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第7章 海中宮殿と新たな試練

7-8 大蛇討伐ミッション 後編

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「うっ、くっ……」

 ミミリが怪我をしていた腕を抑えて苦しみ始めた。

「そう……だった。毒蛇……」

 ーーそう。ミミリには毒耐性がないのだ。

「ミミリ、解毒剤もってるよな? 早く飲むんだ」
「うん」

 ミミリは【マジックバッグ】の中から【解毒剤】を出して飲んだ。すぐに癒えるわけではないらしいが、そのうち効いてくるらしいので、とりあえずは大丈夫だろう。

 ここでミミリはポソッと言う。
「やっぱり私も、三冠王(酒乱、泣き上戸、毒舌)のデイジーさんに毒付いて欲しかったなぁ。毒耐性、欲しかったもん」 
「いや、あれはーー」

 やられたからこそ、わかる痛みがある。
 ゼラの頭の中で、ツライのことがフラッシュバックするーー。

 ーー回想ーー

「どうすんのよ。押しも弱けりゃコシも弱い、コシも弱けりゃスケコマシッて。ミミリちゃんを横取りされてもいいわけ? アンタの冒険者の等級はBでなくてHね」
「H?」
「ヘタレのHよ」
「――――――――!」

 ーー回想おわりーー

「えっちのH、じゃなかっただけマシか」
「えっ? ゼラくん、なんて言ったの?」
「……触れないでくれ……」
「えええええっ」

「さあ、アンタたち、おしゃべりはそのへんにして。倒すわよ、ヤツを」
「うん、ごめん。そうだね!」
「ああ……」

「守護雷神の庇護! とりあえず私とミミリはドームの中にいるわ。雷を帯びたドームだから、突っ込んできても数秒はダメージを与えられるでしょう」
「そうしてくれ!
 俺はーー試したいことがあるんだ!」

 ーー俺には一定程度の確信がある。
 その根拠となるのが、蛇頭のメデューサでとの戦闘だ。ヤツの髪の毛のような蛇は無限じゃなかった。つまりは有限。やられた分だけニョキニョキと生えてきたわけじゃなかったんだ。
 ということはーー!

「お前も、一回しか脱皮できないんじゃねえの?」

 ゼラは父の形見の短剣を構え、電を帯びさせる。
そして、足に魔力MPを集めーー

雷刃剣らいじんけん!」

 ーー大蛇に一太刀を浴びせると、プシャアア、と切られた場所から紫色の血が吹いた。

「うっわ、グロいわね。なんて言ったらダメね。お互いに命を懸けた闘いだもの。失礼だったわ」

 ーーあれ? 何だかさっきより剣の通りがいいかもしれない。ゼラくんの雷属性のおかげかもしれないけれど。

 ミミリは不思議に思った。

「もしかして、抜け殻になって防御力ダウンしてる?」

 ミミリの問いに確信を持って答えたのはゼラだ。

「ああ、かなり柔らかくなっている! 今ならいけるはず、だけど……うおっ!」

 ゼラはすんでのところで避けた。
 ゼラと大蛇の攻防は続く。
 
 ーーそうか!
 ミミリは気がついた。

「防御力は下がるけど、攻撃力は増すんだね! 重たい抜け殻を脱いで、軽くなった分、スピードも増してる」
「そう、みたいっ、だな!」

 ゼラは器用に避けながらも一太刀、また一太刀と雷刃剣をお見舞いしていく。

 ーー私に何か、できることーー。
 そうだ!

「うさみ、そこで待ってて!」
「ちょっ、ミミリ⁉︎」

 ミミリは【マジックバッグ】から出したバケツを頭から被った。

 そして手には【絶縁の軍手グローブ】と雷のロッドを。

「ミミリ、行っきまーす!」
「ええっ、ちょっと、ミミリ! こっちは危なっ」

 ゼラの心配をよそに、大蛇ミミリを避けようとする。ミミリはそれを利用して、なんとか蛇をゼラの方へと追いやっていく。おまけに、雷のロッドで背後から叩きながら。

「えーいっ!」
「ーー! そうか! 大賢者の涙を浴びたのね!」
「そう。だから私、きっと大丈夫!」

「プシャアアアア」

 大蛇の命も残りわずか。
 こうなったら、ミミリの番だ。

「うさみ! しがらみのくさび、ちょうだいっ!」
「わかったわ。いくわよー! ーーしがらみのくさびッ」

 なす術もなく、大蛇は無数の蔦によって吊り上げられた。まるで、また火炙りでもされそうな格好だ。でも今度は、抜け殻なんかじゃない。本物の大蛇がここにいる。
 大蛇は口を開けた状態でなんとかもがこうとする。だが動けば動くほどに蔦は絡み、自滅状態に。

