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第24話 昼食
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道具や焚き火跡の片付けはクライスの私兵に任せることになり、リディ達は先に町に戻ることにした。
「私は仕事があるので私邸へと戻るが君たちは?」
「ギルドへ寄ります。アグリカ氏からの報告もそろそろされていると思うので報酬を受け取りに」
「ふむ、ならこれで昼食でも取るといい。君は礼はいらないと言ったが、これぐらいのことはさせてくれたまえよ」
そう言ってアグリカは10000ジル分の硬貨を差し出した。
「いや、しかし」
「貴族に貸しを作るのが嫌かね? そんなことは考えずに、親切なおじさんに金を貰ったと素直に喜んでくれたまえ。貸しができたと思っているのはむしろこちらだ。あんなモノが町で暴れたらと思うと寒気がする。退治してくれたことには本当に感謝している」
クライスの言葉を聞いて、リディが素直に金を受け取ると、クライスは私邸へと戻っていった。
「臨時収入が入ったな、昼食代には多すぎるぐらいだ」
奮発してくれたのか、貴族らしく金銭感覚がずれているのか、判断はつかないが昼食代としては多すぎる額が手に入った。
「依頼の報酬もこのあとギルドで受け取れるはずだし、祝いも兼ねて昼飯は奮発するか」
硬貨を投げ上げてはキャッチするのを繰り返しながら、リディはニケにそう提案してみた。
「……うん」
「なにか食べたいものあるのか?」
「あの、お米を卵で包んだやつ。えっと……オムライス?」
「あぁ、アサイクで食べたやつだな。わかった探してみるか」
気に入った料理の名前を覚えておけということをニケはちゃんと守っていたようだ。
目的のものが決まったので、オムライスを探して二人は連れ立って町の飲食店を物色する。
探すと言っても詳細なメニューを外に掲示している店は少ない。
これが地元であればどの店がどのような料理を提供しているのか把握しているので問題ないのだが、旅先において食べたいものがその店にあるかは一種ギャンブルのようなものだ。
しかし、予期せぬ美味しいメニューに出会えることもあるので、リディは旅先で知らぬ店に入るのが密かな楽しみでもあった。
この町へ来てから立ち寄った店でオムライスのメニューを見たことはなかったので、二人は今まで行っていない方へと足を伸ばしてみる。アグリカの家があるのと逆の方向だ。
二人で道を歩いていると細い路地に看板が見えた。リディはふと興味が湧いてその路地に入ってみる。店に近づいて見ると思ったとおり料理店で看板には『アイの実』と言う名前が書いてあった。
「オムライスがあるかはわからないが、この店にしてみるか」
リディはニケに聞いてみると『うん』と返事があった。
『アイの実』のドアを押し開けると、ドアに付けられたベルが『カランカラン』と音を立て、店内の視線がリディたちに向いた。
「いらっしゃいませー」
エプロンを付けた若い猫耳の女の子がリディたちに声をかける。年齢はリディと同じか少し若いぐらいで、肩ほどまである黒髪を2つに結んで垂らしていた。
「2名なのだが、大丈夫だろうか」
昼過ぎということもあり、席が空いているのは見ればわかったが、昼に休みを取る店もあるので形式上聞いてみる。
「はい、大丈夫ですよ。お好きな席にどうぞー」
そう言うと女の子はカウンターに引っ込んだので、リディとニケは窓際の席に座ることにした。
少しすると先程の女の子が木の板に書かれたメニューを持ってきたので、リディは受け取りながらオムライスについて聞いてみた。
「この店にオムライスはあるだろうか?」
リディの質問に店員の女の子は少し驚いた顔をする。
「……ふふっ、お客さんこの店はじめてですね?」
「あぁ、そうだが」
「メニューを見て、好きなものを選んでくださいねっ」
質問への回答がないまま、それだけ言って女の子はまたカウンターに戻っていった。
リディは怪訝に思いながらも、仕方なくメニューに目を落とすと、すぐに理由がわかった。
メニューにはオムライスしかなかった。
ブラウンソースにホワイトソース、鹿肉、猪肉、メニューにはソースも具材も多種多様なオムライスが書かれていた。
「ニケはどれにする?」
「えっと、普通のやつ」
「ほー、ニケは冒険しないタイプだな。まぁ王道は失敗もないしな。いい選択だ」
そんなリディはきのこソースのオムライスを選択し、店員の女の子に注文を告げた。
注文が入るとキッチンがにわかに動き出す。
この店の店主と思われる料理人は卵を割り、白身と黄身が溶け合うようにかき混ぜる。カッカッカッカという卵をかき混ぜる音が小気味よく耳に届く。
熱したフライパンにバターを溶かし、具材を軽く炒める。ジューという音とともに、バターの香りに包まれた食材の焼ける匂いがリディとニケのところにも届いた。
