【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~

Rohdea

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書き換えられた記憶 (フォレックス視点)



  お祭りの件で……と口にした瞬間、顔色を変えたリーツェを見て確信した。

  ──間違いない。リーツェは前回の人生の記憶を持っている。

  “お祭りの警備を強化して欲しい”
  リーツェは俺にそう願った。

  前回の人生の俺はこの頃は国にいなかったから何があったのかは知らない。
  だが、その言葉を聞いた時リーツェは何かを変えたいと思っている!
  そう確信した。

  もしかしてリーツェには前回の人生の記憶があるのでは?  と、思う事は前からチラチラあった。
  スチュアートに対してよそよそしくなった事。俺の留学について行きたいなんて言い出していた事。
  何よりこの間、公爵から聞いた話……

  “リーツェはスチュアート殿下と婚約破棄をしたいようです”

  その言葉には耳を疑った。
  まさか!  今さらそんな事を言うはずが無い!
  
  そう思ったけれど、
  今のリーツェを見ているとその行動は前の人生と違いすぎていた。
  だから思った。

  (まさか、リーツェも?)

  それなら婚約破棄を言い出すのも分かる。
  スチュアートに対してのあの態度も。
  どんなに好きでも、自分に手を降した人間を好きでい続けられるかと問われたら、それは無理だろう。それに前の人生のスチュアートは浮気もしている。

  (リーツェなりに未来を変えたかったんだな)

  留学やめなければ良かったな……そしたらリーツェに違う未来への道を提供出来たかもしれなかったのに、なんて後悔もした。

  でも、リーツェは前の人生の事は覚えているようだが、そもそもは思い出せていないらしい。

  それは、この間話をした公爵の言葉からも明らかだった。




────……


「フォレックス殿下。あなたもお気付きかもしれませんが……このところ、リーツェの様子が変わりました」
「それは?」
「まるで
「!」

  公爵のその言葉に俺の心は大きく揺らいだ。

「ですが、書き換えられ失った記憶は戻っていません」
「……それは……分かっている」

  リーツェの事がずっと好きだった俺は「二人を比べる事なんて出来ない」そう言い続けていたリーツェを懸命に口説き続けた。

   ───でもね、ようやく分かったの。私が好きなのはー……

  リーツェが俺の求婚と気持ちを受け入れてくれて、俺は幸せの絶頂だった。
  ミゼット公爵から許可を貰えたので、いざ父上達に報告だー……

  そんな時、リーツェが酷い高熱を出して倒れた。それも生死をさ迷うほどの高熱。
  それでも峠を超えたリーツェが無事に目を覚ました時……

  リーツェは俺の知っているリーツェではなくなっていた。

  それは意識を取り戻し、症状も安定したと聞いて医者から面会の許可を貰って見舞いに行った日の事だった。

『リーツェ! 良かった……大丈夫か?』
『……フォレックス様?』

  良かった、そう安堵する俺にリーツェはどこか冷たい声だった。
  握りしめた手も何故か冷たく突き離された。

『どうしてフォレックス様がここに?  スチュアート様は?』
『え?  なんでスチュアート……?』
『なんでって……あぁ、フォレックス様はまだ聞いていないのですね?  私、
『は?』

  言ってる事が理解出来なかった。
  ついこの間、リーツェは俺を好きだと言ってくれて俺の求婚を受け入れると言ったのに!

  ──私も、フォレックス様の事が大好き!

  とびっきりの可愛い笑顔でそう言ってくれたじゃないか!

『待ってくれ。リーツェ……それは』
『私、スチュアート様の事が好きだとようやく気付いてこの間お返事したんです』
『!?』

  違う!  それはスチュアートじゃない!  その相手は俺だ!  
  そう叫びたかったが、医者もおかしいと思ったのだろう。青白い顔をして俺を制止した。

  理由は分からない。分からないが、あの高熱のせいなのか……

  リーツェの事が大好きなのも、リーツェに愛を囁いたのも……スチュアートでは無い!
  全部、全部俺なのに!
  リーツェの俺を好きだと想ってくれた気持ちもスチュアートに書き換えられていた。
  
  公爵夫妻も俺もリーツェに、記憶がおかしい事を何度も説明しようとしたが、リーツェへはその度に酷い頭痛に襲われる事が分かりこれ以上は……と断念せざるを得なかった。いつか記憶は戻る……そう信じて。

