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第2章 審判の関所
2-21 2人の実力者
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「いただきま~す!」
ミミリは銀のスプーンで待ちに待った【ぷるみずまんじゅう】をすくって食べた。
口の中にひんやりぷるんと広がる【ぷるみずまんじゅう】。舌触りは滑らかだが独特のざらつきがある。少し弾力があるが舌で簡単に押しつぶせるほどの柔らかさ。次第に広がる優しい甘味。
「「お、おいしぃぃ~」」
【ぷるみずまんじゅう】の魅力に酔いしれる乙女2人。特に待ち焦がれていたミミリの喜びはひとしおで、幸せに浸って細めた目は最早開いてはいなかった。首を左右に振って、足はパタパタ震わせて。喜びを全身で表現している。
「良かったな、やっと食べられて」
ゼラはミミリとうさみの幸せそうな顔を見て思わずつられて顔が綻ぶ。
そんなゼラは一口だけ食べてスプーンを置く。もちろん美味しいのだが、おかわりが欲しくなるだろうミミリのために。
「どうしたの? ゼラくんの口には合わなかった?」
と、ミミリは心配そうな顔をしてゼラに問う。
ミミリの質問に、ゼラは更に顔をふわっと緩める。
「食いしん坊のミミリに俺の【ぷるみずまんじゅう】あげようと思ってな。残りで悪いけど、俺のあげるよ、ミミリ」
「わぁ~い! ありがとう! ……じゃなかった。ゼラくんのだから、ちゃんと食べてね! それに私、食いしん坊じゃないよ?」
「ハハッ! そうだよな、ちょっとくらい食いしん坊なだけだもんな?」
「む~。すごくすごくすこーしだけ、食いしん坊なだけだよ」
「そうだよな、ごめんごめん」
ミミリとゼラのやりとりの傍らで、気持ちがあちこちへ顔を出して忙しいうさみ。
【ぷるみずまんじゅう】にうっとり。眉間に皺を寄せて何やら考え中のくまゴロー先生にもうっとり。そして、ミミリとゼラのやりとりにほっこり。うさみのしっぽもふるふると震えて忙しい。
「みなさん、お楽しみのところ申し訳ないのですが」
【ぷるみずまんじゅう】にも口をつけず物思いに耽っていたくまゴロー先生が漸く重たい口を開いた。くまゴロー先生の黒縁眼鏡のフレームは、柔らかい月明かりに照らされてキラリと光る。
「先程ご説明くださった、雷電石の3種の属性にどのように気づかれたのですか?」
「それは、錬金釜の中で反発し合う雷電石があったからです。それにやたらとくっつきたがる雷電石も」
「なるほどね。ちっとも気がつかなかったわ。まぁ、私は雷電石に触ったことないから当然なのかもしれないけれど」
ミミリの回答に、くまゴロー先生もうさみも大きく頷く。くまゴロー先生が求めた回答水準を満たしたようで、ミミリはほっと安心して再び【ぷるみずまんじゅう】に心を向ける。
しかし、雷電石の話の流れでゼラの頭の中に新たな疑問が浮かぶ。雷電石の地下空洞で過ごした当事者であるからこそ、浮かび上がった新たな疑問。
「地下空洞の壁面は辺り一面雷電石だっただろ? 俺は属性習得のために壁を素手で触ることを目標としてたけど、反発されたり吸引されたりしなかったなぁ」
「それはね、多分、壁面の雷電石は無属性だったからじゃないかなって思うよ。長い暗闇の階段自体が人工的に感じられたから、もしかしたら壁にも何かしら手を加えられているのかもしれないけれど」
「……あ、あの階段、な」
「うん」
ミミリの言う通り、地上から地下へと続く長い長い暗闇の階段は明らかに人為的に作られていた。明らかに人間が通ることを想定して作られたであろう歩幅と空間の大きさ。
ゼラはあの階段を思い出すだけで吐き気がするが、なんとか気持ちで抑え込んだ。
「本当のところは私もわからないんだ。陰陽の属性も持っていた壁面に手を加えて無属性にしたのか、もともと無属性だったのか。それと……」
「それと?」
「……もう一つの可能性は、もともと無属性の錬金素材アイテムの雷電石に、後天的に陰陽の雷属性を付与したのか」
「真実は闇の中ってことね。名探偵の腕の見せ所ね。……ところでミミリ、地下空洞ではそこまで雷電石を採集してるように見えなかったけど」
「……名探偵⁉︎」
うさみの突然の「名探偵」発言に、ゼラは危なく腰を抜かしそうになる。ミミリは特段気に留めず、うさみの質問にクスクスと急に笑いだした。うさみの質問である出来事を思い出したからだ。
「旅立ちの前の日の晩、みんなでパーティーをしたでしょ?」
「うん、したわね」
「その時にね、ライちゃんが持ってけ~って、たくさんくれたんだよ!」
ミミリは思い出すだけで笑ってしまう。ライちゃんは本当にたくさんの雷電石を持たせてくれた。ミミリがありがとうと言っても、ぶっきらぼうに目も合わせてくれなかった。普段は、目を合わせてくれるのに。
「……あの猫、みんなに隠れてミミリに取り入ろうとしやがって!」
「ゼラ、あの猫は油断ならない猫よ。人のポジションを虎視眈々と狙う猫だから。まぁ、アユムもそうだけどね」
「……へ? アユム? 気のせいじゃないのか? あの子はまだ仔猫じゃないか」
「はぁ、わかってないわねぇ」
うさみは大仰にため息をつく。
「ま、簡単には譲らないけどねん。私はもっと可愛さに磨きをかけちゃうんだからッ」
「うさみはいつも可愛いよ~」
「ミミり~ん」
……むぎゅうううう!
