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第6章 川下の町と虹色の人魚
6-29(幕間)三冠王(酒乱、泣き上戸、毒舌)の呟き
しおりを挟むこんにちは! 私はデイジー。
人と人とが行き交う街、アザレアの冒険者ギルドで働いています。一応、C級冒険者でもあるんですよ!
……まぁ、お酒を呑めばっていう条件付きですけれど。
そう、私。お酒を呑むと闘える酔拳闘士なんです。闘ってる間の記憶はほぼありませんね。兄で同じC級冒険者のコブシとは、同じC級でも天と地ほどの差があります。使い勝手が悪いんです、私。
――悪いといえば……!
聞いてくださいよ! ひどいんですから。
先日、是非にとのご招待を受け、アンスリウム山を越えて川下の町に行ったんですね。そこで私、何も知らされずに実験台にされてたんです。
なんでも、私が蛇頭のメデューサの蛇を漬け込んだ蛇酒を呑んで人を毒づけば、その人に毒耐性を付与できるとかなんとか。
そんなこととはつゆ知らず、普通にお祝い事だと思うじゃないですか! そうかと思えば、毒づいた時の実験をされていたなんて。……自分が憐れでなりませんよ。うっうっうっ……。
まぁ、毒づいてくださいって言われずとも、勝手に兄を毒づき始めたらしいんですけどね。
私は兄に洗濯物の出し方について軽く注意しただけなんですよ? 表裏気にせずポイッて洗濯物出さないでよねって。
……そしたらよくわからないんですけれど、男性陣に毒づきの効果があったみたいで(思い当たる節があるってことですよね?)、みんな毒耐性ついちゃったってわけです。
それはもう準備万端で、本当に耐性がついたかどうか確かめるためのポイズンサハギンの毒まで用意してあったんですよ? まったく、失礼な話ですよねぇ、これって。
となればもう、開き直るしかないって思いまして。私、副業始めました。
『毒づきデイジーの毒耐性付与店』
っていう移動式店舗の開業を始めましたからね。ちゃんと冒険者ギルドには副業申請しましたよ? 二つ返事でOKでした。でも、試しにいかがですか~? って聞いたら、「やめとくよ」って上司に言われちゃいましたけどね。
ちなみにまだ稼働はゼロです。需要があってもいいと私は思うんですけどねぇ。まぁでも、私も毒づける人には限りがあるので、それが影響していないともいえませんけれど。
……ホラ、貴婦人さんに毒づけって言われても無理があるじゃないですか。ローデさんに毒づいてって言われた日には肝が冷えましたよ。
……はぁ。それにしてもですね……、私も需要があれば毒づきたい気分なんですよ?
右を見てもカップル。
左を見てもカップル。
そう、私は今やっと川下の町から帰ってきたのですが、サザンカさんとシスターもお付き合いされていますし、バルディさんとローデさんだって公衆の面前でめちゃくちゃパーフェクトなプロポーズに近い告白があったじゃないですか。私思わず涙が出そうになりましたもん。
……でも、本当に泣いているのは、アザレアの街の男性陣ですね。ローデさんは人気がありますから。人知れずハンカチや枕を濡らしている男性が多いことでしょう。兄もそうでないことを願うばかりです。
――あぁ、私も恋人が欲しいです。
そう、例えば……。
失敗しても優しくしてくれて、
やらかしちゃっても見放さないでいてくれて、
頑張った時には頭を撫でてくれて、
飲み会では介抱してくれて。
そんな男性、いたらいいのになぁ……。
……と、考えたら、兄が思い浮かびました。笑
兄はいつも、優しく、見放さず。
寄り添っていてくれています。
――そう思えば、今はまだ。
私が恋人を欲するのは早いのかも知れませんね。
そう、いつか……。
兄みたいな男性に出会うその日まで。
この恋に恋する気持ちはとっておこうかな、なぁんて思います。
――あ!
間違っても兄には言わないでくださいね!
一応、私にもプライドってものがありますから。
兄から、
「俺みたいなヤツが好きなんだろ」
とか言われた日には、蛇酒の酒瓶持って街中毒づきながら練り歩くかもしれません。
なので。
今日の話はここだけの秘密です。
……でも……、
いつか、兄に恋人ができてしまったら、私はきっと寂しいんだろうなと思います。兄とこんな話したことありませんから、どんな人がタイプか知りませんけどね。
ミミリちゃんみたいな可愛い子とかでロリコンだったらドン引きですけどね!
逆にアザレアマダムみたいな熟女好きでも……やっぱりドン引きですねぇ。
……とまぁ、なんにせよ。
兄には幸せになって欲しいんです。
私たちも、もともとアザレアに住んでいたわけではなく、別の教会からやってきた孤児ですから。小さい頃から、いつもいつも、兄は私を守ってくれて。これでも感謝しているんです。
――兄が誰よりも幸せになりますように。
需要が生まれるまで当面は、毒づくのではなく幸せを祈ろうと思う、私なのでした。
……でも、ちょっとでいいので私にも恩恵ありますように……! 笑
応援ありがとうございます!
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