先生が好きです

雫川サラ

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 先生の手が俺の額に張り付いた髪の毛をよけてくれる感触で、俺はぱち、と目を開いた。

「大丈夫か?」

 あのギラついた瞳はなくなっていたけれど、代わりに事後の色香をたっぷり漂わせた大人の男が、いた。

「ん……」

 声がガサガサで、うまく出ない。その原因に思い当たると、俺は先ほどまでの自分の痴態に、真っ赤になって俯いた。

「水、飲むか」

 眩しいばかりの裸体を晒して、先生がミネラルウォーターのペットボトルを手渡してくれる。

 ——なんか、先生がキラキラしてて、直視できねえ……

 汗ばんだ身体は綺麗に拭われていて、タオルがかぶせられていた。

「ありがと」

 先生にペットボトルを返すと、なんだか無性に恥ずかしくなって、俺は布団にゴソゴソと潜った。

「なんだ? 急に恥ずかしくなったのか?」

 ベッドに腰かけた先生に、布団の上から撫でられて、笑われる。俺が動かないので、諦めたのか、先生が動いた気配がした。ほっとしたのも束の間で、次の瞬間、隣に滑り込んだ先生に俺は後ろから抱きしめられていた。

「……!」
「結城。こっち向いて」

 ちゅ、ちゅ、と耳元にキスを落とされて、くすぐったい。ゴソ、と向きを変えると、唇にもキスをされて、ぺろ、と軽く舐められた。くすぐったさに肩を竦めると、先生が優しい口調で聞いてきた。

「結城は、俺と、付き合いたいの?」

 ——先生と、付き合う。

 そんなこと、考えたこともなくて、俺は一瞬返答に詰まった。そんな俺の返事を急がせるわけでもなく、先生は黙って俺の頬を撫でている。

「一度でいいから抱いてくれって、そう言ったけど、それは文字通り、一度抱いたら終わりってことなのか? それとも、この先もあるって考えて、いいのか?」

 俺の頭の中は、文字通り感情が洪水のように渦巻いていた。先生の指が頬を拭ってくれたことで、俺は知らず知らずのうちに泣いていたことを知る。

「結城が、俺と一緒にいたいって思ってくれてたら、俺は嬉しいけど、でもそこは結城の気持ちを優先したい」
「先生と、一緒……考えたこと、なかった」
「俺も数時間前までは考えてなかったよ」

 そう言って、先生が喉の奥で笑う。

「だけど、じゃあ今から、考えてみよう」
「それって、恋人ってこと……?」
「そう、なるね」

 俺の頭がとうとう限界を超えた。

「え、ちょ、どうしよ、なんかすげえ恥ずかしい」
「いや、さっきまでもっと恥ずかしいことをしていたような気がしますけれども、結城くん」

 先生の、恋人になる。そんなの、一回抱いてもらえるよりさらに実現する確率が低いと思ってたから、想像さえしたことがなくて、今想像したら、恥ずかしすぎて先生に頭突きした。イテテ、と言いながら俺を抱きとめてくれる先生の体温がまた俺を高ぶらせるから、もう始末が悪い。

「やれやれ、結城くんは身体の方が素直そうだな」

 俺の高ぶりを感じたのか、先生が、クスクスと色っぽく笑いながら俺の腰を撫でるから、俺はまた感じて声を上げてしまう。

「や、先生……じゃあ、もう一回、今度は恋人のエッチ、して」
「……お前には、ほんと、骨抜きにされそうだ」

 そう言って、先生は俺に深くて長いキスをくれた。
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