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第3章 人と人とが行き交う街 アザレア

3-42(回想 前編)名探偵うさみの事件簿 3推理目

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 はぁ~い! 私はうさみ。
 見習い錬金術士、ミミリのぬいぐるみよ。

 灰色でふわふわな毛並みに、控えめな長さの手足。つぶらなおめめに、キュートなしっぽ。
 こんなにこんなに可愛いのに、トリプルワークしているの。
 私ってば、真面目で模範的なプリティラビットだから、さほど文句も言わないのよ。とってもとっても、健気で愛らしいでしょう?

 ……あぁ、私ったら。初っ端から色気全開で悪いうさぎね。ふふふん。

 さぁ、早速本題に入りますか!
 
 私の著書、『名探偵うさみの事件簿』の1冊目と二冊目を読んでくれたファンなら説明なしでもわかるかもしれないけど、初めて読んでくれる人のために説明するわねんっ。

 この本の使い道なんだけどね、前回に引き続き、私なりに冒険を振り返ったものを記していくわ。記録を残すことで、冒険を振り返りやすくしたり、冒険で得た気付き、疑問点なんかも残していけたらな、と思うのよねん。

 そ・れ・に!
 ただの、メモじゃないわよん!
 可愛くて知的なスーパー魔法使い、うさみさんの頭脳を活かした、冒険の記録なのよ?

 その名も、『名探偵うさみの事件簿 3推理目』~! 

 ……この本を読んでくれているそこのキミッ! もちろん、拍手してくれてるわよね?

 あ、そうそう。
 今日も知的でセクシーな黒縁眼鏡をかけながらお話しているわ。私の姿を直接見せてあげられなくて残念よ。

 ……でも、落ち込む必要はないわよん?

 この本の表紙と背表紙に、ちゃんと画伯うさみが絵を描いておいてあげるからねん? んふふ。嬉しいでしょう? ゼラなんか、泣いて喜ぶんじゃないかしら?

 そうねぇ。今回はどんな絵がいいかしら。

 やっぱり、あれね。アンスリウム山の秘湯での温泉シーンね。女子3人のお色気水着シーンと、私に侍る下僕2人の一面を描こうかしら。んふふ。楽しみにしててよねんっ。



 それじゃあ、アザレアでの冒険を振り返ってみるわ。
 見た目はうさぎ、中身は乙女な名探偵うさみの推理力、とくとご覧あれ~!


 《登場人物》
 ◎ミミリ
 私の持ち主、見習い錬金術士の少女。最近メキメキと力をつけて、錬成できるアイテムも増えてきたわ。アザレアが交易の街として復活の兆しを見せているのも、ミミリの功績が大きいわ。
 おっとりさんだけど、びっくりするほど爆弾娘よ。そんなところも可愛いんだけどね。
・スズツリー=ソウタが未来の錬金術士に託した黒い本、審判の関所では力不足だったようだけど、そろそろもう一度試してみるのもよさそうよね。

 ◎ゼラ
 言わずと知れたコシヌカシなスケコマシよ。でもね、ここだけの話、ここぞというときには頼りになるのよ。私はミミリに抱っこされて歩くのも好きだけど、最近はゼラの肩に乗っかって歩くのも好き。まるでゼラを操縦してる気分になれるもの。「ゼランゲリオン、発進!」てね。
・アザレアで、ゼラが隠している心の闇、みたいなものに触れることができたわ。特等依頼のモンスター、蛇頭のメデューサ。……絶対、許さないわ。
・ゼラのマジックバッグって、一体いつ活躍するのかしら。

 ◎バルディ=アザレア(D級冒険者)
 「公」と「私」、切り替えが上手な弓使いの門番よ。アザレアの名のとおり、町長の息子ね。普段はその肩書きを嫌っているみたいだけど……、常に街のことを考えていて責任を全うしていると思うのよね。偉いわ。
・ゼラと同じく、何か抱えている闇……のようなものがある気がするんだけれど……。気のせいかしら。

 ◎ガウラ(元B級冒険者)
 大盾を構える姿が貫禄を感じさせるタンクの門番よ。寡黙だけど人情味があって、みんなに慕われているわ。雷竜を見つめる瞳は、まるで少年みたいで可愛らしかったから意外よね。5人兄弟の長男らしいわよ。

 ◎ローデ(町長の秘書)
 ミミリの憧れの的、凛としたローデ。仕事の質もスピードもみんなが舌を巻くほどよ。大人の女性の色気がムンッムンなのよね。
 意外なのは、酒豪ってこと。デイジーが画策したローデ討伐ミッションは見事失敗したわ。あれだけ呑んでも顔色一つ変えないなんて……、彼女の身体、どうなってるのかしら。