目の前で繰り広げられる幸せな光景。
ゼラはいつかあの輪に加わりたいと思いはするものの、実行するには生命存続の危機を伴う。
「俺にも、もふもふでふわふわな毛があったらなぁ。そしたら多分俺も輪に入れたのに」
ポツリと呟くゼラを見て、くまゴロー先生はクスリと笑った。
――ピロン!
『やっと食べ終わりましたか。ポップアップにとっては、食事風景など目に毒ですから』
ティータイムの終了とともに、ピロンがどこからともなく帰ってきた。
月夜が綺麗なプールサイドにて、薄ら青色に発光するピロンのポップアップ。飲食できないピロンは、一時的に席を外していた。
――ピロン!
『ところで、興味深い話をしていましたね。触ると感電するために扱いが難しい雷電石をまるで小遣いのように持たせる猫ですか』
そうですね、とくまゴロー先生も同意する。
「一体どちらの猫さんですか? 是非、一度お会いしてお話を伺ってみたいものです」
ミミリはうさみを抱きしめながら、ニコリと微笑み疑問に答える。
「ライちゃんっていうんです。雷電石の地下空洞で出会ったんですけど、100年くらいお昼寝してたんですよ」
『ずいぶんのんきな猫ですね』
「まぁ、いたいけな猫の皮を被ったドラゴンだけどね?」
「……うさみ、言い方! どうした? ケンカしてるのか?」
「だから言ってるでしょ! 私のポジション狙ってるの! 雷竜もアユムも!」
「『らい……りゅう……?』」
「はい、そうなんです! ……? どうしたんですか? 先生もピロンちゃんも、2人とも動かなくなっちゃって」
と、ミミリはうさみを抱きしめながら、キョトンと小首を傾げて言う。
「あの、ミミリさん。確認ですが、あの、雷属性の頂点の、雷竜様ですか?」
「はい、そうです! ライちゃんって呼んでますけど。あっでも、ソウタさんは雷様って呼んでるんですよね?」
「『……!』」
『ミミリ、貴方は事の重大さに気がついていない』
「……? 重大さ?」
ミミリだけでなく、うさみとゼラも。ミミうさ探検隊には、「事の重大さ」がピンとこない。
くまゴロー先生は、丸いテーブルに両肘をついて、組んだ両手を口元に当てる。そして少し上目遣いでミミリたちを見るが、くまゴロー先生の側で薄ら発光するピロンのせいなのか、はたまた先生の気迫のせいなのか。先生の黒縁眼鏡のレンズが光って、先生の目を確認することができない。
「……くまゴロー先生?」
くまゴロー先生は大きなため息を一つ吐いて、ミミうさ探検隊に説明する。
「あの偉大なる錬金術士ですら、雷竜様を雷様と呼ぶのです。今でこそ仲が良いお2人ですが、お2人が仲良くなるまでには生殺与奪権を懸けた死闘があったと聞き及んでいます」
「エッ! そうなんですか」
「えぇ。雷属性の頂点の雷竜様は、気高く誇り高い。馴れ合うことなど本来はできない存在です」
「……まぁ、最初はこわかったわね。確かに」
「それが普通ですよ」
唯一雷竜からの攻撃を受けたゼラは、身体の芯からゾクッと震える。
「それで、どっちが勝ったんですか?」
『それはもちろん、ご主人様が。ご自身を打ち負かすことのできる実力の持ち主だと認められたことをキッカケに、雷竜様と親しくなったそうです』
「あの、雷様に勝てる実力の持ち主だってことか。想像もできないな」
ゼラの一言に、くまゴロー先生も食い気味に反応する。
「えぇ。だからこそ想像もできないのです。貴方たちパーティーも雷竜様と闘って打ち負かしたために親しくなったのですか? ライちゃんと呼べるほどに」
「……闘っては、ないですね……。親しくなったキッカケは……」
