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第75話 逃避
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リディが昨夜魔法で眠りに落ちた時、ラルゴとクララは二人で部屋の様子を窺っていた。
「ようやく落ちたね……」
「ずいぶん掛かったな」
本当はもっと早く落とせるはずだった。そのための仕掛けも部屋に施した。しかし、思ったよりもリディの抵抗があった。リディは自身の魔力を全身に纏い、クララの魔力による侵食を阻んでいた。これは上位の魔獣や、よく訓練された兵士や上位の冒険者が行う魔法に対する抵抗手段である。
こうなると勝負は魔力量の勝負になる。先に魔力の尽きた方が負ける。今回は部屋の仕掛けの補助も受けていたクララに軍配が上がり、リディはクララの魔法によって眠りに落ちることになった。
「なかなか魔力の扱いの上手い子だった。何者だ? ただの旅人じゃなさそうだよ」
「何者でもいいさ。どうせもう会うこともない。行くぞ、子どもたちももう待っている」
ラルゴとクララは自分たちの家から出て村の広場へと向かう。二人は剣と杖を携え、旅装束に身を包んでいた。村の広場には二人と同じように旅支度を整えた村人が集まっている。子供たちを含めた村人全員がそこにはいた。
「待たせたな」
ラルゴは場を仕切っていたバモンに声をかける。
「大丈夫でしたか?」
「あぁ問題ない。クララの魔法で寝かせてある。朝までは起きないだろう」
ラルゴと一緒に家を出たクララは子供たちと合流する。母親というより、上官という雰囲気で子供たちに指示を出し、子供たちをキビキビと動かす。その腰には宝玉の付いた短い杖が短刀のように収められている。
「彼らはなんでここにきたんですかね?」
「あのお嬢さんは迷ったと言っていたが……。まぁ嘘だろうな」
服装や装備品から旅の素人には見えなかったし、そんな旅慣れた者が最も近い街まで数日はかかるこんな村にやってくるわけがない。旅慣れた者は迷ったとわかれば当然引き返す。迷ったとわかっている状態で数日間も歩き続ける旅人はいない。つまり、彼女らは何らかの目的を持ってこの村へとやってきた。ラルゴはそのように考えていた。
ラルゴはリディたちに敵意を感じたわけではなかった。だが、この村は存在してはいけない村だ。リディたちと交流を持つわけにはいかない。リディたちから身を隠す、そのために村人達はここに集まり、村を離れるための準備をしていた。
「皆には不便をかけるな。あのお嬢さんらが早めに立ち去ってくれればよいのだが、居着いてしまうと、また別の土地に行かねばならないかも知れん」
ラルゴたちがこの村に住み始めて、数年が経過していた。
ラルゴたちがこの村跡へ来たのは領主の紹介があってのことだった。ラルゴは個人的にこの地域を管轄する領主に伝手があり、とある事情により長い間集団で身を隠せる場所がないかを相談した時に、この滅ぼされた村の跡を紹介してもらった。
ラルゴたちが初めてこの村に来た時、村はひどい状態だった。家は全て焼け焦げたままで放置され、滅ぼされてから数年が経っていたことで、村全体が草木に覆われたような状態だった。
この村が滅ぼされたことは、一夜にして滅んだというその不気味さから公にはされていない。もともと交易の機会も少ない村であったことから、領主がその事実を把握したのも、村が滅んでからかなりの月日が経ってからだった。
領主がその事実を知った時その自体の不気味さから、調査は早々に切り上げられ、村は放棄されることが決まった。故に領主もラルゴたちがこの村に住むことについては紹介はしたものの、反対の立場であった。しかし、土地を必要とするラルゴに説得され、やむなく了承することとなった。
ラルゴは領主にろくな弔いもできていないという状況を聞いていたので、まず村の端に慰霊の碑を立て、ここに住んでいた亡き村民を弔った。遺体は残っていないので、あくまで形式的なものだが、自身らが無法者ではないという示しをこの村に住んでいた者たちに、そして自身に対しても示しておきたかった。
焼け焦げた家は一旦取り壊し、村の整地を行った。何に焼かれたのか知れないが、灰になった家は軽く力を加えるだけで崩れ落ちるほどに脆くなっていた。
更地になった村の区画整理を行い、人数分の土地を用意する。人数に対して土地は十分に広い。それぞれの家は間隔を広く空けて建てることができそうだ。
家が建つまでは野宿が必要だが、ラルゴたちはすでにいろいろな土地を巡りながら長い間野宿の生活を続けている。家が建つまで野宿を続けるぐらい何ということはなかった。
