【完】田舎のお姉ちゃん

柊一郎|くすぐり小説

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【後編】たくさん笑わせる

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「あはははっ、うふふ、だめだっ」

 佳奈ちゃんは、脇の下を守るように腕を下げる。しかし、その挙動がいきなりだったので、僕の手は佳奈ちゃんの脇の下に挟まったまま、行き場を失ってしまった。

 僕は、自分の指を這わせただけで佳奈ちゃんの身体を震わせ、さらに"笑い"という反応を引き出したことで、何か満足感のような、達成感のような興奮を感じ、指を脇の下に忍ばせたまま、しばらくフリーズしてしまっていた。

「ねえ…………くくっ」

「…………?……うふっ」

「…………ねえ、ふふふっ……笑ったから……あはははっ……ちょっと、あっ、あは、手を抜いてよ」

 ――このまま揉むように指を動かしたら、どうなるのだろう――。佳奈ちゃんの体温と、少し汗ばんだ脇の下の柔らかさを感じながら、そんな悪戯心が芽生えるのを自覚する。

「ねえこれ……まだこちょこちょしてるの?……くく、うふふふ、なにしてるのよっ、あはは……」

 佳奈ちゃんの声と身体の痙攣に ハッと我に帰り、僕は急いで手を抜いた。佳奈ちゃんの乱れた呼吸が部屋に響き、それと連動するように、身体が上下に膨らんでは縮む。昨日まで可憐に見えていたお姉ちゃんが、急に人間らしく思えて、興奮と愛着を感じてしまう。

 佳奈ちゃんはといえば、両腕を抱えるように小さく丸まり、あー、こちょばかったと、口を尖らせるのであった。

**

 くすぐり我慢ゲームは、呆気なく終わってしまった。もう少ししたかったなと思ったが、尤もらしい理由がない。

 なんだ、佳奈ちゃん弱いんだと、少し意地悪を言ってみる。しかしこれは紛うことなき事実でもあった。

「え?そうなのかな……考えたこともなかった」

「すぐ笑っちゃったしね」

 佳奈ちゃんは、なんだか口惜しそうな顔をして黙り込む。そして、なによと言いながら、ガバッと起き上がって、また僕のわき腹をつつきはじめた。

「ちょっと、」

「だって。生意気」

 そう言って佳奈ちゃんは頬を膨らませながら、とは言ってもどこか楽しそうに、僕の腹部に細い指を纏わり付かせる。佳奈ちゃんの顔が近づき、女性もののシャンプーの香りがふわりと感じられ、またドキリとする。

 ただ、こそばゆいものはこそばゆい。反射的にその手を払い除けて、逃げるように立ちあがった時、軽く佳奈ちゃんの肩に僕の腰が当たり、また佳奈ちゃんはビーズクッションに ぽふっと倒れ込んだ。

 ごめんと謝りつつ、佳奈ちゃんが身体を起こすのに手を貸そうとしたとき、寝転がる佳奈ちゃんの、裾が少しずり上がったタンクトップから、白いわき腹が見えているのに気づいた。

 ――僕の指が、自然と、そのウエストに伸びる。

「……!!」

 佳奈ちゃんの顔が焦ったように引き攣ったかと思うと、途端に表情が緩んで、転がるように笑い始める。

「いやっ、あははは!ちょ、ちょっと」

 佳奈ちゃんがやってくるから。これは仕返しだから。

 自分に言い訳をしながら、わき腹を軽く引っ掻くように刺激する。佳奈ちゃんの身体が跳ねるように震えたが、何故だか、僕の手を払うことは無かった。

**

「あははははっ、こ、こちょばいっ」

「こちょばいってなに?」

「く、くすぐったいってこと……うふふ、くふふふっ」

 僕の指は、タンクトップの上から刺激を与えていたが、チョットした出来心で、右手だけ裾の中に侵入し、直接わき腹をくすぐってみた。肌の滑らかさと、体温の暖かさが指を通して伝わる。

 その瞬間に佳奈ちゃんの腰が浮き、明らかに笑いの質が変わって、くすくすとした笑いから明確なケラケラ笑いになっていく。

「あっ、だめ、あははははっ、直接は無理っ、きゃあはははははっ……あはは……」

「無理かも、あはははは、く、くるしい」

 僕は調子に乗って、両方の手を裾から忍び込ませる。笑いが一段落と大きくなる。やっぱり、素肌のほうがくすぐったいようである。

 わき腹をこちょこちょと刺激していたが、ふと思い立って、おへその横のあたりに、指を熊手のように立てたかたちで着地させた。その瞬間、佳奈ちゃんは きゃあと声を上げて、僕の手を掴んで制止した。

「はあ……はあ……」

 佳奈ちゃんの顔が紅潮している。恥ずかしいのか、僕の目を見ずに上を向き、大きく呼吸をする。息を吐く度に、笑いの余韻なのか、少し声が震える。

「お腹はだめ」

 どうやらお腹の真ん中あたりが本当に苦手のようで、僕の手を掴む力がかなり強く、それが僕を一層興奮させた。

 上から手を掴まれているが、残念ながら指は動かせる。そのままおへその横をこちょこちょと刺激すると、佳奈ちゃんは痙攣しながら笑いの渦に飲み込まれて、笑いの息継ぎのタイミングで、本当に駄目と、自分のお腹の上を手で覆い隠すのであった。