と言って、ゼラはミミリをチラリと見る。ミミリに抱かれたうさみは何故か誇らしげにふふんと笑っている。
「仲良くなれたキッカケは、もしかしたらライちゃんが大好きなご飯をプレゼントしたからかもしれないです! たまたま直前に作った錬成アイテムだったからライちゃんのために作ったわけではなかったけど……」
ミミリの話の終わりとともに、うさみはニヤッと不敵な笑みを浮かべる。
うさみは、ミミリの腕からピョーンと降り立ち、短い灰の2本の足を懸命に開いて仁王立ちする。胸は反り、背中も反り。耳もピーンと張って誇らしげ。
「まぁ、要約すると、『餌付け』ね! え・づ・け!」
「『餌付け⁉︎』」
「しかも、雷竜のために用意した献上品でなく、たまたま持ってた錬成アイテムでよ? どう? うちのミミリはすごいんだから!」
「ミミリさん、と気安く呼ぶのは改めるべきでしょうか。あの偉大なる錬金術士に比肩する実力者だったとは」
『同意します。ミミリ姉様とお呼びするべきだったようです』
「それもいいわね! これを機に、呼び方改めるっていうのも」
「……ちょ、ちょっとやめてください! もー! うさみってばー!」
――風が凪ぎ、プールの水面は小さく揺れる。大きなキャンバスのプールの水面。白く映る大きな月も小刻みに震える。
一方で、ゼラの胸中に吹き荒れる突風。
ゼラの額から、脂汗は滲み出る。
……嘘だろ。あの、あの、雷様に勝つほどの実力者なのか? もっと力をつけないと、ソウタさんの助けになりたいなんて言う資格すらないじゃないか。
ミミリは銀のスプーンで待ちに待った【ぷるみずまんじゅう】をすくって食べた。
口の中にひんやりぷるんと広がる【ぷるみずまんじゅう】。舌触りは滑らかだが独特のざらつきがある。少し弾力があるが舌で簡単に押しつぶせるほどの柔らかさ。次第に広がる優しい甘味。
「「お、おいしぃぃ~」」
【ぷるみずまんじゅう】の魅力に酔いしれる乙女2人。特に待ち焦がれていたミミリの喜びはひとしおで、幸せに浸って細めた目は最早開いてはいなかった。首を左右に振って、足はパタパタ震わせて。喜びを全身で表現している。
「良かったな、やっと食べられて」
ゼラはミミリとうさみの幸せそうな顔を見て思わずつられて顔が綻ぶ。
そんなゼラは一口だけ食べてスプーンを置く。もちろん美味しいのだが、おかわりが欲しくなるだろうミミリのために。
「どうしたの? ゼラくんの口には合わなかった?」
と、ミミリは心配そうな顔をしてゼラに問う。
ミミリの質問に、ゼラは更に顔をふわっと緩める。
「食いしん坊のミミリに俺の【ぷるみずまんじゅう】あげようと思ってな。残りで悪いけど、俺のあげるよ、ミミリ」
「わぁ~い! ありがとう! ……じゃなかった。ゼラくんのだから、ちゃんと食べてね! それに私、食いしん坊じゃないよ?」
「ハハッ! そうだよな、ちょっとくらい食いしん坊なだけだもんな?」
「む~。すごくすごくすこーしだけ、食いしん坊なだけだよ」
「そうだよな、ごめんごめん」
ミミリとゼラのやりとりの傍らで、気持ちがあちこちへ顔を出して忙しいうさみ。
【ぷるみずまんじゅう】にうっとり。眉間に皺を寄せて何やら考え中のくまゴロー先生にもうっとり。そして、ミミリとゼラのやりとりにほっこり。うさみのしっぽもふるふると震えて忙しい。
「みなさん、お楽しみのところ申し訳ないのですが」
【ぷるみずまんじゅう】にも口をつけず物思いに耽っていたくまゴロー先生が漸く重たい口を開いた。くまゴロー先生の黒縁眼鏡のフレームは、柔らかい月明かりに照らされてキラリと光る。
「先程ご説明くださった、雷電石の3種の属性にどのように気づかれたのですか?」
