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第46話 会場に放り込まれたので(ジュラール殿下視点)
しおりを挟む(エミールはいったい、いつから僕がいたことに気付いていたんだ!?)
もうこうなったら、こっそり……こっそり弟の恋の行方を見守ろう。
そう決めたのに……
もじもじしていた乙女のエミールが、きちんと男を見せて告白をし一世一代のプロポーズまで行っていた。
ちょっと、普通のプロポーズの答えでは聞かないであろうメッタメタとかボッコボコという言葉は飛び出したものの、マーギュリー侯爵令嬢もエミールの気持ちをを受け入れてくれたので今度こそ、おめでとう! と喜んだのに……
僕はそんな弟の手によってカオス化した会場へと放り込まれた。
(───どうすればいいんだよ! この空気……)
最愛の女性を抱っこして嬉しそうに颯爽と去っていったエミールの代わりに現れた僕に会場は大きくザワついていた。
───プロポーズ成功したと思ったら……
───ジュラール殿下だ!
───ほ、本物、だよな? エミール殿下じゃないんだよな?
───似ていてよくわからん!
そんな声があちらこちらから聞こえる。
(───はいはい。僕が本物のジュラールですよ!)
そう言ってまわりたい気分だ。
だけど、そんな僕の元にわざわざ駆け寄って来る者もいた。
「ジュラール殿下! エミール殿下の言っていたことは本当なのですか!?」
「ほ、本当に殿下たちは……たびたび入れ替わっていたのですか……? どうして……」
「エミール殿下の……あの噂は作られたものだったんですか?」
この件を知っていたのは国のトップまでだから、何も知らなかった他の貴族たちに質問攻めに合うのは仕方がないことではあるが……
(エミール……お前、全部投げっぱなしじゃないかーーーー!)
だけど、ようやくこの時が来たんだ。
そう思った僕は堂々と顔を上げる。
「───その通りだ。本当のエミールは、あんな噂にあるような男なんかではない! ちょっとお人好しで心優しく真面目な男だ!」
(乙女の部分は黙っておこう……)
僕は堂々と皆の前でそう宣言をした。その言葉に会場は再び大きくザワついた。
全く……どうして僕がフォローしなくちゃならないんだ!
それでも、僕は弟のことが大事だ。
いつだってケロッとしていたけれど、本当は心ない噂に時には嫌な思いだってしていたはずだ。
(だからこそ、エミールには幸せになって欲しい……)
きっと今頃、ようやく気持ちを通じ合わせた最愛のマーギュリー侯爵令嬢と、二人っきりで愛を深めてイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ……
(いいなぁ……)
イチャイチャしている二人を想像したら遠い目をしたくなった。
……だが、恋する乙女のエミールだからな。
案外、勇ましいマーギュリー侯爵令嬢に逆に襲われて真っ赤になっているかもしれない。
それはそれで楽しそうだな?
(やっぱり……いいなぁ)
僕も早く可愛い可愛い婚約者を見つけたいところだが───……
そこで、僕は会場のとある場所に目を向ける。
その場所では、ムキムキした伯爵の前で父親の権力を使って隠蔽させてきた罪を泣きながら自白していたダーヴィットがいる。
追い詰められたダーヴィットは多くの令嬢たちを弄んだことについても自白をしていたが……
そう、問題はこれだ。
本来、僕やエミールのお妃候補になるはずだった、それなりに身分のある令嬢たちが軒並みあいつの毒牙にかかっていたことだ!
(おかげで全然決まらない……)
と、いうわけで僕からも少しくらいはダーヴィット文句を言わせてもらいたいと思う!