  しかし、リーツェの記憶は一向に戻る様子は無く、時だけが無駄に過ぎていった。

  そうして、ついに俺にとっての悪夢の日が訪れる。

『フォレックス殿下、申し訳ございません……リーツェはスチュアート殿下が良いと言って聞きません。スチュアート殿下と婚約を結ぶ事になりました』

  本当に申し訳ないと頭を下げる公爵。
  その言葉を聞いた時、頭の中が真っ白になった。

  もともと、リーツェは俺達どちらかの婚約相手にと決められていた令嬢だった。
  “どちらを選ぶかはリーツェの意思に任せたい”
  公爵はずっとそう言っていて……俺はリーツェが好きだからどうしても選ばれたくて……ようやく振り向いて貰えたのに……

  大っぴらではなく、密かに事を進めたのが全て仇になった。

  スチュアートは俺と違ってリーツェを一人の女性として好きなわけではない。
  自分の後ろ盾になって貰うには家柄が最強だからと、俺の気持ちも知らずに喜んで婚約の申し出を受けていた。

  そんなリーツェは、その高熱を出した日を境に性格も少しずつ変わっていった。
  優しく微笑んでいた彼女の笑顔も見られなくなった。
  だが、そんな事よりもスチュアートを追いかける姿を見ているのが俺には耐えられなかった。





「リーツェはスチュアート殿下と婚約破棄をしたいようです」
「本当か!?」
「フォレックス殿下と留学をしたいと言い出したのもそれが理由です。距離を置きたかったようですね」
「距離を……」

  ほんのわずかに期待を抱いた。
  確かにリーツェからは以前のようなスチュアートへの想いは見られないと思う。

「では、婚約は……」
「いくらリーツェの気持ちを尊重すると言っても一度結ばれてしまった以上はさすがに簡単に破棄は出来ません……スチュアート殿下から婚約破棄を口にするなら可能でしょうが……」
「……」

  リーツェはスチュアートにも直談判したらしいが、スチュアートはくどくどと政略結婚について説いたらしい。

  (スチュアートも後ろ盾が惜しいだろうからな。頷くわけがない)

  後ろ盾なんかいらない。俺はリーツェだけが欲しいのに……

「最近のリーツェが昔みたいな笑顔で笑うようになったのはフォレックス殿下のおかげですか?」
「え?」
「学園内ではスチュアート殿下の代わりにフォレックス殿下がリーツェの護衛のような事をされている、とか」

  さすが、公爵。ちゃんと耳に入れていたらしい。

「……それは単なる俺がリーツェの側にいる為の口実だ」
「だとしても、フォレックス殿下は自分を裏切った娘を守ろうとしてくれている……本当に申し訳ない」
「あれは、リーツェの本当の意思ではない!  書き換えられた記憶のせいだ!」

  それでも前回の人生の俺は心が折れて、リーツェに素っ気ない態度を取り、避け続けて終いには留学に逃げてしまったけど。
  そのせいであんな最期を一人で迎えさせてしまった。

  だから今度は逃げない。
  リーツェを守り、前回の人生のような最期を迎えさせたりしない!

「ミゼット公爵」
「何でしょう?」
「もし、スチュアートとリーツェの婚約が何らかの形で解消され、その時のリーツェの心が俺を望んでくれたなら……その時はもう一度許可を頂けるだろうか?」

  そう言って頭を下げる俺に公爵は言った。

「頭など下げないで下さい」
「……」
「殿下……もしも本当にその時が来たなら、私は娘の意思を尊重しますよ」

  それが公爵の精一杯の答えなのだと分かった。



────……


  俺はリーツェの両肩に手を置きまっすぐその空色の瞳を見つめた。

「リーツェ。落ち着いて聞いてくれ」
「……」
「リーツェの心配していた通りだった。お祭りの最中に暴動が起きた」

  ひゅっとリーツェが息を呑んだ。
  そして身体が震えている。

「シイラ……」
「シイラ?  それはリーツェの侍女か?」

  リーツェは真っ青な顔で頷く。
  これは……アレか?  前の人生でその侍女が暴動に巻き込まれでもしたのか?
  だから、警備の強化を願ったのか?

「……リーツェ。彼女なら大丈夫だ。下で会ったぞ?  今もキリキリ屋敷で働いている。それとその暴動だがすぐ沈静化出来たよ。リーツェの助言のおかげだ」
「!」

  報告によればリーツェのお願いが無くて俺が動かず、最初の予定通りの警備体制だったらかなり悲惨な事になっていただろうが。

「シイラ……無事? 暴動も……?」
「リーツェ!」

  安心したのか力が抜けて倒れそうになるリーツェを慌てて支える。

「皆、無事だよ。誰もケガもしていないし、被害も起きていない」
「……!」

  震えていたリーツェが俺にしがみつくようにぎゅっと抱き着いてきた。

「よ、よかった……皆……無事……未来、変わった……」

  (あぁ、やっぱり、リーツェは……)

  そのまま泣きじゃくるリーツェが愛しくて愛しくて俺は優しく抱きしめ返した。


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