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4話 王子さま主催のパーティー

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「ローラ、何かあったらすぐ戻って来ても良いんだからね」

「もう、大丈夫ですわお母さま。ここまで来たら、何とかなりますわ」

「そう? それなら良いんだけど......気をつけて行ってくるのよ」

 アレックス主催のパーティー会場付近にいた。
 母は会場近くまで見送りにきてくれて、最後まで励ましてくれました。

 公爵領から馬車に乗ってここまで来てくれました。
 この後は、王都にある屋敷で待っていてくれます。
 心強いです。

「では、行って来ますね」

「ローラ、気をつけるのよ! 何かあったらすぐに戻ってくるのよ! 無理だけはしないようにね」

 母の言葉を背中に受けながら、歩き続けました。
 後ろ髪を引かれるような思いですが、公爵令嬢としてのマナーを忘れてはいけません。

 ここからは公の場となる。
 行動の一つ一つ、公爵家として責任のある振る舞いをしなければなりません。
 たった一つのミスですら、家名を汚すことに繋がりかねません。

「失礼ご令嬢、招待状のお待ちですか」

 アレックス主催のパーティー会場である建物の入り口。
 護衛の兵士が、招待状の確認を求めて来ました。
 私は、アレックスからの手紙を見せました。

「こ、これは......なるほど、分かりました。案内をしますので少しお待ち下さい」

「......?」

 それだけ言うと護衛の兵士の一人が、どこかへと行ってしまいました。
 あれ? 他の皆さんはすぐに建物に入って行くのに、私だけ止められてしまいました。
 どういうことでしょうか。

「お待たせしました。ご案内しますので、足元に注意しながらついて来て下さい」

「ええ、ありがとう」

 息を切らしながら兵士が戻って来ました。
 私だけ対応が違うことに困惑しながらも、ついて行くことにします。



「こちらです」

 案内されたのは、パーティー会場ではありませんでした。
 小さな個室のようです。

「パーティーの時間になりましたら、案内の者を寄越します。それまではゆっくりとリラックスをしてお過ごし下さい。入り口に使いの者がいますので、何かあればそちらに」

 では仕事がありますので、と兵士は立ち去ってしまいました。



 ◇


 パーティー前には、個室から会場へと案内されました。
 すでに会場には、多くの同世代の貴族たちが集まっていました。

 今回のパーティーは、アレックス主催としか聞いていないので、何をするかは分かりません。
 貴族たちは、自分たちで好き勝手に話しているようです。

「これはこれはアシュトン公爵家のローラさまではありませんか」

「あら、あなたはたしか——」

「我が家はアシュトン公爵には良くしてもらっています。お父上にはどうかよろしくお願いします」

 声をかけて来たのは、見覚えのある貴族だ。
 アシュトン公爵、お父さまの影響下にある家の貴族の一人です。

「では、私はこれで失礼させてもらいます」

 少しだけ立ち話をすると、立ち去って行く。
 社交の場でのマナーとしてのあいさつに来たみたいです。

 その後も、お父さまの知り合いの家の人たちが来ました。
 アシュトン公爵家との交流を深めるため、娘の私に声かけを忘れないようにです。

 中には、全く知らない貴族もいましたが、交流のチャンスを狙ってのことのようです。
 何人かの相手を終えて、私の元に来る貴族はいなくなりました。

 周囲を見渡す余裕が出来たので、見渡していると。

 ズキン。

 胸が痛むのが分かりました。
 エドガーとその恋人であるデイジーが、腕を組みながら仲よさそうに歩いているのを、目撃してしまいました。

 ズキン。

 やっぱり来なければ良かった......。
 お母さまに言われて来たけれど、直接見ると思っていたよりもショックは大きかったです。

 目が湿りはじめて、涙が出そうになって来ました。
 その時、グイっ、と体を引き寄せられました。

「見たくないものを見る必要はない」

「ど、どなたですの」

「僕を忘れてしまったのかい、ローラ」

「ア、アレックスさま!」

 私のことを引っ張ったのは、なんとアレックスでした。
 アレックスは、エドガーとデイジーを見なくて済むように、私から二人を隠すように立っています。

「そこの君、彼女に何か飲み物を頼む」

「かしこまりました」

 アレックスは、近くにいたメイドに指示を出しました。





「ありがとうございます。少しだけ落ち着きました」

「それは良かった」

 私は、メイドが持ってきた飲み物をのんで、落ち着くことが出来ました。
 アレックスのおかげです。

「まさか本当に君が来てくれるとは思わなかったよ、ローラ」

「本当は来るつもりはなかったのですが......」

 先程のエドガーたちのことを思い出す。

「今はそれでも良い。だけど見たくないものを無理して見る必要はない。今日は君にこの空間を楽しんでほしいんだ」

 アレックスと少しだけ雑談をしました。
 なんてことはない会話だけれども、楽しいです。

「そうだ、最後にダンスを予定しているんだけど、ローラが良ければ一緒に踊ってくれないかい?」

「ええ、私で良ければ喜んで」

 少しだけ悩んでから、答えました。




 ダンスが始まりました。
 周囲にいた貴族たちは、一斉に踊りはじめます。
 私もアレックスと手を取って、踊りはじめました。

「君はダンスがうまいね」
「良き妻となるとように教えられましたから......」
「そうか、それもそうだね」

 踊りながらアレックスと会話をしていきました。

 少し時間が経って、視界にエドガーとデイジーがうつりました。

 ズキン。

「今、この瞬間は俺だけを見てくれ」

「アレックスさま?」

「他のやつを見る必要はない。見るのは俺だけでいい」

 アレックスは顔を真っ赤にしながら、そう言いました。
 なんだが可愛いです。
 私は先程の二人のことはすっかり忘れてしまっていました。




 そんなやり取りを続けながら踊っていると、ダンスが終わってパーティーも終わりの時間になりました。

「今日はありがとうございました。アレックスさまがいなければ、この素晴らしいパーティーを知ることもありませんでしたわ」

「僕の方こそ感謝したいさ。ローラ、君が来てくれて嬉しかったよ」

 アレックスに別れを告げて、パーティー会場を後にしました。
 エドガーとデイジーはすでに会場にはいませんでした——。
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