 このチャンスを、ゼラとミミリは見逃さない。

「うおおおー! 雷刃剣らいじんけん!」
「いっくよー! 【瞑想の湖の結晶 雷電バージョン(ミニ)】」

 ーーーードオオオオオオン!

 トドメになったのは、ミミリの錬成アイテム。口の中に放り込まれたのでは、勝ち目がない。
 大蛇は無惨にも、力尽きた。
 だが、不思議なことに……、外見から見ると、錬成アイテムによる痛みはなさそうに見える。これは、一体……?

 ミミリたちは、
 ・蛇の抜け殻
 ・蛇の毒牙
 ・蛇の肉
 を手に入れた!


 ーーポロン!
 『おめでとうございます。ミミリたち。

 第二関門、『暴虐の大蛇』無事にクリアですね。

 あと二回戦あります。

 休んでいかれることをオススメしますが、

 どうされますか?』

「ありがとな、ポロン。もちろん休んでくさ。それに、見てくれ、あっちを」

 ーーポロン?

 ポロンはゼラの指差す方を見てみた。
 すると、なんとミミリは、蛇の蒲焼きを作ろうとしていた。

 『すみません。あまりの衝撃に絶句しました。

  ポップアップ、失格です』

「気にすんなよ。俺も驚いてる。だから多分、錬成アイテムで微調整したんだ。うまい倒し方を。ぐちゃぐちゃになったんじゃ、蒲焼きは作れないからな。あの時は、まさか食うとは思わなかったけど。って……ミミリー! 毒抜きしてくれよ、【解毒剤】でっ」

 ミミリの動きはピタリと止まる。

「あ、あははー。忘れてた。これじゃあみんな食べたら死んでるところだったね。失敗失敗。でも、耐性のあるゼラくんなら生き残れたかなぁ?」

 ゼラ、うさみ、ポロンーー絶句。

「ふはっ! ミミリには敵わないよ。さ、うさみ、ドロップアイテム拾おうぜ? 

 ………………。

 わかった。いい。俺がやる。
 ヤラセテイタダキマス」

 うさみはミミリから椅子を出してもらい、すっかりコーヒータイムを楽しんでいた。しかも、短い足を組み、背もたれにもたれかかりながら。なんのサングラスまでかけているではないか。

 『なんて優雅なんでしょう。鹿ンスうさぎですね(皮肉)』

「奴隷1号! 2号の分まで頑張るのよっ」
「ハイハイ。はぁー。ポロン、俺の気持ち、わかってくれるか?」

 『胸中お察しします。これからなるべく、ゼラをサポートしていきますね』
「ははっ。ありがとな。助かるよ」

 ◇

 ミミリは、甘く香ばしいタレをつけて大蛇の蒲焼きを作った。……もちろん今は、毒を抜いている。

「さぁ! 食べよう! いっただっきまーす!」
「やだぁん。美味しそうじゃない」
「うさみ、リゾート気分は捨ててくれ。一応、敵地だここは」

 うさみはゼラをねめつける。

「そんなこと言ったって、敵地で蒲焼き食べるお馬鹿さんがどこにいるわけ? ここにいるでしょーが! いーの! バカンスだってなんだって。本気で闘い、本気で食せ、強者ども、よ。ね? わかった?」
「ワカリマシタ……」
「ふふふ。いっぱいあるからいっぱい食べてね。今炊き立てのご飯も出すから、そしたら蒲焼き丼にしようっ」
「フー! ビューティフォー!」
「イタダキ、マス……」
『……可哀想に……』

 ゼラは慣れてはいるものの、ポップアップのポロンにまで心配される自分が、ひどくいたたまれなかった。


 ーーはぁ。よかった。アスワンさんを呼ばないで。これじゃあ人間を誤解されかねないや。
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