具材に火が通ったら、予め炊いてあった米を入れて合わせてさらに軽く炒める。そこに味付けの調味料を入れて、2度3度とフライパンを振るとフライパンの中はオレンジがかった赤に染まった。
炒め終わるとフライパンの中の味のつけたご飯を皿に移す。
そして、フライパンを軽く拭くと、今度は溶いてあった卵を投入し薄く焼き始めた。
フライパンに広がった卵が少し固まったら、軽く混ぜて少し火を入れただけですぐに火から上げると、皿に盛ってあったご飯の上に毛布をかけるように卵を載せた。
卵の表面が固まりきらない絶妙な半熟具合だ。
「ここのは卵を載せるだけなんだね」
「ん?あぁ、確かに。前食べたのはちゃんと包んであるタイプだったな。でもこっちもたぶんおいしいぞ。両方食べてみてから自分がどっちが好きか決めればいいさ」
ご飯にかぶせた卵に更にソースをかけて、一品目が完成したようだ。
ソースにきのこが入っていないので、こっちがニケの注文したこの店における普通のオムライスだ。
店員の女の子が皿を受け取り、リディたちの方へ運んでくる。
「おまたせしました―。卵を載せるタイプですけど、ウチのオムライスはおいしいですよ!」
さっきの会話が聞こえていたのか、店員の女の子はそんなことを言いながらニケの前へと皿を置いた。
リディがキッチンの方を見ると料理人がリディの分の調理に取り掛かっていたが、待っているとさすがに時間がかかりそうだ。
「ニケ、先に食べてていいぞ……って」
リディが言う前にニケはもうスプーンを口に運んでいた。
「もぐもぐ……ん。……何?」
「ニケ、こういう時はみんなの分が揃ってから食べ始めるもんだ」
「そう、なの? ……なんで?」
複数人で食事をする時には通常全員の分が揃うか、『先にいただきます』などと宣言してから食べ始めるものだが、改めてなぜと問われるとリディには説明が難しかった。
「みんな一緒に食べたほうが何かいいだろ」
「んー?」
リディの曖昧な説明にニケからも曖昧な返事しか返ってこない。
「まぁ、ニケは長い間一人だったからな、私といるうちに人と行動するということを学んでおくといい。将来役に立つぞ……たぶん」
「わかった」
温かいうちに食べたほうが美味しいということで、リディは改めてニケに先に食べるように促した。
ニケは村を襲われてからはずっと一人で生きてきたため、社会的な感覚が養われていない。社交性を身につけることは、今後人と関わっていくなら避けては通れない道だ。
ニケが食べる姿を見ながら、リディは自分との関わりをニケがそういうことを学ぶ機会にしようと改めて思った。
「私は仕事があるので私邸へと戻るが君たちは?」
「ギルドへ寄ります。アグリカ氏からの報告もそろそろされていると思うので報酬を受け取りに」
「ふむ、ならこれで昼食でも取るといい。君は礼はいらないと言ったが、これぐらいのことはさせてくれたまえよ」
そう言ってアグリカは10000ジル分の硬貨を差し出した。
「いや、しかし」
「貴族に貸しを作るのが嫌かね? そんなことは考えずに、親切なおじさんに金を貰ったと素直に喜んでくれたまえ。貸しができたと思っているのはむしろこちらだ。あんなモノが町で暴れたらと思うと寒気がする。退治してくれたことには本当に感謝している」
クライスの言葉を聞いて、リディが素直に金を受け取ると、クライスは私邸へと戻っていった。
「臨時収入が入ったな、昼食代には多すぎるぐらいだ」
奮発してくれたのか、貴族らしく金銭感覚がずれているのか、判断はつかないが昼食代としては多すぎる額が手に入った。
「依頼の報酬もこのあとギルドで受け取れるはずだし、祝いも兼ねて昼飯は奮発するか」
硬貨を投げ上げてはキャッチするのを繰り返しながら、リディはニケにそう提案してみた。
「……うん」
「なにか食べたいものあるのか?」
「あの、お米を卵で包んだやつ。えっと……オムライス?」
「あぁ、アサイクで食べたやつだな。わかった探してみるか」
気に入った料理の名前を覚えておけということをニケはちゃんと守っていたようだ。
目的のものが決まったので、オムライスを探して二人は連れ立って町の飲食店を物色する。
探すと言っても詳細なメニューを外に掲示している店は少ない。
これが地元であればどの店がどのような料理を提供しているのか把握しているので問題ないのだが、旅先において食べたいものがその店にあるかは一種ギャンブルのようなものだ。
しかし、予期せぬ美味しいメニューに出会えることもあるので、リディは旅先で知らぬ店に入るのが密かな楽しみでもあった。
この町へ来てから立ち寄った店でオムライスのメニューを見たことはなかったので、二人は今まで行っていない方へと足を伸ばしてみる。アグリカの家があるのと逆の方向だ。
二人で道を歩いていると細い路地に看板が見えた。リディはふと興味が湧いてその路地に入ってみる。店に近づいて見ると思ったとおり料理店で看板には『アイの実』と言う名前が書いてあった。
