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第2章 審判の関所
2-19 魔力操作と即興錬成
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『彼女がミミリの母親、ですか。それではあの騎士はもしかして……』
「パパ……なのかなぁ。もしかして」
『もしかして、ということはミミリにも詳しくわからないのですか』
「うん。名前も、顔も。全然わからないの。だからね、この『体育館』をクリアできたら教えてほしいな。どんなことでも、知りたいの!」
『……貴方には、恨んだり、憎んだり、そういう感情はないのですね』
「……アンタ……」
うさみは、ピロンに話しかけようとして言い淀んでやめた。
うさみとピロンは、悪態をつきつかれる犬猿の仲。
とはいえ、うさみはピロンのポップアップらしくない人間臭い性格は嫌いではなかった。どのような事情があろうとも、親が幼い我が子を置いて旅に出るなど、子の立場からすれば許し難い行為。
「恨み」や「憎み」は、ピロンなりに、ミミリの心情を推し量っての発言だろう。うさみは、ピロンとミミリのやりとりに口を挟むのをやめた。
そしてそれはゼラも一緒だったが、うさみとは違う思いが胸中に渦巻いているのか、あのゼラが珍しく苦い顔をしてピロンを見ている。
「……ゼラ、アンタ……」
と、うさみがゼラに声をかけようと思ったが、これも思いとどまりやめるうさみ。
……ゼラの件は特に、本人が話したくなるまで触れていい問題ではないわね。
雷電石の地下空洞での長い暗闇の階段でゼラのトラウマに触れて以降、それまでも時折見せていたゼラが抱えるであろう心の棘なのか闇なのかがうさみは心配でならなかった。しかし本人の許可なく立ち入れる領域ではないため、うさみは心配から声をかけたい気持ちをそっと心の奥にしまう。
『……ミミリ、私は、貴方の助けになりたい。私が知っていることならば、喜んでお話しましょう』
「ありがとう!」
ミミリの屈託のない笑顔。
ゼラは、ミミリの笑顔でフッと我に返り、小さく首を振った後、いつもの明るいゼラに戻った。
「……よーし! じゃあ、俺がサクッと跳び箱50段、クリアしちゃおうかな⁉︎」
「すごーい! ……でも、見てるだけじゃなくて私にも何かお手伝いできたらいいんだけど……。――! そうだ‼︎」
ミミリは【マジックバッグ】の中から錬金釜と愛用の踏み台、雷のロッドを取り出しいそいそと錬成を開始した。
「たぶん、作れる気がする。よーし! 頑張るぞ」
ミミリはブツブツと、ああでもない、こうでもないと工程をアウトプットしながら、筋道を立てていく。見習い錬金術士の即興錬成に、くまゴロー先生が一番釘付けになった。
うさみもゼラも、ミミリの閃きの瞬発力と逞しさに胸が熱くなる。
「さすが、私のミミりんだわ」
「……俺たちのミミりんな?」
『ゼラは気安くミミりんと呼ぶべきではありませんね』
「あら、私が言おうと思っていたこと、代弁してくれちゃって」
『私は空気が読めるポップアップですから、うさみ姉様』
「よくできた妹分だわ」
普段犬猿の仲の2人も、ゼラをからかうときだけは例外らしい。
「……まったく、困った姉ちゃんたちだよ。こんな時だけ息ぴったりで。よし! ミミリの錬成は楽しみだけど、俺は俺で、頑張るのみだな!」
『……姉ちゃん、悪くない。ゼラ、姉ちゃんから貴方へ、慈悲のワンポイントアドバイスです。攻略の鍵は魔力操作。身体に巡る魔力の流れを意識するのです』
「魔力の流れ、か……」
――キュッ!
ゼラは力一杯駆け出した。ゼラの運動靴と、鏡面のような木目の床材の擦れる音をその場に残し、あっという間にダークぷるの踏切板へ。
――ブニッ!
