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第6章 川下の町と虹色の人魚

6-2 ポイズンサハギンの毒攻撃

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 川上の街を出て川下の町に行く前に、森の中にあるゼラの両親のお墓参りをした。時間がないので、ほんのひとときではあったけれど、全員がちゃんと馬から降りて手を合わせた。

「ゼラくん、今日も挨拶できて、私嬉しいよ」
「俺もだ。ありがとう」

 サザンカは何も聞かなかったが、ゼラの表情を見て血縁者の墓だと察した。そして同じく瞳を閉じて手を合わせて祈りを捧げる。

 ――どなたかは存じ上げませんが、ゼラ少年は立派に育っておられますよ。ご安心なさってください。

 ◇

 川下の町からポイズンサハギンが攻めてきていないかを確認するためにも、急いで教会に寄った。
 するといの一番に来訪に気づいたのはデュランとトレニアだった。2人とも、バルディに向けて破顔の表情で挨拶をする。

「バルディ……お兄ちゃん、来てくれたんだね」
「あり………………が…………う」

 バルディは、2人の無事を心から願っていたので、キツくキツく抱きしめてしまった。

「痛いようお兄ちゃん」
「いた……い」

「ああ、ごめん、悪い悪い。あまりにも可愛くてな。無事でよかった。で、早速で悪いんだけど、みんなを呼んできてくれ」

 バルディは協会の全員を招集し、事の顛末を伝えた。いつポイズンサハギンの襲撃を受けるかわからず、危険なので外に出ないように。出てもいいと知らせがあるまで、教会にいるように、と。
 ミミリは残りの食糧状況を聞いて、【マジックバッグ】から食糧支援した。料理として出来上がっているものと、日持ちする食材を。これで数日は生きていけるはずだ。

「ありがとうございます。女神フロレンス様の娘様」
「ミミリって呼んで欲しいです。頑張って倒してくるので、みんなで頑張りましょうね!」
「はい、ミミリ。頑張りましょう」

 この協会の古株であるゼラは、ジン、シン、デュランの男組を招集する。

「この教会は3人に任せた。みんなのこと、頼んだよ」
「「「うん! わかったよ!」」」

 ゼラはほんのちょっぴりさみしくなった。
 頼り甲斐があって嬉しいものの、小さな弟が巣立っていく感覚を覚えたからだ。

「ミミリ、みなさん、祈らせてください」

 シスターは旅立とうとするミミリたちに向かって、ひざまずき祈りを捧げた。真似をして、サラと、ユウリもだ。

「皆様に女神フロレンス様のご加護があらんことを。ご武運をお祈り申し上げます」
「「ご武運を」」

「ありがとうございます。行ってきます」

 そうして再び馬に乗り、川下の町へと足を進めるのだった。

 ◆ ◆ ◆ ◆

「サザンカさん! こっちだ! 援助を頼む!」
「おお!」

 川上の町のはずれ、河口付近だと聞いていたがどうやら食い止めきれず街の中まで数体侵入してしまっていた。

「グルルルルルルルル」

 黄色い見た目に、ギョロリとした目。
 毛のない体にピンク色のヒレ。
 長い舌に鋭い牙と爪。
 ポイズンサハギンはその名の通り、牙と爪に毒があるそうだ。

 おそらく、街の中まで侵入してしまっているということは河口付近は悲惨な状況になっているだろう。

「二手に別れましょう」

 うさみが言う。市民に混ざって街を防衛する組と、河口へ援護へ行く組。

「そうだな、そうしよう」

 話し合いの結果、ミミリたちとサザンカは河口へ、コブシとバルディは街の防衛に当たることになった。

「じゃあお互い頑張りましょう! 解散!」

 ミミリたちは、サザンカについて河口へ向かった。河口は街のはずれのほう。川下の町にゆったりと流れる水が海へと行き着く場所で砂浜がある。

「これは……ひどいよ」
「回復しましょう! ミミリと私は回復を! ゼラとサザンカはなんとかしてっ」
「「了解」」

 おそらく、川下の町は防衛戦に不慣れなものばかりだろう。見た目も、船乗りのような格好をした者がモリで突いて戦うくらいだ。
 しかし、手練れのサザンカなしでもやっていけると判断したということは、いつもはこうではないのだろう。
 いつもとなにか違うモノがいるはずだ。……おそらく、ボスのようなナニカが。

