明の怪物

ダイナイ

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明の怪物

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 授業が終わったことを知らせるチャイムが鳴る。
 急いで用意を済ませて、軽い足取りで帰路を歩く。

 全てから解放された気分になる。
 いつも見ている電柱、小川、小鳥といったいつも見ている風景さえも輝いて見える。
 日常にありふれている光景が輝き、希望に満ちているように思える。

「ただいま」

「おかえりなさい」

 軽い玄関の扉を開けて家に入る。
 家に入ると、母が出迎えてくれた。

 安堵のため息を漏らす。
 今この瞬間から僕は、あの震えるほど怖ろしい怪物から解放されたのだ。

「あんた、宿題早くやっちゃいなさいよ」

 家に帰ると毎日言われることを今日も言われる。
 いつもなら、テレビを見てゴロゴロとダラけて宿題はギリギリまでやらないでいる。

 だが、今日はいつもとは違う。
 手洗いを済ませてすぐに宿題を終わらせる。
 あの怪物に怯えることなく、ゆっくりと過ごせる貴重な時間を過ごすために......

 ◇

 スマホゲームをやりながら、あの怖ろしい怪物を倒す方法を考えてみる。
 今までは怖ろしくて手も足も出なかったけれど、これからは違う。
 今まで何も出来なかった分、一矢報いてやる。

 考えれば考えるほどどうして良いのか分からなくなる。
 あの怪物と戦っても勝てる方法が思いつかない。
 現段階で考えられる手段をいくつかあげてみたが、有効打になりえるものはなさそうだった。

「お兄ちゃん、ゲーム一緒にやっていい?」

「いいぞ。今日は俺に勝てるつもりなのか?」

 部屋でスマホゲームをしていると、妹の雫が話しかけてきた。
 ここの所、連戦連勝である俺に戦いを挑むとは良い度胸だ。
 今日も俺の勝ちは揺るがないだろう。

 対戦するゲームは、最近流行っているオンライン対戦型のスマホゲームだ。
 1vs1で対戦することが出来、課金要素はアバターなどの装飾品のみでキャラクターの強さには影響されない。
 つまり、純粋なプレイ技術のみで相手と対戦を楽しむことが出来るのだ。

「お兄ちゃん少しは手加減してよ~」

 コンボを決めて完勝をすると、妹がそう言った。

「すまんな雫、ゲームでも俺は手を抜かん!」

「けち~、そんなんだからモテないんだよ~」

「ぐっ。」

 雫はゲームで勝てないからと精神的ダメージを与えてきた。
 その後もゲームをポチポチと続けたが、最後まで妹が勝つことは無かった。

 ゲームのついでだからと思い、妹にあの怪物のことを話してみた。
 助言でも貰えれば、解決策が見るかるかもしれない。

「はあ?お兄ちゃんって馬鹿なの?」

 経緯を伝えると、雫は呆れている様子だっ
 た。
 やれやれと言って雫はため息をつく。

「そう言うなって。俺は本気で悩んでるんだぞ」

「それなら学校に行かなければいいんじゃない?」

 お母さんが許すわけもないけどね、小さく続けて妹が話す。
 その瞬間、悩んでいた問題がちっぽけに思えた。
 雫の何気ない一言のおかげで、絶望の中に小さな希望を見つけることが出来た気がする。

「その手があったか。ナイスだ雫!」

「はぁ。こりゃ重症だわ」

 やってられん、と言い残して妹が部屋から出ていく。

 俺は勘違いをしていたみたいだ。
 あの震えるほど怖ろしく、どうやっても勝ち筋の見えない怪物に立ち向かおうとしていたこと自体が間違いだった。
 勝てないなら逃げればいいじゃないか。


 ◇
「ダメです」

 これからは学校には行かないと伝えると、母が短くそう言った。
 母の顔を見ると、呆れている様子だった。

「そ......そんな」

 膝の力が無くなり、土下座をするような形で床へと倒れ込む。
 やっと見えた一筋の光が消え去ったように感じた。

「あんたこれから受験があるって言うのに、何あほなことを言ってるのよ。ダメなものはダメよ。そんなあほなことを言ってる暇があったら、成績でも上げてなさい」

 母はそれだけ言うとキッチンの方へと行った。
 これほど俺が悩んでいると言うのに、夕飯の支度の方が重要らしい。

 悩みに悩んだ末に出た答えを否定され、足取りが重い中部屋へと戻る。
 振り出しに戻り何をして良いのか分からなくてなった。
 その後も解決策を考えるも、見つかるわけもなく食事と風呂を済ませてベットへと入る。

 ◇
 太陽が昇り、部屋に日差しが入り込む。
 ベットから出て学校に行く支度をしようとすると、パジャマが濡れていることに気付く。
 どうやら、寝ている間に大量の汗をかいていたみたいだ。

 それも仕方ないだろう。
 昨日の夜から朝にかけてが、一番あの怪物の存在を感じる瞬間なのだから。
 何もしても勝てず、逃げることさえも許されないあの怪物。

 バタバタと物音が聞こえてくる。
 どうやら雫が朝練に遅れないように急いで準備をしているみたいだ。
 その音は、階段を走るように降りて来て玄関へと向かっている。

「お兄ちゃん先に行ってるよ~。行ってきまーす」

 雫は、大きく元気な声でそう言って外へ出て行った。
 まるで雫は、あの怪物を認識していないかのようだった。

「行ってきます」

 それだけ言うと重い玄関の扉を閉めて外へと出る。
 この瞬間、俺は敗北を悟った。
 この先、何があろうとあの怪物に勝つことはないのだと。

 だから俺は、今日も学校に行く。
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