29 / 38
28. 責められる人達
《……》
《……王女さ…………レイリア王女殿下、大丈夫ですか?》
青くなっているフリージアを無視して、腕の中の王女様に声をかける。
すると、王女様はハッとした様子で顔を上げた。
《え! おねえちゃん、わたしのなまえしってるの?》
《もちろんです》
(なんなら、この先のあなたの姿も知っているわよ?)
今もとっても可愛いけれど、あなたはもっともっと可愛い王女様。
ヴェールヌイ国王夫妻が溺愛している深窓の姫君として有名になるんだから!
《あ! そういえば……おねえちゃん、わたしとはなせるの?》
王女様は今、そのことに気付いたのかあれ? という顔をした。
《ええ、少しだけですけどね》
《そっかぁ…………あ、おねえちゃんのなまえは?》
《私? 私はブリジットよ?》
《ブリジットおねえちゃん……》
王女様が私の名前を呼びながら嬉しそうに微笑む。
そんなレイリア王女様の可愛さに胸がキュンとした。
(な、なんて可愛いの、天使の微笑み! 未来で皆がメロメロになるはずだわ!)
……ではなくて!
落ち着いてくれたなら良かったわ……と、安堵したその時。
陛下の謝罪の声が聞こえて来たので振り返った。
「本当に本当にこの度は愚息が大変申し訳ない事をした……ヴェールヌイ国王」
その先に居たのは、王女様の両親であるヴェールヌイ王国の陛下と王妃様。
「なっ……こ、国王陛下がいた……だと?」
「うっそ……」
ランドルフ殿下は彼らの登場に石のように固まった。
フリージアも青白い顔をしたまま微動だにしない。
《…………此度のことは、目を離した我々にもフラフラしていた我が娘にも非があるとは言え……》
《ですが、さすがに娘に対するこの対応はどうかと思いますわ……》
ヴェールヌイ王国の陛下と王妃様は困惑していた。
主賓の王子が予定を把握していなかっただけでなく、他国の王族の顔も知らない、言葉も全く理解しないおバカだと宣言したようなものだもの。
(もし、私ならこんな国とは今後付き合いたくないわね……)
陛下は深いため息を吐く。
《……ランドルフ殿下は、我が国にも大変優秀な人物だという話が聞こえていたので、会えるのが楽しみだったのだが……》
《これはどうも期待しすぎたようですわね、がっかりです》
「本当に本当に申し訳ない……ランドルフにもよく言って聞かせる……」
(あら?)
ヴェールヌイ王国の国王夫妻は通訳を連れていて陛下とは通訳を介して会話をしている。
しかし、言いにくいであろうことも完璧に通訳していて私は少し感動した。
(ここの国の言葉って耳で理解は出来ても発音が難しいのよね)
たくさん練習した過去のあの日々を思い出す。
拙いながらも今、こうして王女様と会話が出来ているようなので、あの日々も無駄ではなかったと思いたい。
「……わ、私は……悪くないぞ……」
ランドルフ殿下は言葉を理解しなくても、何を言われているのかは何となく伝わったようで、大きく狼狽えていた。
《……たとえ、我が娘が王女でなかったとしても子供に対してのあの態度は人として許せませんわ……あぁ、それはそこの女性もですわね》
「……ひっ!? な、何……なんで私を見ているの!?」
王妃様に睨まれたフリージアも何かを悟ったのか小さな悲鳴をあげていた。
《ブリジットおねえちゃん、わたし、おとうさまとおかあさまにあやまらなくちゃ》
《え?》
王女様が両親に謝りに行くと言うので、私はそのまま彼女を抱き抱えて国王夫妻の元に向かう。
《おとうさま、おかあさま……ごめんなさい……》
《レイリア!》
王女様に気付いた王妃様がこちらに駆け寄ってくる。
《フラフラしちゃダメよ、とあれだけ言ったのに……》
