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第6章 川下の町と虹色の人魚
6-13 本当にそれでいいのかな?
しおりを挟む「ねぇ、ディーテ。【酸素山菜ボンベ】も作ったけれど、私たち結局、貴方たち人魚をどうやって助けたらいいのかなぁ?」
と、改めて質問するミミリ。
ディーテが決着や落とし所をどこに求めるかにおいてでも、助け方は変わってくる。
「とりあえず、互いに決めた境界線を破らないで欲しいわ」
「そうするためには、どうしたらいいのかなぁ。人魚さんたちの宮殿に行きたいから、【酸素山菜ボンベ】を作ったのはいいけれど、水中での全面戦争! だなんてなったら私たちは役に立たないと思うの」
「たしかにな。まず、水の中では剣が重い。振るスピードが遅すぎるよ。ミミリが作ってくれた【水魚の短剣】があるけど、もっと水属性と親和性が高くないと本来の力を発揮できないと思うんだ。バルディさんもそうですよね?」
「ああ。まだせっかくの【水魚の矢】を活かしきれていないからな」
「それを言うなら私です。私はまだ、具体的に【水魚のロッド】を使っていませんから」
この意見には、うさみたちも同意した。人魚側に与するといっても、本来殺戮は望まない。もっと、平和的な解決はできないものだろうか。
「質問なんだけれど、海竜とサハギンの長で話し合いで解決できたりはしないの? そもそも海竜は海の王様だよね? サハギンを統括する立場とかではないのかなぁ」
「そうなの。海の王といっても、広範囲の海域を統括しているだけよ。サハギンには、サハギンが統括する海域があるわ。 ――話合い、ねぇ……」
ディーテはボソリと呟いた。
「あと、これも思うんです、サザンカさん。人間は、サハギンっていうかポイズンサハギンから被害を受けていますよね。襲われるから正当防衛するわけですけれど、ポイズンサハギンは何を求めてやってくるんですか?」
答えられないサザンカ。今まで考えたことがなかったのだ。
ミミリの質問は続く。
「サハギンが人魚たちの海域に攻めてくることは悪いことですけど、実害はあるんですか? 人魚さんたちを痛めつけたり……」
「海域を守ろうとして戦闘になったことはあるわ。戦闘になった場合は、痛ぶられたり、弄ばれたり。でもそれは言われてみれば互いにそうね……」
「私勝手に全面戦争かと思っていたんですけれど……別の解決法ってないのかなぁって。ディーテが傷つくのは見たくないし、サハギンだってなにか理由があるなら聞いてみて欲しいんです。……簡単にはまとまらないかもしれないけれど、お互いわけもわかっていないのに全面戦争するよりはいいのかなって……」
ゼラはミミリの意見を聞いて、「うん」と頷いた。
「ミミリ……。そうだな、俺もそう思う。俺は川上の街の唯一の生き残りだ。わけもなく襲われるってずっと遺恨を引きずるものだ。実際俺は、蛇頭のメデューサに復讐したしな……。それが俺の人生の目標であり支えだった」
「そう……だったのか……つらかったな」
サザンカは言う。
やはりそうだったのか、と思いながら。
「そうですね……つらかったです。今でも、辛いんですよ。いがみ合うって、いい結果は残らないと俺は思います」
ゼラの言葉で、一気に暗くなる作戦会議。
今まで、ディーテの中には全面戦争しかなかったのだ。それをみんなの意見で気付かされた。
「一度戻って父上に話してみるわ。だって全面戦争って、みんなの言うとおり取り返しつかないものね」
ディーテの言葉にミミリは頷く。
「なにが正解かわからないですけれど、一度話し合うのもいいかもしれません」
「そうね……」
ディーテは両腕をグーっと伸ばす。
「帰るわ! 家に。ここにいるのはすごく楽しかっけれど、ちゃんと話し合ってくるわ」
「うん、いってらっしゃい」
「さぁ! そうと決まれば俺は属性の練習だな。蒼の刃広斧持っても、霜焼けにならないようにしねぇと」
「俺は新しい教会を仕上げるか」
「「僕たちはガウレの手伝い~!」」
「私は【酸素山菜ボンベ】の増産かなっ」
「じゃあ、私も」
「ガウディ! お前は教会のほうに決まってんだろ~が!」