踏切板の沈む音。
そして踏切板の反発力で、ゼラの身体は宙に舞う。
「うあっ!」
ゼラの眼前には、跳び箱の茶色が。
ゼラは危なく、顔面を打ち付けるところで肘を曲げて顔を守った。そして右肩を犠牲に衝撃を受け流し、身を捩りながら着地する。
「うわっ、危なかった。持ち前の脚力だけじゃクリアできないってことか。……魔力操作、か……」
冷静に分析しようとするゼラに、驚きが隠せずうさみは呟く。
「……ゼラの3人分よりおっきいくらいの高さだっていうのに、てっぺんに手が届きそうな勢いだったわよ。まったく、うちの子たち、なかなかやるじゃない」
うさみの褒め言葉はゼラの耳には届かなかったが、褒め言葉の後押し無くとも、ゼラの心はすでに前に向いている。
「……よし! もう一回だ!」
――キュッ!
ゼラはまた一歩踏み出した。今度は身体に流れる、自身の魔力を意識して。
ドクン、ドクンと脈打つ心臓。血液のように、巡る魔力。不思議と感じる、帯電する魔力の流れ。
……属性習得ってこういうことか。俺は今、雷と同化している。電力を、力に変換すればいい!
短剣に雷属性を付帯させるかのように、ゼラは足首からふくらはぎにかけてのみ、雷を纏った魔力を集中させた。
――ブニッ!
ゼラは再び宙に舞う。
踏切板の反発力の助けも奏功して、ゼラの両手は跳び箱の最上段、木箱に被せられた白く分厚い布の上に。ゼラの後頭部の結い目から流れるように風に靡く2本の紺のバンダナ。開脚した両足も着地の頃にはしっかり閉じて、背筋正しく両手は上げて降り立った。
――パチパチパチパチ!
見事な跳躍に、飛び交う賞賛の拍手。
それほどまでに、ゼラは素晴らしい魔力操作を魅せてくれた。
「やるじゃない、ゼラ!」
『私の、ワンポイントアドバイスが活かされて何よりです』
素晴らしいジャンプを見せたゼラを見て、ミミリも一言。ゼラの活躍は、ミミリのやる気に拍車をかけた。
「よーし! 私も、頑張っちゃうよ!」
熱気あふれる会場で、ただ1人、無言なくまゴロー先生。彼の熱意は、ミミリの錬金釜にのみ向いていた。
――そして迎えた50段。
ゼラはすでに、何度も挑み敗れている。
49段までなんとかクリアしたゼラだったが、魔力操作をもってしても、49段の壁はかなり高かった。脚力というよりは、腕の力で無理矢理跳び越えたようなもの。ギリギリの跳躍は、背を逸らさなければならなかった。危うく跳び箱に背を強打するかしないかのギリギリの闘い。
49段ですら苦しかったのに、50段ともなると。
たった一段、されど一段。
この一段の壁はかなり高い。ゼラの魔力操作とダークぷるの踏切板の反発力をもってしても、この一段は何かの助力なくして越えることはできなそうだ。
『ゼラ、足首からふくらはぎにかけて魔力を集中させているから今ひとつパワーに欠けるのでは? 足のひらにも魔力を集中させるべきです』
「……それだと、ダークぷるを感電させちゃうからな」
「……ぶ、ぶー!」
「剣聖の逆鱗、もダメよね? 敵対心でぷるぷるたちが正気失っちゃうかもしれないし」
うぅ~ん、と悩み唸りながら全員が見たのは、頼れる見習い錬金術士、ミミリの背中。期待を一身に背負ったミミリの手はピタリと止まり、タイミングよく、錬成は終わる。
「ーー錬成終了、回収!」
ミミリの手元に浮かび上がる、分厚く四角い輝くマット。ふるふる揺れる見た目は、まるでぷるぷるのよう。黄とも金ともいえない見慣れた輝きを放つそれは、おそらく雷電石で作られている。
その証拠にそれを持って跳び箱へと移動するミミリの両手には、雷属性を絶縁する、【絶縁の軍手(グローブ)】がはめられている。
踏切板の役割を果たしていたダークぷるに、観客組のダークぷる2体に合流して応援をするよう依頼したミミリ。踏切板の代わりに、回収したばかりの錬成アイテムを跳び箱の前に設置した。
「ゼラくん、お待たせ! 足のひらにも魔力を集中させて、跳んでみて!」
「……爆発したりは、しない、よな?」
「うーん、たぶん大丈夫かな? 3割くらいは」
「よ、よし! やるぞ! たとえ爆発しても、俺はやるぞ!」
ゼラの決意を挫くように、うさみはポソリと発言する。今度はゼラにも、バッチリ聞こえた。
「……3割って、かなり爆発確率高い方ね」
「言うな、うさみー!」
――キュッ!