森の木を切り出し、乾燥させ、できた木材を使って家を建設していく。必要に応じて魔法を使って時間を短縮しているが、思いの外時間がかかる作業だった。何よりラルゴ達の中に建築の専門家がいなかったため、最初の方は何度か作り直しも必要だった。
徐々に作業に慣れ、効率化を行い、建築速度を速めることはできたが、それでも全員分の家を用意するまでに1年ほどが経っていた。
家を用意するのと並行して、畑を作り、村で自給自足するための足しにする作物の準備をする。収穫できるまでには暫く掛かるので、それまでは狩りや山の幸を採ることで食いつないだ。
ラルゴたちがこの村を拠点とすることを決め、作物の収穫が安定し生活が落ち着くまでに更に数年がかかった。
ようやく生活が安定し、落ち着いてきたころに、ラルゴたちは思い切って山を降りた町と交易することに踏み切った。ラルゴ達が行っていた狩りの目的は村の食を繋ぐためのものだったが、副産物として得られた魔獣の爪や牙、毛皮などの素材は丁寧に保管しておいた。いずれ、売り物にすることを予め考えていたからだ。
そうして溜まった数年分の素材を、徐々に売り始め、順調に金を得ることができていたのだが、おそらくそれをきっかけとしてリディとニケがこの村へと来てしまった。ラルゴはヘニーノの町では自らの素性を明かさずに行動していた。故にラルゴを訪ねてこの村に来る者は居ないはずなのだが、それでも交易をする以上一切姿を見せないということもできない。ラルゴの町での行動か、はたまた別の要因か、いずれにせよ交易を始めたことでリディとニケが村を訪れるという結果になってしまった。
「十分待ったと考えていたが、交易を始めるのは時期尚早だったかも知れん」
「それは結果論でしょう。ここいらの強力な魔獣の素材を売るのは現時点で考えられる金策としては最良の選択ですよ。おかげで子供たちの学費を蓄えることもできましたし」
ラルゴの弁に反論を述べたのは近くにいたバモンだった。
「それでもだ。まだ数年の余裕はあるんだ。豪魔素材のような目立つものではなく、農作物にしておけば、と思ってな」
「どのみち、商いは必要なのですから、あまり変わらないと思いますけどね。この村で採れる作物の品質もパッとしませんし売値も知れたものです。農作物で長期戦になるより、豪魔素材での短期決戦の選択は正しかったと私は思います」
「結果、村の皆を巻き込んで姿を隠さねばならないわけだ。後悔はせずとも反省はせねば。あのお嬢さんらをやり過ごした後で、同じ轍を踏むわけにもいかん」
言い終えたラルゴは口を固く結んだ。それは、村の皆を率いる長としてのラルゴの決意の現れだった。
「ようやく落ちたね……」
「ずいぶん掛かったな」
本当はもっと早く落とせるはずだった。そのための仕掛けも部屋に施した。しかし、思ったよりもリディの抵抗があった。リディは自身の魔力を全身に纏い、クララの魔力による侵食を阻んでいた。これは上位の魔獣や、よく訓練された兵士や上位の冒険者が行う魔法に対する抵抗手段である。
こうなると勝負は魔力量の勝負になる。先に魔力の尽きた方が負ける。今回は部屋の仕掛けの補助も受けていたクララに軍配が上がり、リディはクララの魔法によって眠りに落ちることになった。
「なかなか魔力の扱いの上手い子だった。何者だ? ただの旅人じゃなさそうだよ」
「何者でもいいさ。どうせもう会うこともない。行くぞ、子どもたちももう待っている」
ラルゴとクララは自分たちの家から出て村の広場へと向かう。二人は剣と杖を携え、旅装束に身を包んでいた。村の広場には二人と同じように旅支度を整えた村人が集まっている。子供たちを含めた村人全員がそこにはいた。
「待たせたな」
ラルゴは場を仕切っていたバモンに声をかける。
「大丈夫でしたか?」
「あぁ問題ない。クララの魔法で寝かせてある。朝までは起きないだろう」
ラルゴと一緒に家を出たクララは子供たちと合流する。母親というより、上官という雰囲気で子供たちに指示を出し、子供たちをキビキビと動かす。その腰には宝玉の付いた短い杖が短刀のように収められている。
「彼らはなんでここにきたんですかね?」
「あのお嬢さんは迷ったと言っていたが……。まぁ嘘だろうな」
服装や装備品から旅の素人には見えなかったし、そんな旅慣れた者が最も近い街まで数日はかかるこんな村にやってくるわけがない。旅慣れた者は迷ったとわかれば当然引き返す。迷ったとわかっている状態で数日間も歩き続ける旅人はいない。つまり、彼女らは何らかの目的を持ってこの村へとやってきた。ラルゴはそのように考えていた。
ラルゴはリディたちに敵意を感じたわけではなかった。だが、この村は存在してはいけない村だ。リディたちと交流を持つわけにはいかない。リディたちから身を隠す、そのために村人達はここに集まり、村を離れるための準備をしていた。
