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幼馴染が恋愛対象に変わる瞬間〜年齢なんて、関係ないだろ?〜
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よく言うだろ?
『小さい頃の恋愛は麻疹みたいなものだ』って。
……でも実際はさ、そんなことないと思うんだ。
俺にはわかるんだ。
幼くたって、ガキだって、好きなものは好きなんだって。
例えば小5……10歳、11歳だって。
幼稚園生にだってあるかもな。
恋愛に本気になるってこと。
――だって、俺がそうだったんだから。
当の本人はまったく、気がついていないけどさ。
俺――坂上拓哉は、高校1年生。
俺は5年前――小学5年生から、ずっと藍に惹かれてる。
幼稚園からずっとずっと一緒だったけど、「幼馴染」から「恋愛対象」に切り替わる、明確な変化を今でも覚えてるんだ。
そう、あれは――サッカーのスタメン選抜の日の話だった。
◇ ◇ ◆ ◆
「行けぇ~! 拓哉~!」
サッカーコートを囲む土手に座り込んで、両手を挙げて応援する藍。
藍はいつだって、俺をいつも全力で応援してくれる。しかも今日は、ただの応援じゃない。
藍の、とびきり元気な応援だ。
それには、理由がある。
――昨日俺が、練習中に足首を捻って、捻挫したから。
テーピングの上から、更にサポーターを巻いての出場。今日はクラブチーム内でスタメンを決定する日。怪我さえしなければ、俺のスタメン入りはほぼ確実だと自他ともに認められていた。
……けど……
正直、利き足を捻挫してしまったことは相当なダメージだ。痛みはなんとか我慢できる。
――でも、パフォーマンスが……。
「拓哉っ!」
絶好のタイミングでパスをもらい、ゴールを決めるココだ! という場面。
――ピキッ、と捻挫した足が悲鳴を上げる。
「ぐうっ……」
俺はパスをそのまま、痛みを堪えてダイレクトシュート。しかし、ゴールポストに弾かれた。
「クソッ……」
俺は地面を、グーで殴る。
いや、腐ってても仕方ない、もう一回だ……!
「頑張れ~! 拓哉~!」
両親も観戦しに来てるけれど、誰よりも熱い檄を飛ばしてくれる藍。
藍の応援が、藍の後押しが……俺の勇気に力をくれる。
――俺は最後まで、諦めない!
――――――――――――――――。
――――――――――――。
――――――――。
――――――。
――結果は、スタメン落ち。
怪我さえしなければ……!
健康であったならば……!
「たら」と「れば」が、心の中を何度も去来する。でも、結果は結果。
自己管理も調整のうちだ……。
仕方ない……。
――そう、頭ではわかっていても。
悔しい気持ちが、何度も何度も頭を巡って、無意識のうちに、ポロリ、ポロリと泣いていた。
かける言葉すら見つからず、俺たちの一歩前を歩く両親。俺と藍は、両親の背を見ながらとぼとぼと着いていく。
無言が続く。
藍にも両親にも、申し訳なかった。
あんなに、応援してくれたのに。
――そしてなにより。
俺が、悔しくて、悲しかった……。
「拓哉、私、次はもっともっと、応援するからね! 誰にも負けないくらい、おーーーっきな声で!」
そう言って、前を見て。
涙を流す俺のほうは見ずに、敢えて元気に、話し始めた。
そうかと思えば。
「拓哉……。私、誰よりも拓哉のこと応援してるからね。拓哉のお父さんよりも、お母さんよりも」
少し間を置いて、しっとりと、話し始めた。
父親のいない藍にとって、どのような気持ちでこの言葉を発しているんだろう、と思うと、グッと胸にくるものがある。
「藍……」
「拓哉、コレ!」
言いながら、藍はポケットからなにかを取り出し、両手を握ってぎゅうっと紙袋を押し付けてきた。
「気に入ってくれるか、わからないけれど……」
夕陽を背に微笑む藍の目にも、薄ら涙が浮かび上がっていた。――藍も悔しんで……悲しんでくれていたんだ。
この時からだ。
――触れ合う手……藍のことを、意識し始めたのは。
「ね、開けてみて」
「うん」
ラッピングされた茶の紙袋を開けると、中には真っ赤なリストバンドが入っていた。
「藍――これ……」
「プレゼント! これからも拓哉が頑張れますように。そしてもう、怪我しませんように。願いを込めて」
「……ありがとう……」
俺と藍は手を繋いで、夕陽の穏やかな光を浴びながら、悔しさと嬉しさを胸に、家路についた。
◇ ◇ ◇ ◇
藍のことを意識してからというもの、俺はなかなかに苦労してる。
今まで全然気づかなかったけど、というか俺が疎かっただけなんだけど。
藍ってめちゃくちゃモテるんだ。
小さめの身長に、細身の身体。
地毛が茶色でゆるっとした髪質を今日はポニーテールにしてて、後毛までめちゃくちゃ可愛い。
目も大きめで鼻筋も通ってて、整った顔しているし……なにより。
天真爛漫でくるくると変わる表情が可愛いんだ。
――俺は、めちゃくちゃ忙しい。
ライバルの牽制しなきゃならないし(これ重要)、
カッコよく見せるためのファッションの勉強のために、本も何冊か読んでみた。いわゆる、ファッション雑誌? ってヤツだ。
あとは、なんだかんだ理由をつけて藍と一緒にいる時間を作ること!