再びゼラは、走り出す。
……爆発しても、致命傷くらいで済めばいいな。【弾けるピギーウルフのミートパイ】を食べた睡眠蝶の幼虫みたいに、弾けなければ恩の字だ。
――ブニッ!
感触は、ダークぷるの踏切板のようだった。
異なるのは、その、圧倒的な反発力。
「う、うわあああああああああ!」
ゼラの身体は、宙に簡単に投げ出された。
あわや、天井に頭を打ち付けるかとヒヤリとしたところ。ゼラは宙から、着地点を確認する。
「あっ! エェ⁉︎」
着地点には、なぜかミミリの姿が。
踏切板の反対側、今まで3色団子色のぷるマットがあったところに、別の錬成アイテムを設置し終わったようだ。
「……えぇぇ⁉︎ どういうことだ? ミミリ、危ないからどいてくれえええええ!」
「こっちだよー!」
ゼラの心配をよそに、真下からのほほんと手招きするミミリ。
……ミミリに激突しないように、狙いを定めて降りねぇと!
と、ゼラが考えながら足を着地点のマットに向けた瞬間、ゼラの視界も思考も激しくブレた。
「うおおおおおおおお!」
ゼラはふわりと舞い降りるのではなく、ミミリが新たに設置した錬成アイテムに、吸い込まれるように落ちていく。
――ブルン!
そしてゼラは半ば強制的に、両足を揃えた状態で輝くマットの上に見事に着地を決めた。
大きさはゼラの体型の一回り大きいくらいのそのマット。狙い澄まして着地しない限りはピンポイントで着地することなど無理に等しい。
だからゼラは不思議でならない。マットに狙いを定める前に、強制的に着地させられたのだから。
「……言いたいことは、たくさんある。けど、真っ先に言いたい。さすがです、俺のミミリさん」
「どさくさに紛れておかしなこと言わないでくれる? コシヌカシ! 私のミミリだからね⁉︎」
「うあ、うあ! 今の忘れてくれ! 俺たちのミミリって言おうとしたんだ!」
うさみの指摘も真っ当だ。
ゼラの驚くほどに無様な格好から推察するに、思わず願望が口を突いて出てしまったのだろう。
両手を上げたまま膝は軽く曲げて、腰は明らかに入っていない。まさに、コシヌカシの姿勢。今は更に真っ赤に顔を茹であげて、乙女のように顔を隠して打ち震えている。
「ふふふ、言い間違いってわかってるから、気にしなくて大丈夫だよ? ゼラくん」
「……それはそれで、うああああああ!」
『なんて哀れな弟分』
「そうね、右に同じだわ」
会話に一切参加せず、錬成アイテムに興味津々のくまゴロー先生。
「ミミリさん、ぜひ、興味深い錬成アイテムをご説明願いたいのですが」
「もちろんです! 【ぷるみずまんじゅう】でティータイムにしたいです! それにピロンちゃん、パパとママの、お話も」
『えぇ、喜んで。……それはそうと、あまりに哀れな弟分を誰かフォローしないのですか?』
「パパ……なのかなぁ。もしかして」
『もしかして、ということはミミリにも詳しくわからないのですか』
「うん。名前も、顔も。全然わからないの。だからね、この『体育館』をクリアできたら教えてほしいな。どんなことでも、知りたいの!」