シュンッと落ち込む王女様。
《ごめんなさい……キラキラしたおひめさまをみつけたから》
《キラキラしたお姫様ね……どうやら見た目だけのとんでもない性格のお姫様だったみたいですけどね》
王妃様がフリージアに冷たい眼差しを送りながら言う。
フリージアはその視線を感じとってビクッと身体を震わせた。
《あ、あのね、おかあさま! それで、こっちのおねえちゃんがたすけてくれたの!》
《こっちのおねえちゃん?》
そこで、ようやく王妃様は王女様を抱っこしている私の存在に気付く。
《えっと? あなたは? あなたがレイリアを助けてくれたの? って、聞いても分からないわよね。えっと、通訳は──》
《あ、大丈夫です……初めてお目にかかります。ブリジット・ラディオンと申します》
私は名乗りながら頭を下げる。
王女様を抱えたままなので、簡単にしか頭を下げられないのが申し訳ない。
《え? あら珍しい……あなた、ヴェールヌイ語を喋れるの?》
《そうよ、おかあさま! ブリジットおねえちゃんはわたしとたくさんおはなしできるのよ!》
王女様が嬉しそうに王妃様にそう報告する。
何だか楽しそう。
この国に来てから話す相手が少なくて寂しかったのかもしれない。
《たくさんではなく、少しですが……》
《そんなことないわ! それにやさしいのよ? あのこわいひとたちからまもってくれたもの!》
王女様は得意そうに王妃様に私のことを話してくれる。
《まあ! それは、ありがとうございます》
《あ、いえ……私は……》
そんな会話をしながら抱っこしていた王女様を王妃様に渡す。
ちょうどその横ではランドルフ殿下が陛下に怒られていた。
「……ランドルフ。この責任はどうとるつもりだ?」
「…………っ、責、任」
《ギュディオール国王……この国はどうなっているのだ? 世継ぎの王子がこれでは我が国としては今後の付き合いは考えねばならない》
「え、あ……いや、待ってくだされ、それは……」
ランドルフ殿下を責めていた陛下もヴェールヌイ王国の国王に責められてしまい、とたんに焦りだす。
《そもそも、この国に来てそなたたちが最初に用意した通訳者もまともに我が国の言語を理解しているとは言い難かった》
「え? そ、それは大変申し訳なく……」
《あの者がいなかったら、我々はとっくに腹を立てて帰国をしていたぞ!》
「あの者……?」
陛下は誰のことだ? と首を傾げる。
どうやら通訳は一度変更になっているらしい。
《そなた達が寄越した世話係の一人だ。彼はまだ若いのに通訳も完璧でとても素晴らしい!》
何だかとてもべた褒めしている。
《それに、ちゃんと我が国の事も勉強していてくれていたようで気持ちよく過ごせた。今もほら、彼は後ろに控えて通訳をしてくれているだろう?》
「通訳も兼ねられる若い世話係なんて手配していたか……? 誰のことだ?」
陛下が小声で呟いた時、陛下たちの後ろに控えていた眼鏡の人物が動く。
一瞬、私もそんなパーフェクトな人って今の王宮にいたかしら?
若い人はランドルフ殿下を筆頭にダメダメな側近たちの集まりだったような気が……
そんな疑問を抱いたけれど、すぐにハッと気付いた。
(───いいえ、一人だけ知っているわ)
私はクスッと笑う。
もう! 私の知らない所でそんな風に暗躍していたのね?
今日だってこの会場内の何処にいるのかと思っていたのに……
「───誰って、“私”のことですよ、陛下」
そう言って動いた彼は眼鏡を外すと、被っていた黒髪のカツラを脱ぐ。
そのカツラの下から現れたのは眩しいくらいに輝く金の髪。
───誰だ?
───この輝くような色の髪は……ランドルフ殿下と似ている?
