3 / 38
3. 変わった私
朝食の準備が出来たと聞いて、部屋を出ると、
「あ……」
「お姉様?」
「っ!」
同じく部屋から出て来たと思われるフリージアとばったり会ってしまった。
よくよく顔を見ると最後に会ったあの日のフリージアよりもまだ、幼さを感じる出で立ちだった。
だからこそ実感する。
(やっぱり時間が巻き戻っているんだわ……)
困った事にフリージアの顔が何だか上手く見れない。
なので、私はそっと視線を逸らそうとした。
だけど、私の気持ちなど知る由もないフリージアは普通に話しかけてくる。
「まあ! すごく珍しいわ! お姉様にしては早起きなのね?」
「そ、そうね……何だか早くに目が覚めてしまったの」
私はちゃんと笑えてる?
不自然じゃない?
声が上擦っていたりしていない?
色んな事を気にしすぎたせいか、何だか変な汗まで出て来たわ。
「ふぅん……本当珍しい……それなら、今日は珍しすぎて雨が降るかもしれないわ! 気をつけないといけないわね、お姉様!」
「そ、そう、かしら? そうね、雨……雨ね……うん、降るかもね……」
「えっ……お、お姉様?」
(……ん?)
フリージアが変な顔をしているわ。何かあったのかしら?
今の私はフリージアの顔を見た瞬間にふと新たな疑問が浮かんでしまっていたので、完全に心ここに在らずだった。
その疑問とは……フリージアには私と同じように前の記憶があったりはしないのかしら?
やり直しているのは私だけ?
ということだった。
(それに、ランドルフ殿下のことも気になるわ……)
残念ながらフリージアの顔を見ただけではその判断は出来そうになかった。
「お……お姉様? あのね、それで……」
「……え、ええ、そうね……」
「……お姉様……! 私の話、聞いてない!」
それからもフリージアはあれやこれや私に向かって何やら喋っていたようだけれど、完全に上の空だったせいで殆ど会話の内容は私の耳には入って来ていなかった。
────
お父様とお義母様に挨拶をして朝食の席に座る。
そして、テーブルに並んだ食事を見て私は感動して泣きそうになった。
(ゆ、湯気が! 料理からホクホクの湯気が出ているじゃないの!!)
牢屋で過ごした数日間。
温かい食べ物とは無縁だった。
……知らなかったわ。
温かい料理が食べられるって決して当たり前の事なんかじゃなくて、幸せな事だったんだ……
料理を前にして(感動により)固まる私を見たお父様が眉を潜める。
「……ブリジット? どうかしたのか? まさかお前……またこんな物は食えん! などという我儘を……」
「いいえ、お父様! 全て美味しそうです! なので大変美味しく頂きますわ!」
「は?」
殴られた事を思い出してしまい、どこか顔を見るのが怖かったお父様の事よりも、今の私は目の前に並んだ食事に夢中になっていた。
「頂きます! ふふ、美味しい……」
こんなに美味しい食事は久しぶりだわ、と私がひと口ふた口とどんどん食事を口に運び、その美味しさに顔をほころばせていると、目の前に座っていたフリージアがまん丸の目を更に大きく見開いて固まっていた。
「……どうしたの? フリージア」
「お……お姉様が……食事を美味しい……と言うなんて……」
「え?」
ついでにお父様の様子までおかしい。
「……ブリジットが“頂きます”と、口にしただと!?」
「ん?」
お義母様に至っては無言のまま固まっていて、やっぱり目を大きく見開いて私を凝視している。
(あ……)
三人の反応を見て、しまった……と思った。
あまりの嬉しさに、食事を前にしてこれまでとは全然、違う反応をしてしまっている。
これまでの私は好き嫌いが多くて我儘ばかり言っては料理人を困らせていた。
更に、食事はいつだって当たり前に出てくるものだと思っていたから、誰かに感謝する事なんて……当然なかった。
(やってしまった……)
これは今からでも、前みたいに激しく好き嫌いを主張して、“いただきます”という感謝の言葉も述べずに食べ……
「……」
ううん、それはダメ。
そんな事はしたくない。
だって今の私は、心の底からこの食事を美味しいと思っているんだもの。
苦手……嫌いだと思っていた食材ですら美味しいと感じている。
だから私はそっと微笑んだ。
「…………っ! お姉様……何で笑…………」
「フリージア? 今、何か言ったかしら?」
「い、いいえ……何でも、ないです……」
「そう?」
フリージアが何か呟いた気がしたけれど気のせいだった?
少し気にはなったけど、私は残りの食事を堪能する事にした。
───
あの夢の様で夢ではなかった私の巻き戻り前の過去は、食事以外にも様々な変化をもたらした。
「……」
クローゼットの中のドレスを眺めながら今日の服を選ぼうと手に取った所で、何故か横からリーファが慌てて飛んでくる。
「はっ! いけません! ブリジットお嬢様、こちらのお召し物は既に先日、お嬢様が一度着ていたドレスになります!」
「え?」
「ほ、本来なら廃棄処分をするドレスでして……その、撤去が漏れていました……申し訳ございません……!」
……廃棄処分ですって!?
