【完結】見た目だけは可愛い義妹ではなく、平凡引きこもり令嬢の私に求婚した公爵様は仮の婚約者をご所望のようです!

Rohdea

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第26話 子爵家のその後




「ティアナ、大丈夫?」
「……はい」

  波乱含みだった夜会から屋敷に戻り、私達は一息ついていた。
  ソファに隣同士で腰を降ろし、リュート様の肩にもたれ掛かりながら今日の事を振り返った。

「アイリスが噂の出処なのだろうとは思っていましたが、まさか私のフリをして本当に事を起こしていたなんて思ってもいませんでした」

  私は、そこまで憎まれていたのか。
  恋人だったお父様が私の母と政略結婚した事で愛人となってしまったお義母さま。
  子爵家に来るまで愛人の子として育ってきたアイリス……

  何も知らずに、ぬくぬくと子爵家の長女として育てられてきた私が憎く思われていたのは分かっていたけれど……

  わざわざ黒髪に扮して、私の名前を名乗って……こんな事をするなんて。
  一方ではアイリス自身の評判を上げるようにも行動していたのだから、とんでもないなと思う。

「ティアナ……」

  リュート様は、それ以上は何も言わず優しく私を抱き締めてくれた。

  もうあの日、リュート様が連れ出してここに来た時から私の帰る所はユレグナー子爵家ではなくなっていた。そしておじい様のおかげで完全に縁も切る事が出来る。

  そして、私が帰る場所はいつだってこの人の腕の中だ。
  そう強く実感する事になった夜だった。

「リュート様が、恋愛結婚したいと言った意味がよく分かりました」
「それは、ユレグナー子爵と夫人の事かな?」
「はい」

  “家のための結婚”
  そのせいでユレグナー子爵家は、ここまでボロボロになってしまった。
  あの人達も、お母様も誰一人幸せになった人はいない。

  政略結婚が必要な事であるのは、分かる。分かるのだけど……
  そんな夫婦だってうまく行くところはいくわけだし。
  結局はその人達次第なのだと思う。

「私は……リュート様に望まれて幸せ者ですね」
「ティアナ……」

  私がそう微笑みながら告げるとリュート様は嬉しそうに笑ってそっとキスをくれた。









  ──それから。

  私は正式におじい様……ファルン伯爵に引き取られ、ユレグナー子爵家とは完全に縁を切る事になった。

  そして、問題のユレグナー子爵家。
  私の元家族達の処分。
  法廷には私ももちろん出廷した。(本当に陛下もいた!)
  私は包み隠さずこれまでの事を話した。

  三人は終始私の事を睨んでいたけれど、もう怖くなんて無かった。
  あの人達がどんな目で私を見ようともう関係が無い。

  そして、リュート様があの場で話したように、私が子爵家で虐げられていた事、あの日、お義母さま……じゃない、ターナ夫人から暴力を受けた事などを証言してもらえたので、ユレグナー子爵家は徹底的に追い詰められた。



  もはや、このまま貴族社会で生きていく事など出来ないほどに。



「子爵は、爵位剥奪する事になったよ」
「え?」

  そしてその日、リュート様は屋敷に戻るなり私にそう告げた。
  どうやら、あの人達の処分が決定したらしい。

「子爵としては爵位返上して罪を軽くしてもらおうとしたみたいなんだけど……甘いよね。別の罪を上乗せされて平民となっても罪人として収容される。多分外に出てくる事は無いかな」
「別の罪……?」

  私に対しての虐待以外に? 