会場内が突然現れたランドルフ殿下とそっくりな彼を見てザワザワと騒ぎ始める。
やっぱりこの姿は説得力があるわね、と私はウンウンと頷く。
「───陛下、ご無沙汰しております」
「……なっ! なっ!?」
《ん? どうしたのだ?》
陛下が現れた人物を見てポカンとして声を失っている。
ヴェールヌイ国王はいったい何故こんなに一気に会場か騒がしくなったのかが分からず不思議そうな顔をしていた。
「……へぇ、あなたはまるで幽霊でも見たかのような顔をするんですね?」
「お、お前は……」
「もしかして、私のことなどすっかり忘れていましたか?」
「う、あぅ……ラン……」
青白い顔をした陛下が口を開きかけたその時、
「な、な、な、なんでお前がここにいるんだァァァーーーーランドールゥゥゥーーーー!!」
真っ青な顔のランドルフ殿下が、ご丁寧に大声でランドール様の名前を皆に紹介してくれた。
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄を3時間で撤回された足枷令嬢は、恋とお菓子を味わいます。
青波鳩子
恋愛
ヴェルーデ王国の第一王子アルフレッドと婚約していている公爵令嬢のアリシアは、お妃教育の最中にアルフレッドから婚約破棄を告げられた。
その僅か三時間後に失意のアリシアの元を訪れたアルフレッドから、婚約破棄は冗談だったと謝罪を受ける。
あの時のアルフレッドの目は冗談などではなかったと思いながら、アリシアは婚約破棄を撤回したいアルフレッドにとりあえず流されておくことにした。
一方のアルフレッドは、誰にも何にも特に興味がなく王に決められた婚約者という存在を自分の足枷と思っていた。
婚約破棄をして自由を得たと思った直後に父である王からの命を受け、婚約破棄を撤回する必要に迫られる。
婚約破棄の撤回からの公爵令嬢アリシアと第一王子アルフレッドの不器用な恋。
アリシアとアルフレッドのハッピーエンドです。
「小説家になろう」でも連載中です。
修正が入っている箇所もあります。
タグはこの先ふえる場合があります。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
必要とされなくても、私はここにいます
あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。
口出ししない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
ただ静かに、そこにいるだけ。
そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。
張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。
何かを勝ち取る物語ではない。
誰かを打ち負かす物語でもない。
それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。
これは、
声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、
何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
【完結】転生悪役っぽい令嬢、家族巻き込みざまぁ回避~ヒドインは酷いんです~
鏑木 うりこ
恋愛
転生前あまりにもたくさんのざまぁ小説を読みすぎて、自分がどのざまぁ小説に転生したか分からないエイミアは一人で何とかすることを速攻諦め、母親に泣きついた。
「おかあさまあ~わたし、ざまぁされたくないのですー!」
「ざまぁとはよくわからないけれど、語感が既に良くない感じね」
すぐに味方を見つけ、将来自分をざまぁしてきそうな妹を懐柔し……エイミアは学園へ入学する。
そして敵が現れたのでした。
中編くらいになるかなと思っております!
長い沈黙を破り!忘れていたとは内緒だぞ!?
ヒドインが完結しました!わーわー!
(*´-`)……ホメテ……
【完結】真実の愛に目覚めたと婚約解消になったので私は永遠の愛に生きることにします!
ユウ
恋愛
侯爵令嬢のアリスティアは婚約者に真実の愛を見つけたと告白され婚約を解消を求められる。
恋する相手は平民であり、正反対の可憐な美少女だった。
アリスティアには拒否権など無く、了承するのだが。
側近を婚約者に命じ、あげくの果てにはその少女を侯爵家の養女にするとまで言われてしまい、大切な家族まで侮辱され耐え切れずに修道院に入る事を決意したのだが…。
「ならば俺と永遠の愛を誓ってくれ」
意外な人物に結婚を申し込まれてしまう。
一方真実の愛を見つけた婚約者のティエゴだったが、思い込みの激しさからとんでもない誤解をしてしまうのだった。
とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜
入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】
社交界を賑わせた婚約披露の茶会。
令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。
「真実の愛を見つけたんだ」
それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。
愛よりも冷たく、そして美しく。
笑顔で地獄へお送りいたします――
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。