「……癒しの春風! 守護神の庇護! 剣聖の逆鱗!」
「これ【ひだまりの薬湯】です。飲んでください」

 ミミリたちは怪我人を一箇所に集めて、回復に専念した。どうやら毒にやられると、ポイズンサハギンのピンク色のヒレと同じ色の斑点がアザのように浮き上がってくるようだ。
 魔法や錬成アイテムで治療を施すも、気休め程度。
 うさみもミミリも、解毒にはあまり手応えを感じていなかった。

 ――解毒剤がないと……!

「――そうだ! あの、メリアの花ってどこかにありますか?」

 ミミリは、回復支援により幾分かマシになったであろう男性に聞く。

「あそこだよ。あの川岸に咲く黄色の花さ」

 男性が指し示したほうには確かに黄色い花が咲いていた。しかし、ポイズンサハギンも2体いる。

「うさみ、ここ、お願いねっ!」
「ちょ、ミミリ、何を」
「耳、塞いでね、みんな」
「「「――?」」」

 うさみ以外のみんなは、わけがわからないが耳を塞いでみた。

「効くかわかんないけど、いっくよー! 【弾けたがりの爆弾(ミニ)】!」

 うさみの守護神の庇護のドームは、うさみが認識したモノのみを通過許可できる。ゆえにミミリは、ドームの中から爆弾をポイズンサハギンへ向かって投げたのだ。

 ――――――ドオオオオオオン!

 「ミニ」のはずなのにけたたましい音が鳴り響く。ミミリはポイズンサハギン2体を倒すことができた。

「ふー! ラッキーだった。ゼラくんたちのほうに敵対心ヘイトが向いてたから不意をつけたよ」

 ゼラは咄嗟のことで耳を塞げたが、サザンカは対応が遅れ、耳をつんざく音にダメージを負った。

「錬金術士とは、一体……!」
「一歩遅かったら、あぶなかっ……た、ぜ!」

 ゼラは短剣に雷属性を纏わせ、ポイズンサハギンを切っていく。しかし量が多いためにサザンカと2人でもなかなか捌ききれない。

「――! サザンカさん! 危ない!」

 サザンカが耳を押さえながら闘っていたために、隙ができ、ポイズンサハギンに背後から狙われていた。それに気がついたゼラは瞬時に足に魔力を集め、ハイスピードでサザンカに近づきサザンカを突き飛ばした。

 ――シュッ!

「グッ」

「ゼラ!」 「ゼラくん!」

 ゼラはポイズンサハギンの爪に左腕を切り裂かれてしまった。三つの爪痕により、ゼラの左腕から血が滴ってゆく。

「すまない、ゼラ!」

 サザンカは我にかえり、ゼラを攻撃したポイズンサハギンに止めを指した。

「うっぐ、ぐぐぐ……」

 相当、痛いはずだ。
 体全身に毒が回ったら、船乗りたち同様、ピンク色の斑点が出てくるはず。
 ……が、しかし……。

 ゼラはなぜか腕の痛みだけで済んでいる。

「おかしい、毒が回るのは早いはずなのに」

 回復支援で喋れるまでに癒えた船乗の1人が疑問の声を上げた。

「毒ってどんな感じかわかんないけど、やっぱり傷はめちゃくちゃ痛え。でもまだ、闘える!」

 ゼラは足に魔力を纏わせたまま、縫うように雷刃剣で捌いていく。サザンカもようやく本領を発揮し始めたようで、長剣でポイズンサハギンに止めをさしていった。

「「「すごい……」」」

 船乗たちは呆気に取られたが、すごいのはゼラたちだけではなかった。

「錬成終了! ――回収! さぁ、飲んでください。【解毒剤】です! 即席ですけれど」

 気がつけばドームの中に大きな練金釜が設置されていた。驚く船乗たち。

「君たちは……一体」

「うーん、見習い錬金術士と魔法使いと、見習い冒険者です!」

 ミミリはニコリと微笑んで、船乗たちに【解毒剤】の服薬を促していった。

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