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第5章 宿敵討伐編

5-13 邂逅 蛇頭のメデューサ

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「いよいよ、右のルートを進めばその先に……いるんだね。蛇頭のメデューサが」
「ああ……やっと……やっとだ……!」
「ねぇ、ゼラ、本当にいいの?」
「……いいんだ……」

 ミミリたちは、ゼラをひどく心配していた。アルヒ抜きのこのパーティー、後衛のバルディは増えたといえど、前衛はゼラ1人。タンクもいない。

 ゼラの昔の話を聞くところによると、蛇頭のメデューサは男を巧みに魅了チャームし、スピードも早く頭の蛇からは石つぶてを吐くという。それだけではなく、蛇を無数の短剣を振りかざすように操り攻撃してくるらしい。
 ミミリの両親が与えた外傷によれば、右目は潰れて左目のみ。しかし左目だけでもおそらく魅力チャームは有効だろう。魅力チャームは【七色のメガネ】で防ぐとしても……。
 蛇頭のメデューサの核には、ミミリの両親が半分うずめた水神すいじん水杭すいくいがあるはず。その傷が癒えていなければ勝率も上がるだろうが、この十数年で完治してしまっているというのなら、この闘いは正直……。

 ミミリたちには実戦経験が圧倒的に足りない。
 だからこそ作戦を練ってきたわけだが、ゼラの【マジックバッグ】がケタケタとしゃがれ声でゼラに笑うように、血湧き肉躍る、命懸けの戦いとなるだろう。それも、ゼラに過分の負荷がかかる闘いだ。

 ……ヒャーッハッハッハッハァ! これだから血湧き肉躍る戦いはやめられねぇんだ。先程から、相棒(仮)の緊張感たるや、はんぱネェなぁ。心臓の鼓動が俺にも響いて聞こえてくるゼェ。

「なぁ……」

 ……ああ……?

「お前が、なんだかんだ言いつつも蒼の刃広斧を出してくれたり、サポートしてくれるのは知ってる」

 ……やめろ、縁起でもネェ! 俺様はただ……

「あのさ、勝てる確率なんて、ないに等しいとも思えるんだ。悲しいことに。俺には、ミミリの両親のような実力もなければ、戦闘経験も少ない」

 ……だろうナァ

「だからさ……もし、勝てたら本当の相棒になってくれないか。名前で呼びたいんだよ。つけてほしい名前、考えておいてくれよ」

 ………………やめロォ、調子狂うだろうガァ

「約束な」

 ……チッ

 ゼラは【マジックバッグ】会話を終え、クスリと笑う。
 そしてミミリを、うさみを、バルディを見る。
 もうみんなに会えるのも、最後かもしれない。

 ゼラにとってはトラウマもある、それほど強大な敵だから……。

「あのさ、みんな。俺になにかあったら、すぐに放って逃げ……」
「ヤダッ!」

 ミミリはゼラ身体にギュッと抱きついた。
 ミミリだけではない。
 うさみはバルディの肩から、ゼラの顔面に飛びついた。

「うおっ! うさみまで! くる、苦し……」
「なんでっ、なんでそんなこと言うのっ? 私たち、みんなで倒して、帰るんだから~! ひっく……ひっく……」
「そうよ、ゼラのスケコマシのコシヌカシのカッコつけ~!」
「待てうさみ、悪口増えてるから」

 ゼラはクスリと笑いながらも、
「ありがとう、みんな……。……ごめんな」
 と、2人を抱きしめた。

 バルディは、そんな3人に胸を熱くしながら、
「大丈夫だよ。みんなの盾には、俺がなる」
 と愛しい弟妹を抱きしめた。

「盾もダメですよ、バルディさん」
「そうよ、バルディのキツネ~!」
「……き、キツネ? うさみ、それ褒め言葉か」
「半々よおおお」
「半々かよッ!」

 うさみのわけのわからない褒め言葉(?)もありながら、抱きつき合うミミリたち。

 決起の前に、ゼラは告げる。

「心からの感謝を。みんな、ありがとう。行こう!」

 ――蛇頭メデューサとの闘いに向けて、心の栄養と結束も充分だ。

 ――あとは、勝つだけ――!

 ◆ ◆ ◆ ◆

 ――――――――――――――――。

 ――――――――――――――。

 ――――――――――――。

 ――――――――――。

 ――――――いた!

「――――!」

 やはりうさみの探索魔法はすごい。
 ミミリたちは――蛇頭のメデューサと遭遇エンカウントした。

 ◇ ◇ ◆ ◆

「やっと……! お前、許さない……!」

 ミミリとうさみ、バルディが心配になるくらい、ゼラの殺意が肌を針のように刺してくる。

 蛇頭のメデューサは、石でできた精微な紋様の大きな玉座に座っていた。体長は成人男性ぐらいだろうか。体長に似合わない、豪奢で大きい玉座……。

「アッハハ、何か因縁があるみたいネェ、ボウヤ。まずはここまで来たことを褒めてやろうかネェ」

 ゼラが幼き頃、木のウロの中から垣間見たよう姿と変わりはなく――全身石色をした、着衣までが石でできていそうな胸のはだけたドレスを纏っていた。

 異なる点と言えば……。
 肝心の右目には眼帯をし、まだ傷は癒えていない模様。しかも、心臓部の核にミミリの母の魔法使い――水神すいじん水杭すいくいが刺さったままだ……!

 ミミリは小声で言う。

「傷ついたままなら、いけるかな……」

 ミミリに返答したのは、うさみとゼラ。

「いいや」 「いいえ」 
「「フェイクかもしれない」」
「「――――――!」」

 ミミリたちが考える隙も与えてくれるはずもなく、頭から生えたロープのような太さの無数の蛇がぐにゃりうにゃりと動いている。

「みんな落ち着くんだ! 作戦どおりに」

 バルディは声を抑えて言う。
 当初の計画どおり、バルディは離れた場所から隙を狙って射る作戦だ。だがしかし、この一本道、【忍者村の黒マント】があろうが、気配は消せても姿は目視されてしまう。

「……チッ! 俺にでもわかる、この歴然とした差……! でもやるしかない」

 バルディは、ミミリから授かった【水魚《すいぎょ》の矢】に手をかけている。
 ミミリは【水魚《すいぎょ》のロッド】を。
 ゼラは【水魚《すいぎょ》の短剣を】。
 うさみは全員に保護魔法――聖女の慈愛を。

「ハハハハハ! そぉんなに真剣な顔しちゃっテェ! 可愛いボウヤたち。コレクションに加えてあげようかと思ったけれど……気が変わったわ。お望みどおり、いたぶってあげる。


 跡形も残らないくらいにネェ……!」


「「「「――――――――――!」」」」


 ――積年の想いを背負った闘いが、今、幕を開けた……!


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