婚約者はやさぐれ王子でした

ダイナイ

文字の大きさ
21 / 45
本編

18話 シルヴィアの部屋

しおりを挟む
 シルヴィアが別邸へと移ってから数日。
 屋敷内は、いつも通りの静かな日常へと戻った。

「あいつが来てから悪夢ばかり見ていたが、いなくなっても変わらないか......」

 第二王子のレオンは、一人自室にいた。
 レオンは、婚約者のシルヴィアが来てからと言うもの、過去の夢ばかり見るようになっていた。
 それも、見たくないような悪夢ばかり。

「これも、あいつが料理なんて持って来たりするからだ」

 ここ数日、シルヴィアは毎日のようにレオンに料理を届けに来ていた。
 その全ては、手づくりのものだった。
 レオンが何度拒絶しようと、彼女はそれを無視して持ってくるのを辞めなかった。


 もうすぐ、お昼の時間になる。
 レオンは、扉の方をチラリと見た。

「あぁ、そうだったな。今日からは、食堂で昼飯を食べるのだった」

 シルヴィアは、別邸に移ったのだったと思い出す。
 レオンは、自分で追い出したのだったなと思いながら、食堂へと歩く。


 ◇

 食堂へとつくと、机の上には何もなかった。

「サラ、ご飯が出ていないぞ」

 レオンは、サラの方を見る。
 サラは、ふんっとそっぽを向きながら言った。

「レオン様なんて知りません! 私は決めたんです、ストライクしてやるって!」

「サラ、ストライクではなくてストライキですよ」

「あっ! そうでした、セバスさんありがとうございます」

 サラとセバスチャンは、間抜けなやりとりをしている。

「まぁ、良い。俺が自分で用意する」

 レオンは、サラやセバスチャンに何か言うことはせずに、厨房ちゅうぼうへと入って行く。
 その時、厨房にあるエプロンに目が止まる。

「それは、シルヴィア様のものでございます。ここ数日、レオン様のためにと料理を作っていましたから」

「......そうか」

 レオンは、短くそう言うと食堂の方へと歩いて行った。


 ◇


 食事が終わった。
 レオンが部屋に戻ろうとしていると、声がかけられる。

「レオン様、シルヴィア様の荷造りのお手伝いお願いします」

「俺がやるのか?」

「元はといえば、シルヴィア様を追い出したのはレオンです。増やした仕事は、やってもらわなければなりません」

「まぁ、仕方ない。それくらいはやってやる」

 レオンは、セバスチャンに言われるがままに荷造りをすることになった。
 二人は、そのままシルヴィアの部屋へと向かう。


「うんしょ、うんしょ」

 部屋に着くと、サラが一人で作業をしているところだった。

「あっ、二人とも来たんですね。必要最低限のものはやっておきましたので、後はお願いしますね」

 レオンは、部屋の中を見る。

随分ずいぶんさびしい部屋だな。サラ、もう片付けはしたのか?」

「いいえ? 私がしたのは、下着類だけですよ」

「何、どう言うことだ?」

 レオンは、シルヴィアの部屋を見て驚いた。
 シルヴィアは、アーヴァイン公爵令嬢であり国内でも有数の貴族の娘である。
 それが、これだけの荷物しかないとはどう言うことなのかと驚いた。

「セバス、アーヴァイン公爵家から荷が届く予定でもあるのか?」

「いいえレオン様、そのような予定はございません」

「どういうことだ」

 レオンは、もう一度部屋を見た。
 そこにあるのは、家具は備え付けの机にベッドと衣装ケースのみ。
 それ以外には、衣装ケースに入ったドレスや机に置かれてあるごくわずかなものしかない。

「この手鏡は」

「それは、私がシルヴィア様に貸したものですよ」

 サラが言う。

「このペンは」

「それは、シルヴィア様が手紙を書きたいとおっしゃったので、私が貸した備品です」

 セバスチャンが言う。

「こんなことがあるのか? 嫁入り道具はどこにある」

「シルヴィア様が持って来たのは、ここにあるものが全てでございます。他には何もありません」

 レオンは、ひどくショックを受けた。
 自身も良い扱いは受けては来なかったが、これほどのものではなかった。
 金銭面で困ったこともなければ、最低限のものは全て与えられて来た。

 だが、シルヴィアは違う。
 彼女は、レオン以上にひどい仕打ちを受けていたのだと知った。

 そんな時、机の下に落ちている物に気がついた。
 手に取ると、アーヴァイン公爵からシルヴィアへと書かれた手紙だった。

「お前は何もするな、そこで大人しくしているだけで良い。何も期待していないし。こちらから何か希望することはない。今度は手紙も控えるように、手紙はただではないのだからな、だと?」

 レオンは、手紙を読んでさらにショックを受けた。
 こんなもの、実の娘に書くような内容ではない。

「あいつは、何も言われていないと笑顔で言っていたじゃないか......」

 ショックと同時に、強い怒りも覚える。
 どうして、平然としていられるのだと。

 そんな時、セバスチャンが話しかけて来た。

「レオン様、シルヴィア様が料理をつくる理由は分かりますか?」

「そんなものは分からん」

「前に聞いたのですが。レオン様の、料理のつらい思い出を良い思い出へと変えてあげたい、とシルヴィア様はおっしゃっていました。」

 レオンは、それを聞いてさらに怒る。
 そして、セバスチャンに言う。

「セバス、馬車を用意してくれ」

「そう言うと思って、すでに用意を済ませております。表の入り口に馬車を停めてあります」

 レオンは、それだけ聞くと返事をすることもなく、シルヴィア部屋から出て行った——。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

処理中です...