ズルズルとガウレに引き摺られていくガウディ。
「そんな~ミミリさ~ん」
「また手が空いたら錬成しましょうねっ」
「――絶対神様――」
……絶対神『様』……? 全員は言葉を失った。元来、まじめそうに見える理知的なガウディが言うから尚のこと言葉が重い。
――そして。
やばいヤツはもう1人、言わずと知れた、サザンカだ。
「――コホン。私はシスターをお守りしようかと思うのですが……」
「あら、私は大丈夫ですわ。今はミミリが出してくれた小屋がありますし、大事がない限りモンスターはやってこないはずです。門兵さんもいますしね。炊事もサラとユウリがいますし、どうかディーテさんの護衛をお願いします」
「はい……」
しょんぼりしょんぼり、肩を落とすサザンカ。
「まったく、失礼しちゃうと思わない? うさみ。私の護衛がいやだってことよ?」
「ほんとよね! どうする? お尻でもエーイッと力一杯叩いとく?」
「「ふふふふふふ」」
うさみとディーテは、どこから出したのかはわからないハリセンを一本ずつ持っていた。
「「ガウディ、サザンカ……後ろ向いて、お尻出して……ピエーンとないてカラーンと涙出してみる?」」
「なんでですか?」 「なぜだっ⁉︎」
「「「あはははははは」」」
念の為の門番をしてくれている船乗りたちまで笑っている。あの、サザンカの弱みを知ってしまったのだ。
これは時間が経たないうちに町の話題の種となるだろう。
◇
楽しい雰囲気を残したまま、ディーテはサザンカを連れて川下の町へと帰って行った。
それぞれが任務にあたる中、ミミリは【酸素山菜ボンベ】の量産をしつつも、【アンティーク・オイル】のことを考えていた。
――大事な人を助けるための、『人魚姫の涙』……。ソウタさんは、外の脅威を倒しに行っただけじゃなく、やっぱり錬金素材アイテムも集めに行ったんだ。私も同じ道を辿らなきゃ。
……アルヒのために……。
◇
ゼラは蒼の刃広斧と格闘していた。それも、うさみの力を借りようとして。
「えっ、どういうこと? 守護神の庇護の氷ver.?」
「そうなんだ。アルヒさんが言ってただろ。なるべく属性の中に身を置けって。この間『守護神の庇護の雷ver.』できてただろ?」
「簡単に言ってくれるわね。結構魔力使うし大変なのよ?」
そうか……とゼラは呟きながら、とぼとぼと歩き始めた。
「難しいことでも、うさみならできると思ったんだよな。うさみなら。仕方ない、2人で練習しよう、【ナイフ】」
「ちょちょちょーっと待ちなさいよ! できるかもしれないでしょ? でも私にも練習する時間をちょうだいよね? もうっ!」
うさみはしっぽとおしりをぷりぷりさせながら、離れたところで練習を始めた。
――よし、乗ったぞ【ナイフ】!
……お前、どんどん悪どくなってないか? ま、俺は楽しいからいいんだけどサァ。人間っておもしろっ。いや、アレはぬいぐるみカァ。
果たして、ゼラの策略は吉と出るか凶と出るか。
たしかに、氷で覆われたドームで修行した方が早く氷との親和性も増すだろう。雷電石の地下空洞で雷属性の修行したときのように。
うさみに期待しながら、ゼラは人気のない方に向かって斧を振り下ろす。
「――霜柱ッ!」
――ズガガガガガ
地中から突き抜ける太い霜柱。
……ひゃははは。
「なんだよ、【ナイフ】」
もし、うさみの守護神の庇護氷ver.が完成し、その中で修行をしていたゼラの霜柱がうさみの意図なく貫通してしまおうものなら、それはそれで一波乱起きるだろうなぁ、と考える【ナイフ】は、笑いが止まらないのであった。
……ひゃあはははは。これだから人間はおもしろいゼェ。ぬいぐるみにこっぴどく叱られんだろうナァ。
「なんだよ【ナイフ】。言いたいことがあるなら言えよ」
と、手を霜焼けにしながらゼラが言う。
……まぁ、どうなるかはそのうちわかるサァ。
「まぁ、内緒ならそれでもいいけどさ」
と、少しずつ距離が縮まっていくゼラと【ナイフ】。
――果たして【ナイフ】の読み通りになるのかどうかは、そのうちわかるだろう。
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