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最終話 “当て馬姫”の幸せ
(ジュラール、かっこいいわ……)
王太子即位の儀に臨むジュラールの姿をわたくしはうっとりした気持ちで見つめていた。
(……って! あんなに気を引き締めなくては! と、自分に言い聞かせていたのに)
だけど、ジュラールはかっこいいので油断するとすぐにこうして見惚れてしまう。
「……」
わたくしは自分の頬を軽くつねってみた。
今でも、ジュラールの婚約者になれたことは夢なのでは? なんて思ってしまう時がある。
だけど、このつねった際の頬の痛さとジュラールに触れた時の“びびび”が夢ではないのだといつも私に教えてくれている。
「シンシア様、そんなに頬をつねると赤くなってしまいますよ?」
「ジュラールが心配して医者を呼べ! って騒ぐ姿が想像出来ちゃうね」
「フィオナ様、エミール殿下!」
同じく儀式を見守っている二人がわたくしにそんなことを言った。
「……ジュラール、過保護すぎませんか?」
「そんなことないよ? 僕だってフィオナがそんな状態になっていたらすぐ医者を呼ぶからね」
エミール殿下がフィオナ様を抱き寄せながら堂々と惚気けだした。
「……! エミール様」
「特にフィオナは色んな方向に元気いっぱい突っ走っていくからね。僕はいつだってハラハラだよ」
「そ、そんなことは……」
今日も二人は仲良しだわ、と微笑ましく思う。
わたくしもジュラールとこれからもそんな仲良しでいられたら、いいなぁと思った。
その為にも……
(もっともっと鍛えなくちゃ!)
わたくしはそう決意して拳をグッと握りしめた。
─────
「……シンシア!」
「ジュラール! お疲れ様」
儀式を終えたジュラールは真っ先にわたくしの元に駆け寄ってくる。
ジュラールはわたくしの顔をみると、力が抜けたように微笑んだ。
(あ! いつものジュラールの顔だわ)
儀式の最中のジュラールからは、緊張と重圧もあったせいなのか、昔の“完璧王子”の雰囲気を感じていた。
(不思議……)
昔、わたくしが恋をしたジュラールは“完璧王子”の姿のジュラールだったはずなのに。
完璧王子ではない素のジュラールのことが大好きになっている今のわたくしは、そんなジュラールの顔を見られることが堪らなく嬉しいと思っている。
「シンシア? そんな可愛い顔で微笑んでどうしたの?」
「え?」
「普段から可愛いのに、すぐにこうしてもっともっとシンシアは可愛いくなるんだ。可愛いに上限ってないのかな?」
「う……」
可愛い、可愛いと連呼されると恥ずかしくてすぐに顔が赤くなってしまう。
「シンシア……」
ジュラールはそっとわたくしの顎を持ち上げると素早くキスをする。
「も、もう! 人が見て……」
「大丈夫だよ、この城の人たちの特技は見て見ぬふりだからね」
ジュラールは笑いながらそう言った。
「ちなみに、それはエミールのせいであって僕じゃないよ? エミールがいつでもどこでもフィオナ妃とイチャイチャしてるからそうなったんだから」
「そ、そういう問題じゃありません!」
わたくしがプイッと怒って顔を逸らすとジュラールはクスクス笑いながら抱きしめてくる。
「……ずっと、エミールが羨ましかった」
「ジュラール?」
「……シンシア、ありがとう。僕に会いに来てくれて」
わたくしはそっと手を伸ばしてジュラールの頬に触れる。
そして笑顔で言った。
「ふふ、だって、わたくし……初恋のあなたにもう一度会いたかったので」
「……シンシア、好きだよ」
ジュラールの顔が近付いてきて、わたくしたちはそっと唇を重ねた。
─────
そして、夜は婚約お披露目パーティー……
……なのだけど。
すでに前のパーティーで大勢の前で告白だのプロポーズだのをやらかしていた、わたくしたちはすでに公認の仲だったため、とてもあたたかい視線で出迎えられた。
「皆、祝福してくれていますね」
「ああ」
「でも、ちょっと変わった視線があります」
「変わった視線?」
なんと言うか……ご令嬢たちにキラキラした目で見られている気がする。
普通、こういう時は嫉妬の目が多少はあってもいいと思うのだけど。
なぜ?