『……貴方には、恨んだり、憎んだり、そういう感情はないのですね』
「……アンタ……」
うさみは、ピロンに話しかけようとして言い淀んでやめた。
うさみとピロンは、悪態をつきつかれる犬猿の仲。
とはいえ、うさみはピロンのポップアップらしくない人間臭い性格は嫌いではなかった。どのような事情があろうとも、親が幼い我が子を置いて旅に出るなど、子の立場からすれば許し難い行為。
「恨み」や「憎み」は、ピロンなりに、ミミリの心情を推し量っての発言だろう。うさみは、ピロンとミミリのやりとりに口を挟むのをやめた。
そしてそれはゼラも一緒だったが、うさみとは違う思いが胸中に渦巻いているのか、あのゼラが珍しく苦い顔をしてピロンを見ている。
「……ゼラ、アンタ……」
と、うさみがゼラに声をかけようと思ったが、これも思いとどまりやめるうさみ。
……ゼラの件は特に、本人が話したくなるまで触れていい問題ではないわね。
雷電石の地下空洞での長い暗闇の階段でゼラのトラウマに触れて以降、それまでも時折見せていたゼラが抱えるであろう心の棘なのか闇なのかがうさみは心配でならなかった。しかし本人の許可なく立ち入れる領域ではないため、うさみは心配から声をかけたい気持ちをそっと心の奥にしまう。
『……ミミリ、私は、貴方の助けになりたい。私が知っていることならば、喜んでお話しましょう』
「ありがとう!」
ミミリの屈託のない笑顔。
ゼラは、ミミリの笑顔でフッと我に返り、小さく首を振った後、いつもの明るいゼラに戻った。
「……よーし! じゃあ、俺がサクッと跳び箱50段、クリアしちゃおうかな⁉︎」
「すごーい! ……でも、見てるだけじゃなくて私にも何かお手伝いできたらいいんだけど……。――! そうだ‼︎」
ミミリは【マジックバッグ】の中から錬金釜と愛用の踏み台、雷のロッドを取り出しいそいそと錬成を開始した。
「たぶん、作れる気がする。よーし! 頑張るぞ」
ミミリはブツブツと、ああでもない、こうでもないと工程をアウトプットしながら、筋道を立てていく。見習い錬金術士の即興錬成に、くまゴロー先生が一番釘付けになった。
うさみもゼラも、ミミリの閃きの瞬発力と逞しさに胸が熱くなる。
「さすが、私のミミりんだわ」
「……俺たちのミミりんな?」
『ゼラは気安くミミりんと呼ぶべきではありませんね』
「あら、私が言おうと思っていたこと、代弁してくれちゃって」
『私は空気が読めるポップアップですから、うさみ姉様』
「よくできた妹分だわ」
普段犬猿の仲の2人も、ゼラをからかうときだけは例外らしい。
「……まったく、困った姉ちゃんたちだよ。こんな時だけ息ぴったりで。よし! ミミリの錬成は楽しみだけど、俺は俺で、頑張るのみだな!」
『……姉ちゃん、悪くない。ゼラ、姉ちゃんから貴方へ、慈悲のワンポイントアドバイスです。攻略の鍵は魔力操作。身体に巡る魔力の流れを意識するのです』
「魔力の流れ、か……」
――キュッ!
ゼラは力一杯駆け出した。ゼラの運動靴と、鏡面のような木目の床材の擦れる音をその場に残し、あっという間にダークぷるの踏切板へ。
――ブニッ!
