魔獣の友

猫山知紀

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第62話 鉱物

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「――ここだ」

 ジャッカが足を止めたのは洞窟の行き止まりだった。いくつかの分岐を経てここに辿り着いたため、ここが洞窟の一番奥かはわからない。

 ジャッカが近くにあった魔石灯に光を灯すと、行き止まりになっている洞窟の壁が光に照らされる。壁は層を重ねるように縞模様になっていて、触ってみるとそれぞれ性質の異なる手触りがした。粘土状になっているものや、ザラザラと硬さのあるもの、ポロポロと簡単に崩れてしまうものなど、『洞窟の壁』という一括りではあるが、そのじついくつもの要素が積み重なってそれを構成していた。

 層になった壁には岩や石が埋まっていて、ほとんどが何の変哲もないただの石であったが、いくつか白くぼんやりと光っているように見える石が埋まっている。

「これが?」
「あぁ、鉱魔石だ」

 魔石灯を灯すまでこの白い石の存在には気づかなかった。
 だから、おそらく魔石灯を光を受けて光っているように見えているのだが、淡くぼんやりと光るその様は、石自身が光っているように不思議な魅力に満ちていた。

 目的の鉱物を見つけ、ジャッカは採掘の準備に入る。背中の荷袋を下ろし、中からつるはしを取り出す。そして壁の鉱魔石の一つに狙いを定めると、鉱魔石自体には当てないよう鉱魔石の周囲に器用につるはしを打ち込んでいく。

 周りの土をある程度崩し終わると、鉱魔石を直接手でつかみ壁から引き剥がす。こぶし大ほどの白い石が壁からジャッカの手へと収まった。

 ジャッカは鉱魔石を荷袋へ入れると、続いて別の鉱魔石の採掘を始める。道具のないリディとニケはその様子をただぼーっと見ていた。

 ざくっ、さくっ、きんっ、つるはしを入れる場所によって奏でる音が変わる、ジャッカが作業する間、つるはしの音だけが洞窟に響いていた。


「――あんたら、暇だろ。相手は頼んだぞ」

 ジャッカの突然の言葉にリディは何のことかと一瞬戸惑うが、すぐに言葉の意味を理解する。背後から土壁が崩れるような音が耳に届き、振り返ると壁から歩み出ようとするゴーレムの姿があった。

「ゴーレムは『全部俺が斬る』とか言ってなかったか!?」
「気が変わったんだよ。ほら来るぞ」

 動き始めたゴーレムはリディに狙いを定め、拳を振り抜く。
 リディはとっさに剣を構えてそれを受け止めた。岩でできたゴーレムの拳と、リディの剣がぶつかり、洞窟に金属音が響き渡った。

「正面から受け止めるな、剣が可哀想だろ!」
「剣じゃなくて私の心配をしろ!」
「あんたより剣の刃こぼれの方が心配だ」
「剣が刃こぼれする前に、私が涙を零すこぼすぞ!」

 リディはジャッカと言い合いながらも、ジャッカの忠告を受け入れゴーレムの拳を受け止めるのではなく、器用に躱してかわしていく。重さはあるがゴーレムの動きは遅い、しっかり動きを見れば避けられないことはなかった。

「こいつの倒し方は!?」
「体の中心の岩を斬れ!」
「それは無理だ! もう一つの方」
「ゴーレムの土の部分を崩して崩して崩しまくれ! そうすりゃ、じきに止まる」

 ジャッカの言葉を聞いて、ゴーレムの攻撃を避け回っていたリディは攻撃に転じる。ゴーレムの体の土の部分をめがけて、剣を振り下ろし、剣を振り上げ、剣で突き刺した。

 剣が当たった場所からはパラパラと土が落ちるのみで、ゴーレムが止まる気配はない。が、他の手段もわからないので、とにかくリディはゴーレムのスキを突いては攻撃を続けた。

 ジャッカはそんな様子のリディと、戦いには加わらず近くでリディの様子を見ているニケを交互に見ていた。

「逃げねぇのか……」

 二人の様子をみてジャッカは、そうつぶやいた。


 ザッ、ザッ、ザッとリディの剣がゴーレムの土を削る音が続く。この間ゴーレムの攻撃がリディに当たることはなく、リディはゴーレムの周りを回るようにして移動しながら、ゴーレムに攻撃を加えていった。

