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65. 破滅に向かう国 ③
❋❋❋
(……なっ!? なんだ今のは!?)
クリフォードは内心で驚きの声を上げた。
父上の叫びとほぼ同時に、突然、眩しく光った空。
それは、まるで何かの合図のようだった。
そして、すぐにドゴォーーンとすごい音がした。
(───近く……に何かが落ちた……?)
「何だっ!?」
「何が起きたんだ!」
「今のは?」
定例会議の行われていた場は大きなパニックとなった。
逃げろという声と、落ち着け、突っ走るなという声───
(ち、父上は?)
こんな時こそ、率先して場を落ち着かせなくてはならないはずの父上は、目を大きく見開き呆然と固まっていて動こうとすらしない。
あの叫びと同時にこんなことになったのだから、気持ちは分からなくもないが、役に立たない。
では、代わりに王子である自分が……そう思うも。
「……っ!」
情けないことに自分も足がすくんで動かなかった。
そんな混乱する場にもたらされた情報は───
「先程の音が何か分かりました!」
「か、雷です……!」
「雷!?」
雨が降っていたわけでもない。空は明るく……むしろここ数日は暑すぎるくらいに晴れていた。
それなのに……?
これはやはり異常現象なのか? クリフォードはそう思った。
(やはり、雨が止んだのはマルヴィナの力が発動したわけではなかったんだ……)
今なら思う。
皆はようやく晴れた! と喜んでいたけれど、ここ数日の暑さだって昔の穏やかさを思えば“異常”だった気がする。
(ルウェルン国を怒らせたから……だけではない……別の方向からも我が国は破滅に……向かっている気が、する)
「───それが、ただの“雷”ではありません!」
ただの雷ではない?
どういう意味だ?
「筆頭魔術師様によると───今の雷は自然現象ではなく…………攻撃魔法とのことです!」
「なっ……」
(こ、攻撃魔法!?)
魔術をほとんど使えないクリフォードにとっては全然、馴染みのない言葉だった。それでも攻撃魔法と言われたら穏やかではいられない。
「はい。魔力を感じるとのことで……雷撃ではないか、と」
その言葉だけで皆、更なるパニックに陥った。
国は守護されたのではなかったのか?
マルヴィナ様はどうした?
父上の元に詰め寄って説明を求める者も多くいたけれど、父上はそれでもまともに動かないし、何も答えられなかった。
「そもそも誰がこんな攻撃を……」
「ルウェルン国の魔術師か!?」
「よく分からんが、彼らならやれるかもしれん!」
───その言葉にクリフォードはハッとした。
これこそが、向こうの王子が言っていたルウェルン国を怒らせた……ということだとする。しかし、ルウェルン国の者が我が国に入り込んで王宮まで来て攻撃魔法を放った? それは可能か?
入国はともかく王宮にまでは来れないだろう。
自分の知っている限り、ルウェルン国の者が王宮に入ったという話は聞いていない……
そう思い訊ねてみる。
「その雷撃……雷が落ちた場所はどこなんだ!?」
「それが───」
しかし、その“雷撃”とやらが落ちた場所は今は使われていない離宮付近だと言う。
離宮は近々、建て壊しが決定していてあの周辺に立ち入る人はいない。
(なぜ、そんな所に……? まさか、わざと人気のない所を狙って……? その場所を知っている者の攻撃…………あっ!)
冷たい汗が背中を流れる。
はっきりとした根拠はない。これはただの憶測だ。だが……
(“彼女”ならやれるのではないか?)
わざわざ国に入国なんてしなくても今いるその場から。
だって、僕は忠告を受けて帰国したのに父上を止められなかった……
魔術師を差し向け、更には兵も送った。
(“彼女”は怒っている……)
クリフォードの脳裏には───マルヴィナの姿が浮かぶ。
これは、父上の言うような加護されたんじゃない。その逆……怒らせたんだ。
マルヴィナが攻撃魔法なんてものを使えるのかは知らないが、彼女の傍らにはルウェルン国一の魔術師が寄り添っている……
「あの、人気のない場所に落ちたなら被害はそこまでではないだろう」
「あぁ、そうだな」
(確かにその通り……火事が発生しても消火活動さえ行っていれば───……)
しかし、そんな安堵の気持ちは次の情報を持って飛び込んで来た者の話でかき消されてしまった。
「───あまりに威力が強かったようで、火の手が王宮にも飛び火しそうです……」
(なっ……)
「それから、消火活動を行おうにも魔術師が……残っておらず人手が足りません……」
「!」
(せめて、雨が降ったままだったなら……!)
あんなに困っていたのに、今はそう思わずにはいられない。
火の粉が王宮にも……その報告に皆の目の色が変わる。
我先にと逃げ出し始めて更なる大パニックになった。
「待て、慌てるな……すぐには大事には至らないはずだから、落ち着いて……!」
残念ながら、僕の声は届かない。
そして、父上は変わらず突っ立ってるだけの役立たず。
(父上、だから、言ったじゃないか!)
心の中でそう悪態をつくも父親を止められなかったのは自分だ。
ルウェルンの王子の目は本気だったのに。
────どこから間違っていた?
ローウェル伯爵家の力に依存してばかりだったこと?
サヴァナに騙されマルヴィナを蔑ろにしたこと?
彼女を一方的に追放したこと?
(今のこの事態も全てマルヴィナの計算なのだろうか……)
───クリフォード様、私、あなたの期待に応えられるように頑張ります!
いつだってマルヴィナはそう言っていた。
たくさん勉強していて、僕のことも気遣ってくれて……優しい人だった。
でも、どこか寂しそうでもあって───
「……っ、なんで今になってそんなことばかり、思い出すんだ……!」
全てはもう遅い。
マルヴィナは新たな自分の居場所と幸せを見つけて、自分の見たことのない綺麗な笑顔を見せて、他の男と一緒に未来へと歩き出していたのだから。
クリフォードは、人々の逃げ惑う声、騒ぐ声を聞きながらゆっくりとこの国の“終わり”を感じていた。
❋❋❋
一方で、王宮が大パニックになっている頃───
私の笑顔に凍りついていた兵たちは、慌てて首を横に大きく振る。
「と、とてもじゃありませんが、帰ってきて下さいとは言えません……」
「我々が……間違っていました」
「無理に押しかけたこと……申し訳ございません」
彼らはあっさり話を受け入れていた。
目の前で自分の国の王宮に雷撃を撃ち込んだと聞かされたというのに、激高するわけでもなく粛々と受け入れるなんて。
魔術師達もそうだったけれど、彼らも心の中ではこたびの件を疑問に思うことも多かったのかもしれない。
(さて、これから先、クロムウェル王国の人たちはどうするのかしら──?)
私は慌てず報告を待つことにした。
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