「────ダーヴィット」
「で、殿下? ジュラール殿下……?」
僕がダーヴィットの元に行き、声をかけると、ちょうど令嬢たちにネチネチ嫌味を言われていたダーヴィットがハッとしたように顔を上げた。
「あ、で、殿下!」
「ジュラール殿下……」
僕の登場に驚いた令嬢たちが、攻撃の手を緩めて慌てて頭を下げた。
そんな彼女たちに僕は軽く声をかけた。
「───やぁ、こんにちは。復讐は終わったかい?」
令嬢たちは顔を見合わせる。
「正直、まだ足りないとは思っておりますが、ダーヴィット様は浮気以外にも色々な罪を自白していましたし……なので、あとは盛大に罰を受けて下さい。そんな気分です」
「……分かった。ダーヴィットには必ず自分のしでかしたことを反省し、罪を償わせると約束しよう」
僕の言葉に令嬢たちは「よろしくお願いします」と言って下がっていった。だけど、
──もっと殴ってやれば良かったかしら?
そんな声が聞こえた気がして、これもマーギュリー侯爵令嬢の影響なんだろうかと考えたりもした。
こうして令嬢たちが去って行き、その場に残ったのは、ダーヴィット本人と、僕とアクィナス伯爵。
令嬢たちから、ようやく解放されたダーヴィットは僕を見ると、半泣きで縋り付いてきた。
「殿下! 助けてください! 俺はそこの…………ひ、ひぃっ!」
どうやら、ダーヴィットは僕に助けを求めたかったようだけど、アクィナス伯爵に睨まれて縮こまっていた。声も発さずにダーヴィットを黙らせるとは……
僕はチラリと伯爵を見る。
(すごい身体だな……どれだけ鍛えたのだろう?)
マーギュリー侯爵令嬢の祖父が気になって調べて辿り着いた時に出て来た情報は、かつて、その筋肉をフル活用して伯爵家だか男爵家だかを闇に葬ったという話だったが。
(それで、結果的に今回はアディオレ公爵家まで? 凄すぎないか?)
エミールの目指しているところの最終形態はこのような感じなのだろうか?
もはや、エミールだけこんな感じのムキムキになってしまったら、かなり最強だがもう僕と間違える人間は確実にいなくなるだろうな……
そんなことを思いながら、僕はダーヴィットと向き合う。
「ダーヴィット。お前がこれまでしてきた悪事の話は聞いた。残念だよ」
(特に! お前のせいで僕のお妃候補はどんどん消えていったんだよ!)
「そ、それは……」
「今のお前のその姿は完全に自業自得だ。残念だが軽い罰で終わらせるつもりは無い。覚悟しておけ!」
「そ、そんな……!」
ダーヴィットが絶望の表情を浮かべる。
むしろ、どこに許される要素があった?
「エミールも相当お前に怒っているからな」
「エミー……」
その言葉でダーヴィットがハッとする。
「で、殿下、あの話は、う、嘘ですよね……?」
「あの話?」
「お二人がたびたび入れ替わっていたこと…………エミール殿下が実は……実は……」
「……」
ダーヴィットは悔しそうに唇を噛む。
おそらくダーヴィットはエミールが実は阿呆ではなかったなんて、と言いたいのだろう。
(見る目のない奴め)
エミールの真実を見抜けず、バカにして来た奴らはこれまでも多くいるが、ダーヴィットはその中でもかなりエミールを下に見ていたことを僕は知っている。
(やっと、ダーヴィットに言ってやれる……)
「エミールは阿呆なんかじゃない。むしろ、その逆……優秀な男だ!」
「っっっ!」
「残念だったな。そしてお前が便利に扱おうとしたフィオナ・マーギュリー侯爵令嬢は、そんなエミールに心から愛されているから、この先の幸せが約束されている」
「フィ……オナが幸せ……だと?」
ダーヴィットがハッとする。
「そうさ。お前はこれから裁きを受ける身なのにな」
「さ、裁き……」
「当然だろう? ここまで悪事をバラされて見逃されると思うな!」
「殿下! そ、それは俺のせいでは、俺だって騙されて──……」
ダーヴィットはこの後に及んで、まだどうにかなると楽観視していたのかもしれない。
だが……
「ふむ。先程から黙って聞いていたが、やはり浮気者小僧は自分の置かれている立場がまだ分かっておらんようだな」
「……ひっ!?」
「その女々しい考え……この拳で鍛えなおしてやろうではないか!」
伯爵はとても凶悪ないい笑顔をダーヴィット向けた。
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