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第47話 意外と過激派でした
「シンシア……! い、色々と、す、すまなかった……」
「ダラス……」
今、わたくしの目の前で、ダラスが額を床に擦り付けそうなほどの勢いで頭を下げている。
(突然現れていきなり頭を下げられても……わたくしにどうしろと?)
そんな思いでわたくしの横にいるジュラールに視線を向けると、何だかとてもいい笑顔で微笑まれた。
(……ええっと? 面白いからそのまま放っておけ?)
ジュラールのそんな心の声が聞こえた気がした。
訪問者はジュラールかもとドキドキして期待していたところ、応対した侍女はわたくしにこう言った。
───ジュラール殿下とディフェルト公爵令息がお越しです、と。
どういう組み合わせ!?
そう思って慌てて部屋の入口に向かってみれば……
「シンシア!」といつもの優しくて甘い笑顔を向けてくれるジュラールと、その横でお腹を押さえて苦しそうにしているダラスがいた。
「……ジュラール」
「うん?」
「これは、どういう状況なのですか?」
突然現れたダラスは、わたくしの姿を認めるなり、突然の謝罪を始めた。
わたくしとしては……
なぜ、二人揃って部屋に訪ねてきたの? とか、なぜ、ダラスはお腹を痛そうに押さえていたの? などなど、気になることがたくさんありすぎた。
すると、ジュラールが説明してくれる。
「……シンシアと別れて部屋に戻ろうとしたのだけど」
「はい」
「なんて言うのかな……悪い予感? 虫の知らせ? とにかく、今すぐ自分の部屋ではなく、シンシアの元に行くんだ! そんな衝動にかられたんだ」
「え……」
まるで何かのお告げのようだわ、と思った。
「それで、慌ててシンシアの部屋の前まで来てみれば……」
「みれば?」
そこで一旦言葉を切ったジュラールがチラリとダラスに視線を向けて見下ろす。
ちなみにダラスは“顔を上げていい”とわたくしが口にしていないため、まだ、床に頭を下げたまま。
「そこの男がシンシアの部屋の前でチョロチョロしていてね……」
「なっ……」
わたくしもダラスに視線を向ける。
頭を下げたままのダラスの身体はビクッと震えた。
「この期に及んで、まだシンシアを諦めていなかったのかと思ったら、ついつい手が自然と動いていたよ……」
ジュラールはそう言って自分の拳をわたくしに見せた。
(なるほど! ダラスがお腹を押さえていたのはそういう……)
伯爵が見たらさぞかし喜んだでしょうね……と思った。
「それで、まぁ……倒れこんだ所を起き上がらせて、何をしているんだと問い詰めたら」
「わたくしに謝罪に来た……と?」
「まぁ、その男の言い分はそういうことらしいけど──」
ジュラールが面白くなさそうな顔をする。
「僕という婚約者がいる女性……しかも王女の元を、下心もなく普通は訪れたりしないよなぁ、と思ってね」
本当に油断も隙もない……とジュラールはダラスを睨みつける。
ジュラールも思っていたよりも過激派だったわ、という事実に驚きながら、わたくしはふぅ、とため息を吐いてダラスに声をかける。
「一応、あなたからの謝罪はもう受けていたはずですけど?」
お姉様がスクワット百回の刑をしていた時に、わたくしが受け続けた謝罪の中にはダラスもいたはずだ。
そんなわたくしの質問にダラスがピクッと反応した。
「……っ! そ、それだけでは足りない……と思っ……」
(ああ、そういうこと……)
「───ディフェルト公爵に言われたのね? わたくしにもう一度謝って許しの言葉をもらって来い……と」
「───!」
ダラスは分かりやすく身体を震わせた。
(やっぱりね)
「わたくしとの婚約を白紙にしてまで選んだはずのお姉様とも婚約破棄……ディフェルト公爵は相当お怒りだったということかしら?」
「……」
「もしかして、わたくしの許しを得て怒りを解かないと廃嫡……も示唆された?」
「…………っ」
ダラスは答えない。
でも、その無言状態こそが肯定しているも同然だった。
わたくしは、みんなからの謝罪を受けた時、家族も含め誰に対しても“許す”とは一言も口にしなかった。
だから、みんな今も“シンシア王女はお怒りのままだ”と思っている。
そして、そんな許しの言葉が得られなかった彼らが最も恐れているのは、“サスティン王国の第二王女”の怒りではない。
“プロウライト国の未来の王妃”の怒りを恐れている。
ジュラールの手を取って横に立つというのはこういうこと……
それなら、わたくしはもっと強くならなくちゃ、と更に思わされた。
「ダラス。何度頭を下げられても今、私があなたに言えることは、先程と変わらないわ」
「……っ」
「あなたは、お姉様がわたくしのことを“当て馬姫”と呼び始めたことを知っていたのだから。その事実は消えないわ」
「……くっ……す、すまない……」
伯爵による筋力トレーニングのおかげ? で、少し目が覚めたらしいダラスは公開聴取の場で、お姉様がわたくしのことを“当て馬姫”と呼び始めた時のことを証言してくれた。
そこから更にお姉様への風当たりは強くなったわけだけど……
(許す許さないはまた別の話……)
わたくしが彼らを許すかどうかは、この先の行動次第だと決めているから。
─────
思った成果を得られなかったので、落ち込みながらすごすご帰っていくダラスの後ろ姿を見送っていたら、後ろからジュラールに抱きしめられた。
「きゃっ!?」
「……シンシア」
「もう、ジュラールったら……どうしたの?」
ジュラールはギュッと強く抱きしめてきた。
同時に身体にもピリッと刺激が走る。
「僕は、やっぱりシンシアが好きだなぁって改めて思っていたところだ」
「なっ!? なにを急に……」
突然のそんな言葉に頬がジワジワと熱を持っていく。
「そうやってすぐに赤くなるところなんて、たまらなく可愛いし……」
「~~~っ」
「シンシア…………大好きだ」
耳元でそんな愛情こもった言葉を囁かれたのでわたくしは腰が砕けそうになってしまう。
そこをなんとかジュラールが支えてくれた。
「わ、わたくしも……ジュラールが、大好き……」
「───うん」
ジュラールは照れながらも嬉しそうに笑ってくれた。
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(出発の準備……しなくてはいけないのに……)
頭の片隅にそんな考えが過ぎるも、目の前の愛しい男には勝てず、そのまま甘い甘い時間に突入した。
───そうして、翌日。
わたくしたちはプロウライト国に向けて出発……
その道中、わたくしは思い切って伯爵にお願いをしてみた。
「むっ? 帰国したらリアに会いたい?」
「は、はい! ぜひ。それから愛読書? も読んでみたいのです」
わたくしがそうお願いしたら、伯爵は「リアが喜ぶ!」と、とても厳つい顔で嬉しそうに笑ってくれた。
伯爵夫人に会える許可を貰えたので、ジュラールにプロウライト国に着くのが楽しみ! と笑顔で言ったら、なぜか苦笑されてよしよしと頭を撫でられた。
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