4 / 9
04
しおりを挟む
「結城、お前、ちょっと酔いすぎだ。出るぞ」
ため息をつかれて、手をとって立ち上がらされた。自分の手首を掴むその手の平の体温に、また心拍数が上がる。
会計を済ませる先生を外で待ちながら、まだ少し冷える5月の夜の外気に、ふるっと身体を震わせた。
「なんだ、結城、上着持ってきてないのか。さすがにまだTシャツ一枚じゃ冷えるぞ」
そう声が降ってきて、ふわっと何か暖かいものがかぶせられた。先生のブルゾンだった。先生の匂いに包まれて、俺にはもう自制できる理性なんか残っていなかった。
「先生」
そう言って、歩き出そうとする先生の腕をとって、後ろから抱きついた。中学の頃の記憶よりは自分が成長した分小さくなった背中、それでもたくましくて広くて、しっかり筋肉のついた背中に抱きついて、火照った身体をすり寄せた。
「先生、ごめん、俺、もうだめだ」
「結城……」
「せんせ、気持ち悪い? 俺のこと」
「そういう聞き方は、卑怯だぞ」
「?」
意味が分からなくて先生の顔を見上げようとした瞬間、くるっと身体をひっくり返した先生に、つかまった。
自分がどういう体制になっているのか、わかるまでに数秒あって、そのあと俺は真っ赤になった。
——俺、先生に、抱きしめられて、る……
「お前のこと、気持ち悪いわけ、ないだろう」
頭の上から、先生の声が降ってくる。
「当時から、ずっと可愛いと思ってた。ここまでになるとは、思ってなかったけどな」
「ここまでって……?」
「分からせてやろうか」
そう言うと、先生の大きな手が顔に添えられて、先生の顔がドアップになって——
「ん! ……ん、ふッ」
——キス、してた。俺と、先生が。
一度だけじゃない、唇が離れたと思ったら、角度を変えて、また。夢の中の東野くんを除いたら、初めてのリアルキス。あっぷあっぷしているうちに、先生の熱い舌がしゅるりと入ってきて、俺の舌をなぞるから、俺も夢中で応えた。
たっぷり1分はそうしていたと思う。先生の唇が離れて行ったときには、俺はもう腰が抜けて、くたりと先生に全身をもたせかけていた。
「お前ね、そんな風に俺を煽ったこと、あとで後悔しても知らないからな」
「ぁ……え……?」
今度は俺が展開についていけない。でも、先生が俺のことを気持ち悪いと思ってはいないことが分かって、俺はほっとしていた。
先生に手を引かれるままに、俺は先生について歩く。どこを目指してるのかなんか分からなかったけど、先生といられるのなら、どこでも良かった。
「え、ここって」
「ああ、来たことないのか? ラブホ。男どうしでも入れるって、有名らしいぞ、ここ」
「せ、んせ……それって」
「やっぱり、嫌になったか? 別に、帰ってもいいぞ? 無理強いは趣味じゃない」
あくまで俺を傷つけないように、おどけた口調で俺の気持ちを尊重してくれる先生に、嫌になんてなるわけなかった。
ただ、少し歩いて酔いが覚めてきた俺は、勢いのままここまできてしまったことに、今更になって猛烈な恥ずかしさが込み上げてきて、顔を真っ赤にした。それでも、先生の気が変わらないうちに、抱かれてしまいたくて、ふるふると首を振って先生の手を握りしめる。そんな俺を見て、ニッと笑った先生は、俺の知ってる先生じゃなくて、一人の男の顔をしていた。
ため息をつかれて、手をとって立ち上がらされた。自分の手首を掴むその手の平の体温に、また心拍数が上がる。
会計を済ませる先生を外で待ちながら、まだ少し冷える5月の夜の外気に、ふるっと身体を震わせた。
「なんだ、結城、上着持ってきてないのか。さすがにまだTシャツ一枚じゃ冷えるぞ」
そう声が降ってきて、ふわっと何か暖かいものがかぶせられた。先生のブルゾンだった。先生の匂いに包まれて、俺にはもう自制できる理性なんか残っていなかった。
「先生」
そう言って、歩き出そうとする先生の腕をとって、後ろから抱きついた。中学の頃の記憶よりは自分が成長した分小さくなった背中、それでもたくましくて広くて、しっかり筋肉のついた背中に抱きついて、火照った身体をすり寄せた。
「先生、ごめん、俺、もうだめだ」
「結城……」
「せんせ、気持ち悪い? 俺のこと」
「そういう聞き方は、卑怯だぞ」
「?」
意味が分からなくて先生の顔を見上げようとした瞬間、くるっと身体をひっくり返した先生に、つかまった。
自分がどういう体制になっているのか、わかるまでに数秒あって、そのあと俺は真っ赤になった。
——俺、先生に、抱きしめられて、る……
「お前のこと、気持ち悪いわけ、ないだろう」
頭の上から、先生の声が降ってくる。
「当時から、ずっと可愛いと思ってた。ここまでになるとは、思ってなかったけどな」
「ここまでって……?」
「分からせてやろうか」
そう言うと、先生の大きな手が顔に添えられて、先生の顔がドアップになって——
「ん! ……ん、ふッ」
——キス、してた。俺と、先生が。
一度だけじゃない、唇が離れたと思ったら、角度を変えて、また。夢の中の東野くんを除いたら、初めてのリアルキス。あっぷあっぷしているうちに、先生の熱い舌がしゅるりと入ってきて、俺の舌をなぞるから、俺も夢中で応えた。
たっぷり1分はそうしていたと思う。先生の唇が離れて行ったときには、俺はもう腰が抜けて、くたりと先生に全身をもたせかけていた。
「お前ね、そんな風に俺を煽ったこと、あとで後悔しても知らないからな」
「ぁ……え……?」
今度は俺が展開についていけない。でも、先生が俺のことを気持ち悪いと思ってはいないことが分かって、俺はほっとしていた。
先生に手を引かれるままに、俺は先生について歩く。どこを目指してるのかなんか分からなかったけど、先生といられるのなら、どこでも良かった。
「え、ここって」
「ああ、来たことないのか? ラブホ。男どうしでも入れるって、有名らしいぞ、ここ」
「せ、んせ……それって」
「やっぱり、嫌になったか? 別に、帰ってもいいぞ? 無理強いは趣味じゃない」
あくまで俺を傷つけないように、おどけた口調で俺の気持ちを尊重してくれる先生に、嫌になんてなるわけなかった。
ただ、少し歩いて酔いが覚めてきた俺は、勢いのままここまできてしまったことに、今更になって猛烈な恥ずかしさが込み上げてきて、顔を真っ赤にした。それでも、先生の気が変わらないうちに、抱かれてしまいたくて、ふるふると首を振って先生の手を握りしめる。そんな俺を見て、ニッと笑った先生は、俺の知ってる先生じゃなくて、一人の男の顔をしていた。
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる