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第5章 宿敵討伐編

5-15 決戦の時 蛇頭のメデューサ 後編

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「ゼラくんっ! バルディさんっ!」
「ミミリ、うさみ、逃げテェくレ……」

「やだよ! ゼラくんも、バルディさんも、これ食べて元気だして! え~いっ!」
「――⁉︎ ミミリ……?」

 ――ぽーん! ぱくっ! ぱくっ!

 ミミリが【マジックバッグ】から出したあるモノはゼラとバルディの口の中に見事に入った。

 ――これは!

 「「『口の中に入れたら溶ろけるような柔らかさのゼリーではなく、少し弾力性はあるがそれでいて舌触りがいい、半固形の食べ物のような……これはまさに――ぷるみずまんじゅう!』 おいしいいぃぃ~!」」

 錬成アイテムの効果はバツグン!
 ゼラとバルディは正気にかえったようだ。

「んなアホなッ!」

 うさみは跳び上がって全身でツッコミを入れる。が、それもそのはず。先程の苦しみが嘘のようだ。

「そんなバカなッ! バカなぁ~!」

 両手で顔面を抑えてぐにゃりうにゃりと腰を捻る蛇頭のメデューサは、明らかに精彩を欠いている。その隙をミミリは逃さず、すかさず【ぷるみずまんじゅう】を蛇頭のメデューサに向けてえいっと投げた。

「私のおまんじゅう、バカにしないでよねッ!」

 加えてうさみも、援護魔法を唱える。

「……清浄なる温風~【ぷるみずまんじゅう】を添えて~」

 さすがのタイミングで、ミミリのサポートをするうさみ。

 【ぷるみずまんじゅう】はうさみによって吹きゆく優しい風に乗って目的地(蛇頭のメデューサの口)へと運ばれていく。

「バカが! 誰がこんな危なそうなモノ食べるんだィッ。これでも食らいナァァ」

 すでにうさみの反撃魔法――水魚すいぎょ反照はんしょうで半分身体が濡れている蛇頭のメデューサはもはや全快でないように見えた。
 それでもまだ、やはり圧倒的な力の差は埋められない。

「何かが、来るわ! ーー聖女の慈愛!」

 うさみは再び、保護魔法を全員にかけた。

「フッ、……どこまで守れるかナァ」

 ――ブチブチブチッ! という音とともに、蛇頭メデューサの頭から数十匹の蛇が切り離され、ミミリ、うさみ、バルディ目掛けてものすごいスピードで地を這って行った。


 ――ミミリたちが喰われる!
 
 ゼラの思考は駆け巡る。
 助けに行くか、否か。俺の足なら間に合うかもしれない。
 でも……。

「ミミリたちが作ってくれたこの隙を逃すわけにはいかない! 信じて待つんだ、最高のタイミングを」

 ゼラは堪えて、父親の形見の柄をぎゅうっと握る。

 ーーここで俺がみんなの方へ行ったら一網打尽。意味がない。待つんだ、その瞬間ときを。


 ミミリたちに勢いよく四方八方から飛びつこうとする無数の蛇。
 しかしうさみは余裕そうにクスリと笑みを浮かべた。

「悪いわね。ご存知のとおり私も魔法が使えるのよ。スーパーラビットなんだからッ! 守護雷神の庇護!」

 うさみたちの背後に、いかづちの杖のようなものをもった、長い髭を蓄えた石像が現れた。同時に、金色に近い色の薄い電膜がドーム状に表れる。

「ギュアアアアアアアア」

 蛇たちの叫び声。
 ドームに触れた途端、感電したようだ。
 ボタリ、バタリと焦げた蛇が地に落ちてゆく。

「さすがスーパープリティーラビットだな、うさみ。信じてたよ」

 この隙を逃さなかったのは――ゼラだった。

 蛇頭のメデューサのを目掛けて、駆け抜けざまに父親の形見――【水魚すいぎょの短剣】を一閃した。

「……水雷刃すいらいじん!」
「ギャアアアアアアア!」

 蛇頭のメデューサは、左目を押さえた。
 ゼラの水と雷を纏った父親の形見が、ヤツの左目を抉った。撃ち返された石つぶてで水分を含んだ身体には効果は抜群のようだ。

「このガキどもメェェェ!」

 蛇頭のメデューサは左目を押さえながら言う。左目からは、ポタリポタリと紫色の液がしたたっている。

 ――そして忘れた頃。

 ――ヒョイッ! ぱくっ!

 と、蛇頭のメデューサの口の中に甘くみずみずしい【ぷるみずまんじゅう】が広がった。

「何かと思えばただのお菓子じゃないか……これで魅了チャームを解くとは、舐めたガキめェ。しかも少し体力が回復したぞ。敵を回復するとは、あの小娘頭がおかしいんじゃないカイ?」
「バカ言うな。ミミリのお菓子は美味しいんだ。食えただけ感謝しろ」
「フンッ! 不可解な行動をするヤツらじゃ。面白いじゃないカァ……どこまでできるか、やってみたらいいサァ」

 蛇頭のメデューサの頭の蛇は、伸び縮みしつつ時に形状を刃のように変えてゼラに攻め狂う。蛇の口からは、石つぶてを吐きながら。

「剣聖の逆鱗!」

 すかさずうさみは支援魔法をかけるも、ゼラには石つぶてを捌き切れるスキルがまだない。
 石つぶてを打たれるたびに、そして短剣のように蛇を操られるたびに、一筋、二筋と顔や身体に傷がついて血が吹き出していく。
 それでもゼラは、めげなかった。

「……負けて……たまるか!」

 ――キィン、キィン……と切り結ばれる刃。
 撃ち落とされる石つぶて。
 今も刻一刻と切り刻まれてゆくゼラの身体。
 このままでは、ゼラがもたない。

「ゼラッ!」

 なんとか立ち上がったバルディも、弓ですかさず応戦する。

 ――シュッ――シュッ!
「行けッ!」

「さすがバルディさん」

 バルディが【水魚の矢】を打ったのを見計らい、ゼラは瞬時に飛び退いて後退する。

「ーー!」

 蛇頭のメデューサは、急に眼前から消えたゼラの代わりに現れた矢に対処が遅れた。

「ギャアアアアアアア」

 【水魚の矢】の何本かが、蛇頭のメデューサの胴体に刺さった。本当は打ち込まれた水神すいじん水杭すいくいを狙ったのだが、蛇頭のメデューサは殺気を帯びた矢から軌道をを感じ取りうまく避けてしまった。
 不意を突いてもなお、仕留められない。
 これが、力の差。
 しかしそれでも、何本かは身体に命中させることができた功績は大きい。

 蛇頭のメデューサは、苦しみから前傾姿勢になりつつ問う。

「アンタら、アンタら……一体なんなのサァ」
「さあな。答える義理もない。えて言うとするならば、自分の行いを省みろってヤツだ。地獄で反省するんだな」

 ゼラは離れた位置から、【マジックバッグ】に手を突っ込み蒼の刃広斧を出して大きく振りかぶった。

「食らえ! ――霜柱!」

 ――ザクッ、ガガガガ……!
 振り下ろされた斧から、蛇頭のメデューサ目掛けて無差別に迫り行く何本もの霜柱。両目の光を失った蛇頭のメデューサは、とりあえず頭の蛇全てを以て身を守った。
 しかし、既にミミリたちに大半の蛇を放っているため、防御はほぼガラ空きだ。どうやら、頭の蛇は有限のようだ。