「皆には不便をかけるな。あのお嬢さんらが早めに立ち去ってくれればよいのだが、居着いてしまうと、また別の土地に行かねばならないかも知れん」
ラルゴたちがこの村に住み始めて、数年が経過していた。
ラルゴたちがこの村跡へ来たのは領主の紹介があってのことだった。ラルゴは個人的にこの地域を管轄する領主に伝手があり、とある事情により長い間集団で身を隠せる場所がないかを相談した時に、この滅ぼされた村の跡を紹介してもらった。
ラルゴたちが初めてこの村に来た時、村はひどい状態だった。家は全て焼け焦げたままで放置され、滅ぼされてから数年が経っていたことで、村全体が草木に覆われたような状態だった。
この村が滅ぼされたことは、一夜にして滅んだというその不気味さから公にはされていない。もともと交易の機会も少ない村であったことから、領主がその事実を把握したのも、村が滅んでからかなりの月日が経ってからだった。
領主がその事実を知った時その自体の不気味さから、調査は早々に切り上げられ、村は放棄されることが決まった。故に領主もラルゴたちがこの村に住むことについては紹介はしたものの、反対の立場であった。しかし、土地を必要とするラルゴに説得され、やむなく了承することとなった。
ラルゴは領主にろくな弔いもできていないという状況を聞いていたので、まず村の端に慰霊の碑を立て、ここに住んでいた亡き村民を弔った。遺体は残っていないので、あくまで形式的なものだが、自身らが無法者ではないという示しをこの村に住んでいた者たちに、そして自身に対しても示しておきたかった。
焼け焦げた家は一旦取り壊し、村の整地を行った。何に焼かれたのか知れないが、灰になった家は軽く力を加えるだけで崩れ落ちるほどに脆くなっていた。
更地になった村の区画整理を行い、人数分の土地を用意する。人数に対して土地は十分に広い。それぞれの家は間隔を広く空けて建てることができそうだ。
家が建つまでは野宿が必要だが、ラルゴたちはすでにいろいろな土地を巡りながら長い間野宿の生活を続けている。家が建つまで野宿を続けるぐらい何ということはなかった。
森の木を切り出し、乾燥させ、できた木材を使って家を建設していく。必要に応じて魔法を使って時間を短縮しているが、思いの外時間がかかる作業だった。何よりラルゴ達の中に建築の専門家がいなかったため、最初の方は何度か作り直しも必要だった。
徐々に作業に慣れ、効率化を行い、建築速度を速めることはできたが、それでも全員分の家を用意するまでに1年ほどが経っていた。
家を用意するのと並行して、畑を作り、村で自給自足するための足しにする作物の準備をする。収穫できるまでには暫く掛かるので、それまでは狩りや山の幸を採ることで食いつないだ。
ラルゴたちがこの村を拠点とすることを決め、作物の収穫が安定し生活が落ち着くまでに更に数年がかかった。
ようやく生活が安定し、落ち着いてきたころに、ラルゴたちは思い切って山を降りた町と交易することに踏み切った。ラルゴ達が行っていた狩りの目的は村の食を繋ぐためのものだったが、副産物として得られた魔獣の爪や牙、毛皮などの素材は丁寧に保管しておいた。いずれ、売り物にすることを予め考えていたからだ。
そうして溜まった数年分の素材を、徐々に売り始め、順調に金を得ることができていたのだが、おそらくそれをきっかけとしてリディとニケがこの村へと来てしまった。ラルゴはヘニーノの町では自らの素性を明かさずに行動していた。故にラルゴを訪ねてこの村に来る者は居ないはずなのだが、それでも交易をする以上一切姿を見せないということもできない。ラルゴの町での行動か、はたまた別の要因か、いずれにせよ交易を始めたことでリディとニケが村を訪れるという結果になってしまった。
「十分待ったと考えていたが、交易を始めるのは時期尚早だったかも知れん」
「それは結果論でしょう。ここいらの強力な魔獣の素材を売るのは現時点で考えられる金策としては最良の選択ですよ。おかげで子供たちの学費を蓄えることもできましたし」
ラルゴの弁に反論を述べたのは近くにいたバモンだった。
「それでもだ。まだ数年の余裕はあるんだ。豪魔素材のような目立つものではなく、農作物にしておけば、と思ってな」
「どのみち、商いは必要なのですから、あまり変わらないと思いますけどね。この村で採れる作物の品質もパッとしませんし売値も知れたものです。農作物で長期戦になるより、豪魔素材での短期決戦の選択は正しかったと私は思います」
「結果、村の皆を巻き込んで姿を隠さねばならないわけだ。後悔はせずとも反省はせねば。あのお嬢さんらをやり過ごした後で、同じ轍を踏むわけにもいかん」
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