「それは……あれだよ。シンシアが強くてかっこいいという話が広まっているからだね」
「は、い?」
「あのアクィナス伯爵も認めた王女! ってね」
「それは……」
「フィオナ妃も強いからなぁ……これからのこの国は、女性の方が強くなりそうだ。僕とエミールも負けないように頑張らないと」
ジュラールはそう言ってわたくしを抱き寄せて額にそっとキスをした。
キャーーーーという悲鳴が上がる。
「そうだ、シンシア。知ってる? エミールたちの結婚から僕らの婚約に至るまでの間で、随分と恋愛関係を経て婚約するカップルが増えたんだってさ」
「!」
「彼らが結婚適齢期を迎えたら、その頃は恋愛結婚がグンッと増えそうだね」
それを聞いて、どこかの国とは正反対ね、と思ってしまった。
───今朝届いた、サスティン王国からの手紙の内容は、“その後”の状況を伝えるものだった。
特にお姉様の処分に関しては意見が割れていたようで……
隣国の元王太子と結婚させて追いやってしまえ派と王女の身分を剥奪して国内で幽閉派が揉めていたという。
(結局、国内幽閉派が勝ったそうだけど)
これで、もう二度とわたくしとお姉様が会うことはないだろう。
そして、もう一つ。
伯爵の予言が当たったかのように、わたくしを当て馬姫だと笑っていた人たちがなかなか良縁に恵まれなくなったのだという。
(これから、どう立て直していくのかしら──……)
「……シンシア? どうかした?」
「いいえ、素敵なカップルが増えるのはいいことだな、と」
「はは! ちなみに、今、我が国はコーヒーの売れ行きが過去最高なんだってさ」
「へぇ?」
なんで、コーヒー?
苦いものでも流行っているのかしら?
(そういうこともたくさんこれから勉強していかないと……)
よーし、と気合を入れた。
「ジュラール、わたくし頑張ります!」
「シンシア?」
突然のわたくしの決意表明に、ジュラールが不思議そうな顔をする。
なので、わたくしはとびっきりの笑顔で微笑んだ。
「この国がもっと幸せになれるように……だから、まずは……わたくしたちが幸せになりましょうね!」
「ああ!」
わたくしたちは互いに微笑み合った。
────こうして、かつて“当て馬姫”なんて呼ばれていたわたくしは、初恋の人のお妃候補となって……もう一度、恋をして───
当て馬なんかではない、本当に愛する人との幸せを見つけました!
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
ありがとうございました!
これで、完結です。
またもや、短編詐欺……となってしまいましたが、ここまでお付き合い下さり、本当にありがとうございました。
前作の“便利な女~”で、ジュラールの恋物語へのリクエストが多く始めてみた話でしたが、ようやく彼も幸せになってもらえました!
ちなみに、前作の時から、ジュラールの好みはふわふわ系の可愛い子というのは私の中で決まっていました!(あえて濁していましたが)
楽しんでもらえていたら嬉しいです!
また、何に驚いたって……私が思っていた以上にシリーズを通して皆様が楽しんでくれていたことです。
私はスピンオフ的な脇役の物語をすぐに書きたくなってしまうのですが、それって新規の方には優しくない仕様なので……
新作ではなく、前の作品の後に続けて投稿すべきなのかも?と思ったりもしましたが、
主人公が変わるのでやっぱり前の話に続けるのは違うよね、と思い毎回こんな形になっています。
それなのにシリーズ通して好きだと言ってもらえた事が本当に嬉しいです。
また、要望にお応えして、【筋肉無双断罪シリーズ】の共通タグを付けました!
関連作を読みたい方はどうぞ!
それにしても、全ての話に登場しているレイさん(アクィナス伯爵)はファンが多いですね。
毎回どこかで彼が筋肉無双しているから?
青年(可愛げがない女)、父親(つまらない女)、そして前作と今作では祖父!
……改めてすごい登場率。
レイさんは絵で見てみたい人No.1です!
ちなみにですが、今作には登場していませんが、そんなレイさんのDNAを受け継いだ孫がもう一人いるんですよね(♂︎)
彼をヒーローにして書けたらオールスター勢揃い出来るので面白そうだなぁと思いつつ……(未定)
さすがにしつこいか……
まぁ、もしその時が来たら、さすがに登場人物紹介は必須ですね。
長くなりましたが、ここまでお読み下さり本当にありがとうございました!
次作もよろしければ!
本当は“可愛い妹に全て~”のスピンオフ話にしようと思ったのですが、スピンオフが続くのもあれなので新作にしました!
よくある話……
『憧れの人の元へ望まれて嫁いだはずなのに「君じゃない」と言われました』
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