「それは、錬金釜の中で反発し合う雷電石があったからです。それにやたらとくっつきたがる雷電石も」
「なるほどね。ちっとも気がつかなかったわ。まぁ、私は雷電石に触ったことないから当然なのかもしれないけれど」
ミミリの回答に、くまゴロー先生もうさみも大きく頷く。くまゴロー先生が求めた回答水準を満たしたようで、ミミリはほっと安心して再び【ぷるみずまんじゅう】に心を向ける。
しかし、雷電石の話の流れでゼラの頭の中に新たな疑問が浮かぶ。雷電石の地下空洞で過ごした当事者であるからこそ、浮かび上がった新たな疑問。
「地下空洞の壁面は辺り一面雷電石だっただろ? 俺は属性習得のために壁を素手で触ることを目標としてたけど、反発されたり吸引されたりしなかったなぁ」
「それはね、多分、壁面の雷電石は無属性だったからじゃないかなって思うよ。長い暗闇の階段自体が人工的に感じられたから、もしかしたら壁にも何かしら手を加えられているのかもしれないけれど」
「……あ、あの階段、な」
「うん」
ミミリの言う通り、地上から地下へと続く長い長い暗闇の階段は明らかに人為的に作られていた。明らかに人間が通ることを想定して作られたであろう歩幅と空間の大きさ。
ゼラはあの階段を思い出すだけで吐き気がするが、なんとか気持ちで抑え込んだ。
「本当のところは私もわからないんだ。陰陽の属性も持っていた壁面に手を加えて無属性にしたのか、もともと無属性だったのか。それと……」
「それと?」
「……もう一つの可能性は、もともと無属性の錬金素材アイテムの雷電石に、後天的に陰陽の雷属性を付与したのか」
「真実は闇の中ってことね。名探偵の腕の見せ所ね。……ところでミミリ、地下空洞ではそこまで雷電石を採集してるように見えなかったけど」
「……名探偵⁉︎」
うさみの突然の「名探偵」発言に、ゼラは危なく腰を抜かしそうになる。ミミリは特段気に留めず、うさみの質問にクスクスと急に笑いだした。うさみの質問である出来事を思い出したからだ。
「旅立ちの前の日の晩、みんなでパーティーをしたでしょ?」
「うん、したわね」
「その時にね、ライちゃんが持ってけ~って、たくさんくれたんだよ!」
ミミリは思い出すだけで笑ってしまう。ライちゃんは本当にたくさんの雷電石を持たせてくれた。ミミリがありがとうと言っても、ぶっきらぼうに目も合わせてくれなかった。普段は、目を合わせてくれるのに。
「……あの猫、みんなに隠れてミミリに取り入ろうとしやがって!」
「ゼラ、あの猫は油断ならない猫よ。人のポジションを虎視眈々と狙う猫だから。まぁ、アユムもそうだけどね」
「……へ? アユム? 気のせいじゃないのか? あの子はまだ仔猫じゃないか」
「はぁ、わかってないわねぇ」
うさみは大仰にため息をつく。
「ま、簡単には譲らないけどねん。私はもっと可愛さに磨きをかけちゃうんだからッ」
「うさみはいつも可愛いよ~」
「ミミり~ん」
……むぎゅうううう!
目の前で繰り広げられる幸せな光景。
ゼラはいつかあの輪に加わりたいと思いはするものの、実行するには生命存続の危機を伴う。
「俺にも、もふもふでふわふわな毛があったらなぁ。そしたら多分俺も輪に入れたのに」
ポツリと呟くゼラを見て、くまゴロー先生はクスリと笑った。
――ピロン!
『やっと食べ終わりましたか。ポップアップにとっては、食事風景など目に毒ですから』
ティータイムの終了とともに、ピロンがどこからともなく帰ってきた。
月夜が綺麗なプールサイドにて、薄ら青色に発光するピロンのポップアップ。飲食できないピロンは、一時的に席を外していた。
――ピロン!