 ゼラが放った冷たい刃が、蛇頭のメデューサを襲う。

「ギャアアアアアアア」

 蛇頭のメデューサは石のような体から紫色の血を噴き出し、明らかにダメージを負った。

「ここまでやられるとは。認めようじゃないカィ。みくびっていたと。いいサァ。本気を出してやる」

 蛇頭のメデューサは、更なる秘策を

「アンタたち、本当に私が片目だけかと思ったのカイ。バカだネェ。十数年前の目の傷は既に癒えているのサァ」
「ーー!」

 眼帯をとった瞬間にギラつく金にも近い黄色の目。蛇頭のメデューサは、再びゼラたちを操ろうとした。

魅了チャーム

「「うわああああああ」」
「もう菓子は食わせないヨォ、せいぜい相打ちでもして愉しませてくれヨォ。キャハハハ」

 ゼラとバルディは上半身を揺らし苦しそうにもがいて……

「ふっ」

 やがてニヤリと、笑みが溢れる。

「「……なんちゃって」」
「ーー?」
「ミミリのお菓子は美味しいけど、それで魅了チャームが解けるはずないだろ」

「な……なんだっ……て……? じゃあ一体なぜ……? まさかさっきの魅了チャームも効いてなかったというのカィ⁉︎
 ーー! その怪しいメガネか!」

 蛇頭のメデューサはミミリたちにまんまと騙された。お菓子さえ食べさせなければ大丈夫だと、完全に信じて疑わなかったのだ。
 動揺する蛇頭のメデューサは、一歩二歩と後退りする。

「ーー今だ!」

 ゼラはもちろん、この隙を逃がさない。
 ゼラは攻撃に、想いを乗せる。


 ――父さん、母さん、今仇をとるよ……!


 ゼラの目に光るのは、【七色のメガネ】。
 ゼラの右手に光るのは、父親の形見、【水魚すいぎょの短剣】――。

 そしてゼラの左手に光るのはミミリから預かっていたみずまんじゅうのような、小さな球体――――――

 ――――――【瞑想の湖の結晶 雷電バージョン(ミニ)】‼︎

「さっきのみずまんじゅうを口に押し込まれたところで、体力が回復するだけサァ」

 ゼラはクスリと笑う。

 ーー見た目は似てるけど違うんだなコレが。俺はミミリにくれぐれも間違って食べないようにって、口酸っぱく言われたからな。まぁ、教えてやんないけど。

 ゼラは父の形見で、【瞑想の湖の結晶 雷電バージョン(ミニ)】を蛇頭のメデューサの心臓部の核、水神すいじん水杭すいくいに突き刺し、更に結晶をねじ込んだ。

「どこからどう見てもさっきのみずまんじゅ……

 ――――――――――チガウ!

 ギャアアアアアアア‼︎」


【瞑想の湖の結晶 雷電バージョン(ミニ)水撃(大)】特殊効果:ぷる砲弾を模した戦闘用アイテム。小さな水球をモンスターの核に押し込めば感電させることができる】


「まさか、この、ワタシが……負ける……だなんて……」


 蛇頭のメデューサの身体が、ボロボロと崩れてゆく。

「しかも、こんなヤツらに……」

 蛇頭のメデューサは、両手で顔面を抑えるも、崩壊は止まらない。

 ――――――――――――――。

 ――――――――――――。

 ――サアアアアアア………………。

 ――勝負は決した。

 蛇頭のメデューサは心臓付近の核が砕け、身体ごと砂塵のように四方へ散った。
 言葉のとおり、跡形もなく。

「やったね、ゼラくん……」
 
 ミミリはゼラの背に向かって小声で語りかける。
 ゼラの背中から、哀愁を感じる。
 うさみもバルディも、ゼラの背を見守った。

 ゼラはゆっくりそらを仰ぐ。
 それは達成感か、はたまた放心か……。
 これまでの想いを反芻はんすうするかのように、噛み締めていることだろう。

 なんにせよ、ゼラの積年の怨みは今、解き放たれたのだ。

 熾烈な闘いが、終わりを告げた。

 仇を討ったゼラは、膝を折り……。
 父の形見の短剣を両手で天にかざし、
 溢れ出す涙とともに、
 天国の父と母へ弔いを捧げた。


「父さん、母さん……。待たせて、ごめん。俺、勝ったよ……!」


 あどけなく頼りなかった少年は、力をつけて。
 大切な仲間に見守られながら。
 積年の怨みを、てんす。
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