踏切板の沈む音。
そして踏切板の反発力で、ゼラの身体は宙に舞う。
「うあっ!」
ゼラの眼前には、跳び箱の茶色が。
ゼラは危なく、顔面を打ち付けるところで肘を曲げて顔を守った。そして右肩を犠牲に衝撃を受け流し、身を捩りながら着地する。
「うわっ、危なかった。持ち前の脚力だけじゃクリアできないってことか。……魔力操作、か……」
冷静に分析しようとするゼラに、驚きが隠せずうさみは呟く。
「……ゼラの3人分よりおっきいくらいの高さだっていうのに、てっぺんに手が届きそうな勢いだったわよ。まったく、うちの子たち、なかなかやるじゃない」
うさみの褒め言葉はゼラの耳には届かなかったが、褒め言葉の後押し無くとも、ゼラの心はすでに前に向いている。
「……よし! もう一回だ!」
――キュッ!
ゼラはまた一歩踏み出した。今度は身体に流れる、自身の魔力を意識して。
ドクン、ドクンと脈打つ心臓。血液のように、巡る魔力。不思議と感じる、帯電する魔力の流れ。
……属性習得ってこういうことか。俺は今、雷と同化している。電力を、力に変換すればいい!
短剣に雷属性を付帯させるかのように、ゼラは足首からふくらはぎにかけてのみ、雷を纏った魔力を集中させた。
――ブニッ!
ゼラは再び宙に舞う。
踏切板の反発力の助けも奏功して、ゼラの両手は跳び箱の最上段、木箱に被せられた白く分厚い布の上に。ゼラの後頭部の結い目から流れるように風に靡く2本の紺のバンダナ。開脚した両足も着地の頃にはしっかり閉じて、背筋正しく両手は上げて降り立った。
――パチパチパチパチ!
見事な跳躍に、飛び交う賞賛の拍手。
それほどまでに、ゼラは素晴らしい魔力操作を魅せてくれた。
「やるじゃない、ゼラ!」
『私の、ワンポイントアドバイスが活かされて何よりです』
素晴らしいジャンプを見せたゼラを見て、ミミリも一言。ゼラの活躍は、ミミリのやる気に拍車をかけた。
「よーし! 私も、頑張っちゃうよ!」
熱気あふれる会場で、ただ1人、無言なくまゴロー先生。彼の熱意は、ミミリの錬金釜にのみ向いていた。
――そして迎えた50段。
ゼラはすでに、何度も挑み敗れている。
49段までなんとかクリアしたゼラだったが、魔力操作をもってしても、49段の壁はかなり高かった。脚力というよりは、腕の力で無理矢理跳び越えたようなもの。ギリギリの跳躍は、背を逸らさなければならなかった。危うく跳び箱に背を強打するかしないかのギリギリの闘い。
49段ですら苦しかったのに、50段ともなると。
たった一段、されど一段。
この一段の壁はかなり高い。ゼラの魔力操作とダークぷるの踏切板の反発力をもってしても、この一段は何かの助力なくして越えることはできなそうだ。
『ゼラ、足首からふくらはぎにかけて魔力を集中させているから今ひとつパワーに欠けるのでは? 足のひらにも魔力を集中させるべきです』
「……それだと、ダークぷるを感電させちゃうからな」
「……ぶ、ぶー!」
「剣聖の逆鱗、もダメよね? 敵対心でぷるぷるたちが正気失っちゃうかもしれないし」
うぅ~ん、と悩み唸りながら全員が見たのは、頼れる見習い錬金術士、ミミリの背中。期待を一身に背負ったミミリの手はピタリと止まり、タイミングよく、錬成は終わる。
「ーー錬成終了、回収!」
ミミリの手元に浮かび上がる、分厚く四角い輝くマット。ふるふる揺れる見た目は、まるでぷるぷるのよう。黄とも金ともいえない見慣れた輝きを放つそれは、おそらく雷電石で作られている。
その証拠にそれを持って跳び箱へと移動するミミリの両手には、雷属性を絶縁する、【絶縁の軍手(グローブ)】がはめられている。
踏切板の役割を果たしていたダークぷるに、観客組のダークぷる2体に合流して応援をするよう依頼したミミリ。踏切板の代わりに、回収したばかりの錬成アイテムを跳び箱の前に設置した。
「ゼラくん、お待たせ! 足のひらにも魔力を集中させて、跳んでみて!」
「……爆発したりは、しない、よな?」
「うーん、たぶん大丈夫かな? 3割くらいは」
「よ、よし! やるぞ! たとえ爆発しても、俺はやるぞ!」
ゼラの決意を挫くように、うさみはポソリと発言する。今度はゼラにも、バッチリ聞こえた。
「……3割って、かなり爆発確率高い方ね」
「言うな、うさみー!」
――キュッ!