「コンローリ伯爵を潰すために調べてて分かったんだけど」
「……」

  潰す?  今、潰すと言った?
  リュート様の事だから、伯爵に対して何もしないわけが無いと思ってはいたけれど……そうですか。潰すんですね……いつの間にやらそっちにも動いていたのですか。

「コンローリ伯爵は裏で麻薬密売に関わってた」
「はい?」

  とんでもない単語が飛び出して来てさすがに驚かずにはいられない。

「コンローリ伯爵が今まで妻に娶った女性達をボロボロにしていたのは……まぁ、周知の事実と化してたんだけど、そこにどうも薬を使ってた形跡がある事が分かった」
「え……」
「ティアナの件で今まで不可侵領域だった部分の調査に踏み込ませた事で発覚したそうだ」

  そんな相手の元に嫁がされそうになってたと思うとゾッとする。
  つまり、あのまま嫁いでたら私はどうなっていたのだろう。

  って、待って……その流れだと……

「そして、ユレグナー子爵家当主のニールはその密売に関わってる一人だった」
「……っ!!」

  お父様とコンローリ伯爵。二人の関係は何だろうと思ってた。
  だけど……まさか……そんな形で…………

「ティアナ!」

  ふらつき倒れそうになった所をリュート様が支えてくれた。

「大丈夫です。すみません。何か色々話が大きくなり過ぎて……」
「うん、そうだね……ごめん。続きはまたにしようか?」
「いえ、大丈夫です」

  ここまで来たんだ。最後まで聞きたい。聞かなくては!

「……そういうわけで、子爵はコンローリ伯爵と共に爵位剥奪が決定した」
「いつから……」
「うん?」
「いつから、あの人はそんな事に手を……?」

  私の言いたい事を汲み取ったリュート様が、ちょっと辛そうな顔をしつつも教えてくれた。

「アイリス嬢が社交界デビューした後くらいから」
「え?」
「社交界デビューした後は、夜会だパーティーだでお金が必要になるからね」

  確かに、アイリスは私と違ってデビュー後はドレスを新調したり夜会にも頻繁に出かけていた。
  ……だけど子爵家はそこまで裕福ではなかった……そういう事なのだろう。

「そうだったんですね……あの、夫人とアイリスは……?」

  当然、二人もただではすまない。
  ましてや、子爵家は無くなるのだから。

「離縁するそうだよ。夫人がね、ニールの罪を知って逆上した」
「…………」
「だが、二人もそれぞれティアナにした事の罪を償わせないといけない。平民に落とされるだけじゃ甘いからね。それに元々は彼女達は平民だったわけだし」

  お母様が亡くなって子爵家に迎えられるまでの二人は確かにそうだった。
  まぁ、この10年近くでその頃の事なんてきれいさっぱり忘れてると思うけれど。

「夫人は強制労働収容所に入る。それもとびっきり厳しい所で有名な。……ティアナにした事が自分に返ってくるだろうな」
「……」

  それは、暴力の事を言っている……のかしら?

「義妹……アイリス嬢は……」
「?」

  そこでリュート様は言いにくそうに目を伏せた。何だろう?

「……そんなに男が好きなら……と……」
「まさか、娼館に!?」

  私が驚きの声をあげると、リュート様はちょっと困った顔を見せる。

「その方がマシだった……かもしれないな。娼婦になると言えば娼婦になるんだけど……」
「……?」
「労働者階級専用の娼婦……といえば良いのかな。貴族向けの娼館とは違うから」
「……」

  そこでどんな扱いを受ける事になるのか……うまく想像出来なかった。
  既に、多くの男性と関係を持っているとは言え、さすがにそれはアイリスも予想していなかったのでは……?

「ティアナ……大丈夫?  その、やっぱり縁を切っても一応家族だったわけだし……」

  リュート様が気を使ってそう宥めてくれる。
  だけど、私はハッキリと口にする。

「いいえ。私はあの人達を家族だとは思えませんから大丈夫です」

  確かに私はあの人達と家族として長年同じ家で過ごしていたかもしれない。
  子爵……元子爵とは血も繋がっている実父だ。アイリスとだって半分は血が繋がっている。
  それでも、私は“家族”を欲してた。
  それは、あの人達から得られなかったもの。あの人達は私の家族なんかじゃなかった。

「私の家族はリュート様ですから。あと、おじい様。そしてリュート様とこれから作っていく家族が本当の私の“家族”です」
「ティアナ……」

  私がそう言い切るとリュート様は優しく抱き締め、優しいキスをくれた。


  この先の未来には、今まで感じた事も経験した事も無い幸せが待ってる。
  リュート様の温もりに包まれて私はそんな事を思った。


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