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第48話 全ての始まり
◆◇◆
そうして無事にプロウライト国へと帰国したわたくしたち。
王宮に仕える皆が並んで待ってくれていて、“おかえりなさい”と温かく迎えられたことに嬉しさを感じた。
(ここが、これからのわたくしの新しい居場所……)
そう実感出来て、嬉しくて嬉しくて微笑んだら、なんと数人がその場に倒れ込んでしまった。
その人たちは慌ててお医者様の元に運ばれて行った。
わたくしは申し訳ない気持ちで隣のジュラールに声をかける。
「出迎えの待機なんてさせてしまったから……暑さにやられてしまったのでしょうか?」
「うん……暑さよりも眩しかったんだと思うよ」
「……眩しい?」
そう言われてわたくしは空を見上げる。
確かに今日はとてもいい天気。雲一つない青空で……うん、確かに太陽は眩しいかもしれない。
「ははは、シンシアは相変わらずだなぁ……」
「ジュラール?」
ジュラールがなぜかわたくしのことを笑った。
笑われているはずなのに、ジュラールのその目には愛情がこもっているのがしっかり伝わってきてドキドキしてしまう。
「そのままでいて欲しいような、もう少しだけ自覚して欲しいような……悩ましい」
「?」
「それに、城の者たちもこれからは慣れてもらわないと。毎回毎回倒れていたら仕事にならない」
「……は、はぁ、そうですね」
(慣れる……?)
「うーん、そうなると……」
そう口にしたジュラールは何かをブツブツ言いながら考え込んでいた。
「───シンシア様! おかえりなさいませ!」
王宮の中に入るとフィオナ様が元気よく駆け寄って来た。
「フィオナ様! ただいま戻りました」
「無事で何よりです! ……て、あら? お祖父様は? 護衛でしたよね?」
フィオナ様はそう言って辺りをキョロキョロと見回した。
その様子にわたくしは苦笑しながら答える。
「アクィナス伯爵は、わたくしたちが王宮まで無事に到着したことを確認したあと……」
「──! 分かったわ! その足ですぐに家に帰ってしまったのね!?」
わたくしはその通りです、と頷いた。
さすが、孫のフィオナ様。伯爵の思考はお見通しらしい。
「早く、奥様に会いたかったようですよ?」
「もう! 本当に……お祖父様らしいわ」
───私は愛するリアが家で待っているからな! ここで失礼する!
伯爵はわたくしたちの無事の到着を確認すると、そう口にしてとても厳つい笑顔で颯爽と帰宅して行った。
「素敵なご夫婦だと思いますが」
「そうですけど。お祖父様はお祖母様に一目惚れしてからずっと一途だそうですから」
「では今頃、夫婦水入らずでまったり……」
「ええ! ──筋肉の話で最高に盛り上がっているでしょうね!」
フィオナ様は間髪入れずにそう答えた。
(筋肉……)
どこまでも伯爵はブレないらしい。
────そうして、帰国してから数日後。
本格的にジュラールの婚約者としての生活が開始した。
そんなわたくしの元に───
「王女殿下、お初お目にかかります、レイノルドの妻、オフィーリアと申します」
「サスティン王国の王女、シンシア・サスティンです」
わたくしは目の前で綺麗にお辞儀するその女性に思わず見惚れた。
(び、美人ーーーー!)
ようやく会えた、アクィナス伯爵夫人の姿に内心で大興奮してしまう。
孫……孫が二人もいるお祖母様には全然見えない!