 佳奈ちゃんは今度ばかりは少しだけ気色ばんで、もう、と抗議した。

 もっとしたいけど、本当に駄目というのだから、強行するわけにもいかない――。と思っていると、

「するなら……べつのところにして」

 と、思いがけない続行許可が下り、僕は気取られないように喜ぶのであった。

**

 僕の指は、約束の地、足の裏へと向かう。佳奈ちゃんも何か察したような風に、恐る恐る膝を折り曲げる。

 しかし自ら足の裏を僕に向けるのは恥ずかしい様子で、土踏まずを隠すように床にぺたりとくっつけている。

 それであればと、足の甲に指先を当てがい、くるぶしのあたりから足の指までをスーっと撫でる。

「…………っ」

 佳奈ちゃんは、顔を膝の間に押し付けて、プルプルと震えながら堪えている。何往復かすると我慢の限界が来て、脚の間からクスクスという笑い声が漏れ始める。髪の毛で顔は見えないが、身体が小刻みに震えているのが分かる。

「これもだめなんだ」

 僕が意地悪く笑い声を指摘すると、うん、そうだねと言いながら、ふふふっと失笑する。

 ぺたりと床に押し付けているといっても、土踏まずの内側の辺りは――文字通りであるが――床を踏めていないため、人差し指を潜り込ませてみる。

 髪の毛の奥から聞こえてきていた小さな笑い声が、徐々に大きくなっていく。足の指がぎゅっと丸まる。僕は片方の足を掴んで、そっと床から引き離してみる。最初は少し力を入れて抵抗していたが、諦めたのか、ゆっくりと綺麗な足の裏をこちらに向けることになる。

「なんだか……えっちだね」

 佳奈ちゃんが恥ずかしそうに言う。僕もそう思い、自分の顔が赤くなっていやしないかと、自分の耳を強めに押さえる。

 それから、足の指の付け根を撫でたり、足の裏の側面を擦ったり、土踏まずをこちょこちょしたり。意外と、面積の小さな足の裏と言えど、色々なくすぐり方があるものだ。

「あっははははは……あはは、こちょばい、うふふっははははっ!そ、そこだめかも」

「どこ?」

「あっ、あっ、そこ、そこだめあははははははっ!」

 僕の指は、佳奈ちゃんの足の裏を縦横無尽に駆け回っているため、どこのことかはイマイチ分からなかった。とにかく、一段と敏感な箇所があるらしい。

 試しに箇所ごとに順番にくすぐってみた。正直、どこもかしこも笑うのであるが、どうやら指の付け根あたりのことであるようだった。当然、重点的にくすぐる。

 佳奈ちゃんはとうとう、言葉を発せられる状態からは程遠くなり、ただ笑うだけになってしまった。

「あはははははっ!ふふふ……あっ、あーっはっはっは……きゃはははは……あはは……」

 佳奈ちゃんはもう、とっくにクッションからずり落ちて、床の上で身体をしならせながら笑い転げている。僕は堪らなくなって、また上半身に指を運び、佳奈ちゃんから笑い声を搾り取る。

 身体が震える。笑う。脇の下を守る。がら空きになったお腹の裾に手を差し込む。びくんと戸惑った身体が丸まり、嬌声に近い笑い声を上げる。

 もはや、仕返しなんてレベルではなく、可哀想なくらいにくすぐられ、佳奈ちゃんはぐったりとしてしまった。

**

 部屋の中に、佳奈ちゃんの激しい息遣いが響く。ふと我に帰り、明らかにやり過ぎなことに気づいた。

「はあ……はあ……ちょっともう、限界……」

 佳奈ちゃんの身体は火照り、タンクトップははだけていて、なんだかいけないことをしている様な気がした。

「や、やりすぎちゃったかな」

「ほんとうにね……!」

「ごめん。くすぐったかった?」

「あたりまえ、でしょ」

 それはそうだと、僕は笑う。佳奈ちゃんも、さっきまでの余韻なのかもしれないが、ふふふっと笑った。

 僕たちは喉が渇いたので、1階に降りて麦茶を準備し、縁側に腰掛けた。外はよく晴れていて、庭のキキョウについた水滴が、キラキラと光っていた。

**

 陽の光が照らす中、汗ばんだ佳奈ちゃんの喉を、ゴクリと音をたてながら麦茶が通り過ぎていく。その姿がとても綺麗で、さっきまでこの人をくすぐり回していたのかと、不思議な気持ちになる。

「あー、生き返った」

 佳奈ちゃんは足をパタパタさせながら、ほっとしたような顔をして言う。

「……実はね」

 佳奈ちゃんはこちらを見ないままに、恥ずかしそうに話し始めた。

 どうやら、高校生になり、周りに合わせて大人な自分を演じるうちに、少し疲れてしまっていたようだった。そんな中で僕が遊びにきて、昔みたいに、戯れあったりしながら遊びたかったと。僕を少しからかいたかったと。

 だから、ちょっかいをかけてきたり、挑発したりしたようであった。

 佳奈ちゃんにとっての想定外は、その戯れあいが結果として"くすぐり"になってしまったことと、想像以上に僕のくすぐり方が――なんというか、執拗だったことだったようだ。あとはね……と何か言いかけたが、頬を赤らめて、何でもないとそっぽを向いた。

「とにかくやり過ぎです」

 佳奈ちゃんが腕を組んで、怒ったふりをしながら言った。

「ごめん」

 謝りながら、がら空きになったわき腹をつついてみると、こらっと笑いながら、身体を丸めるのであった。

 もうすぐ夏が終わる。最後に残したハンバーグの一欠片は、なんというか、とても甘い味がした。

―fin―
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