「オムライスがあるかはわからないが、この店にしてみるか」
リディはニケに聞いてみると『うん』と返事があった。
『アイの実』のドアを押し開けると、ドアに付けられたベルが『カランカラン』と音を立て、店内の視線がリディたちに向いた。
「いらっしゃいませー」
エプロンを付けた若い猫耳の女の子がリディたちに声をかける。年齢はリディと同じか少し若いぐらいで、肩ほどまである黒髪を2つに結んで垂らしていた。
「2名なのだが、大丈夫だろうか」
昼過ぎということもあり、席が空いているのは見ればわかったが、昼に休みを取る店もあるので形式上聞いてみる。
「はい、大丈夫ですよ。お好きな席にどうぞー」
そう言うと女の子はカウンターに引っ込んだので、リディとニケは窓際の席に座ることにした。
少しすると先程の女の子が木の板に書かれたメニューを持ってきたので、リディは受け取りながらオムライスについて聞いてみた。
「この店にオムライスはあるだろうか?」
リディの質問に店員の女の子は少し驚いた顔をする。
「……ふふっ、お客さんこの店はじめてですね?」
「あぁ、そうだが」
「メニューを見て、好きなものを選んでくださいねっ」
質問への回答がないまま、それだけ言って女の子はまたカウンターに戻っていった。
リディは怪訝に思いながらも、仕方なくメニューに目を落とすと、すぐに理由がわかった。
メニューにはオムライスしかなかった。
ブラウンソースにホワイトソース、鹿肉、猪肉、メニューにはソースも具材も多種多様なオムライスが書かれていた。
「ニケはどれにする?」
「えっと、普通のやつ」
「ほー、ニケは冒険しないタイプだな。まぁ王道は失敗もないしな。いい選択だ」
そんなリディはきのこソースのオムライスを選択し、店員の女の子に注文を告げた。
注文が入るとキッチンがにわかに動き出す。
この店の店主と思われる料理人は卵を割り、白身と黄身が溶け合うようにかき混ぜる。カッカッカッカという卵をかき混ぜる音が小気味よく耳に届く。
熱したフライパンにバターを溶かし、具材を軽く炒める。ジューという音とともに、バターの香りに包まれた食材の焼ける匂いがリディとニケのところにも届いた。
具材に火が通ったら、予め炊いてあった米を入れて合わせてさらに軽く炒める。そこに味付けの調味料を入れて、2度3度とフライパンを振るとフライパンの中はオレンジがかった赤に染まった。
炒め終わるとフライパンの中の味のつけたご飯を皿に移す。
そして、フライパンを軽く拭くと、今度は溶いてあった卵を投入し薄く焼き始めた。
フライパンに広がった卵が少し固まったら、軽く混ぜて少し火を入れただけですぐに火から上げると、皿に盛ってあったご飯の上に毛布をかけるように卵を載せた。
卵の表面が固まりきらない絶妙な半熟具合だ。
「ここのは卵を載せるだけなんだね」
「ん?あぁ、確かに。前食べたのはちゃんと包んであるタイプだったな。でもこっちもたぶんおいしいぞ。両方食べてみてから自分がどっちが好きか決めればいいさ」
ご飯にかぶせた卵に更にソースをかけて、一品目が完成したようだ。
ソースにきのこが入っていないので、こっちがニケの注文したこの店における普通のオムライスだ。
店員の女の子が皿を受け取り、リディたちの方へ運んでくる。
「おまたせしました―。卵を載せるタイプですけど、ウチのオムライスはおいしいですよ!」
さっきの会話が聞こえていたのか、店員の女の子はそんなことを言いながらニケの前へと皿を置いた。
リディがキッチンの方を見ると料理人がリディの分の調理に取り掛かっていたが、待っているとさすがに時間がかかりそうだ。
「ニケ、先に食べてていいぞ……って」
リディが言う前にニケはもうスプーンを口に運んでいた。
「もぐもぐ……ん。……何?」
「ニケ、こういう時はみんなの分が揃ってから食べ始めるもんだ」
「そう、なの? ……なんで?」
複数人で食事をする時には通常全員の分が揃うか、『先にいただきます』などと宣言してから食べ始めるものだが、改めてなぜと問われるとリディには説明が難しかった。
「みんな一緒に食べたほうが何かいいだろ」
「んー?」
リディの曖昧な説明にニケからも曖昧な返事しか返ってこない。
「まぁ、ニケは長い間一人だったからな、私といるうちに人と行動するということを学んでおくといい。将来役に立つぞ……たぶん」
「わかった」
温かいうちに食べたほうが美味しいということで、リディは改めてニケに先に食べるように促した。
ニケは村を襲われてからはずっと一人で生きてきたため、社会的な感覚が養われていない。社交性を身につけることは、今後人と関わっていくなら避けては通れない道だ。
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