(フィオナ様もあれだけ美人で綺麗な方だし、そのお母様も……という話は聞いていたから、夫人は綺麗な方だろうとは思っていたけれど……)
「……シンシア? 大丈夫?」
隣のジュラールが心配そうに顔を覗き込んでくる。
わたくしは慌てて大丈夫です、と答えた。そして小声でこっそり告げる。
「とても、き、綺麗な方だな、と」
「伯爵が迫力ある人だから、夫人もパワフルな見た目だと思われがちなんだけど、見た目は大人しそうな美人な方なんだよね」
「……」
見た目は……
ジュラールのその言葉が引っかかった。
その時だった。
「───レイさん」
「むっ?」
伯爵夫人が夫のアクィナス伯爵の服の袖を掴んで引っ張りながら何かを言っている。
少し、興奮しているように見えた。
「お姫様……本物の……私の理想そのままのお姫様が……!」
「ははは! そうだろう? そうだろう? リアなら絶対にそう言うと思った!」
「生きててよかった……まさか、こんな日が来るなんて……!」
そして興奮し始める二人。
これは、もしかしてわたくしが似ているという本のお姫様の話……かしら?
「リア、驚くのはそれだけじゃない」
「なんですか?」
「ジュラール殿下の婚約者となられたこちらのお姫様は、いい拳を持っている!」
「拳!」
伯爵のその言葉に夫人の目が大きく輝いた。
そのキラキラした目の輝きを見て、わたくしはこのムッキムキ筋肉一族の始まりを見た気がした。
その後、色々と話(主に筋肉について)をした後、夫人が「これが私の愛読書です」と言ってシリーズ何冊にも及ぶ本を貸してくれた。
(こ、これが全ての始まり……!)
伯爵夫人は、ムッキムキの男性とふわふわで可愛らしいお姫様の素敵な恋物語なんですよ! と教えてくれた。
胸キュンなシーンが盛りだくさんです! ぜひ、王女殿下も胸キュンしてくださいね!
なんてそこまで勧められたら、もともと気にはなっていたので更に興味が湧くというもの。
────その夜、わたくしは徹夜した。
「───ジュラール! やはり筋肉は最強です!」
「は?」
そして翌朝、寝不足気味のわたくしは、その足でジュラールの元を訪れ大興奮で本のことを語った。
「シンシア……?」
「夫人やフィオナ様があの本が好きだという気持ちが分かりました……!」
こんなに長い間、語り継がれるはずよ!
ドキドキハラハラ、胸がキュンキュン……とにかくページをめくる手が止まらなかったわ。
「こんな素敵な物語のお姫様に似ているなんて言ってもらえて光栄です……」
最初は守られてばかりだったお姫様も、クライマックスが近づくに連れて自分でも闘うようになっていった。
そして最後……ヒーローであるリュウ様の最大のピンチの時のあれはもう───……
「……やれやれ。そんな大興奮する僕のお姫様も可愛いけど」
「ん?」
ふと気づくとジュラールの距離が近い。
「──君の王子のことも忘れないで欲しいなぁ……」
「!?」
そう言ってやや強引に唇を奪われた。
─────
そんな甘さと幸せがたっぷりつまった毎日を送っていたところ、ようやく……と言うべきなのか、遂にその日がやって来た。
「……ジュラールの王太子即位の儀?」
「うん、正式に僕が王太子になることが決まったよ」
「急ですね?」
わたくしがそう聞くとジュラールは困った顔で笑い返してきた。
「僕が婚約するのを待っていたんだってさ」
「あ……」
なるほど……と思う。
ジュラールが婚約を決めたら……ときっとずっと準備して待っていたに違いない。
「その日の夜のパーティーではシンシアを正式にお披露目することになる」
「はい」
「お披露目パーティーは早めにやろうと思ってたけど、儀式もこんなに早いとは思わなかったよ」
(お披露目……)
弱小国の王女が……そんな目で見られるかもしれない。
それでも、わたくしはジュラールの隣の座は誰にも譲らない!
わたくしは背筋を伸ばして身を引き締めた。
そんなジュラールの王太子即位の儀と婚約披露パーティーが行われる日の朝。
“手紙”を持ったジュラールがわたくしの部屋を訪ねて来た。
「え? 今朝……届いたのですか?」
「すごいよね。偶然なんだろうけどなんで今日なのか」
「……」
これまたすごいタイミングで、サスティン王国から手紙が届いていた。
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