 ◎コブシ(C級冒険者)
 デイジーの実兄であり、みんなの頼れるお兄さんでもあるのだけど……。私から言わせれば、『苦難の人』、若しくは『受難の人』。
 いつもデイジーがやらかした後始末に追われているわ。今度きちんと労うわ。同じく年長者として、他人事には思えないのよ。
 
 ◎デイジー(C級冒険者、(仮)ギルド職員)
 お騒がせ酒乱娘。酔拳の使い手らしいんだけど、以前見たあの悪酔いっぷり。デイジーに絡まれるモンスターに同情するわ。でも、悪い子じゃないのよ? ただ、悪酔いするだけ。若しくは泣き上戸になるわ。
 ……コブシも大変ね。
 でもおかげで、私もガッツリ稼がせてもらったわ。
 殆どデイジーにあげちゃったけどね。
 ……? 気がついた? そう、殆ど! よ。
 ということは……、んふふふ。

 ◎ヒナタ(C級冒険者)
 鬼神の大剣使いよ。ねっとりとした笑いを浮かべながらピギーウルフを薙ぎ払うメンヘラお姉さんね。
 レアキャラの迷い子ヒナタっていうあだ名のとおり、今はどこでなにしてるんだか。強いからモンスターに襲撃された時の心配はしてないんだけど、腹ペコで倒れてないか心配だわ。

 ◎ガウリ(居酒屋食堂ねこまる店主)
 私のことを締めころ……じゃなかった、強く強く抱きしめた人よ。アザレア想いで、利益度外視で街に貢献しているわ。ガウラの弟よ。

 ◎ガウル(武器屋虎の店主)
 私のことを締めころ……じゃなかった、強く強く抱きしめた人その2よ。ミミリが錬成した【一角牛の暴れ革】で門番たちに革の胸当てを作ったわ。さすが職人ね。素晴らしい出来だったわ。

 ◎ペラルゴ=アザレア(アザレア町長)
 バルディの父親ね。人情屋バルディの、この子にしてこの親ありって感じかしら。同じく人情屋だと思うわ。そして汗っかきね。
 アザレアが財政難であるとはいえ、改善のために手を打ってきたことはよく伝わったわ。性格どおりの誠実な運営だったようね。残念ながら衰退の一途を辿りかけていたけれど。

 ◎アルヒ
 私たちの家族、美少女剣士の機械人形オートマタよ。アルヒが活動を維持するためのアイテム、【アンティーク・オイル】がもうないから心配していたけれど……。雷竜の手紙によると、元気に過ごしてくれているみたい。よかったわ。

 ◎アルヒ似の美少女
 瞑想の湖でミミリだけに語りかけてきたという少女。容姿はアルヒにそっくりだったらしいわ。ミミリ曰く、髪の毛の長さが違うらしいのよ。ーーそう。私たちには姿すらも見えなかったのよ。他人の空似、というわけではなさそうよね。何か秘密があるんじゃないかしら。

 ◎雷竜
 ドラゴンの郵便屋さん、無事に果たしてくれた点については心から感謝しているわ。本当よ? でもね、でもよ? 一応、雷属性の頂点、そして絶対的強者っていう自覚をもったほうがいいんじゃないかしら? ドラゴンの姿でアザレアの門扉前に降り立つもんだから、街は騒然としたらしいのよ。街役場では対策会議まで開かれたそうよ。まったく、お騒がせなんだからッ。

 ◎うさみ
 大トリは私! 魔法使いで画伯で名探偵のうさみちゃんよっ。そういえば私、今計画していることがあるの。びっくりするわよ? 気を確かに、じゃなくて、心臓を確かにね。
 言うわよ……?
 私……
 うさみは……
 このたび……
 ドゥルルルルルルル……ドゥンッ!(セルフドラムロール)


 ――――――――絵画集を、販売しますッ!


 ……だ、大丈夫? 心臓、止まってない?

 実は、ただの絵画集じゃないのよん。ミミリや私の愛らしい姿を描いた美少女名鑑的なモノを売り出そうと思って。今度バルディに相談してみるつもりよ。多分、「アザレアに革命の嵐が吹き荒れる!」って言って卒倒するんじゃないかしら。
 んふふ。決まったらまたみんなにご報告するわね。楽しみにしててよねん。

 ……あらやだ。私の作成途中の本をチラ見したゼラの顔が青ざめてるわ。血の気が引くほど嬉しいのかしら。


 あぁ、私ってばほんと罪なうさぎね。


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