 同じ方向に回り続けると、動きを読まれる上に目も回るので、時折反転しながらもう何十回転しただろうか、ゴーレムの動きはまだ止まらなかった。

 崩し終わらないどころか、削ったはずの場所が徐々に戻っているようにも見える。

「はぁ、はぁ、本当に止まるんだろうな……」
「まだ崩し足んねぇんだろうな」

 リディの方を振り向きもせず、ジャッカはつるはしを振るいながら返事をする。

「――思いっきり崩せばいいの?」

 ずっと横で見ていたニケがゆらりと左手を構える。
 ニケはその手に魔力を集めて、いつものように火球を作る。洞窟の中は煌々と光り始めた火球により照らされ、オレンジに染まった。

 そして火球を作り終えたニケは、今まさにゴーレムに向かって火球を撃ち放たんと――。

「「だあぁぁ!ちょっと待てっ!!」」

 リディとジャッカの声が重なった。

「何?」
「撃つな! 洞窟が崩れる!!」
「あ、そうか」

 リディに静止されてニケは手元に作っていた火球を消失させる。離れて見ていたジャッカもほっと胸を撫で下ろす。

「っと、ニケ危ないっ!」

 安心したところに、ゴーレムがニケを目がけて拳を繰り出す。リディはとっさに間に入り、剣でゴーレムの拳を受け止めた。

「んんっ、重いっ!!」

 ゴーレムと戦い始めてから体に魔力を流し、身体強化はしているが、それでもゴーレムの拳は重い。リディはなんとか力を込めてゴーレムを跳ね除けると再びゴーレムの周りを回りながらゴーレムの体を削り始めた。

「ふむ、坊主のことを嬢ちゃんの方が守るのか……」

 ジャッカは抜きかけた剣を戻し、採掘を続けながら戦いに戻ったリディを観察していた。

「魔力の流し方がなっちゃいねぇ。まだかかりそうだな」

 ジャッカは一人そう呟くと、リディから目を話して採掘に集中した。


 リディにゴーレムを任せてから随分時間が経った。
 ジャッカの荷袋は採掘した鉱魔石や鉄鉱石で大きく膨らんでいる。ジャッカはこんなものかと採掘の手を止め、まだゴーレムを削り続けているリディの様子を見ていた。

「ほら、あと少しだ。頑張れ」
「はぁ、はぁ。採掘が終わったなら、斬ってくれてもいいんだぞ」

 リディは口で息をしながら、恨みがましい目でジャッカを睨む。

「人の仕事を奪うのは趣味じゃないんでね。それに――」

 ゴーレムの単調な動きに慣れ、リディは先を読むようにゴーレムの動き出しの瞬間に攻撃の軌道から体をずらし、生まれた時間の余裕を使って2回、3回と剣を振るようになっていた。

 今もゴーレムの攻撃を躱し、削り続けて細くなった腕の部分に攻撃を加える。
 そして細くなったゴーレムの左腕は、遂にリディの攻撃に耐えきれなくなり、『ずん』という音を洞窟に響かせて地面へと落ちた。

「――あと少しだっつったろ?」

 それがきっかけだった。左腕を失ったゴーレムは突如として動きを止め、右腕が落ち、頭が落ち、体が落ち、そして地面へと崩れ落ちたそれらは、ただの土と岩の塊へと還った。

「終わった……のか?」
「あぁ、お疲れさん」
「『もう一つの方法』というのはこれで正しかったのか?」
「あぁ、だが。時間が掛かり過ぎだな」

 それはジャッカの率直な感想だった。

「見ろ、お前らのダチも寝始めてる」

 ジャッカがくいっと親指で指差した方を見ると、ケルベが丸くなって寝る姿勢をとっていた。

「……ケルベ?」

 リディは寝ているケルベの側に近寄り、その体を揺り動かす。少しすると『うー』という唸り声が聞こえた後で、あくびをしながらケルベは起き上がった。

「起きたのか? それじゃ、用事も済んだしさっさと帰るぞ」

 長居をして他のゴーレムが起き始めてもたまらない。
 ジャッカは採取した鉱石が詰められた荷袋を軽々と背負うと、再び先頭になって歩き出す。

 帰り道はわかりやすかった。なにせ行きに点灯させた魔石灯が道を照らしてくれているのだ。分かれ道も明るい方へと向かえばいい。

 帰りの道中に現れたゴーレムは、ジャッカが重い荷物を背負いながら一刀両断するという離れ業を見せ、一行は無事に洞窟の入り口へと戻った。
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