『ところで、興味深い話をしていましたね。触ると感電するために扱いが難しい雷電石をまるで小遣いのように持たせる猫ですか』
そうですね、とくまゴロー先生も同意する。
「一体どちらの猫さんですか? 是非、一度お会いしてお話を伺ってみたいものです」
ミミリはうさみを抱きしめながら、ニコリと微笑み疑問に答える。
「ライちゃんっていうんです。雷電石の地下空洞で出会ったんですけど、100年くらいお昼寝してたんですよ」
『ずいぶんのんきな猫ですね』
「まぁ、いたいけな猫の皮を被ったドラゴンだけどね?」
「……うさみ、言い方! どうした? ケンカしてるのか?」
「だから言ってるでしょ! 私のポジション狙ってるの! 雷竜もアユムも!」
「『らい……りゅう……?』」
「はい、そうなんです! ……? どうしたんですか? 先生もピロンちゃんも、2人とも動かなくなっちゃって」
と、ミミリはうさみを抱きしめながら、キョトンと小首を傾げて言う。
「あの、ミミリさん。確認ですが、あの、雷属性の頂点の、雷竜様ですか?」
「はい、そうです! ライちゃんって呼んでますけど。あっでも、ソウタさんは雷様って呼んでるんですよね?」
「『……!』」
『ミミリ、貴方は事の重大さに気がついていない』
「……? 重大さ?」
ミミリだけでなく、うさみとゼラも。ミミうさ探検隊には、「事の重大さ」がピンとこない。
くまゴロー先生は、丸いテーブルに両肘をついて、組んだ両手を口元に当てる。そして少し上目遣いでミミリたちを見るが、くまゴロー先生の側で薄ら発光するピロンのせいなのか、はたまた先生の気迫のせいなのか。先生の黒縁眼鏡のレンズが光って、先生の目を確認することができない。
「……くまゴロー先生?」
くまゴロー先生は大きなため息を一つ吐いて、ミミうさ探検隊に説明する。
「あの偉大なる錬金術士ですら、雷竜様を雷様と呼ぶのです。今でこそ仲が良いお2人ですが、お2人が仲良くなるまでには生殺与奪権を懸けた死闘があったと聞き及んでいます」
「エッ! そうなんですか」
「えぇ。雷属性の頂点の雷竜様は、気高く誇り高い。馴れ合うことなど本来はできない存在です」
「……まぁ、最初はこわかったわね。確かに」
「それが普通ですよ」
唯一雷竜からの攻撃を受けたゼラは、身体の芯からゾクッと震える。
「それで、どっちが勝ったんですか?」
『それはもちろん、ご主人様が。ご自身を打ち負かすことのできる実力の持ち主だと認められたことをキッカケに、雷竜様と親しくなったそうです』
「あの、雷様に勝てる実力の持ち主だってことか。想像もできないな」
ゼラの一言に、くまゴロー先生も食い気味に反応する。
「えぇ。だからこそ想像もできないのです。貴方たちパーティーも雷竜様と闘って打ち負かしたために親しくなったのですか? ライちゃんと呼べるほどに」
「……闘っては、ないですね……。親しくなったキッカケは……」
と言って、ゼラはミミリをチラリと見る。ミミリに抱かれたうさみは何故か誇らしげにふふんと笑っている。
「仲良くなれたキッカケは、もしかしたらライちゃんが大好きなご飯をプレゼントしたからかもしれないです! たまたま直前に作った錬成アイテムだったからライちゃんのために作ったわけではなかったけど……」
ミミリの話の終わりとともに、うさみはニヤッと不敵な笑みを浮かべる。
うさみは、ミミリの腕からピョーンと降り立ち、短い灰の2本の足を懸命に開いて仁王立ちする。胸は反り、背中も反り。耳もピーンと張って誇らしげ。
「まぁ、要約すると、『餌付け』ね! え・づ・け!」
「『餌付け⁉︎』」
「しかも、雷竜のために用意した献上品でなく、たまたま持ってた錬成アイテムでよ? どう? うちのミミリはすごいんだから!」
「ミミリさん、と気安く呼ぶのは改めるべきでしょうか。あの偉大なる錬金術士に比肩する実力者だったとは」
『同意します。ミミリ姉様とお呼びするべきだったようです』
「それもいいわね! これを機に、呼び方改めるっていうのも」
「……ちょ、ちょっとやめてください! もー! うさみってばー!」
――風が凪ぎ、プールの水面は小さく揺れる。大きなキャンバスのプールの水面。白く映る大きな月も小刻みに震える。
一方で、ゼラの胸中に吹き荒れる突風。
ゼラの額から、脂汗は滲み出る。
……嘘だろ。あの、あの、雷様に勝つほどの実力者なのか? もっと力をつけないと、ソウタさんの助けになりたいなんて言う資格すらないじゃないか。
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