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第6章 川下の町と虹色の人魚
6-26 鬼畜なストーリーテラー
しおりを挟む「いい鱗だなぁ」
「こっちもいいヒレだ」
「「捨てちまうなんてもったいない!」」
「そんなに喜んでもらえるのなら持ってきた甲斐があったな」
武器屋虎の威のガウルは鱗を、居酒屋食堂ねこまるのガウリはヒレを大いに喜んだ。
脱皮しては捨てていた鱗とヒレにここまで喜んでもらえるとは思わず、サハギンの王将は少し気恥ずかしさまで感じる。
「それにしても、人間は個体差が大きいと思っていたが……。貴殿らはそっくりだなぁ」
「「ガハハハハハ。よく言われるぜ」」
◇
大海原を越えた先の新大陸を目指すため、大工兼冒険者のガウレに船の強化を頼んでいたミミリは、早速最後の作業に取り組んでいるガウレに差し入れをする。
「どうぞ、アップルパイです。焼き立てですよ」
「ああ、嬢ちゃんありがとうな」
船の修繕は町へ戻ってきた時にはもう既に終わっており、出発前に帆布として渡しておいた【ルフォニアの布】も、すでに船についていた。仕事が早いガウレは、早々に修繕を終えミミリたちを教会で待っていたんだという。
広い甲板に、大きな船室。
修繕された頑丈そうな船。
そのままでも充分航海できそうなところにさらにサハギンの鱗を充てがうガウレ。こうすることで、より頑丈にするという。とくに船底と周りを強化する予定だ。
サハギンとは同盟が結べたが、海にはまだ見知らぬモンスターがいるだろう。安全に航行できるよう万全を期して臨まねばならない。
「ガウレさん、さすがです。立派な船が鱗で装飾されてとても綺麗です」
「ただの船よりも、海中から見上げた時にモンスターの鱗を纏っていた方が他のモンスターへ牽制になるかもしれないな。それにしても、デカくていい船だ」
「さて、ほどよいところで休憩するか……お? ガウリにガウルじゃないか」
「作業に集中すると周りが見えなくなるのは昔から変わらないな、ガウレ」
まるで三つ子が揃ったようで、横並びになるとますます誰が誰だかわからない。
「俺は新しい防具を作りたくてな。鱗の盾に鱗の鎧! 最高じゃねぇか」
「俺はヒレ酒を作ろうと思ってな。アザレアの銘酒フェニックスに張る酒になる予感がするぜ」
「ヒレ酒いいですね。禁酒していましたけれど、呑んでもいいってことですよね? 保護者の兄さんも側にいますし」
満面の笑みのデイジー。
当のコブシはガウレが修繕した船に夢中になっている。
「デイジーちゃんは最近全然呑んでねぇもんなあぁ」
「そうなんですよ。自分への戒めのために。……でも、私がここに呼ばれたということは、呑んでもいいってことですよね」
うきうきが止まらないデイジーに、ミミリは1つお願いをする。
「あの、デイジーさん、蛇酒を呑んで欲しいんです」
「蛇酒?」
「実は……」
ミミリは、デイジーに理由を説明した。蛇酒を呑んで毒づかれたゼラとバルディに毒耐性がついた可能性を検証したいのだ。
「蛇酒を呑んで、私に毒づいてみてくださいっ」
「いや、ミミリ、経験者として言うけれど、あれは本当に辛いぞ」
「そうそう、自尊心がなくなるよミミリちゃん」
口々に反対するゼラとバルディ。
「それでは、私に毒づいてみますか」
と言うローデを
「いや、それもダメだ」
と止めるバルディ。
「そもそも、毒づかれるのはいいとしても、その後毒を摂取しなきゃ効果はわからないんじゃないの? ミミリ」
と、うさみの指摘に、大きく頷くミミリ。
「うん、そうなの。だからね、いっぱい毒づかれた後に、ペロッとポイズンサハギンの毒を舐めてみようと思って」
「「「「だーーーーめ」」」」
みんなに反対されたミミリは、ガックリと肩を落とした。
「でもせっかくここまで来てもらったのに」
「やはり理由があって私は呼ばれたんですね」
「どうしても検証したくて……。【解毒剤】もあることだし、何かあってもきっと大丈夫! なはず!」
ん~、と腕組みするデイジー。
「でも私、ミミリちゃんに毒づくことなんてなにもないんですよね」
――よしよし、この流れよ……。
鬼畜うさみは計算どおりだとほくそ笑む。
あとは最後にもうひと押しするだけだ。
「たとえば、このメンバーで毒づけるとしたらコブシとかじゃないのぉ?」
――鬼畜――鬼畜うさみ――ストーリーテラー。
すべてうさみの筋書きどおりに物語は綴られていく。
「そうですね、兄さんなら毒づくことたくさんあるかもしれません」
「【解毒剤】もあることだし、やってみましょっか」
――鬼畜――鬼畜うさみ――
「【解毒剤】があるならいいんじゃないか?」
と、ガウリたちも賛成のようだ。
本人のいないところでどんどん話は進められていく。
そして、うさぎの皮を被った小悪魔にみんなまんまと騙されて、コブシで実験してみることになった。
もともとサハギンの王将の監修の下、実行すると約束していたので、王将はただ成り行きを見守っているだけだったが……。
王将は人間ではなくぬいぐるみの筋書きどおりに進められていく物語に絶句した。
「なんとおそろしい世の中か」
これで王将も公認となり、ますます笑みがとまらないうさぎの皮を被った鬼畜小悪魔。
今うさみの皮を剥いでみたら、驚くほどに奇怪な笑みを浮かべていることだろう。
「いいのかなぁ。私が実験するつもりだったのに」
と言うミミリに、
「本当の意味で毒づかれないときっと意味を成さないからこれでいいのよ」
と言ううさみ。
「コブシならわかってくれるわ」
と、きゅるんきゅるんに瞳を輝かせて両手を口元に当て、アイドルを装っている。
「うさみちゃんはやっぱり可愛いぜぇ」
と騙されて(?)いる三兄弟から距離を置いて客観的に物事を見ている王将。
「モンスターより人間より、人魚より手強いかもしれん」
と、王将はボソリと呟いた。
――そう、王将だけがうさみの中身に気がついている。
この話の輪に入っておらず、船に魅入っている実験台は蛇酒のことなどつゆ知らず。
「帆船ってかっこいいなぁ。鱗も煌びやかでいい感じだ。さすがガウレさんだな」
――と、これから起こる出来事をただ1人だけ知らないのであった。
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