先生が好きです

雫川サラ

文字の大きさ
5 / 9

05

しおりを挟む
「わ……なんか、すげえ……」

 これまでラブホに入るような場面も相手もいなかった俺は、初めてみる本物のラブホに驚嘆の声を上げていた。部屋の入り口を入ると、すぐにどかーんと大きなベッドがある。天蓋からはレースのカーテンまで下がっている。

「本当に初めてなんだな」
「だから、先生しか好きじゃないって、言った……」
「ん、ありがとう。……ありがとう、って言うのは、結城はあんまり好きじゃないんだったっけ。でも、嬉しいよ」

 所在なげに立ち尽くしている俺に、荷物を下ろした先生がベッドに腰掛けて、俺を隣に手招きした。

「結城がちゃんと言ってくれたから、俺も、言うね。俺は、ゲイじゃない」

 俺がその言葉に息を飲んだのが伝わって、先生が俺の手を握り締めてくれた。

「だけど、結城だけは、なんだか特別だったんだ。当時、俺もそれを恋愛感情とは結びつけて考えなかった。ただ、お前が俺だけには笑顔を見せてくれるようになったのが、無性に嬉しくて、お前のためにできることはないかって、毎日調べるくらいには、お前のことばかり考えてた」

 俺も嬉しくて、けど恥ずかしくて、先生の顔を直視できない。代わりに、肩に甘えるように顔をもたせかけた。先生が、つないでない方の手で、頭を撫でてくれるのが嬉しくて、身体が熱くなる。

「お前が卒業していくときは、なんだか胸に穴が開いたような気がしたよ。それからはお前に偶然でも会えないかなって思っていたけど、お前はもう俺のことなんて忘れて元気にやってるだろうなとも思ってた。それならそれでいいかって。だけど、さっきお前に呼び止められて、すっかり大人になったお前を見て、俺の気持ちが少し変わった」
「え?」
「ドキッとしたんだ。こんなに、綺麗になったお前に、こう、胸を鷲掴みにされたみたいになった。お前が俺に好きだって、抱いてくれって言ったとき、気持ち悪いどころか、お前のことをそういう目で見てる自分に気づいたんだよ」
「でも、先生、最初、帰ろうとした……」
「誰だってそりゃ、告白されたその日にヤろうなんて思わねえだろ。まずそう言うのはちゃんと酔ってないときに、改めてデートしてからだな」
「先生、頭固すぎ」
「悪かったな、こちとらもうノリで関係が結べるほど若くないんでね」

 先生がムッとした顔でそんなことを言うものだから、俺はおかしくなってクスクス笑いながら先生の頬にキスをした。

「先生はいつだって格好いいよ」
「またそういうことを言う」
「本当だもん。で、先生は、俺が我慢できなかったから、ここに来てくれたの?」
「そりゃあ、好きだと自覚したばっかりの相手にあんな風にされて落ちない男がいたら教えて欲しい」
「へへっ、嬉しい。先生から好きって言ってもらえた」

 俺の指摘に先生がまたムスッとした顔をする。中学の時には見せなかった表情をこの数時間の間にいくつも見られてる気がする。だけど、と俺は不安になる。本当に、先生、俺で勃つのかな。

「ね、先生、本当に、俺のこと、その」
「抱けるかって? 少なくとも俺はそのつもりだけどな。お前も、嫌になったり気持ち悪くなったら、すぐに言え。さっきも言ったが、俺は無理強いは趣味じゃないからな」

 先生は、優しすぎるから、不安になる。俺のわがままに付き合ってくれてるだけなんじゃないかって。だけど、その不安は、カチャリとメガネを外してベッドサイドに置いた先生に、全部吹き飛ばされた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...