしたちの姿を認めたお姉様はすごく怖い顔で睨みつけてくる。
「……ふっ、ちょうど良かったわ、シンシア」
「?」
だけどお姉様はすぐに気持ち悪いくらいの明るい笑顔になった。
これは絶対何かを企んでいる……
「ねぇ、シンシアからも皆に言ってくれる? どうやら私、すごい誤解されているみたいなの……」
「……」
「だって、シンシアは───」
お姉様はわたくしに向かって手を伸ばして抱きしめようとしてきた。
その手を払い除けてわたくしはお姉様にきっぱりとそう告げる。
「もうやめて! お姉様の口から“可愛い妹”だなんて言葉はもう聞きたくない!」
「なっ……!」
お姉様の顔が再び醜く歪んで何かを言いかけた時、ジュラールが間に入る。
「───エリシア王女。なぜ、シンシアの悪い噂を広めた?」
「わ、悪い噂? なんのことです?」
「では、聞き方を変えよう。君はこれまで何度シンシアの縁談の話を潰した?」
ピクッ
その言葉にはお姉様は一瞬、眉をひそめた。
また、ジュラールのその言葉に傍聴している人たちがザワッとして顔を見合わせる。
でも、ここで素直に認めるお姉様ではない。
「なんの話かしら?」
「とぼけるのか……少し、調べさせてもらったよ」
「調べる?」
「ああ、シンシアの縁談相手候補が次々と別の人と婚約していった件だ。あまりにも不自然だったのでね」
ジュラールの言葉にお姉様はプッと吹き出すとクスクスと笑った。
「何の話か知らないけど、皆が幸せならいいことでしょう? 私が責められることではないと思うわ」
「それなら、なぜシンシアに“当て馬姫”だなんて呼び方を流したんだ!」
お姉様は、そんなの知らないわと言いながら顔を背けた。
自分が始まりだったことは絶対に認めたくないらしい。
「別にいいじゃない? それに結果としてシンシアが当て馬になったのは本当のことだもの」
「いいわけないだろう! そうなるようにとわざわざ仕向けたのが、エリシア王女、君だ」
「まぁ、なんて酷いことを言うのかしら!」
ジュラールとお姉様の言い合いがヒートアップしていく。
このままではお姉様は認めそうにないわね、と思ったその時だった。
───ドゴゥォォォオオォォォン
(───!?)
前にも似たような音を聞いた。
しかし、その時よりも、もっともっと迫力のあるすごい音がわたくしの近くで響いた。
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