「待って? 廃棄処分って……リーファ、何を言っているの? まだ、全然着られるでしょう? それになぜあなたが謝罪しているの?」
「え?」
私とリーファとの間に変な沈黙が流れた。
「なぜって……お、お嬢様がいつも……一度来たドレスはもう要らない……と仰っておりました……から」
「……はっ!」
そうだったわ!
これまでの私ったらなんて事を口にしていたの!?
自分で自分の行動に衝撃を受けた。
このドレス達は、あの囚人服を思えば何度だって着たくなる服だと言うのに!
なんてバカだったの、過去の私!
「えっと……リーファ。ごめんなさい。もう廃棄処分なんてしなくていいわ」
「は、い?」
「だからね、もう、一度着たからといって処分はしなくてもいいの。大事に上手く着ていけばいいじゃない?」
「ブ…………ブリジット……お嬢様……?」
「なぁに?」
何故かリーファの声が震えている。よく見ると身体も。
どうしたの? 大丈夫かしら?
「お嬢様、ね、熱でもあるのでしょうか……?」
「ええ? 嫌だわ、何を言っているの? ほら見て! 私は元気よ?」
私は笑う。
だって生きてるんだもの! 元気いっぱいに決まっているわ!
「そうです、か……」
「あ! そうそう、それからね、リーファ。クローゼットがいっぱいだから暫く新しいドレスは不要だと思うのよ」
「は……い!?」
「あ、もしかして、今日も仕立て屋を呼んでしまっている?」
私は毎日、仕立て屋を呼んでは新しいドレスを作らせていた。
彼らの生活もあるので、今後、全く呼ばないと言うのはダメだけど、流石に毎日はどうかと思う。
それにどう考えても入り切らないじゃない?
「ドレスはいいから、今日は小物をお願いしたいと連絡してもらえるかしら?」
「は、は、はい……!」
リーファは慌てた様子で仕立て屋に連絡を取るため部屋を出ていった。
(不思議ね、今まで見ていた物が全然違って見える)
なんだか今の私なら何でも出来そう……!
一度、死んで巻き戻った……という不思議体験をしたせいなのか、私の心持ちも何もかも以前とはすっかり変わっていた。
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄を3時間で撤回された足枷令嬢は、恋とお菓子を味わいます。
青波鳩子
恋愛
ヴェルーデ王国の第一王子アルフレッドと婚約していている公爵令嬢のアリシアは、お妃教育の最中にアルフレッドから婚約破棄を告げられた。
その僅か三時間後に失意のアリシアの元を訪れたアルフレッドから、婚約破棄は冗談だったと謝罪を受ける。
あの時のアルフレッドの目は冗談などではなかったと思いながら、アリシアは婚約破棄を撤回したいアルフレッドにとりあえず流されておくことにした。
一方のアルフレッドは、誰にも何にも特に興味がなく王に決められた婚約者という存在を自分の足枷と思っていた。
婚約破棄をして自由を得たと思った直後に父である王からの命を受け、婚約破棄を撤回する必要に迫られる。
婚約破棄の撤回からの公爵令嬢アリシアと第一王子アルフレッドの不器用な恋。
アリシアとアルフレッドのハッピーエンドです。
「小説家になろう」でも連載中です。
修正が入っている箇所もあります。
タグはこの先ふえる場合があります。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
必要とされなくても、私はここにいます
あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。
口出ししない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
ただ静かに、そこにいるだけ。
そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。
張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。
何かを勝ち取る物語ではない。
誰かを打ち負かす物語でもない。
それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。
これは、
声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、
何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
【完結】転生悪役っぽい令嬢、家族巻き込みざまぁ回避~ヒドインは酷いんです~
鏑木 うりこ
恋愛
転生前あまりにもたくさんのざまぁ小説を読みすぎて、自分がどのざまぁ小説に転生したか分からないエイミアは一人で何とかすることを速攻諦め、母親に泣きついた。
「おかあさまあ~わたし、ざまぁされたくないのですー!」
「ざまぁとはよくわからないけれど、語感が既に良くない感じね」
すぐに味方を見つけ、将来自分をざまぁしてきそうな妹を懐柔し……エイミアは学園へ入学する。
そして敵が現れたのでした。
中編くらいになるかなと思っております!
長い沈黙を破り!忘れていたとは内緒だぞ!?
ヒドインが完結しました!わーわー!
(*´-`)……ホメテ……
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
クリスティーヌの本当の幸せ
宝月 蓮
恋愛
ニサップ王国での王太子誕生祭にて、前代未聞の事件が起こった。王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。そして新たに男爵令嬢と婚約する目論見だ。しかし、そう上手くはいかなかった。
この事件はナルフェック王国でも話題になった。ナルフェック王国の男爵令嬢クリスティーヌはこの事件を知り、自分は絶対に身分不相応の相手との結婚を夢見たりしないと決心する。タルド家の為、領民の為に行動するクリスティーヌ。そんな彼女が、自分にとっての本当の幸せを見つける物語。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜
入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】
社交界を賑わせた婚約披露の茶会。
令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。
「真実の愛を見つけたんだ」
それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。
愛よりも冷たく、そして美しく。
笑顔で地獄へお送りいたします――