大魔王からは逃げられない

ダイナイ

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1話

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「好きです」

昼休み。

呼び出された体育館の後ろに来ていた。

靴入れに入っている手紙を見た時は、イタズラかと思った。

期待をしながらもイタズラの可能性を考えながら、体育館の後ろへと向かう。

そこには、学校一の美人と言われているだい舞桜まおがいた。

何かの間違いかと思い、近づいてみるといきなり告白された。

「えっ?」

いきなりの告白に、驚く。

口からもそれ以上の言葉も出ず、俺は固まってしまう。

「私、あなたのことが好きなの」

固まっている俺に対して、大舞桜はもう一度告白をしてきた。

周囲を確認して見るが、この辺には俺しかいない。

目の前にいる彼女は、俺に告白をしているようだ。

頬っぺたを軽くつねる。

「え......」

痛みを感じたことで、これが現実なのだと分かった。

「それってどう言うこと?」

俺は、現実を受け止め切れずに質問をした。

彼女は笑顔になる。

「私があなたのことを好きってことよ。だから——」

そこまで言いかけて、話すのを辞めてしまう。

彼女の顔を見ると、先程までの笑顔は無くなっていた。

その表情は、驚いているようだ。

どうしたのだろうと考えていると、足元が光出した。

俺の足元には、見たこともないような魔法陣がある。

どうやら彼女は、この魔法陣を見て驚いていたようだ。

「あ、待って。嫌、行かないで!」

最後に聞こえたのは、そんな声だった。





「大丈夫?」

声がして目が覚めた。

懐かしい夢を見ていた。

俺がまだ地球にいた頃の夢。

勇者として召喚される前の、平凡な日常を過ごしていた頃の夢。

あれから色々なことがあった。

地球から異世界に召喚された俺は、魔王討伐を目指す勇者になった。

大舞桜から告白された後の召喚はショックだった。

だけど、良いこともある。

こっちの世界で恋人が出来たのだ。

それも二人。

王女に聖女。

俺とパーティを組んで、魔王討伐を目指す仲間だ。

各地で暴れていた魔王軍の四天王は、全て倒した。

後は目の前にある魔王城を落とすのみである。

「休憩は終わりだ。今日、人類の悲願は果たされる。皆、行くぞ!」

俺は、周囲に向けて言う。

周囲にいるのは、俺たちパーティだけではない。

王国軍を始めとして、各国が集まって出来た連合軍がいる。

「勇者さま、あれが魔王城です」

「あぁ」

「後はお任せ下さい。勇者さまは、目の前の敵にだけ集中して下されば良いのです」

作戦は、簡単なものだった。

連合軍が、魔王城周辺にいる軍隊の足止めを行う。

その隙に俺たち勇者パーティが魔王城へと乗り込み、魔王を討つ。

全ては俺にかかっている。

「行くぞぉ!」

俺の掛け声で作戦が始まった。

連合軍が進軍を始め、敵軍へとぶつかる。

「勇者さま、この隙に行きましょう」

この隙に、俺は魔王城へと乗り込んだ。





魔王城の最奥にある、魔王の間。

パーティメンバーは、途中に現れた魔族の相手をしている。

ここにいるのは、俺一人だけ。

魔王の間のドアを開け、中へと入る。

「遅かったね。とても待ったわ」

「え、どうして......。どうして君がここに......」

魔王の間の玉座に座っていたのは、見覚えのある女性だった。

忘れるはずもない。

召喚される前に俺に告白をして来た、大舞桜だ。

「私はね、許せなかったのよ」

「ここは異世界のはずだ......。ありえない、あり得るはずがない」

「それについては、なんとかしたの」

そう、ここは異世界であり地球ではない。

大舞桜、彼女がここにいるはずがないのだ。

彼女は言葉を続けた。

「やっと思いを告げて、私たちは結ばれる運命だった。なのに二人を引き裂いたこの世界が憎い。許せない」

「何を言ってるんだ」

「そこで思ったの。そうだ、こんな世界なんて無くなれば良いって。だってそうでしょ? 私たちを引き裂いた世界なんていらないもの」

彼女が何を言っているのか分からない。

だけど、怒っているのだけは分かった。

「最初は、あなたが逃げたんじゃないかと疑ったわ。怒り狂って暴れたこともあったの。けど、疑った私が馬鹿だった」

「けど、ある時気付いたの。あなたが好きだったアニメやラノベには、異世界召喚があるって。そして、それに巻き込まれたんじゃないかったってね。」

「どうしてそのことを?」

俺がアニメやラノベが好きなことは、中の良い友人しか言っていない。

学校ではただただ普通の、そこら辺にいるような冴えない学生でと思っていたつもりだ。

そして友達も、俺の趣味のことを言うような人ではない。

目の前にいる彼女が、そのことを知っているはずがなかった。

「そんなことはどうでも良いじゃないの。それで、あなたが消えた時に出た魔法陣を思い出してここまで来たの」

「どうしてそこまで......」

学校一の美人である彼女が、わざわざ俺を求めて異世界に来る理由が分からなかった。

どうやって来たのかすらも謎だけど、なんとも言えない恐怖を感じる。

「聞く必要はないと思ったけど、まだあの時の返事が聞けていないもの。それに、変な虫でも付いたら大変じゃない」

そこまで言うと、彼女は急に怒り出す。

どうして怒っているのかまでは、分からなかった。

「ねぇ。どうして、どうしてあなたから他の女のにおいがするの?」

「え、と」

「こうなるから離れるのは嫌だったのよ。どうして私意外の女と話をしたの、私意外の女と触れ合ったの、どうして」

「俺たち付き合ってない......よな?」

「私、あなたのことなら何でも知っているの。あなたが私に好意を抱いていたことを。好き同士ならもう付き合ったも同然よね。私はあなたのことを知っているから、次は私のことを知って貰う番よ」

なんだかヤバイ気がして来た。

彼女は俺の方へと近づいて来て、目の前にまでやって来た。

「それに、知っている?」

「な、何をだ」

彼女は、先程までとは異なり笑顔になった。

「大魔王からは逃げられない」

ニヤリと笑いながらそう言った。





朝の学校。

授業が始まる前に、友人と会話をしていた。

「って言う夢を見たんだけどさ」

「バカだな~。大舞桜さんがお前なんか相手にするわけないだろ~」

「そうだぞ~」

そんな何気ない会話をしていた。

その時、声を掛けられた。

「ね、ねぇ。あなたに昼休みに体育館の後に来て欲しいの」

モジモジとしながら声を掛けて来たのは、学校一の美人と言われている大舞桜だった。

それだけ言うと、すぐに席へと戻ってしまった。

「今のって誰に言ったんだ?」

「お前しかいないだろ......」

「そうだな。お前しかいないな」

確認のために聞くと、友人たちは揃って同じことを言う。

大舞桜は、俺の方を向いて話をしていた。

つまりはそう言うことだろう......。

「ご愁傷様です......」

「ヤンデレ乙」

友人たちは、俺の方を向きながらそう言ってくる。

「さっきのは夢の話だろ?」

友人たちは、肩に手を置いて来る。

無言でその手をポンポンと叩く。

「なぁ、夢だよな? そうだと言ってくれーー」
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