――ストーカーとか言うなよ?
恋は闘い。
ただ待つ者には福音なんて訪れないんだよ。
だから、苦手な勉強も頑張って藍の志望校まで学力上げて同じ高校に入ったし。
……あとは。
藍が応援してくれるサッカーを、ひたすら頑張る。
――そう、今日も。
フェンス越しに応援しに来てくれている藍の前で、一本でも多くゴールを決められるように、練習を積んで、頑張るんだ。
「拓哉~! 頑張れ~!」
「おー!」
俺は右手に着けた赤いリストバンドを、藍に見えるように高く掲げる。
「坂上! ナイスシュート!」
「よっし!」
「拓哉ー! やったね!」
俺はゴールを決めるたびに、リストバンドにキスをして、藍に向かって拳を突きつける。
俺の気持ち、気づいているやつもいるだろう。
よくやるなアイツ、って思ってるヤツもいるだろう。
俺は昔から、周りの目なんて気にしてない。
気づかれたって別にいいんだ。
なんと思われたって、別にいいんだ。
ま、これも牽制のうちだからな。
だって。
――俺の一番はいつだって、藍なんだから。
ただの幼馴染じゃない、大好きな女の子なんだから。
『小さい頃の恋愛は麻疹みたいなものだ』って。
……でも実際はさ、そんなことないと思うんだ。
俺にはわかるんだ。
幼くたって、ガキだって、好きなものは好きなんだって。
例えば小5……10歳、11歳だって。
幼稚園生にだってあるかもな。
恋愛に本気になるってこと。
――だって、俺がそうだったんだから。
当の本人はまったく、気がついていないけどさ。
俺――坂上拓哉は、高校1年生。
俺は5年前――小学5年生から、ずっと藍に惹かれてる。
幼稚園からずっとずっと一緒だったけど、「幼馴染」から「恋愛対象」に切り替わる、明確な変化を今でも覚えてるんだ。
そう、あれは――サッカーのスタメン選抜の日の話だった。
◇ ◇ ◆ ◆
「行けぇ~! 拓哉~!」
サッカーコートを囲む土手に座り込んで、両手を挙げて応援する藍。
藍はいつだって、俺をいつも全力で応援してくれる。しかも今日は、ただの応援じゃない。
藍の、とびきり元気な応援だ。
それには、理由がある。
――昨日俺が、練習中に足首を捻って、捻挫したから。
テーピングの上から、更にサポーターを巻いての出場。今日はクラブチーム内でスタメンを決定する日。怪我さえしなければ、俺のスタメン入りはほぼ確実だと自他ともに認められていた。
……けど……
正直、利き足を捻挫してしまったことは相当なダメージだ。痛みはなんとか我慢できる。
――でも、パフォーマンスが……。
「拓哉っ!」
絶好のタイミングでパスをもらい、ゴールを決めるココだ! という場面。
――ピキッ、と捻挫した足が悲鳴を上げる。
「ぐうっ……」
俺はパスをそのまま、痛みを堪えてダイレクトシュート。しかし、ゴールポストに弾かれた。
「クソッ……」
俺は地面を、グーで殴る。
いや、腐ってても仕方ない、もう一回だ……!
「頑張れ~! 拓哉~!」
両親も観戦しに来てるけれど、誰よりも熱い檄を飛ばしてくれる藍。
藍の応援が、藍の後押しが……俺の勇気に力をくれる。
――俺は最後まで、諦めない!