再びゼラは、走り出す。
……爆発しても、致命傷くらいで済めばいいな。【弾けるピギーウルフのミートパイ】を食べた睡眠蝶の幼虫みたいに、弾けなければ恩の字だ。
――ブニッ!
感触は、ダークぷるの踏切板のようだった。
異なるのは、その、圧倒的な反発力。
「う、うわあああああああああ!」
ゼラの身体は、宙に簡単に投げ出された。
あわや、天井に頭を打ち付けるかとヒヤリとしたところ。ゼラは宙から、着地点を確認する。
「あっ! エェ⁉︎」
着地点には、なぜかミミリの姿が。
踏切板の反対側、今まで3色団子色のぷるマットがあったところに、別の錬成アイテムを設置し終わったようだ。
「……えぇぇ⁉︎ どういうことだ? ミミリ、危ないからどいてくれえええええ!」
「こっちだよー!」
ゼラの心配をよそに、真下からのほほんと手招きするミミリ。
……ミミリに激突しないように、狙いを定めて降りねぇと!
と、ゼラが考えながら足を着地点のマットに向けた瞬間、ゼラの視界も思考も激しくブレた。
「うおおおおおおおお!」
ゼラはふわりと舞い降りるのではなく、ミミリが新たに設置した錬成アイテムに、吸い込まれるように落ちていく。
――ブルン!
そしてゼラは半ば強制的に、両足を揃えた状態で輝くマットの上に見事に着地を決めた。
大きさはゼラの体型の一回り大きいくらいのそのマット。狙い澄まして着地しない限りはピンポイントで着地することなど無理に等しい。
だからゼラは不思議でならない。マットに狙いを定める前に、強制的に着地させられたのだから。
「……言いたいことは、たくさんある。けど、真っ先に言いたい。さすがです、俺のミミリさん」
「どさくさに紛れておかしなこと言わないでくれる? コシヌカシ! 私のミミリだからね⁉︎」
「うあ、うあ! 今の忘れてくれ! 俺たちのミミリって言おうとしたんだ!」
うさみの指摘も真っ当だ。
ゼラの驚くほどに無様な格好から推察するに、思わず願望が口を突いて出てしまったのだろう。
両手を上げたまま膝は軽く曲げて、腰は明らかに入っていない。まさに、コシヌカシの姿勢。今は更に真っ赤に顔を茹であげて、乙女のように顔を隠して打ち震えている。
「ふふふ、言い間違いってわかってるから、気にしなくて大丈夫だよ? ゼラくん」
「……それはそれで、うああああああ!」
『なんて哀れな弟分』
「そうね、右に同じだわ」
会話に一切参加せず、錬成アイテムに興味津々のくまゴロー先生。
「ミミリさん、ぜひ、興味深い錬成アイテムをご説明願いたいのですが」
「もちろんです! 【ぷるみずまんじゅう】でティータイムにしたいです! それにピロンちゃん、パパとママの、お話も」
『えぇ、喜んで。……それはそうと、あまりに哀れな弟分を誰かフォローしないのですか?』
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