――――――――――――――――。
――――――――――――。
――――――――。
――――――。
――結果は、スタメン落ち。
怪我さえしなければ……!
健康であったならば……!
「たら」と「れば」が、心の中を何度も去来する。でも、結果は結果。
自己管理も調整のうちだ……。
仕方ない……。
――そう、頭ではわかっていても。
悔しい気持ちが、何度も何度も頭を巡って、無意識のうちに、ポロリ、ポロリと泣いていた。
かける言葉すら見つからず、俺たちの一歩前を歩く両親。俺と藍は、両親の背を見ながらとぼとぼと着いていく。
無言が続く。
藍にも両親にも、申し訳なかった。
あんなに、応援してくれたのに。
――そしてなにより。
俺が、悔しくて、悲しかった……。
「拓哉、私、次はもっともっと、応援するからね! 誰にも負けないくらい、おーーーっきな声で!」
そう言って、前を見て。
涙を流す俺のほうは見ずに、敢えて元気に、話し始めた。
そうかと思えば。
「拓哉……。私、誰よりも拓哉のこと応援してるからね。拓哉のお父さんよりも、お母さんよりも」
少し間を置いて、しっとりと、話し始めた。
父親のいない藍にとって、どのような気持ちでこの言葉を発しているんだろう、と思うと、グッと胸にくるものがある。
「藍……」
「拓哉、コレ!」
言いながら、藍はポケットからなにかを取り出し、両手を握ってぎゅうっと紙袋を押し付けてきた。
「気に入ってくれるか、わからないけれど……」
夕陽を背に微笑む藍の目にも、薄ら涙が浮かび上がっていた。――藍も悔しんで……悲しんでくれていたんだ。
この時からだ。
――触れ合う手……藍のことを、意識し始めたのは。
「ね、開けてみて」
「うん」
ラッピングされた茶の紙袋を開けると、中には真っ赤なリストバンドが入っていた。
「藍――これ……」
「プレゼント! これからも拓哉が頑張れますように。そしてもう、怪我しませんように。願いを込めて」
「……ありがとう……」
俺と藍は手を繋いで、夕陽の穏やかな光を浴びながら、悔しさと嬉しさを胸に、家路についた。
◇ ◇ ◇ ◇
藍のことを意識してからというもの、俺はなかなかに苦労してる。
今まで全然気づかなかったけど、というか俺が疎かっただけなんだけど。
藍ってめちゃくちゃモテるんだ。
小さめの身長に、細身の身体。
地毛が茶色でゆるっとした髪質を今日はポニーテールにしてて、後毛までめちゃくちゃ可愛い。
目も大きめで鼻筋も通ってて、整った顔しているし……なにより。
天真爛漫でくるくると変わる表情が可愛いんだ。
――俺は、めちゃくちゃ忙しい。
ライバルの牽制しなきゃならないし(これ重要)、
カッコよく見せるためのファッションの勉強のために、本も何冊か読んでみた。いわゆる、ファッション雑誌? ってヤツだ。
あとは、なんだかんだ理由をつけて藍と一緒にいる時間を作ること!
――ストーカーとか言うなよ?
恋は闘い。
ただ待つ者には福音なんて訪れないんだよ。
だから、苦手な勉強も頑張って藍の志望校まで学力上げて同じ高校に入ったし。
……あとは。
藍が応援してくれるサッカーを、ひたすら頑張る。
――そう、今日も。
フェンス越しに応援しに来てくれている藍の前で、一本でも多くゴールを決められるように、練習を積んで、頑張るんだ。
「拓哉~! 頑張れ~!」
「おー!」
俺は右手に着けた赤いリストバンドを、藍に見えるように高く掲げる。
「坂上! ナイスシュート!」
「よっし!」
「拓哉ー! やったね!」
俺はゴールを決めるたびに、リストバンドにキスをして、藍に向かって拳を突きつける。
俺の気持ち、気づいているやつもいるだろう。
よくやるなアイツ、って思ってるヤツもいるだろう。
俺は昔から、周りの目なんて気にしてない。
気づかれたって別にいいんだ。
なんと思われたって、別にいいんだ。
ま、これも牽制のうちだからな。
だって。
――俺の一番はいつだって、藍なんだから。
ただの幼馴染じゃない、大好きな女の子なんだから。
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